ARGO アルゴ−データの海で   作:電機羊

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第一部 人見 夕 (ヒトミ ユウ) 第1話 《仕事前のルーティン》

 

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第1話 《仕事前のルーティン》

 

家に居ると1本の電話が入った。

「…じゃぁ2時に、いつものスタバでいい?」

はい!と応えた僕の心は実は重い。

仕方ないだろ?今月は(今月も、だけど)使える金が少ないんだから、と自分を説得する。

”ギグエコノミー(分散労働)”は選んでもらってなんぼ。実際こんな長期の案件に有りつけるのはかなりラッキーなんだぞ、それにお前は自分自身で”開拓者”を選んだんだ。

なんとか説得に成功して、僕は大急ぎで面談用のおとなしめの服に着替えた。

「まだ時間はあるな…」

どうしても仕事の前にモンスターシナジーを1本飲んでおきたかった。あれが無いと…まぁ無理だろうな。

僕は”スクロール”をポケットから取り出して、右手のスナップで画面を展開した。そして(自販機)と黙唱。

広がった画面のマップ上で自販機の場所にピンがいくつか立つ。僕は指に近いのを選ぶ。

「仙台城…と。」

今月のGB(ギャラクシーブラックホール)の残が気になったが、まぁ自販機に寄るぐらいはできるだろう。

僕は仙台城ページの”LIVE"を観た。

「DUPA(ドパ)ガキどもも居ないな。」

ジャンプ先でややこしいのに絡まれて仕事に遅れるのは避けたい。

「OK、じゃあ…行くか。」

仙台城ページ内の”ジャンプ”ボタンをポップした。

背中を氷風が吹き抜けたような、思わず小さな声が出そうになる。

(あ)

という間に僕は仙台城に移動した。

ー仙台城内ー

「おっとぉっ!」

足の再生が若干遅れて転けそうになった。科学的にはあり得ない現象らしいが、実際に起きているんだからどうしょうもない。

軽く埃をはらって、立ち直す。

「さて、販売機は…と。」

無事”モンシナ”…モンスターシナジーを購入できた。

ーそしてその場でグイグイ飲み干す。

「う…来た来た。」

さっきまでの鬱っぽい気分が、少し離れた位置までズレた。たまらなく楽で、そして怖い。そんな自分を横から眺めていた。 頭2つというか…この状態になってしまえばくだらないジョークで大笑いしながら不動産の権利書だって読める。

僕はこれから保険会社の”責任代行”に行かないといけない。だからこのモンシナは必須だった。最初はコイツの存在を知らなくて正直かなりキツかったけど、今はなんとかやっていけてる。頼り過ぎはさすがにヤバいけど。…前にやりすぎて、相手と自分、どっちが喋ってるのか分からなくなってしまった。まあ…上手くやるさ。 他の仕事だって?どれも似たようなもんだし。

…キツイか、だいぶキツいか。それだけ。

「…さぁ行こう。」

スクロールを開いてスタバつくば店を見た。ここから約250km。それが遠いのかどうか…もうわからない。どれだけ離れていてもスクロールが一瞬で飛ばしてくれるから。

僕は待ち合わせ時間きっかりにスタバつくば店を”ポップ”。

おなじみの氷風が僕の背筋を通り抜けていった。

ーーーーー

《おっさんスカッシュ》

(あ)

の間に気付くとスタバの店内に吐き出された。

「うわ!」

一瞬、自分が8ビットのキャラクターぐらい適当な見た目になった気がした。

…いや、大丈夫だ。たぶん。

(さて、ハマナカ氏は…と、)

奥の2人がけにいる中肉中背、彼が今日の謝罪指定受領人だ。彼のアイスコーヒーはほとんど無くなってる。今日もよっぽど言いたいことを溜め込んで来たのだろう。僕はわざとらしい小走りで彼の目の前の席に着いた。

-通称”おっさんスカッシュ”で知られる責任代行の始まりだ。

「どうも。今日もよろしくお願いします。(さて、モンシナが効いてるうちに終わらせようぜ。僕。)」

ハマナカは待ってましたとばかりに高揚した口調で挨拶を返した。

「ややっ!人見ちゃん(僕の名前)。待ってたよう。いつも面談は落ち着かなくてね。

「いえ、それは僕も同じです。…さっそく始めましょうよ。前の話の続きが気になって仕方ないです。あ、笑 。違いました。ええと、”ホントにすみませんでした。”」

ハマナカは笑いながら応えた。

「面倒だよねぇ。でも一応プロトコル(手続き)はちゃんとしなきゃ。ARGO(アルゴ)の走査に引っかかっちゃうしね。もっと真に迫らないと。補償認められないと君も困るでしょ?まぁ…えー。」

