個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~   作:復活のB

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第9話です


第9話『イレイザーヘッドVS綾瀬黒斗&トガヒミコ(前編)』

「イレイザーヘッドォォォッ!!」

 

USJ中央広場で燃え盛る爆炎を目にし、悲鳴にも似た叫びを上げる緑谷

 

その声は、爆発音の余韻が残るUSJ内に虚しく響き渡る

 

「先生……!」

 

緑谷だけではなく、他の生徒達、さらには13号も思わず立ち止まり、その場で立ち尽くしてしまう

 

一方ーーーUSJ中央広場

 

爆炎はなおも激しく燃え上がり、黒煙が辺り一帯を覆っていた

 

熱気が空気を歪ませる

 

ヴィラン達も思わず足を止め、その煙の向こうを見つめていた

 

「……殺ったのか?」

 

誰かが小さく呟く

 

しかし

 

「……いえ」

 

その言葉を否定したのは、黒斗だった

 

彼は煙の奥を静かに見据えたまま、小さく目を細める

 

「まだです」

 

「?」

 

死柄木が黒斗を見る

 

「何で分かる」

 

黒斗は視線を逸らさないまま答えた

 

「ビースト達が‘‘まだ終わっていない,,と知らせています」

 

ビースト振動波

 

常に互いの情報を共有するスペースビースト達は、黒煙の向こうで起きている異変すら黒斗へ伝えていた

 

「それに……」

 

黒斗は淡々と続ける

 

「彼ほどの実力者が、あの程度で倒れるとは思っていません。今まで交戦してきたプロヒーロー達もそうでした…プロヒーローというのは、()()()()()()()()()の方が厄介です」

 

その直後だった

 

ザッ……

 

煙の奥から足音が聞こえた

 

「!」

 

ヴィラン達の視線が一斉に集まる

 

黒煙がゆっくりと晴れていく

 

やがて、その奥から一つの人影が浮かび上がる

 

足を止めることなく、煙を切り裂くように歩いてくるその男を見た瞬間ーー

 

「……っ!」

 

ヴィラン達が息を呑む

 

現れたのはーーー

 

相澤消太

 

生きていた

 

だが、その姿は先程までとは明らかに違っていた

 

普段着用しているゴーグルは右側が砕け散って無残に割れ、辛うじて左側が残っている状態

 

首に巻いている捕縛布も先端が黒く焼け焦げ、その一部は燃え尽きて短くなっていた

 

さらに、右肩から腕にかけてコスチュームは焼け、赤く爛れた火傷が痛々しく残っている

 

爆発の瞬間、咄嗟に身を捻って直撃だけは避けた

 

だがーーー

 

催涙ガスによって視界を奪われた状態での不意打ち

 

完全には回避しきれなかったのだ

 

「……チッ」

 

相澤は焼け焦げた捕縛布を握り直し、小さく舌打ちする

 

充血した右目からは絶えず涙が滲み、視界もまだ完全には戻っていない

 

それでも

 

その鋭い眼光だけは、決して死んではいなかった

 

「なるほど……」

 

黒斗は静かに呟く

 

「やはり、甘く見てはいけませんね」

 

その穏やかな声とは裏腹に、その瞳にはわずかな感心の色が宿っていた

 

(火球自体のダメージは少なくとも、爆炎によるダメージは負った筈…ですが、こちらも目潰しからの不意打ちという条件が揃ってようやくこの程度)

 

(あの状況で生存し、なお戦闘を継続する……策もなしに正面から戦えば、さらに厄介でしょうね)

 

黒斗は改めて、目の前の男を“脅威,,として再認識する

 

そして相澤もまた、焼け焦げたゴーグル越しに黒斗を真っ直ぐ見据えていた

 

(……あいつだ)

 

(スペースビースト)

 

(あの怪物共を操っているのは、間違いなくあの黒髪のガキだ)

 

互いの視線が交差する

 

戦場の空気が、再び張り詰めた

 

 

一方、A組の生徒達は…

 

「……生きてる!」

 

爆炎の中から姿を現した相澤を見て、緑谷が安堵の声を漏らす

 

「良かった……!」

 

麗日も胸を撫で下ろす

 

しかしーーー

 

