アインズはひれ伏している聖王国の人間の前で、多少の緊張をしていた。
ここはエ・ランテルに出来た魔導王の城で、その玉座の間だ。
その部屋にはアルベドと聖王国からの使者一団が来ていた。
「面を上げたまえ」
アインズがそういう事で聖王国の使者──レメディオス率いる聖騎士団が顔を上げた。
「よくぞ参られた。聖王国の者たちよ。私がアインズ・ウール・ゴウン魔導王である。遠路はるばるよくぞ来てくれた」
アインズが取りあえずそれっぽいアピールの為に漆黒の後光も使う。
「用件は把握している。貴国を襲っている悪魔──ヤルダバオトに対処するためにモモンを貸し出してほしいのだろう?」
アインズがそういうとレメディオスが「はい」と肯定した。
「我が国を襲っている大悪魔、ヤルダバオトを倒すには王国でヤルダバオトと互角に戦ったという戦士、モモンが必要なのです。相応の対価を支払う故、どうかそのお力をお貸し頂きたい」
レメディオスは内心なんでアンデッドなんぞに敬語使わないといけないんだと思いつつそう言った。
「ふむ。ヤルダバオトは放置すれば我が国にも危害を加えるだろう。力を貸すこと自体はやぶさかではない。だが──すぐに貸し出す、というのは無理だ」
その言葉に少し絶望した空気が流れた。
「どうしてでしょうか? 武力という点では、アンデッドの兵士などで問題ないと思いますが」
「モモンは我が国の治安維持に一役買っている。モモンがいなければ我が国の民は不安にさいなまれるだろう。無論武力だけならば幾らでもある……モモンをすぐに出すことは出来ないが、代わりにアンデッドの軍団を貸し出そうか?」
「それは……」
レメディオスは言い淀んだ。
「そうだ。貴君がそう不安を感じたように、我が国の民も不安を抱いているのだ。だからモモンをすぐに貸し出すのは無理だ。そうだな……アルベド。あとどれほどで治世は安定するかわかるか?」
「はい。今のペースで亜人が増えるのを考えますと……五年程で安定するかと」
「なるほど。であれば五年後にモモンを貸し出そう。どうだ?」
「それは……!」
レメディオスはどうしたものかと頭を悩ませた。
聖王国は今まさにヤルダバオトによって蹂躙されている。五年も経てば国として形を保っているかわからない。
だが、所詮は国交もない他国の事情だ。無理を言っているのがこちら側である以上、レメディオスが更に強く懇願することは難しいだろう。
「難しい話です。五年も経てば我が国はどうなるか……」
レメディオスはそういうしかなかった。
「ふむ。であれば……アルベド。期間を縮める事は出来るか?」
「難しいかと」
「やれ」
「わかりました。であれば三年で派遣可能かと」
「ふむ。であれば三年後に派遣しようではないか。友好国の頼みだ」
二年も縮まった。だがそれでも、三年はある。
それまでどうにか耐えるしかないのか。レメディオスが内心歯ぎしりをする。
「発言いいでしょうか?」
そこに第三者の声が出た。
「誰だ?」
「ネイア・バラハと申します。聖騎士見習いです」
「ネイア・バラハ! 聖騎士見習い程度が発言するな!」
「いや、カストディオ殿。構わないとも。それでバラハ嬢。何かね?」
「はい。一日でも早くモモン殿を派遣していただきたく声を上げさせてもらいました。どうかモモン殿をすぐにでも派遣していただけないでしょうか」
「ふむ。それは我が国に損害が発生する事を承知の上でか?」
「はい。どうか、お願いいたします」
そうネイアは深く頭を下げた。
「であれば、そうだな……アルベド。二年でモモンを派遣できるようにしろ」
「しかし陛下。それは非常に難しいかと」
「いいや、やるんだ」
「畏まりました!」
アルベドが一礼をした。
「さて、では──」
■
アインズは不可視化状態で聖騎士たちが泊って居る宿の馬屋に来ていた。
そこにはネイアが馬の世話をしていた。
はぁ、とネイアが深いため息を吐いた。
「ずいぶんと疲弊しているな」
アインズがそう声を発するとネイアはびくっとして、あたりを見渡した。
「ここでは不味い。人気のない路地裏に来てくれ」
アインズがそういうとネイアは「わかりました」と言って道具を片付けると人気のないところに行った。
「ふむ。ここならいいだろう」
そう言ってアインズは不可視化を解いた。
「ま、魔導王陛下……何故こちらに?」
「うむ。レメディオス・カストディオ殿と非公式に話したくてな。取り次いで欲しい……あぁ、表から堂々と顔を晒して行く訳にはいかないので、カストディオ殿が居る部屋の窓を開けてきてほしい。そこから中に入ろう」
「わ、わかりました。すぐに動きます」
「頼んだぞ」
ネイアが一礼してから動き出した。
アインズは再度不可視化してネイアを追う。
そのままネイアは黄金の輝き亭に入り、取っている部屋、レメディオス団長の部屋に入った。
レメディオスがなんだと疑問を抱くが、説明している暇はないので窓を開ける。
「ネイア・バラハ! 何をしている!」
