個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~   作:復活のB

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第10話です。前回の後編となっておりますので、先にそちらからご覧いただくとより楽しめると思います


第10話『イレイザーヘッドVS綾瀬黒斗&トガヒミコ(中編)』

ダッ!!

 

一人のヒーロー(イレイザーヘッド)二人のヴィラン(綾瀬黒斗とトガヒミコ)が同時に地面を蹴った瞬間、最初に動いたのは、相澤だった

 

(速い……!)

 

黒斗は僅かに目を細める

 

負傷しているとは思えないほどの踏み込み

 

いや、正確にはーーー()()()()()()からこそ余計な動きを全て削ぎ落としている

 

最短距離、最小限の動き…相手が反応するよりも早く懐へ入り込む、実戦特化の動き

 

相澤の捕縛布が黒斗へ伸びる

 

しかし

 

「……!」

 

黒斗は紙一重でそれを躱す

 

同時に、踏み込んだ勢いを利用して身体を回転させ、相澤の死角へ潜り込んで次々と拳や蹴り、肘、掌底を繰り出す

 

その一連の動きには、一切の無駄がない

 

中国拳法、クラヴマガ、ジークンドー…そういった様々な格闘術の動きを繋ぎ合わせ、それぞれの技術の長所だけを抽出したような独特の戦闘

 

しかも、それらは単なる組み合わせではない。まるで最初から一つの流派であるかのように、流れるように繋がっている

 

「……!」

 

相澤は咄嗟に腕で受け流す

 

(こいつ……!)

 

一撃一撃が重い。それも充分に厄介なのだが、それ以上に厄介なのはーーー

 

(動きが読めない……!)

 

ーーー黒斗の次の動きが読めない、ということだった

 

本来ならば、格闘術には構えや間合い、攻撃の起点等に一定の癖が出る

 

しかし目の前の少年には、それが全くと言っていい程に存在しない

 

まるで、戦闘そのものを分析しながら戦っているかのように、相手の動きに合わせ、その瞬間に最も適した技術へ切り替えている

 

(まさか、独学……なのか?)

 

信じ難い

 

これほど多種多様な技術をここまで自然に使いこなす人間など、そう何人もいるはずがない

 

だが。相澤が驚いている暇はなかった

 

「黒斗くん!」

 

背後からトガの声が響く

 

次の瞬間

 

銀色の刃が閃いた

 

相澤は反射的に身体を捻る

 

シュッ!!

 

ナイフが頬を掠め、僅かに切れた彼の頬から血が流れる

 

(速い……!)

 

トガヒミコ

 

彼女の動きもまた、ただの素人ではない

 

小柄な身体を最大限に活かした低い姿勢

 

非常に優れた、気配を消す能力

 

相手の死角へ入り込む身のこなし

 

そして、黒斗との連携

 

黒斗が相澤の意識を引き付けた瞬間にトガが攻める

 

トガが相澤へ接近した瞬間には、黒斗が既に次の行動へ移っている

 

互いの動きを邪魔しない。むしろ、相手の隙を作るために動いている

 

(……隙がない)

 

相澤は距離を取りながら、二人を見据える

 

(片方が攻めれば、もう片方が必ずフォローに入る…まるで長年組んできた相棒みたいな連携だ)

 

だが、それも当然だった

 

この二人は単なる仲間ではない

 

幼少期から互いのことを誰よりも理解し、互いを心の底から信頼し、頼って生きてきた存在

 

戦場においても、その関係性は変わらない

 

「……厄介だな」

 

相澤が小さく呟く

 

負傷した身体

 

破損した装備

 

相手は二人

 

しかも、一人は異常なまでに高い戦闘能力を持ち、もう一人はその男を守ることに一切の迷いがない

 

(だからこそ……)

 

相澤は、未だ闘志の消えぬ目で二人を睨む

 

(崩すなら、そこしかない)

 

一方、黒斗もまた相澤を観察していた

 

(ーーーやはり強い。負傷しているにも関わらず、判断力も戦闘能力もほとんど低下していない…)

 

そして、黒斗は静かに構える

 

(ですが……この人はまだ僕達のことを理解していない)

 

その瞬間、三人の間に再び静寂が訪れる

 

そしてーーーヒーローと二人のヴィランは、再び同時に地面を蹴った

 

