蒼の薔薇が魔導国に来た夜。
黄金の輝き亭にて。
「いやーいい風呂だったな!」
そうガガーランが風呂上がりで髪を拭きながら部屋に戻って来た。
黄金の輝き亭はエ・ランテル一の高級宿屋だ。
それは魔導国に変わってからも変わりなく、むしろより進化していた。
帝国が属国となったことで大々的に貿易を行い、帝国産の発展したマジックアイテムで風呂や料理が進化しているのだ。
因みに魔導国にも魔法省があり、そこにはフールーダとアルシェが所属している。
「お、メモ取ってんのか?」
ガガーランが椅子に座って何か書いているラキュースに近寄った。
「えぇ。この国で見聞きしたことをメモしておこうと思って……ほんと凄い国ね」
「あぁ。亜人地区なんてのもあるしな。亜人と人間の共存……それがアンデッドの元で叶うとはな。いや、アンデッドだからこそ叶ったのか?」
ガガーランが首をひねった。
亜人地区とはエ・ランテルの元スラム街の事だ。
スラム街の住人はアインズの手で全員一掃された。と言っても全員が殺された訳ではなく、犯罪者以外は村に移住された。
陽光聖典によって廃村になってしまった村や新規の村などに移住させられ、アンデッドと科学知識を使った新農法を実験的に行っている。
最初の三年は税もあまり取り立てないというお触れを出しているので意欲的に農業を行っている。
「えぇ。本当にこの国は時代の最先端を進んでいる……そう実感するわ」
そうラキュースは少し暗い顔をした。
リ・エスティーゼ王国は今荒れている。
アインズによって貴族の大半が殺された結果、次男──スペアなどが家を継いだ結果荒れた領地などが幾つかある。
所詮はスペアで、当主程上手く運営出来ていないのだ。逆に先代より上手くいってるところもあるにはあるが、大半が領地が荒れている。
更に言えば王国兵は殆どが徴兵された民兵……つまりは農民だ。農民の大量死により畑も荒れている。
ラナーの試算では数年後に王国で飢餓が起こる事も予測されている。下手すれば土地を魔導国や帝国に売らなければならないかもしれない。
その原因となった国が発展しているというのは複雑な感情をラキュースに抱かせる。悪いのが王国だとしても。
そもそも王国が八本指なんて産み出さす麻薬も最初から取り締まっていれば帝国は本腰を入れて戦争を仕掛けてはこなかったのだ。
この世界、人類は戦争なんてしている余裕は本来ないのだ。
モンスターが蔓延る世界では行軍も危険だし、戦争で大量の死者が出ればカッツェ平野の様な死の土地が生まれてしまう。だから戦争は避けるべき事だ。
だというのに帝国が王国に戦争を仕掛けたのは帝国の野心もあるが、一番は麻薬を帝国にばらまくという実質宣戦布告をしていたからに他ならないのだ。
だからラキュースは王国に対して声を大にして庇う事は出来ない。悪いのが王国側だから。
「明日は初心者用ダンジョンに行くって言っていたわね……どんなのか気になるわね」
■
翌日。
エ・ランテル郊外──と言ってもエ・ランテルから出て馬車で二十分ほどの場所。
そこにマーレが作った初心者用ダンジョンはあった。
蒼の薔薇一行はそこに来ていた。
初心者用ダンジョンは墳墓の形をしている。
地下迷宮の形だ。
その入り口前に
「ようこそ、蒼の薔薇の皆さん。俺はこの初心者用ダンジョンの管理者のザリュース・シャシャだ」
よろしく、とザリュースは手を差し出した。
「初めまして、ザリュースさん。私は蒼の薔薇のリーダー、ラキュースです」
そうラキュースは笑顔で対応した。
「よろしく頼む、ラキュース殿。今日は実際にダンジョンを進みながら解説していこうと思う」
そうザリュースは言った。
ザリュースは元旅人だ。ザリュースにとっての未知に挑戦した者である。
だからアインズがナザリック内の武技指導者から移動させ、騎士団の探索チームの指導者に変えたのだ。
今はダンジョンを管理しつつ適切な野営方法を教えたりしている。
ダンジョンに一行は入っていく。
「このダンジョンは魔導国が作った物だ。出現するのはアンデッドだけだが、トラップや謎解きもある」
そうザリュースが解説しながら進むと奥からアンデッドが出て来た。スケルトンだ。
これらのアンデッドはアインズやパンドラが創造した者ではなく、ナザリックにポップするアンデッドだ。
ゲーム時代はギルド拠点から出られなかったポップモンスターだが、この世界に来てNPC同様外に出られるようになった。
そしてちょっとした仕様変更があり、ギルド拠点から一定上離れ、かつ一定時間が経過するとギルド拠点が再度ポップさせるようになったのだ。つまりは無限の軍勢である。
と言っても再出現に一日以上はかかったりするし、ステータスも通常モンスターと同程度なので弱い。
そのため外の農業や建築事業にはやはりアインズが作ったアンデッドが採用されている。
今のところは繋がりが薄く無理だがアンデッドの遠隔操作も
