シャルティアが竜王国に来てから一ヵ月後。
アインズは馬車に乗って竜王国の首都に来ていた。
そして玉座の間でアインズとドラウディロンが相対する。
(原作の少女形態じゃないのか)
そのことにアインズは内心がっかりした。
こういう時表情が変わらない骨の顔は便利である。
「ではドラウディロン・オーリウクルス殿。この国の発展と平和の為、貴殿の
「はい。構いません」
アインズは両手の強欲と無欲を見せた。
「わかった。では──I wish! ドラウディロン・オーリウクルスの
そして
「ほう。これが
消費した経験値は百パーセント程度だ。
アインズは己に宿った
これは非常にコストが重い。体力──HPを多く消費する力だ。
だが、使いようによってはツアーの鎧のようなことも出来るだろう。戦闘力はツアーより低くなるが。
これは非常に強力な手札だ。早いうちに手に入れて正解だったとアインズはほくそ笑んだ。
「ではドラウディロン殿。貴国の発展に尽力を尽くそう」
そう言ってアインズはこの国にそのうちデミウルゴスを派遣することを決めたのだった。
■
リ・エスティーゼ王国、王城。ラナー王城の私室にて。
そこにはラナーとクライム、そしてアダマンタイト級冒険者ラキュースの三人が居た。
「魔導国への視察?」
ラキュースが首をひねりながら問いかけた。
「はい。これは王国……そして魔導国からの依頼でもあります。王国出身にして王国貴族である蒼の薔薇に、魔導国について知ってほしい、という依頼です。そして得た情報を王国貴族内で共有するのです」
そうラナーが微笑んだ。
これはアインズの提案の依頼だ。
アインズとしては王国を殲滅するつもりはない。
やるとしても侵略戦争を仕掛けるぐらいで、原作のように街の住人一人残らず皆殺しなんてことはしない。
理由としては単純にそれをするとツアーとの敵対フラグが立つからだ。
ツアーは強敵だ。守護者とアインズ総出でかかれば勝てるとしても、被害がでかくなる。下手したら守護者の一人ぐらいは死ぬかもしれない。
それだけのコストをかけるよりは敵対をそもそも避ける、という方にアインズは考えた。故に決定的な敵対行動である王国の虐殺はしないのだ。
だから、それを避ける為に王国側に先んじて属国となるよう仕向ける。これはそのための一手だ。
と言ってもアインズとしては別に成功しなくてもいいとは考えている。蒼の薔薇が魔導国いい国だなって思って王国侵略後に移住して来てくんねーかなと思ってるだけだ。
「うーん……大丈夫かしら」
そうラキュースは悩んでる表情を見せた。
「なにか懸念点でも?」
「……しいて言えばイビルアイが暴走しないかなーって」
「……あぁ」
その台詞にラナーは納得した苦笑をみせた。
この三人の中でイビルアイがモモンに惚れているのは周知の事実だ。
だからこそ、モモンを奪った──恋愛的な意味ではない──魔導国、アインズ・ウール・ゴウンに対しイビルアイが何かしでかさないか若干の不安があるのだ。
イビルアイは二百五十年以上を生きる吸血鬼だが、その実幼少期に吸血鬼化したせいか若干子供っぽいところもある。だから不安なのだ。
「まぁ、彼女も冷静に考えてくれるでしょうし……わかったわ。その依頼、青の薔薇が受けたわ」
王国から魔導国には少数ながら馬車が出ている。
それは単純な貿易の為であり、帝国やスレイン法国との取引の為だ。
やはりエ・ランテルは三カ国の要所であり、無視して移動するというのが非常に厳しい。モンスターの脅威もあるこの世界ならなおさらだ。
だからこそ、魔導国の領地となってもある程度は使われている。と言っても王国時代ほど使われてはいないが。
そうして蒼の薔薇はエ・ランテルに行く馬車に乗り込み、魔導国首都、エ・ランテルに辿り着いた。
「……趣味が悪い像」
そう青の薔薇の一人、ティアが呟いた。
門の前には巨大な石像があった。それはアインズ・ウール・ゴウンの像だ。
大きすぎて人間の手では作れないだろうそれは、実際フロスト・ジャイアントが製造した物だ。
そうして馬車がエ・ランテル内に入るとエ・ランテルに始めて来た者は講習を受けないといけないと言われ、講習を受ける事になった。
部屋に入って少し待つと、ナーガがはいって来た。リュラリュースだ。
「さて、魔導国に来た冒険者諸君。ワシは入国管理官をしているリュラリュース・スぺニア・アイ・インダルン。見ての通りナーガじゃ。じゃがまぁ、会うのはここだけじゃから覚えてもらう必要はない」
そうリュラリュースは苦笑しながら言った。
「それでは、まずはこの都市に入るにあたっての注意事項じゃ。都市内での喧嘩、武器を抜いた戦闘は原則禁止じゃ。といっても相手から襲い掛かってこられた場合に撃退する分には当然構わんが。じゃが何かあっても武器を抜くのはお勧めしない。今からあるアンデッドが入ってくるが……武器は抜かん方が良い。何ならこちらで武器を一時預かってもよいぞ」
その言葉に疑問を感じつつ蒼の薔薇は武器は預けなかった。
