翌日の夜。
アインズはナザリックの自室で報告書を読んでいた。
報告書の内容はクレマンティーヌから聞き出したスレイン法国についてだ。
黙々と読み進める。
(原作知識と左程変わりはないな。番外席次についても知っているようだし……これで一層ナザリックの利益になる)
よーしよしよしとアインズは内心笑みを浮かべる。
読み終えたアインズはクレマンティーヌの使い道について考える。
(まずは俺自身の戦闘力の底上げだよなぁ。まずは近接職の戦闘技能を知る……必要はないな。普通に魔法職の戦い方をクレマンティーヌ使って実験すればいい。ある程度出来るようになったらコキュートスとか相手に模擬戦すればいいしな)
そう考えていると部屋にノックがかかる。
今日の担当のフィースが扉に行く。
「アインズ様。クレマンティーヌが面会を求めています」
「そうか。いれてやれ」
「畏まりました」
そうしてクレマンティーヌが部屋に入ってくる。どこかびくびくしている。
クレマンティーヌは事前に命令していたので武装状態だ。ナザリックにとってはゴミだが現地基準では国宝クラスの装備をしている。
アインズは部屋のソファに座っている。
「よく来たな、まずは座れ」
「は、はい」
クレマンティーヌはアインズの横の地面に跪いた。
「……ソファに座っていいぞ」
「私ごとき下等生物がそのような事恐れ多いです」
(なんか心折れてるな……変な事命じたっけ)
アインズはそう疑問に思う。
クレマンティーヌはアインズが呼んだ客人ではある。
だがクレマンティーヌは馬鹿正直にアインズに剣を向けたと言った、言ってしまった。
そのためにナザリックのNPCからの好感度は爆下がり、ゴミムシを見る目どころか殺気もぶつけられた。
殺しはしないし拷問もしないが心はへし折ろうとアルベドが画策したのである。
「まずは……フィースと
「そ、それは出来ません。御身の傍に控える事こそ我らが使命です!」
「どうしても、だ。すまないな」
「……畏まりました」
メイドと
二人きりになったことにクレマンティーヌが緊張する。
相手は骨なので体を求められることはないだろうがそれ以外だったら何をされても可笑しくない。
「さて、これで二人っきりだ……私がお前に命じたい事は一つ、私の訓練相手になってくれ」
「訓練、ですか?」
「そうだ。私は同格との戦闘経験が足りない。故に意図的に私は手加減をし、お前を訓練の相手としたい」
「……絶対的強者であるゴウン様に訓練など必要なのでしょうか」
「いる。同格の者はこの世界には多数いるだろう? 真なる竜王などが。それらと遭遇した際訓練の有無は勝敗を別ける。まぁ、正直訓練するなら守護者を使った方がいいが……守護者相手に情けないところを見せるわけにはいかないからな」
「………………畏まりました。その命令、承ります」
「よろしい。ではさっそく行こうか」
アインズは立ち上がると遅れてクレマンティーヌも立ち上がる。
アインズが部屋のドアを開けるとそこにはフィースが立っていた。
「これから私は第六階層に向かう。お前たちは部屋で待機して置け」
「……畏まりました」
アインズはクレマンティーヌの腕をつかんだ。
「では行くぞ。
転移魔法で第六階層の円形闘技場内に転移した。
「……空?」
第六階層に来るのが初めてのクレマンティーヌは空を呆然と見上げた。
「ここはナザリック地下大墳墓第六階層、つまるところ地下だ。この空は偽りの物だ……私の友が作り上げた、な」
(プレイヤーってそんなことも出来るのかよ……)
クレマンティーヌは戦慄する。
これだけの化け物の巣窟が絶対的強者を主と認め軍となっている。
スレイン法国はどうしようもないだろう。いずれ滅ぼされるなと苦笑するしかない。
「距離は……これぐらいでいいか」
アインズとクレマンティーヌは一定の距離を取る。