その安堵は、ほんの一瞬で消え去った

 

煙が晴れるにつれ、相澤の()もはっきりと見えてきたからだ

 

砕け散ったゴーグル

 

黒く焼け焦げた捕縛布

 

右肩から腕にかけて痛々しく残る火傷

 

右目からは涙が滲み、明らかに視界も万全ではない

 

それでもなお、一人でヴィラン達、そして怪物達の前に立ち続けている

 

「先生……」

 

緑谷は言葉を失い、峰田の顔も青ざめていた

 

「う、嘘だろ……あんな傷……」

 

「相澤先生……」

 

切島も思わず拳を握る

 

「このままじゃ先生が……!」

 

眼鏡をかけた七三分けの少年、A組のクラス委員長である飯田 天哉が一歩踏み出す

 

自分達の担任を助けようと、飯田を含めた生徒達の何人かが思わず飛び出そうとする

 

「待ってください!」

 

その瞬間、13号の声が鋭く響いた

 

その声に足を止めるA組

 

13号は首を横に振る

 

「今の皆さんでは戦力になりません!」

 

「ですが……!」

 

緑谷が食い下がる

 

13号は静かに、しかし強い口調で続けた

 

「相澤さんは皆さんを逃がす為に戦っています」

 

「その皆さんが戻れば、相澤さんの覚悟も戦いも無駄になってしまう」

 

その言葉に、生徒達は息を呑む

 

「悔しいでしょう。助けたいでしょう。ですが今、皆さんにできることは一つです」

 

13号は出口へ向き直る

 

「必ず生きて避難すること。それが、相澤さんに報いる唯一の行動です」

 

沈黙が流れる

 

やがて、彼女の言葉で冷静さを取り戻した飯田が拳を握り締め、小さく頷いた

 

「……皆、行こう」

 

緑谷も唇を噛み締めながら頷く

 

「……はい」

 

生徒達は再び走り始めた

 

出口はもうすぐだ

 

あと少し

 

あと少しでーーー

 

その時だった

 

出口前の床から、黒い霧が静かに湧き上がる

 

「!」

 

13号が足を止める

 

霧は瞬く間に広がり、一つの巨大なゲートを形成していく

 

その中心から、ゆっくりと一人の男が姿を現した

 

全身を黒い霧で覆った男

 

黒霧

 

「させませんよ」

 

穏やかな声とは裏腹に、その言葉には逃がす気など微塵も感じられなかった

 

「っ!」

 

13号が咄嗟に生徒達を守ろうと前へ出る

 

一方、中央広場

 

ヴィラン達と対峙する相澤は、その光景をようやく視界の戻った目の端で捉えた

 

(しまった……!)

 

一瞬だけ表情が険しくなる

 

(一瞬、まばたきの隙に…一番厄介そうな奴を……!)

 

思わず舌打ちしたい衝動を押し殺す

 

しかし、もう遅い

 

黒霧は既に、生徒達の退路を塞いでいた

 

 

一方、その場にいた一年A組は、突如として出口の前に現れた黒霧(ヴィラン)の姿を見て、その場に立ち尽くしていた

 

「はじめまして……我々はヴィラン連合。僭越ながら、この度ヒーローの巣窟・雄英高校に入らせていただいたのは……」

 

静かな口調

 

まるで来客に挨拶でもするかのような物腰だった

 

しかし、その言葉とは裏腹に、そこから放たれる気配は不気味そのものだった

 

「ーーー平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

(ーーーはっ?)

 

突如として現れたヴィランに、他の生徒達同様に驚愕していた緑谷だったが、目の前のヴィラン(黒霧)の口から放たれた

 

「オールマイトに息絶えて頂きたい」

 

という言葉に、思わず内心でそう困惑する

 

そんな彼らをよそに、黒霧は淡々と続けた

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈ですが、何か変更があったのでしょうか……?まぁ……それとは関係なく……」

 

その言葉を聞きながら、13号は静かにーーー

 

カチッ

 

ーーー人差し指先端の蓋を開き、いつでも自分の個性(ブラックホール)を発動できるようにする

 

「私の役目はこれーーー」

 

そう黒霧が言いかけ、13号が蓋を開いた人差し指を向けた、その瞬間だった

 

