ARGO アルゴ−データの海で   作:電機羊

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第2話 つくばCITY

 

「そう。…でね、”だったらお前が全部決めたらいいじゃん”…て言うのよ!なんかそれって違くない!?」

「…それは彼氏さんがヒドいですよね。」

「そう思うよね?え!なに?」

僕の通知音だ。

「あ…終了です。えと、”準婚姻制下でのAIとのデジタル不貞”ー謝罪代行は以上になります。今送ったリンクにある”解消済”をタップして下さい。で、良かったら高評価と登録押していただけると助かります。あ、後でいいですよ。」

「オッケー!訴訟起こしたときはマジムカついてたけど、なんかスッキリしちゃった。お兄さんにならまた謝って欲しいかも。」

「ありがとうございます!もちろん何もないことを願ってますが、なにかあったら僕が真っ先に謝りますんで!」

ふぅ…終わった。お互い浮気していたくせにすごく一方的だったな。

僕と受領人はお互いに公園のベンチからそれぞれの方向に立ち去った。

さて、これで臨時収入が入る。たまには街で買い物でもするか。…そういえば最近はまったく歩いてない。

しばらく進んで僕は公園の前のファストフード店を横目にファッション街のストリートに入っていく。ちょっと小腹がすいたのでバーガーを食べる事にした。 やっぱりCITYは高校生ギャル達が多い。まぁ休日だしなぁ。

「今月ギャラ(GB)足りない〜。まだ半月なのに〜。」

「とりあえずアンタ飛びすぎ。ケチャップぐらい”自力”で取って来なよ笑」

「面倒くさー笑。いっそケチャップから来てくれんかね?」

「なにそれウケる笑」

ギャラ?あぁGB(ギャラクシーブラックホール)の略…”ジャンプ”の話か。若いっていいなぁ。僕ぐらいの歳になるとさすがにプライベートの”ジャンプ”にはためらう。「あなたのたった1度のジャンプが全宇宙のブラックホールを1024個も消滅させています。」って宇宙環境活動家に言われ続けたら…そりゃあね。ま、そういう僕も定額プランの”飛びMAX”なんだけど。

「ねぇ知ってる?ブラックホールってあと55年なんだって」

一応知っているんだな。

「何が?」

「知らんけど、宇宙なくなる、みたいな?ロボ?ウスノロロボの蛇カス?だっけ。お天気おにいさんが毎日言ってんじゃん。」

…”ウロロボスの蛇”−仮説な。

「あー私あの芸人キライ。顔がムカつくんだよね〜。」

「芸人じゃないし笑」

「でも私も観たよ。それ。」

「観たんじゃん笑 それさぁ最後の方、”ブラックホールは毎日産まれるからそんな心配ない”って…。」

「えー!?ブラックホールの赤ちゃん!かわちい笑」

「かわちい笑 」

「でほら…加工した笑」

「足生えてる笑」

「足細〜笑。 てかこの間のエステさぁ…。」

…なんの話だったんだよ。

世界中の人の1日約70回の”ジャンプ”があと55年でブラックホールを使い果して宇宙を消滅させる、ってきわめて問題意識の高い話…あれ?僕は何をやってるんだ?バーガー食ったんならさっさと出よう。

…まぁでもこうやって他人を身近に感じるのはいいな。利害もないし。

…そうだ、ちょっと”PARTSつくば”に行ってみるか! マテリアルステート検査(material state process)も近いし。新製品をチェックして来よう。 もちろん今日は”ジャンプ”はしない。宇宙環境のために歩く。

それにしてもいい天気だ。磁気も安定してるし。…だけどしばらく来てなかったけど…ここ(ストリート)も変わったなぁ。まだ”ジャンプ”がない頃の景色…ん?