USJ中央広場

 

プロヒーローと二人のヴィランによる激戦は、さらに激しさを増していく

 

 

その戦いの様子を、少し離れた場所で一人の青年ーーー死柄木弔が眺めていた

 

「…………」

 

赤い瞳が、絶え間なく交錯する三人の姿を追う

 

黒斗が踏み込む

 

相澤が迎え撃つ

 

その死角からトガが斬り込む

 

互いの攻防は一瞬たりとも止まらない

 

「へぇ……」

 

死柄木が小さく口元を歪めた

 

「中々やるじゃねえか……」

 

純粋な感想だった

 

黒霧がアジトに連れてきた時点で、黒斗の実力はある程度把握していた

 

便利屋として裏社会に名を馳せるヴィラン

 

何人ものヒーローと交戦し、逃げ延びてきた実績

 

そして、あの『異生獣(スペースビースト)』という個性

 

戦力として申し分ない

 

だからこそ勧誘した

 

だがーーーその言葉は黒斗だけへ向けられたものではなかった

 

「……意外だな」

 

死柄木の視線が金髪の少女へ移る

 

トガヒミコ

 

連続失血死事件の主犯格

 

資料にも目は通している

 

危険人物であることも理解していた

 

だが、正直に言えば

 

(正直言って、あのイカレJKはアイツ(黒斗)のオマケ程度だと思ってた)

 

幼馴染であり、共犯者

 

その程度の認識だった

 

戦力として期待していたのは黒斗だけ

 

トガヒミコは、その隣にいる少女。それ以上でも、それ以下でもない

 

……そう思っていた

 

しかし

 

「違う、か」

 

トガは一切迷わない

 

黒斗が攻めれば、自分は支援へ回り、黒斗が危険になれば、即座に割って入る

 

その判断に躊躇がない

 

しかも、黒斗自身もまた、それを一切疑わない

 

まるで、互いが次に何をするのか最初から分かっているかのようだった

 

「……面白ぇ」

 

死柄木は首を掻きながら笑う

 

あいつ(黒斗)一人でも十分強ぇ…でも、あの二人は一緒だから厄介なんだな…」

 

単に、‘‘二人いるから戦闘力が二倍になる,,等といった、そんな単純な話ではない

 

互いの隙を埋め、互いの長所を最大限に引き出し、一人では生まれない攻撃を成立させている

 

その様子は、まるで‘‘一つの生物,,かのようだった

 

「なるほどな…先生が興味持つわけだ」

 

死柄木は口角を釣り上げながら、愉快そうにそう呟く

 

その視線の先では

 

再び相澤と黒斗が激突し

 

その死角からトガの銀色の刃が閃いていた

 

激戦は、まだ終わる気配を見せなかった

 

 

金属同士が激しくぶつかり合う音がUSJへ響き渡る

 

黒斗の拳

 

相澤の蹴り

 

互いに一歩も譲らない攻防

 

その最中ーーー

 

トガヒミコは気配を完全に殺し、静かに相澤の死角へと回り込んでいた

 

(……今)

 

相澤の意識は完全に黒斗へ向いている

 

その一瞬

 

トガは右手に握っていた‘‘あるナイフ,,の柄に備わっていた‘‘ボタン,,を親指で押し込んだ

 

ーーーカチッ

 

小さな金属音

 

しかし

 

その音を相澤が認識した時には、もう遅かった

 

「ーーっ!」

 

次の瞬間

 

シュバッ!!

 

握られていたナイフから、銀色の刀身が、相澤を正確に狙い、まるで弾丸の如く一直線に()()された

 

(射出式……!?)

 

咄嗟に首を逸らす

 

コンマ数秒、本当に紙一重だった

 

ガギィンッ!!