「オラァッ!!」

 

「ドラアッ!!」

 

薄い金髪に赤目の三白眼が特徴的な少年・爆豪勝己と切島鋭児郎が同時に地面を蹴る

 

そして、爆豪の個性『爆破』と、切島の個性『硬化』が発動した拳

 

二人の攻撃が同時に黒霧へと叩き込まれ、爆煙が辺りを包み込む

 

「その前に俺達にやられることは考えなかったか!?」

 

切島が叫ぶ

 

しかしーーー

 

煙が晴れた先、そこに立っていたのは

 

「危ない危ない……」

 

無傷の黒霧だった

 

「っ!」

 

「そう……生徒と言えども、優秀な金の卵」

 

まるで煙そのものが人の形を取っているかのような身体

 

拳も爆発も、まるで意味を成していなかった

 

「ダメだ……!どきなさい二人とも!!」

 

物理攻撃は通じない

 

そう判断した13号は即座に二人へ叫び、自身の個性を発動しようと人差し指を黒霧へ向ける

 

ーーーだが

 

「言い忘れていましたが……」

 

黒霧が静かに告げる

 

「ここにいるのは、私()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

13号が眉をひそめた、その瞬間だった

 

ガブッ!!

 

「……ッ!?」

 

脇腹に、激痛が走る

 

何かが深々と突き刺さったような

 

焼けるような

 

抉られるような

 

今まで経験したことのない激痛

 

「ぐっ……あぁっ!!(な…なにが…!?)」

 

思わず身体が揺れる

 

恐る恐る視線を落とす

 

そこにあったのはーーー

 

一本の、太い管

 

その先端には、鋭い牙が幾重にも並んだ()

 

何処からか伸びてきた、禍々しい‘‘口吻,,が、13号の脇腹へ深々と噛み付いていた

 

「なっ……!?」

 

「13号先生!!」

 

生徒達が悲鳴を上げる。

 

直後ーーー何も無かった空間が歪むように揺らぎ、一体の巨大な異形…13号の脇腹に噛み付いた口吻の持ち主が、その姿を現した

 

全身を覆う、鉱石状の体表

 

四足歩行の体型

 

背中から生やした、幾つもの水晶のような器官

 

そして13号へ食らいついたままの長大な口吻ーーーゴルゴレムプロボセス

 

先程まで…否、ヴィラン連合が黒霧のワープで、ここ(USJ)に来た時から、()()()()()()()()()姿を消していたビーストーーー

 

ーーーインビジブルタイプビースト ゴルゴレムだった

 

「い……いつの間に……!」

 

「透明だったのかよ!?」

 

誰も、その存在に気付けなかった

 

現れたのではない

 

最初から、そこにいたのだ

 

「先生から離れろ!!」

 

筋骨隆々とした体格の生徒・砂藤 力道は、13号を助けようと思わず飛び出し、直後に迷わずゴルゴレムへ拳を叩き込むーーーしかし

 

ゴォン!!

 

「ーーーッ!か、硬ぇ……!」

 

拳を叩き付けた瞬間、まるで巨大な岩盤でも殴ったかのような衝撃が腕全体へ走る

 

ゴルゴレムの身体の表皮には傷一つ付いておらず、彼の攻撃をものともしていなかった

 

「うそだろ……!」

 

「全然効いてねぇ……!」

 

生徒達に動揺が走る

 

その時だった

 

ゴルゴレムの全身に点在する無数の発光体が、不気味な光を放ち始める

 

ピキィィィ……

 

「え……?」

 

嫌な予感が脳裏をよぎる

 

次の瞬間

 

ドゴォォォンッ!!

 

発光体という発光体から、雷に似た破壊光線が一斉に放たれた

 

「しまっーーー」

 

至近距離だった

 

回避は間に合わない

 

轟音と共に砂藤の身体が吹き飛ばされる

 

「ぐああぁぁっ!!」

 

その衝撃で近くにいた麗日や瀬呂までも巻き込まれ、大きく体勢を崩す。

 

「砂藤くん!」

 

「危ねぇ!」

 

吹き飛ばされた砂藤へ、一人の生徒が飛び出す

 

口元をフェイスカバータイプのマスクで覆っている生徒ーーー障子 目蔵

 

個性『複製腕』で増やした六本の腕を一斉に広げ、砂籐の体を受け止める

 

ズザザザザッ!!