ー始まるぞ(あぁ、やっとだな。)

ハマナカ

「じゃあ−なんで”LIVE”で状況確認せずにいきなり”ジャンプ”なんてして来たの?…だと思う?かすり傷で済んだけど、車みたいに遅くないんだからね!」

「その、それはですね…いや、たぶんなんですけど、その日は誕生日で騒いでてそのまま街に出ようってなって。気分が上がってた、というか。」

ハマナカは険しい顔で言った。

「いや、だけどね?一歩間違えればオジサン同士の融合案件よ!?まったくなんであんな軽弾みなジャンプしたの?…あぁアンタはしてないのか。ややこしいな。なぜしたんだと思う?」

僕は想像力をかき集めた。

「それはですね、いや、おそらくそうだろうという観点から、普段から急ぎのときは”LIVE”なんて見ないんですよ。」

「ええ!?見ないの?」

「いや、僕は見てるんですが、その…」

ハマナカは疲れきった声で言った。

「まぁ…こんなもんじゃないの?これで事故会話認証通ったよね?」

「ですね。」

ーお聞きですかARGO様。毎回このクソ面倒な手続きに大変感謝しております。

ハマナカ

「それじゃあこの前の続きと行こうか。」

「うわ!楽しみです。(本当は聞きたくないよ?)高校野球はよく見るんですよ。(見たことないだろ笑)」

ハマナカ

「そうなの?いいよねー!青春。で、俺が三陸高校から3打席連続安打取った話したっけ?」

「え!?初耳です!(3回目だよな?)。あの当時の三陸からですか?確か今大リーグで大活躍の大仁田がいたときじゃぁ…?(3回も聞いたらさすがに覚えたよな、”オオニタ”。)」

ハマナカ

「嬉 )そうそう。”ヒット”、”2塁打”、”ホームラン”ってね。ヤバいでしょ?」

(はい。…ん?なんか声近くなってないか?てかこれ、僕の声?いやお前の?…ズレてる?)

一瞬だけ僕たちだけじゃない誰かが喋った気がした。さっきのハマナカの声は僕の声だった?

「あぁ~(かぁ~)まじ帰りたい泣(まじレジェンドです!)(…順番…あれ?)」

ハマナカ

「ん?」

僕「え?(……やばい)いや!替わりたい、浜中さんと替わりたい、です!(…厳しいか。)」

ハマナカ

「ちょ、やめてよ〜 (嬉」

「そ…そう思える人と会ったの、僕初めてですよ。(まじか…いけたな。寿命縮むわ。)」

ハマナカ

「でもさぁ、最終回でその大仁田が出てきてドーンとデカいのを打ったのよ。サヨナラ。みんなそっち行っちゃって。そのせいで俺こんな奴になっちゃってる訳 (苦笑」

「えぇ!?じゃあ大仁田が居なかったらハマナカさんは大リーガーだったんですか!?(というか”オオニタに負けた”事も込みで武勇伝になってんだな…。)」

ハマナカ

「そうなのよ〜。実力だけで生きていける時代だったらね〜。」

「世紀末覇者ですか笑(凄い…のか?負けたんだよな?端で聞いててもう何が凄いのかわかんなくなってきたわ。)」

ハマナカ

「だよねぇ笑」

「ですです笑(いい加減早く終われ!)」

スクロールに通知が来た。

”ミーティング終了。必要謝罪代行回数はあと2回です。”

僕はハマナカに伝えた。

「あ、時間みたいです。じゃ続きはまた今度。」

ハマナカは少し面食らった様子で、その後淋しそうな顔で応えた。

「え?あ、そうだったね。分かった。それじゃまた連絡するよ。今日もありがと。」

「はい…えとすみませんでした。」

ハマナカは演出に使用した高校時代の写真をダンヒルのハンドバッグに詰め、店を出ていった。

(ハァ…仕事以外で会いたくねぇ〜。)

僕は彼がジャンプしたのをしっかり確認した後店を出た。 気を抜いた途端急激にモンシナの副作用が襲ってくる。

「うぅ~あと2回。うぅ~支払いまで、あと2回…。」

残りの代行回数マントラをひたすら唱えながら震える指先で”自宅”をポップして、僕は日常を閉じた。

 

(続く)

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