「では、このコインが落ちたら開始としよう」
アインズは無詠唱化した
クレマンティーヌがおどおどしながら口を開いた。
「……本当にいいんですか? 私と模擬戦なんて……」
「くどいぞ。これはしなければならない事だ」
「……わかりました」
「よし、じゃあ行くぞ」
アインズが金貨を弾いた。
そして──地面に落ちる。
それと同時にクレマンティーヌが突撃した。
恐怖はある。だがそれよりも一発ぐらい殴りたい気持ちが勝った。
アインズはここで
「
衝撃波がクレマンティーヌを襲う。
腹に命中しクレマンティーヌは吹っ飛んだが、空中で体勢を整え着地する。
「
アインズは
ただの
クレマンティーヌはサブ武器のモーニングスターで攻撃するも
アインズが距離を取りつつクレマンティーヌに攻撃できる位置に移動する。
「
雷がクレマンティーヌを襲う。
着弾するも魔法でダメージ量を低下させていたため大したダメージにはならなかった。
(よし、このままいくぞ──)
■
二時間後。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
息があがり大地に仰向けに倒れているクレマンティーヌと特訓が出来て上機嫌のアインズが居た。
「感謝するぞクレマンティーヌ。こうすればいいとよくわかった」
アインズの中の人はゲーム経験ぐらいはある。
スカイリムなどで魔術師プレイをしたこともあるし、格ゲーだって多少はやる。
それらを現実に置き換えるとこうなるのか、という実感を得てアインズは戦闘手段を確立させていた。
「今日のところはこれぐらいにしようか。ほら、転移するぞ」
「は、はい……」
アインズはクレマンティーヌに近づく。
汗まみれで疲労困憊の美女。男なら勃起ものだがブツが無いので勃起しようがない。
そのことにアインズはしょぼんとしながら近づき転移魔法で自室に戻った。
「それじゃあな、クレマンティーヌ」
「はい……」
老人のような足取りでクレマンティーヌは部屋を去った。
「さて、これから私は宝物殿に行く」
部屋に居たフィースにアインズは告げる。
「畏まりました」
宝物殿は着いて行きようがない場所なのでフィースは悔しそうにしながら了承する。
「ではな」
アインズは指輪の力で転移した。
パスワードを唱え宝物殿の奥へ行き、パンドラと会う。
お互い向かい合ってソファに座る。
「ようやくお前の出番だ、パンドラズ・アクター」
「おぉ! ついに私が活躍するのですね!」
「そうだ。今後は外で英雄モモンとして活動してもらう」
アインズとしてはモモンとしてやるべきこと、つまりクレマンティーヌの捕獲が終わったのでもうモモンを自分がやる意味はないと思っている。
そもそも英雄を演じるなどただの一般人に出来るわけがないのである。そも本職は
「畏まりましたっ! ん~アインズ様!」
(このテンションどうにかなんねぇかなぁ)
アインズはそう思いつつ突っ込まないで置く。
「そして、これは相談なのだが……私はアインズ・ウール・ゴウンとして王都に行こうと思う」
「ほう。理由をお聞かせしてもらっても?」
「目的は国造りの為の布石打ちだ。出来る事ならガゼフ・ストロノーフと友好関係を結び強化したい」
「……なるほど。国家間の衝突を避けるためですね」
「……そ、その通りだ。あとは国の首都と言うのを私の目で見てみたいと思ってな」
「支配者として素晴らしいことと思います。護衛はどうなさるつもりですか?」
「セバスを使うつもりだ。そのままセバスの屋敷に滞在する予定でもある」
「それならば問題ないかと。ただ今すぐはやめた方がいいかと。安定するまで時間がかかりましょう」
「そうだな……そうするとしよう。さて、今日はこのぐらいにしておこうか。ではな、パンドラズ・アクター」