 

床を大きく滑りながらも、障子は何とか砂藤を抱え込んだ。

 

「ぐっ……!」

 

「障子……!」

 

衝撃で障子の足元には深い擦り跡が刻まれる

 

それほどまでに、ゴルゴレムの一撃は重かった

 

誰もが理解する

 

この怪物は、ただ巨大なだけではない

 

正真正銘、一撃で人を殺せる化け物だ、と

 

その様子を見ていた黒霧は

 

(さすがは綾瀬黒斗)

 

黒霧が心の中でそう呟く

 

(視線を私へ集中させ、その間にビーストを配置する……実に合理的な戦術です)

 

13号はブラックホールを発動しようとするも、激痛で身体が思うように動かない

 

その僅かな隙を、黒霧は逃さなかった

 

「そして、私の役目は、あなた達を散らしてーーー嬲り殺す!!」

 

ボワァッ!!

 

黒い霧が一気に膨れ上がる

 

そして、彼らが回避する間もなくーーー

 

一年A組全員を、黒い霧が一瞬で飲み込んだ

 

 

「なっ……!」

 

その光景は、ヴィラン達と交戦を続けていた相澤の視界にも飛び込んできた

 

13号は重傷

 

自分の教え子(一年A組の生徒)達は、一瞬で黒い霧に飲み込まれ、その姿を消した

 

(しまった……!)

 

ほんの一瞬

 

ほんの一瞬だけ、思考がそちらへ向く

 

その僅かな隙を、ヴィランは見逃さなかった

 

「隙ありだァッ!!」

 

背後から一人のヴィランが自身の個性で両手を鎌に変化させ、その鎌を振り上げて相澤へ襲い掛かる

 

ーーーしかし

 

「甘い」

 

振り向きもせず、相澤は捕縛布を放つ

 

シュッ!!

 

布は正確にヴィランの腕へ巻き付き、そのまま勢いよく引き寄せた

 

「ぐっ!?」

 

体勢を崩したヴィランの腹部へ、鋭い膝蹴りが突き刺さる

 

ドゴッ!!

 

「がはっ……!」

 

さらに首筋へ手刀を叩き込み、そのまま地面へ倒れ込ませる

 

ヴィランは白目を剥き、そのまま動かなくなった

 

「…………」

 

相澤は一度だけ、13号がいた方向へ視線を向ける

 

煙の向こう

 

もう、生徒達の姿はない

 

(……今さら悔やんでも仕方がない)

 

(俺がやるべきことは一つ)

 

ゴーグルの奥で、その眼光がさらに鋭くなる

 

(まずは、こいつらを制圧する)

 

「来い」

 

短く呟くと、相澤は再びヴィランの群れへ飛び込んでいった

 

 

一方、その様子を離れた位置から見ていた黒斗は、静かに黒霧へ視線を向ける

 

黒い霧は既に収束し、生徒達の姿は完全に消えていた

 

(……全員、転送完了)

 

脳内へ、次々と情報が流れ込んでくる

 

各地へ配置していたスペースビースト達

 

そして、ビースト振動波を通じて共有される視界

 

(USJ各ゾーンへの転送を確認)

 

(水難ゾーン……三名)

 

(火災ゾーン……四名)

 

(山岳ゾーン……)

 

(倒壊ゾーン……)

 

一瞬で生徒達のおおよその配置を把握する

 

(なら)

 

黒斗は表情一つ変えない

 

ただ、頭の中だけで静かに命令を下した

 

(各個体へ通達)

 

(配置を変更)

 

(各担当区域へ移動開始)

 

命令と同時に、ビースト振動波を介して指令が一斉に伝達される

 

USJ各所

 

ヴィラン達と相澤が戦闘をしている中、各ゾーンに移動・待機していたスペースビースト達が、一斉に動き始めた

 

水中を泳ぐ者

 

地中を掘り進む者

 

壁や天井を這う者

 

瓦礫の陰から姿を現す者

 