「うわ!危ない!!」

驚いた…恥ず。シルフィード(情報人格)だった。彼は口をパクパクさせながら僕の身体をすり抜けて歩き去った。街はこれがあるから嫌だ。ミラージュメタバースに送られた彼らを映す映写機がいっぱい。

「…まったく、なんで今更リアルに出て来るんだよ。」

人は” データ”になってもまだこちら側…現実に未練があるのだろうか?こっちに来たって”ホログラム”って言われて迫害されるだけなのに。

「…なんだ色々考えて疲れたな。」

あともう少し目的の場所、というところで結局僕スクロールをポップした。

(目的地:PARTSつくば)

おなじみの氷風が僕を一瞬で連れ去ってくれた。

ーーーーーーー

《PARTSつくば》

(あ)

「…到着。あれ?入口変わった…よな。」

ポータルスポットから再生されてまず目に入ったのが、入口が昔の映画でしか見たことのない豪華な自動回転式ドアに変わっていた。

「…儲かってんなぁ。」

クルッと回って中に入るといつもの賑わいと華やかなショーウインドウがあり、僕の心は躍った。…次のマテリアルステート検査が10日後という事もあるのだろうが、すごい人混み。そりゃそうか、誰も検査落ちしてシルフィードになんてされたくないし、なんの防御もなく宇宙送り込まれたい自殺志願者も居るはずがない。

その時、すぐ背後になにか感じた。

「こんにちは!!なにかお手伝いできることはございますか?」

…後ろに人類全部を足して2で割ったような顔のAIが笑顔で立っていた。

僕は少し距離をとってから言った。

「う、うーん。まだ良いかな?後でまた声を掛けるよ…あ、そうだ。ね、なんで入り口あんな豪華になったの?」

AIは健やかに応えた。

「あれは”シルフ避け”でございます!回転ドアの半分は映写機が届かないのでシルフィードは途中で消えてしまうのです。」

たしかに店内に姿がブレる人は居なさそうだし、映写機も見当たらない。でも…

「…消える?」

「ご安心くださいませ!本当にいなくなる訳ではございません。彼らが映写機から外れた場合、”ミラバース”−ミラージュメタバース−”のゲートに戻され、現実に来た日まで記憶ごとリセットされるのです!そもそもホログラムに身体パーツなどは…」

「わかった。もういい。ご丁寧にどうも」

「ありがとうございます!!」

スタッフAIは最初から最後まで笑みを絶やさなかった。

(人類は…ARGOに世界を任せて良かった…んだよな?)

僕はらしくない思いにかぶりをふり、ふたたび身体PARTSを眺め歩いた。

(あ!)

「あった!」

…いいな。僕が狙ってる、”Onehand/Red(ワンハンド/レッド)”。左腕の最上級モデル。赤い塗装がレトロヒーローっぽいけど遅延が少なくて、これなら宇宙進出後の無重力下での作業もストレスなくできそうだ。宇宙線も最大97%カット。

僕はスクロールを広げ、(全資産)を黙唱した。 これが買えたら今回のステート合格値35%もクリア出来るし、宇宙開拓者認定も現実味を帯びてくる。が…

「…まだちょっと足りない。」

いささかがっかりだった。仕事をもっと増やさないといけない。結構頑張っているつもりだったが…。

このままだと、今度のクリア条件さえ…。

僕は入口の自動回転式ドアの途中でバンバン消されていく人たちを眺めた。

…そしてショーウインドウのガラスに映った自分を眺めた。…まだ半分以上は自分の身体だ。

「大丈夫、…やれるさ。」

僕は両親の保険金で買ったカーボンナノチューブの右腕を、いまだに生身の左手でさすって自分を慰めた。

ーーーーーーーーー

《帰 路》

気を取り直して顔を上げて周りを見渡すと、やはりこの新製品ブースが一番人気のようだ。もうどう見ても7割のマテリアルステート達成してる人もいる。…金あるんだなぁ。もういいだろ?これ以上どこをアップグレードしたいんだ?

僕はギーク(オタク)なので人のパーツがどうしても気になってしまう。あ、あの人はアルミボディだ、その隣の人は背面プラスチックボディだ、あのまま宇宙に行くのはちょっとお勧めしないな…とまぁ人の事が…いや、それはいい。とにかく僕には資金が要る。

夕食を食べて帰りたかったが、倹約しないといけないことがわかった事だし、僕は食料と必需品だけを買って帰ることにした。野菜なんかはやっぱり街のが新鮮で安いし。

はぁ、しかし疲れたな。今日1日で”脚(あし)”はだいぶ鍛えられたんじゃないか?タンパク質ベースの身体というのはやはり磨いて使うもんなんだ。

もう少しでストリートから繁華街に抜けて…と、急に物々しさが増した。

貼り紙(VRフライヤー)の数もハンパじゃない。

”犬とホログラムお断り”…中華料理店。映像が飯食うかよ。

”#SLM”…あぁ、シルフィードライヴズマターね。ホログラム(情報人格)も人間だ…と。

”メタマート --メタバース内でGETしたコードをお持ちの方は20%ディスカウント!”