レメディオスが流石に叫んだ。いきなり窓を開けて手を振ってる変人にしか見えなかったからだ。
そこにアインズが来る。
窓に腰掛け、不可視化を解除する。
「彼女を責めるのはやめてもらおう。責めるなら無理な頼みをした私を責めてくれ」
アインズが姿を現したことに聖騎士たちは驚き固まる。
すぐに動いたのは聖騎士団副団長、グスターボだ。
「ま、魔導王陛下?! 何故こちらに?」
「内密で話したい事があって。あぁ、騒ぎたくはないので宿の者には秘密にしてほしい」
そうしてアインズとの秘密の会談が始まった。
宿の一室の席にアインズが座り、レメディオスと対面する。
「こうして非公式の場でないと話せない事があってね。バラハ嬢には無理を言って入れて貰った……私は無駄話が嫌いなので単刀直入に言おう。君たちが望むならば、モモンに匹敵するだけの人材をすぐに派遣することが可能だ」
その言葉に聖騎士たちが少しざわつく。
英雄モモンに匹敵する人材。それが来てくれれば我が国は救われる、と。
「それほどの人物が。ぜひともお願いしたいのですが……その人物とはいったい?」
レメディオスが問いかけた。
「それは私だ。私はモモン以上の力を持っている」
その言葉にグスターボが固まった。
冷静に考えて一国の王が他国に──しかもこれまで国交のない国──援軍に来るなどありえない。いかに戦闘力があろうとも。
(うん。まぁそんな顔するよな。けどこれデミウルゴスの台本通りなんだわ)
そうアインズは内心苦笑した。
アインズは賢王などと呼ばれる知性は持っておらず、なんならナザリックで勉学も堂々としている。アルベドが教師だ。
そのためデミウルゴスやアルベドは原作のようにアインズを過大評価していない。
だからアインズが言えばちゃんと最初から最後までの台本を渡してくれたので、アインズはそれに沿って動くだけである。
「わかった。それならば問題ない」
そしてレメディオスはあっさりとそれを受け入れた。
そのことに再度グスターボが?! という顔をした。
グスターボが口を開いた。
「お、お待ちください。何故魔導王陛下程の方が来られるのですか?」
「うむ。ヤルダバオトは多数の悪魔を従えている。だが悪魔というのは本来魔法的手段を持ってしか現世に出現できない存在だ。そのために私はヤルダバオトが悪魔を多数出現させるための魔法儀式、あるいは高位のマジックアイテムを所持していると読んでいる。それらを手に入れれば悪魔さえも我が国の兵力に出来る。そして魔法的な儀式の場合、術式を得るには私が行くしかない……納得できたかな?」
「……り、理解は出来ましたが──」
「グスターボ。魔導王陛下が良いとおっしゃってるんだ。気にすることはないだろう。それで魔導王陛下。いつなら出立可能ですか?」
「明日にでも可能だ」
「では明日の朝、すぐに出立致しましょう。我々も準備を整えます」
「承った。では私も出立の準備をしよう……では、これにて失礼」
そう言ってアインズは窓を開け、飛び降り不可視化し飛行して消えた。
■
アインズは馬車にネイア・バラハと共に乗っていた。
(原作知っててもキツい目つきだな)
アインズにとってこの世界はリアルだ。だから実写の世界のように世界が見えている。
だからこそ、リアルで目がきつい人間はこうなるんだな、という謎の感動とこれ原作知識ないと恨まれてるとか思いそうだなと思っていた。
「バラハ嬢。私の顔に何かついているかね?」
「い、いえ。素晴らしい顔だな、と」
「そうか……そうだな。バラハ嬢。我が国を見てどう思ったか、聞かせてくれないか? 長い旅になるんだ。親交を深めようじゃないか」
「ま、魔導王陛下に対し私なんかが親交を深めるなど!」
「おや、アンデッドの王とは親しくしたくないと?」
「いえいえそうではなく! 私の様な聖騎士見習い風情が魔導王陛下と親しくなど!」
「私が仲良くなりたいのだ。身分など関係ないとも」
アインズがそういうと其処まで言われれば……とネイアは一応の納得を見せた。
「それでバラハ嬢。我が国はどうだったかね?」
「……素晴らしい国かと。亜人も人間も、顔が明るく未来に希望を抱いています」
「そうか。そう見えたのならよかった」
「それに、城門前の魔導王陛下の像はとくにすばらしいと思います!」
「そ、そうか……だが私は、あれほど大きい物は必要ないと思うんだ」
「何故ですか?」
「王の偉大さとは物理的な物ではなく、成した偉業でもって称えられるべきだ。勿論国民が王の顔を知る、というのはいい事だと思う。そのために石像というのが有効的な手段だという事も。だがさすがに巨人にあれほど大きいサイズの石像を作らせる必要はないんじゃないかと思うんだ……まぁ、部下は意欲的に造ろうとしているが」
「なるほど! 魔導王陛下の深い考えに感銘を受けました!」
「そうか……そうだな。次は君の話を聞かせてくれ、バラハ嬢。聖王国がどのような国なのか。これまで君がどう暮らして来たのか──」