ドワーフの一件が終わってから数日後。
エ・ランテルの都市長の館は解体工事が行われていた。
これから魔導国の首都に相応しい城が建築されるのである。建築主任はデミウルゴスだ。
そのためアインズはあまりやりたくないがナザリックの自室で仕事をしていた。
アインズにとってナザリックは家であり、家で仕事などしたくないというのが本音だ。
ただ職場が工事中なのでリモートワークの様な物だ、とアインズは自分を納得させていた。
とはいってもアインズは工場のフリーターだったのでリモートワークをしたことないし出来ない立場にいたが。
そうして一日の仕事を終えると
暫く待っていると部屋にシャルティアが来た。
「シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
そうシャルティアは綺麗なカーテシーを披露する。
「よく来てくれた。シャルティア。お前に仕事を頼みたい」
「仕事、でありんすか。どのような仕事でありんすか?」
「竜王国に赴き、竜王国を襲うビーストマンを殲滅してくるのだ。だが、直接力を振るう事は禁ずる。使っていいのは
「何故力を直接振るってはいけないのでありんすか?」
「今回はお前の成長を見込んでいる。コキュートスが支配者側として化けたように、シャルティア。お前も実は指揮官として優れているのではないか、とな。ただ実験的な意味合いもあるから、失敗しても構わん」
「いえ! 必ずや成功させて見せるでありんす!」
「……その生きだ。そして今回、竜王国は魔導国の属国となるのを条件に全面的な支援を望んできた。故にある程度の裁量権をシャルティアに与える。それと、殺した奴の死体は全てナザリックに回収だ。何か疑問はあるか?」
「はい。具体的な軍の数を教えていただきたいでありんす」
「あぁ。そうだな。副官にアウラを。兵士は
「わかりんした。必ずや望む成果を上げて見せるでありんす」
「頼んだぞ。シャルティア」
「はい! このシャルティア・ブラッドフォールン、御身の為に全力を尽くすでありんす!」
■
竜王国。
地理的にはバハルス帝国の南に位置する国家だ。
国家としてかつては領土はバハルス帝国に匹敵していたが、今はその見る影もない。
理由はビーストマンだ。
ライオンを二足歩行させたかのような亜人種であり、人肉を好んで食べる種族である。
竜王国は彼らの狩場として認定され、長年国民が食われ続けているのだ。
大都市も三つほど放棄し、竜王国はこれまでになく危機に陥っていた。
更には竜王国で活躍してくれていたスレイン法国の部隊──六色聖典の一つ、陽光聖典はアインズによって捕縛されやってこない。
スレイン法国もエルフの国と戦争中だ。だから出せる戦力には限りがあるし、国民的感情から大々的に支援する訳にはいかない。
何せ竜王国の女王は竜の血を引くという異形種──つまりは異形種の国家なのだ。
人類守護を謡うスレイン法国が人外の国を助ける、というのは国民が納得してくれないのだ。その実助けないと次は自分たちが滅ぶのだとしても。
だからスレイン法国は大々的に支援出来ないし、帝国や王国は所詮対岸の火事だと気にも留めない。聖王国は遠すぎる。
その国に救いの手が来た。
シャルティアはアウラと同じ馬車に乗っていた。
シャルティアはニグレドの魔法で生成された竜王国の地図をじーと睨んでいた。
「……そんなに睨んでどうするの?」
アウラが苦笑しながら問いかけた。
「今作戦を考えているでありんす。どこにどれだけの兵士を派遣すればいいか……」
「所詮は亜人種でしょ? そこまでしっかりする必要ないんじゃない? 事前情報でソウルイーターにビーストマンこっぴどくやられた事もあるらしいし」
竜王国を襲っているビーストマンとは違う大陸中央部のビーストマンの国家にかつてソウルイーターが三体出現し、それにより都市の九割が殺され、都市が放棄された事がある。
ソウルイーターは
「いえ。一部の油断も出来ない。活躍するのはアルベドやデミウルゴスばかり……! ここで一度、シャルティア・ブラッドフォールンも出来る者だと証明してみせんす!」
そうシャルティアは生き込んだ。
「……やる気出しすぎて空回りしないようにね」
アウラはそういうしかなかった。
そして馬車が竜王国の首都に到達する。
アンデッド軍は外に置いておき、首都内に入るのはシャルティア達を乗せた馬車と幾つかのデス・キャバリエたちの馬車だ。
シャルティアは窓の外から都市を見る。
「活気が無いでありんすねぇ」
外に人気は殆どなく、活気というのが無かった。
これには理由が二つある。
一つは毎日のように襲ってくるビーストマンたち。流石にこの首都には来ていないが、それでもそれ以外の都市や村や襲われ続けている為前向きな空気というのが無い。
もう一つはシャルティアたち魔導国のせいだ。
他国の軍勢が来るだけでなく、それが全てアンデッドというのが恐怖に拍車をかけている。
そうしてソウルイーターの馬車が進んで行き、竜王国の首都の城の庭に辿り着いた。
主城の庭に馬車を止めるとそこには竜王国の兵士が居た。