「はっ! ありがとうございました、アインズ様!」
そうしてアインズは指輪の力で転移した。
■
翌日の昼間。
アインズはアインズの格好でエ・ランテル近くにある洞窟に来ていた。
一人ではなく、シャルティアを連れている。
モモンとして得た情報でこの洞窟が先日冒険者たちが盗賊の一掃に向かった場所だとは割れている。
今から行うのはブレイン・アングラウスの捕獲だ。
「よし、行くぞシャルティア」
「かしこまりんした」
シャルティアは完全武装ではないが、念のためにワールドアイテムは所持させている。
シャルティアを連れているのはブレインを眷属にする予定だからだ。
入口に居る見張りに
見張りとして立たせておきながら洞窟の中に入る。
シャルティアを先頭に入り、遭遇する雑魚はシャルティアが爪で首を跳ね飛ばして殺す。血はもったいないので
そうして進んでいると奥から一人の男が歩いてくる。
染めている青い髪に鍛え上げた筋肉を持ち、刀を腰に差した男──ブレイン・アングラウスだ。
「ヴァンパイア……と、隣のはその奴隷か?」
「あぁ?!」
シャルティアが怒声を浴びせた。
怒りと殺意に染まった声にブレインは少し恐怖する。
「いいや、逆だ。私こそがこの吸血鬼の主だ」
「……てことはそちらさんも吸血鬼で?」
「少し違うが、似たようなものさ──さぁシャルティア。この男を眷属にするのだ」
「かしこまりんした。アインズ様」
「俺を眷属に? 冗談言うなよ──切り伏せてやる」
ブレインはニッと笑みを浮かべた。
シャルティアが優雅に歩いて行き。ブレインは武技<領域>を展開する。
領域内にシャルティアの足が入り──ブレインが即座に刀でその首を落とそうと振るった。
その刀による攻撃をシャルティアは右手の小指の爪ではじいた。
「はっ?」
己の攻撃が弾かれた──しかもただの爪で。それが信じられずブレインは間抜けな声を出した。
有り得ない。そう思いブレインは武技で身体能力を強化し再度刀を振るう。
しかし結果は同じ。再度爪で防がれた。
「ば、ばけもの……」
己の努力で鍛え上げた攻撃をロクに見もせず爪ではじく。
ブレインには己が英雄級に近いという自負があり、事実それは正しい。
その攻撃を──英雄の攻撃を容易く防ぐ相手。それはもうバケモノ以外のなんでもない。
その事実に心が恐怖し、折れてはならぬとがむしゃらに刀を振るう。
しかし結果は変わらない。全て爪で防がれる。
「おんし、武技は使わないでありんす? アインズ様の望みは武技使いの捕獲。お主のような程度の低い雑魚に構う暇はないでありんすが……」
その言葉にブレインはぽきっと心が折れた。
「俺の……努力は……何のために……」
──逃げなくては。
そう思いブレインは振り返り走り出そうとし──
「
──ブレインの前に転移したアインズによって止められた。
「
そしてアインズの魔法によってブレインは眠らされた。
「さぁシャルティア。この男を眷属にするんだ」
「かしこまりんした、アインズ様」
ちょっと血が不味そうだな、と思いつつシャルティアは倒れたブレインの首筋に牙を立て、
「ア、ガァ、あぁ!」
そうしてブレインの肌が青白くなり、目が赤く、牙が生える。
ブレインは意識を取り戻すと跪いた。
「シャルティア様。私を眷属にしてくださりありがとうございます」
(敬語を使うブレインなんか変だな……)
アインズはそう思いつつ何も言わないで置く。
「これからわらわが貴女のご主人様でありんすえ。さぁ、わらわの靴を舐めなんし」
シャルティアがそう言うと下級吸血鬼となったブレインはシャルティアの靴を舐めた。
うわぁ、とアインズは内心ドン引きした。
「よ、よし。このまま盗賊共は全員殺して死体をナザリックに運ぶぞ」
「畏まりンした、アインズ様」
こうして死を撒く剣団は壊滅した。