それぞれが、本能ではなく‘‘命令,,に従い、狩人のように静かに持ち場へ散っていく

 

その様子を見た黒斗は、小さく息を吐いた

 

(これでいい。あとは各個体が状況に応じて判断する)

 

ビースト達は単なる召喚獣ではない

 

個々が一つの‘‘生物,,としての自律判断能力を持ち、命令の範囲内で最も効率的な行動を選択する

 

だからこそ、黒斗は細かな指示を出さない

 

その方が、結果として最も合理的だからだ

 

そして彼もまた、静かに前へ歩き出した

 

これより始まるのは、一対多数の戦いではない

 

USJ全域を舞台とした、大規模な殲滅戦だった

 

 

相澤はヴィラン達を次々と倒しながら、思考を巡らせる

 

(……十三号は戦闘不能…生徒達はどこかへ飛ばされた)

 

(その上、俺自身も負傷している…)

 

相澤は冷静に状況を整理する

 

ゴーグルの右側は砕け散り、辛うじて左側だけが顔に残っている

 

首へ巻かれた捕縛布も先端は黒く焼け焦げ、その一部は燃え尽きて短くなっていた

 

さらに右肩から腕にかけてコスチュームは焼け、赤く爛れた火傷が痛々しく残っている

 

自身も決して軽傷ではない。だがーーー

 

ーーーそれでも尚、その瞳だけはまだ死んでいなかった

 

そして、その視線は自然と一人の少年へ向いた

 

黒いパーカー

 

黒髪

 

感情をほとんど表に出さない穏やかな表情

 

綾瀬黒斗

 

(あいつだ)

 

(怪物共はあいつを中心に動いている)

 

ビースト達は確かに自律行動している

 

だが、それでも奴らは黒斗を中心に展開し、戦況に応じて配置を変えている

 

完全な野生ではない

 

必ず統率者がいる

 

(まずは…指揮官を潰す!)

 

相澤は左目だけで黒斗を見据える

 

「……!」

 

次の瞬間

 

黒斗の頭の中を絶えず流れていた膨大な情報が、一斉に途切れた

 

(……来ましたか)

 

ビースト振動波

 

各個体から送られてくる位置情報

 

視覚

 

聴覚

 

索敵情報

 

その全てが沈黙する

 

相澤の個性(抹消)によって

 

(ビーストとの情報共有が遮断されましたね…やはり抹消ですか)

 

(ですが、問題はありません)

 

黒斗は僅かに目を細めるだけだった

 

確かに相澤の抹消によってビースト振動波による情報共有は遮断された

 

だが、()()()()だった

 

一度召喚したスペースビーストは、黒斗自身が自分の身体に戻すか、他者に倒されるかしない限りは消えることはない

 

それに加え、ビースト達は黒斗()の命令で動く存在ではあるが、その本質は一体一体が意思を持つ生物だ

 

たとえ個性を封じられても、一度与えられた命令は黒斗との繋がりが断たれようと、自律判断で行動を継続し、自らの判断で与えられた命令を遂行し続ける

 

それに加え、黒斗自身も抹消で個性を消され、ビースト達との情報共有が遮断される点も既に想定済みだった

 

(これでもう、怪物は増えない筈…なら、次はーーー)

 

相澤が地面を蹴り、ヴィラン達の間を流れるように走り抜ける

 

狙いは黒斗ただ一人

 

(ーーーあいつを拘束する!)

 

一気に距離を詰める

 

捕縛布が蛇のように唸りを上げ、黒斗へ向かって伸びる

 

(捕えた!)

 

炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ、特注構造

 

高い柔軟性と強度を兼ね備えたその捕縛布は、これまで幾人ものヴィランを拘束してきた、相澤最大の武器だった

 

だがーーー

 

「黒斗くんに」

 

静かな声が響く

 

「手を出さないでください」

 

シュッ!!

 

銀色の軌跡が閃く

 

相澤は反射的に身を捻った

 

その刹那

 

黒斗へ向けて伸ばした捕縛布の一部が、まるで紙のように切り裂かれる

 

「……!」

 

相澤の瞳が僅かに見開かれた

 

(切断された…!?)