アンデッド蔓延るという都市で武器を一時とはいえ預ける勇気はなかったのだ。
「では、入ってこい」
リュラリュースがそう指示を出すと部屋に
「──」
ラキュースたちは一瞬武器を抜きそうになるが気合で堪えた。
もし武器を抜いても、個のアンデッドを倒すには一筋縄ではいかず──戦えばこの国にとって犯罪者となり、死ぬのが確定するからだ。
「賢明な判断、感謝する。このようにこの国には
「……これは、一体ではないのですか?」
ラキュースが問いかけた。
「いいや。何百体と居るよ。ただこの街には百体程度じゃが」
これだけの力を持つアンデッドが百体──その言葉に絶句する。
「あとは、この街にはゴブリンや
こうして蒼の薔薇は注意事項を聞き、覚え魔導国内に入っていった。
「ここが魔導国……」
ラキュースたちは何度かエ・ランテルに来た事はある。
その時とは一変していた。
道は全て石畳で整備され、魔法の灯りを使った街灯が並んでいる。
そして街を歩くのは多数の亜人種。
一番多いのはゴブリンだ。何百といる。
そして、懸念していた事──アンデッドも多数いた。
「ありゃアンデッド使って工事してるのか?」
「そうみたいね……」
見ればドワーフがアンデッド──スケルトンに命令をし、何かしらの建築工事をしていた。
余談だが最初は筋力に優れるゾンビを使う案があったがゾンビだと腐臭がするので却下された事がある。
蒼の薔薇一行は警戒しつつ進む。まるでダンジョンの中にいる気分だ。
目的地はただ一つ。エ・ランテルの王城だ。
街を軽く見渡しながら進んで行くと、目的地である王城に辿り着いた。
「すげぇな、こりゃ」
ガガーランが城を見上げながら言った。
この城はつい先日出来たばかりの城だ。
年季というのは感じさせないが、頑丈な作りである。
建築主任はデミウルゴスで、真っ黒な石を使って創り出した城である。
まさしく魔王でも住んでそうな城である。
城の庭に入ると、そこには魔導国宰相アルベドが居た。
「ようこそ、蒼の薔薇の皆さん。私はアルベド。魔導国宰相にして──アインズ様の第一妃です!」
アルベドは最後のところを強調していった。
そのことに蒼の薔薇は疑問を抱いた。
魔導王は聞いた話じゃスケルトン型のアンデッド。それにナニは着いていないだろうにそれの妻とは、どういう性癖なのだろうかと。
ラキュースは内心忍者姉妹のようにドキツイ性癖の持ち主ではないかと戦慄した。
「初めまして、アルベド様。私はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。蒼の薔薇のリーダーです」
蒼の薔薇を代表してラキュースが挨拶をし、頭を下げた。
相手は一国の王の妃だ。立場上では相手のが上である。
「それではこれより魔導王陛下との謁見を執り行います……ですがご安心を。貴女様方は武装したままで構いません。その方が安心できるでしょう?」
「それは……ありがとうございます」
アンデッド蔓延る国で武装を剥がされるというのは少し恐怖だ。それがないというのはありがたい。
それにイビルアイは仮面を外せないのでつけたままでもいいというのは助かる。
「それでは、どうぞこちらへ」
そうして蒼の薔薇は城の中に通された。
城の中も豪華絢爛な作りだ。
ふかふかのカーペットに高そうな壺に絵などが飾ってある。
そうした通路を通って玉座の間に辿り着く。
門が開き、奥に玉座に座る死が見える。
(あれが──アインズ・ウール・ゴウン、魔導王)
ラキュースは戦慄した。
あれこそが絶対的支配者。何十万人をたった一つの魔法で殺し尽くした超越者。
蒼の薔薇が進んで行き、一定の地点で止まり膝をついて頭を下げる。
アインズが口を開いた。
「ようこそ、アダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇。私がアインズ・ウール・ゴウン魔導王だ……ふむ。なるほど」
アインズは何か納得したような雰囲気を出していた。
(ふむ。
アインズはそう謎の感動をしていた。
「さて、我が国に来て間もないが……第一印象はどうかな? 他国の者から見て、我が国はどう見える?」
アインズがそう問いかけた。
ラキュースは慎重に答える。
「……素晴らしい国かと。亜人種も人間種も共に平和に暮らせている……とても良い国かと」
ラキュースは本音交じりにそう言った。
亜人種が人間の敵なのはそうだが、一部の者はそうではないとラキュースは知っている。かつて自分たちを助けてくれた亜人種の村のように。
だから、亜人種と人間種が共存出来ているというのは素晴らしいと、素直にそう思った。
「そうか。それは良い事だ。では是非とも我が国を観光してくれたまえ……おぉ。来たか」
玉座の間の門が開いた。
入って来たのは一人の戦士──モモンだ。
イビルアイは叫んで抱き着きたいのを我慢する。流石に謁見中にそんな行為は常識外れで不敬罪で首をはねられても文句は言えないので。