兵士は緊張した顔をしている。シャルティアが微笑んだが、逆に恐怖を与えた。
吸血鬼という種族はこの世界では一般的に知られている。シャルティアはまさしく吸血鬼の容姿なので血を吸われないかと恐怖しているのだ。
勿論そんなことはされないとは頭の片隅ではわかっているが、感情は別だ。
「ようこそお越しくださいました。シャルティア・ブラッドフォールン様。どうぞこちらへ」
そう兵士は緊張しながら言う。
先ぶれによってシャルティアの名と身分は伝えられているが、よくわかっていない。
一応魔導王の第二妃であるという事はわかっているが、守護者云々はよく伝わっていないのだ。
そうしてシャルティアはアウラと共に城の中に入り、玉座の間へと行く。
道中何度か兵士やメイドとすれ違うも畏怖の目で見られる。
そうして玉座の間の門が開き、中に入る。
一応相手は一国の王だが、これから属国になる相手だ。
だからシャルティアは頭を下げない。
「よくぞ来てくださった。シャルティア・ブラッドフォールン殿。私が竜王国の女王、ドラウディロン・オーリウクルスだ」
そういうのは美女だった。
長い黒髪に豊かな胸。シャルティアの擬乳と同程度はあるだろう。
七色の目をしているという常人にはない特徴がある。
「初めまして、ドラウディロン・オーリウクルス女王陛下。わたしはナザリック地下大墳墓大一から第三階層守護者にして──アインズ様の第二妃、シャルティア・ブラッドフォールンでありんす」
そうシャルティアは綺麗なカーテシーを披露した。
「うむ。よろしく頼む、ブラッドフォールン殿……早速で悪いが、すぐにでも動いて貰いたい。大丈夫だろうか?」
「問題なく。ただ支援にあたりあらゆる情報の提供を求めるでありんす──それと、魔導王陛下からあるお願いが」
「なんだ? 言ってみてくれ」
「では──"恒久的な竜王国の平和の対価に、女王陛下の
その言葉にドラウディロンは引きつった笑みを見せた。宰相もだ。
ドラウディロンが魔導国に助けを求めたのは、自国の防衛力だけではもはやどうしようもないからだ。
ビーストマンによって大都市三つが落とされ、食糧の自給自足すらままならなくなりつつある。更に兵士は訓練しようにもその時間と余裕がなく新兵のまま戦場に出てビーストマンに喰われる。
もはやなりふり構っている余裕は竜王国には無いのだ。
だから戦争で何十万とたった一人で殺し尽くして見せた魔導国の力を借りると決めたのだ。
属国化を願い出たのにも訳がある。
もはや金銭的余裕すらない以上、完全に助けてもらうには属国にでもなるしかなかったのだ。
だから普段は少女形態だが、大人形態──というか本来の姿──で対応する。
一国の王が少女のままとは、自国民の受けはいいだろうが他国から見たらやべー奴としか見られないからだ。
どうするか。ドラウディロンは悩む。
しかし自国の恒久的な平和の対価としてなら相応しいとも思える。
ふぅ、と息を吐いてドラウディロンは決めた。
「わかった。その欲求を飲もう。だから──我が国を助けてくれ」
その言葉にシャルティアは微笑んだ。
「畏まりました。必ずやこの国を平和にして見せるでありんす」
そうシャルティアは微笑むのだった。
■
竜王国の都市はそのまま防衛戦力として使われる。
何十年とビーストマンの脅威にさらされてきたからであり、都市は高い壁と防御力を併せ持つ。
今となっては最前線となった都市に、シャルティアたち魔導国の者が来ていた。
「ではすべての権限はわたしが持つでありんす」
そう都市長の城の会議室でシャルティアは言った。
それに意を唱える事は出来ない。これは既にドラウディロンが決めたことで、貴族たちにそれに意を唱える事は出来ない。
「では、我が魔導国の力を見せてあげんしょう」
シャルティアが滞在する都市の前に二万のビーストマンが居た。
ビーストマンにとって人間は食料だ。だから現地補給という強みが出来る。
「なんだ、あれは?」
ビーストマンたちは砦から出て来た者を見て疑問を抱いた。
出て来たのはデス・キャバリエたちだ。
同じ鎧を纏い、同じ格好をした者たち。だが、身長も装備も何もかも同一だとどこか不気味に感じる。
だがその程度、ビーストマンの敵ではない。鋭い爪は鋼鉄すら斬り裂くことが出来る。鎧など意味はない。
故にビーストマンは砦から出た愚かな人間に襲い掛かり──逆に殺された。
「は?」
デス・キャバリエは中位アンデッド。レベルにして三十五はある。
つまりは一体一体が英雄級の実力者、という事だ。
デス・キャバリエは騎兵だ。漆黒の一角獣に乗ってビーストマンを蹴散らしていく。
ビーストマンは成人男性の十倍の身体能力を誇る強種族だ。だが、所詮は十倍程度である。
レベルを上げていれば違うのだろうが、生まれ持っての強さに胡坐をかいたビーストマンたちではデス・キャバリエをどうにもできない。
二万のビーストマンはたった五十のデス・キャバリエによって殲滅された。
「それじゃあ、死体は全てナザリック送りでありんすねぇ」
死体には幾らでも需要がある。余すことなく活用しようとシャルティアは微笑んだ。
こうして、竜王国は救われるのだった。