…ここで言われてもなぁ。

今から入る雑貨屋は”SF”を掲げていた。ドアは開けっぱなしだ。

「…不用心すぎる。」

僕は入店後にドアを閉めようとした。

「あ!そのままで。」

そう言いながら店員が出て来てドアを戻した。

「え?すみません。でもなんで…?」

店員はさっきの”SF”を指しながら言った。

「ーああ、知らないんですね。それは”シルフィード(S)フレンドリー(F)”って書いてあるんです。ドアが閉まってたら彼らはお店に入れないでしょ?だから開けてあるんです。」

そうか。映像はドアノブを掴めない。

そういえば店内にはたまにノイズが走る人が多い。話し声は…聞こえる!そうか。スピーカーがオンラインなんだな。

「これと…いや、こっちの色のほうが廊下には合うな。あと先週頼んどいたやつ。」

シルフィードの客がそう言って指差す商品を店員がかごに入れていく。

「これもいいデザインだね。一つ貰おう。よし、こんなもんだろう。じゃぁまた、これ届けといてくれる?」

かしこまりました、と店員はその客の手首のQRコードを読み取り、支払いを終えた客は満足して帰っていった。

「いったい何を…?」

僕は近くにいた店長っぽい人に聞いた。

「あぁ…あんたは人間か。あれは連中の”儀式”ってやつさ。…儲かるから付き合ってやってるがね。あぁやって毎週自分が現実の身体を持っていた時と同じように振る舞って正気を保つのさ。郊外に”ジャンプ”してみろよ。連中がとっくに引き払った空き家のリビングに山のように商品が積み上がってるぜ。」

店長は笑いながら語った。

「…あぁ、そうか、どうも。勉強になったよ。」

少し店内に視線を移す。

あの中の数人はそういう事を何度も何度も繰り返しているのだろう。…そしてきっと来週も。

なんだか買物する気が失せた。僕の仕事も同じなのだろうか?空想の家の模様替えと想像の謝罪の何が違う?

僕は店を出た。 家に帰ってなにかをする気分にはとてもなれなさそうだし、やっぱり夕食を食べて帰ることにした。ラーメンなんかでいい。でも飲食店街がポータルスポットからかなり離れていてまた歩かなきゃいけなかった。

「…1年分は歩いたよな。」

文句の一つも言いたくなる。 そのとき長蛇の列に出会した。目を凝らしてみると皆シルフィードだった。日が落ちてくると彼らの姿は濃く見えるのでリアルの人との見分けがつかない。

「なんだここ…”メタマート”?…さっきの貼り紙の店か。」メタバース用アイテムショップなのか。

入る気はなかったけど気になって調べると、ここは”メタマート”なんて名前なのにメタバース内には1店舗もないらしい。…わざわざシルフィードを現実に呼んでデータを販売。…あぁ、彼らにこっちに出てくる口実を与えてるんだな。…現実への執着(ノスタルジア)を利用したビジネス…。

なんか胸がムカつく。ーもう帰ろう。

結構CITYの奥まで来たので入り口のポータルスポットまではかなり遠い。なるほどわざわざ店舗を構えてやっていけるのはジャンプスポットを少なくして歩かせるためだったのか。引き返すことなんて考えもしなかったな。困った。 ”ジャンプ”がなかった時代ってこんな不便だったか?

「あーあ。なにがASI(超知能)社会だよ…」

愚痴りたくもなる…いや待てよ…そうだ!

バス、バス停だ! CITY内はポータルスポットの代わりにシャトルバスがあるはずだ!

スクロールでバスの位置を確認すると、僕を見つけて既にこちらに向かっている。

(こういう事はさすがです!ARGO様!!)

2分程度でバスが到着し、僕は座席に着いた。

「ふぅ、助かった…。」

その時どこからか声がしてきた。

「すみませーん!それ乗ります!待ってくださーい!」

バスがドアを閉める瞬間、滑り込むようにその声の主は乗り込んできた。

それは僕が今まで生きてきて見たことがないような、妖精のように美しい女の子だった。

 

(続く)

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