迷宮らしき通路を進んで行くとスケルトンが四体出てくる。
「んじゃ、最初は俺だな」
そう言ってガガーランが突撃した。
そのままウォーピックをぶん回し四体のスケルトンをあっけなく蹴散らした。
「流石はアダマンタイト級冒険者殿だな」
そうザリュースは素直に感心した。
「このダンジョンは現在第三層まであるが、最終的には第五層まで作り、第五層の最奥にボスモンスター……エルダーリッチやアンデッドの戦士団を配置する予定だ。それらをチームで突破出来ればミスリルランクになる」
「騎士団にも冒険者ランクと同じものを?」
「あぁ。個々人で戦闘力に差がある以上、そう言ったランク付けは必要だと魔導王陛下は判断し、騎士団内にも序列を作ったんだ。騎士団とは言うが、正確には大手ギルドの様な物で、騎士団内に複数チームを作ってそれらに仕事を回すことで運営している」
「なるほど、単純な騎士団とはだいぶ違うのですね」
「そうだ。騎士というより性格にはギルドの方が近いな」
そうザリュースが解説をする中も一行は進み、アンデッドをどんどこ倒していく。
「……いやしかし強いな。アダマンタイト級とはこれほど強いのか」
ザリュースが関心と尊敬を込めて呟いた。
「えぇ。これでも王国に二チームしかいない最高位冒険者ですから」
そうラキュースは自慢するように言った。
そうして階段を忍者姉妹が探し、降りていく。
ダンジョンなので所々トラップがある。槍が突き出たり、落とし穴だったり。
尚本来はスイッチを押さないと先に進めないのにスイッチを押すと腕を斬り落とされるトラップやぶんぶん回る回転のこぎりのトラップや落とし穴に槍が設置されていたり岩が転がってくるが逃げ先がないなどのトラップが設置されていた。
だがさすがにそれは不味いと見学に来たアウラによって除去された。
このダンジョンは初心者用ダンジョンで低レベルの者が利用する場所だ。それらに対し即死トラップ塗れは蘇生が流石に効かないので不味いのである。
そうして一行は最奥に辿り着いた。
「ここは今中ボス用の部屋となっている。居るのはスケルトン・ウォーリァーが二体居る。倒すか?」
「おう、ここは俺っちに任せて貰おうか!」
ガガーランが意気揚々と扉を開け、中に入った。
中には武装したスケルトン、スケルトン・ウォーリァーが二体居た。
レベルは十六という単体性能ならミスリル級相応の敵だ。
ガガーランが雄たけびと共に突撃し、ウォーピックを振るう。
スケルトン・ウォーリァーは盾で防ぐも、腕の骨が折れた。
レベル差というのは非情であり、ガガーランの攻撃が打撃属性というスケルトン系アンデッドの弱点を突く形になっているからこうも簡単にダメージを受けたのだ。
そのままガガーランは敵が動くより早くウォーピックを振るい片方を片付けるともう片方の攻撃を避け、武技込みの一撃でスケルトン・ウォーリァーを吹っ飛ばした。
体勢を崩し立ち上がろうとするスケルトン・ウォーリァーに対しガガーランが頭に一撃入れる事でスケルトン・ウォーリァーは死亡した。
「うっしこんなもんだな」
「流石はアダマンタイト級冒険者……まだ騎士団の者には突破出来ていない者も居るというのに、素晴らしいな」
そうザリュースが素直に褒めた。
「あとこのダンジョンに見るべきところはない。外に出ようか」
ザリュースがそう言い、一行は外に出た。
■
「モモン様!」
騎士団総本部前に出て来たパンドラに対しイビルアイが抱き着いた。
「イビルアイさん、どうも。魔導国はどうでした?」
パンドラはイビルアイの恋愛感情に気づきつつ、あえてそれを無視する。
モモンの正体がバレるリスクが高まる以上、現地住民と恋愛関係に至る事はない。だからイビルアイのは失恋で終わるだろう──イビルアイが正体を明かさなければ、だが。
「……悔しいですが、良い国かと思います」
イビルアイは悔しがりながらそう言った。
イビルアイは抱き着くのをやめ、パンドラから離れた。
「人々の顔は明るく、活気もある。道も整備され、食料品も安価……悔しいですが、魔導王──陛下の治世は優れていると言わざる負えません」
その言葉にパンドラは内心機嫌を良くした。自身の創造主をよく言われ悪くなるNPCなどいない。
「えぇ。私も悔しいですが魔導王の治世は評価しています。優秀な配下も多いですしね」
「そうですか……も、モモン様。また会いに来ていいですか? その……個人的な親交を深めに」
その台詞にパンドラは苦笑しつつ答えた。
「えぇ。お互い友人として仲良くなりましょう」
その言葉にイビルアイはやった、と小さくガッツポーズをした。
「モモンさん」
そして出立の準備を終えたラキュースたちがやってくる。
「ありがとうございました。この国の素晴らしいところを、よく理解出来ました」
そうラキュースは微笑んだ。
「それじゃあ、モモンさん。またいつかお会いしましょう」
「えぇ──またいつか」
そうして蒼の薔薇は魔導国を去っていったのだった。