 

切断され、事変に落ちた捕縛布の破片を見て、相澤は心の中でそう驚愕していた

 

彼が驚くのも無理はない

 

本来、捕縛布は並大抵の刃物では切り裂くことは不可能な筈だからだ

 

その捕縛布を切り裂いた少女(ヴィラン)ーーートガヒミコ

 

その手には、細身の戦闘用ナイフが握られている

 

一見すると、普通のナイフ。しかし、その正体はただのナイフではない

 

先日、彼女専用の武器として、黒斗が裏のブローカーへ特注で発注した一本だった

 

高硬度特殊鋼を幾重にも積層し、刃先を極限まで研ぎ澄ませた刃は、ヒーローのコスチュームすら切り裂く事ができる程の切れ味を誇る

 

それは、捕縛布も例外ではなかった

 

「へぇ……」

 

トガは嬉しそうに笑う

 

「ちゃんと切れました」

 

その笑顔とは裏腹に、ナイフの切っ先は一切ぶれていない

 

相澤はすぐに距離を取り、黒斗とトガを交互に見る

 

(連携が早い…!俺があいつを狙うことを読んでいたのか…)

 

「読んでいた、というより」

 

黒斗が静かに口を開く

 

「あなたならそう判断すると思っていました」

 

その声は相変わらず穏やかだった

 

「ビーストを操る本体を先に叩く…合理的な判断です」

 

「ですが、だからこちらも、それを前提に動いています」

 

その言葉に応えるように、トガが黒斗の半歩前へ出る

 

「黒斗くんには」

 

ナイフをくるりと回しながら、楽しそうに、しかしその瞳には相澤に対する明確な‘‘敵意,,を込めて笑う

 

そして、相澤に刃を向け

 

「指一本触らせませんよ」

 

そう言い放った瞬間、静かな殺気が、その場を包み込んだ

 

その直後、黒斗は静かに一歩前へ出る

 

「ここから先は、僕達二人が相手です」

 

穏やかな声

 

だが、その言葉には一切の迷いがなかった

 

相澤は、自身の目の前に立つ二人のヴィラン(黒斗とトガヒミコ)を見据える

 

捕縛布を握り直し、静かに構えた

 

右肩の火傷が鈍く痛む

 

砕けたゴーグルの隙間から汗が伝う

 

それでも、その視線が揺らぐことはない

 

対するトガは嬉しそうにナイフを指先で回しながら、小さく笑った

 

「ふふっ……やっと黒斗くんと一緒に戦えますね。」

 

その笑みは、幼馴染と並び立てることを純粋に喜ぶ少女そのものだった

 

しかし、その手に握られているのは、人を傷つけるための刃

 

黒斗は一歩だけ前へ出る

 

「ここから先は、僕達二人が相手です」

 

穏やかな口調

 

だが、その言葉には一切の迷いも躊躇もない

 

「……」

 

相澤は静かに呼吸を整える

 

目の前にいるのは、怪物を従える少年

 

そして、その少年を誰よりも守ろうとする少女

 

二人は互いの動きを理解し、互いを補い合う

 

一人ずつを相手にするだけでも厄介なヴィラン

 

それが二人同時に立ちはだかる

 

(……連携を崩さなければ勝機はない)

 

USJ中央広場

 

一人のヒーロー(イレイザーヘッド)と、二人のヴィラン(黒斗とトガヒミコ)の間に、少しの間だけ、不気味な程静かな時間が流れる

 

やがてーーー

 

ダッ!!

 

プロヒーローと二人のヴィランが、同時に地面を蹴り

 

‘‘二対一,,の戦いが、幕を開けた

 

To be continued……




いかがでしたでしょうか?今のヒーローの状況を纏めると

・イレイザーヘッド→負傷の上、黒トガとの戦闘に突入
・13号→重傷を負い、そのまま単独でゴルゴレムとの戦闘に突入
・A組生徒→突如現れたゴルゴレムの存在と13号の負傷に動揺した隙を突かれ、原作では黒霧のワープから逃れていたメンバーも巻き込まれる

といった感じです………我ながら、既に結構ハードになってるな…
次回(後編)から相澤先生と黒トガの戦闘が始まる予定です。場合によっては今回(前編)次回(後編)の間に中編が入るかもです
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