「来たか、モモン」
「一応言っておくが、お前の為に来たわけじゃない、魔導王。そして……久しぶりですね、蒼の薔薇の皆さん」
そうパンドラは小さく頭を下げた。
「ふふ……モモン。お前に仕事だ。蒼の薔薇の者にこの都市を案内させてやれ。騎士団総団長としてな」
アインズの言葉に蒼の薔薇は疑問を抱いた。
冒険者だったモモンが騎士団に入っているのか。しかし総団長というのは聞き慣れぬ言葉だ、と。
「いいだろう──それでは蒼の薔薇の皆さん、この都市を観光といきましょうか」
■
王城を出て、蒼の薔薇とパンドラは外に出た。
「さて、皆さん。どこか行きたいところはありますか?」
そうパンドラが気さくに問いかける。
「モモンさん! モモンさんは今冒険者ではないのですか?」
イビルアイがここぞとばかりに問いかけた。
「そうですね。今の私は魔導国の騎士団総団長という立場です。この国には今三つの騎士団が存在していて、それの頭領という訳です」
「帝国で言う一軍や二軍のようなもの、ですか?」
「その通りです。と言っても帝国とは少し違いますが……そうですね。ここは元冒険者組合にでも行きましょうか」
そう言って六人は歩き出す。
「魔導王は未知を既知に変えるため、遍く世界を知る為に調査団を結成しました。それが第三騎士団になります。次に武力向上のための戦闘力に特化したのが第二騎士団。最後におもに治安維持を行うのが第一騎士団です」
「アンデッドの警備兵が居るのに、人間の騎士がいるんですか?」
ラキュースが気になって問いかけた。
「はい。単純な暴力事件や強盗などはアンデッドでどうとでもできますが、それら以外の犯罪──詐欺やスリなどと言った単純ではない犯罪にはどうしても人間の手が必要ですし……アンデッドが恐ろしい、という人もいますから、生者の騎士団が必要だと魔導王は判断したんです」
「なるほど……確かに、アンデッドだけでは厳しいところがありますね」
素直にラキュースは納得した。
(まぁ、治安維持を自分の手でやらせることで政治に関わっているという実感を持たせ反感を持たせにくくする──というのも含まれているんですがね)
内心パンドラはそう苦笑した。
「未知を知るってのは具体的にどういうのをするんだ?」
そうガガーランが問いかけた。
「はい。例えばトブの大森林の詳しい調査や、アゼルリシア山脈の踏破。その内部のドワーフの王国の詳しい調査など……あるいは、これまで人類未踏の地域の調査など、まさしく未知を知る──真の冒険者とでもいうべき仕事です。今はモックナック殿──元ミスリル級冒険者が騎士団長をしている」
「トブの大森林! 人類未踏の地ですね……危険はないのですか?」
ラキュースが問いかけた。
「入国時にあったリュラリュース殿は元はトブの大森林の支配者の一角で、森の賢王も支配者でしたが、私の騎乗魔獣になっています。森の殆どは既に支配下になっているので危険は少ないですよ。と言っても支配者に従わないモンスターや自然の驚異はあるので危険なのに変わりはないですが」
そうパンドラは苦笑した。
「と、着きましね。ここです」
そうパンドラは元冒険者組合──現第二騎士団本部を見上げた。
「さぁ。中に入りましょう」
そう言って本部内に入る。
中の作りは冒険者組合時代とさして変わらない。
中には元冒険者の現騎士団員が何人かいた。
パンドラは彼らに一礼し、奥へと進む。
奥の扉に行き、組合の裏手に出た。
かつて組合は裏側からの出入りは禁止されていたが、もう冒険者組合ではないのでその規則はない。
裏側は修練場となっており、何十人か模擬戦や案山子相手に武技の練習をしている者がいた。
そして、そこには武王が居た。
武王は青い髪の男──ブレインと戦っていた。
「あれは武王?」
即座に気づいたティアが疑問を浮かべた。
「そうです。魔導王が帝国からスカウトしてきた人材で、第二騎士団の副団長をしています」
「武王ほどの人物が副団長だと? ……いや、そもそもスカウト出来た時点で凄いが」
イビルアイが疑問を問いかけた。
「えぇ。今戦ってる相手が騎士団長──ブレイン・アングラウスです」
その言葉に蒼の薔薇は納得を見せた。
かつてガゼフ・ストロノーフと互角の戦いを繰り広げた天才剣士。それならば騎士団長にも相応しい、と。
「丁度勝負が終わったみたいですね」
そして丁度ブレインが武王に勝ち、勝負が終わった。
パンドラが二人に近づくと、二人が挨拶してくる。
「モモンさーん、何用で? そっちは……蒼の薔薇か」
そうブレインはラキュースを見て懐かしそうな顔をした。
「お久しぶりです、ブレインさん」
「おや、ラキュースさんはブレインと知り合いだったので?」
「えぇ。昔依頼の途中で会いまして、少しあったんです」
ブレインは蒼の薔薇にリグリットが居た時代に遭遇したことがある。
詳細は原作でも不明だが。
「それなら旧交を深めるためにも、ブレインにも紹介させましょうか」
そうパンドラは言った。