 

鋭い衝撃音

 

辛うじて残っていた、ゴーグルの左側が砕けて大きく弾け飛び、床に転がる

 

さらに、それだけではなく…

 

ピッーー

 

相澤の左瞼に、赤い線が走り、一筋の血が流れた

 

射出された刃は、僅かに相澤の左瞼を掠めていたのだ

 

あと数センチ…ほんの僅かでも回避が遅れていれば、その刃は左目を正確に切り裂いていただろう

 

「……!」

 

相澤は反射的に左目を片手で抑えながら素早く後方へ跳び、黒斗達との距離を取る

 

視線はナイフへ向けられた

 

地面へ突き刺さっている銀色の刃

 

一方

 

一見すれば、少し特徴的な形状をしたナイフ

 

しかしその内部には、グリップに内蔵された強力なスプリングの圧力により、刀身を射出する特殊な機構が組み込まれている

 

ーーースペツナズ・ナイフ

 

かつてソビエト連邦の特殊部隊『スペツナズ』で運用されたとされる特殊戦闘ナイフ

 

刀身を一瞬だけ弾丸のように射出することで、不意打ちを狙うための兵装である

 

無論、日本国内で容易に入手できる代物ではない

 

だが黒斗は、便利屋として築き上げた裏社会の人脈を利用し、海外の闇ルートからこの武器を手に入れていた

 

「あら、避けられちゃいました」

 

トガはそう呟くと、空になった柄を何の躊躇もなく放り捨てる

 

その後、すぐに新たなナイフを抜き放つ

 

相澤はその様子を見て、小さく息を吐いた

 

(チッ…あんな武器まで準備してやがるのか……おそらく、あの武器を用意したのもあいつ(綾瀬黒斗)…)

 

ただ強いだけではない

 

情報を集め、必要な装備を揃え、状況に応じて使い分ける

 

その戦い方は、他の行き当たりばったりのヴィランとは程遠い

 

そこには、綾瀬黒斗という男の合理性が色濃く表れていた

 

「黒斗くん!」

 

トガが楽しそうに笑いながら呼びかける

 

「はい」

 

黒斗は短く応じる

 

その返事だけで十分だった

 

互いに視線を交わすことすらない

 

それでも次の一手を理解している

 

相澤は静かに構え直した

 

(……まだ終わらない)

 

砕けたゴーグル

 

滲む血

 

焼け焦げた捕縛布

 

それでも

 

プロヒーローとして積み重ねてきた‘‘闘志,,と

 

‘‘目の前のヴィランを止める,,という意思だけは、少しも揺らいでいなかった

 

 

一方、その戦いの様子を目の当たりにしていた周囲のヴィラン達は、誰一人として動けずにいた

 

そこには、他のヴィラン達を次々と制圧していくプロヒーロー・イレイザーヘッド

 

そして、そんな相澤消太を相手に互角ーーーいや、それ以上に渡り合う二人のヴィラン、綾瀬黒斗とトガヒミコの姿があった

 

あまりにも次元の違う攻防

 

その光景に気圧され、中には戦意を失ってすらいる者達もいる

 

「な、何なんだよ……あいつら……」

 

「イレイザーヘッド相手に押してやがる……」

 

「もうあの二人だけでいいんじゃねえか…?」

 

そんな弱気な声があちこちから漏れる

 

しかしーーー

 

「……おい、お前ら」

 

「「「「!?」」」」

 

低く、不機嫌そうな声

 

ヴィラン達が一斉に振り向く

 

そこには、首を掻きながら苛立った表情で立つ、この襲撃の首謀者ーーー死柄木弔の姿があった

 

「何ぼさっと突っ立ってるんだ?まさか、あの二人だけに戦わせて、自分達は高みの見物を決め込むつもりか……?」

 

その声音には、明らかな苛立ちが滲んでいる

 

「…………」

 

誰も答えない

 

いや、答えられなかった

 

そんな空気を鼻で笑うように、死柄木は小さく息を吐く

 

「……強いから何だ」

 

「だから任せる?馬鹿か、お前ら」

 

その完成度は、死柄木の予想すら上回っていた。

 

「あの二人が強いなら尚更だ」

 

死柄木はヴィラン達を睨み付ける。

 

「強い駒がいるなら、お前らも動け。全員で潰せ」

 

「相手はたった一人だけだ…わかったらーーーさっさと行け

 

明らかな苛立ちと、殺意のこもったその一言で、固まっていたヴィラン達の表情が変わる

 

「くっ……!」

 

「や、やるしかねぇ!」

 

「囲め!!」

 

掛け声と共に、十数人のヴィランが一斉に駆け出した。

 

その標的は、相澤消太ただ一人

 

数の暴力が、再び相澤へ襲い掛かる

 

To be continued……




いかがでしたでしょうか?長くなりそうだったので、次回を後編にすることにしました
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