個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~   作:復活のB

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第4話です。前回の後書きにもあった通り、本作ではトガちゃんのヴィラン連合加入タイミングを早めにしてみました


第4話『ヴィラン連合』

ーーーー某所、とあるBAR

 

薄暗い照明

 

年季の入ったカウンター

 

壁一面に並ぶ酒瓶

 

静かなジャズが微かに流れるその空間は、一見すればどこにでもあるBARのようにも見える

 

しかし、その静寂は突如として破られた

 

空間が歪み、()()()がその場に現れる

 

黒い霧がゆっくりと広がり、一つのゲートを形成する。

 

そのゲートから現れたのは、一人の金髪の少女ーーートガヒミコと、その隣に並ぶ黒髪の少年ーーー綾瀬黒斗だった

 

「……」

 

「……」

 

二人は周囲を見渡す

 

すると、黒い霧の中からもう一人の人物が姿を現した

 

全身を黒い霧で覆った男ーーー黒霧である

 

「こちらです」

 

穏やかな口調でそう告げると、黒霧はBARの奥へと歩き始めた。

 

黒斗は一瞬だけ店内を見回す

 

(酒場……隠れ家としては悪くありませんね)

 

そんなことを考えながら、その後を静かに歩き出した

 

黒霧に案内され、二人は店の奥へと歩いていく

 

やがて、カウンター席に一人の青年が腰掛けているのが見えた。

 

全身に身に着けた‘‘手,,

 

病的なまでに細い身体に、無造作な白と水色の中間のような色合いの髪

 

そして、絶えず首筋を掻き毟る癖

 

その青年は、二人が近付いてきたことにも構わず、苛立ったように爪を立て続けていた

 

ガリ

 

ガリガリ

 

首元を掻きむしる不快な音だけがBARに響く

 

やがて青年は、ゆっくりと視線だけを二人へ向ける

 

「……来たか」

 

掠れた声だった

 

黒斗もまた静かにその青年を見る

 

「どうも、初めまして。綾瀬黒斗です」

 

隣ではトガがぺこりと頭を下げる

 

「初めまして!トガヒミコです!」

 

対する青年は面倒そうに頬杖をつきながらぶっきらぼうに

 

「死柄木…死柄木弔だ」

 

そう短く名乗った。だが、それだけで十分だった

 

一瞬、BARの空気が僅かに張り詰める

 

黒斗は無言で死柄木を観察する

 

(……目の下の隈…おそらく、慢性的な睡眠不足…それに、首を掻く癖…ストレスか、それとも癖か…もしくは、その両方か)

 

(それに、こちらを警戒し、値踏みしている…)

 

ほんの数秒。それだけで黒斗は相手の癖や仕草を頭の中で整理していく

 

一方、死柄木もまた同じように、黒斗を観察していた

 

(こいつが……)

 

(先生が面白いって言ってた『スペースビースト』か)

 

見た目だけならば、どこにでもいそうな普通の高校生

 

むしろ穏やかな物腰も相まって、普通の高校生より知的な雰囲気すらある

 

とても何人ものヒーローを返り討ちにし、裏社会で優秀な便利屋として名を上げているヴィランには見えない

 

だが、だからこそ気味が悪かった。その穏やかな表情の裏に何を隠しているのか、まるで見えてこない

 

何よりも、先生ーーーオール・フォー・ワンがわざわざ興味を示した人物

 

それだけで警戒する価値は充分にある

 

数秒間、誰も口を開かなかったが、その沈黙を破ったのは黒霧だった

 

「では、改めまして…ようこそ、ヴィラン連合へ。お二人とも」

 

ーーー数時間前

 

黒霧から突然接触を受けた黒斗達は、「話したい人物がいる」とだけ告げられ、このBAR(アジト)に案内された

 

ヴィラン連合

 

最近になって裏社会でその名が少しずつ、本当に少しずつ囁かれ始めている組織だ

 

まだ表立って活動している訳ではない

 

しかし、各地で多くのヴィラン(チンピラやゴロツキ)を集めているという噂は、裏社会では徐々に広まりつつあった

 

義爛のような裏のブローカーであれば当然その存在を知っており、黒斗も便利屋として活動する中で、その名だけは耳にしていた

 

もっとも、まだ表立って活動していないこともあり、その実態について知る者はまだほとんど存在しない

 

しかし、だからこそ、黒斗はこの誘いを断るつもりはなかった

 

自分達の敵になる可能性がある相手ならば尚更、その思想や目的程度は知っておくべき

 

それが彼の判断だった

 

そして、場面は戻りーーー現在

 

「さて」

 

静寂を破るように、黒霧が穏やかな口調で口を開いた

 

「本日はお二人に一つお話があり、お呼びしました」

 

黒斗は黙って続きを促し、トガも興味深そうに首を傾げていた

 

「まずは率直に申し上げます。私達は、お二人をヴィラン連合へ迎え入れたいと考えています」

 

その言葉に対し、トガは「おぉー」と小さく声を漏らす

 

一方で、黒斗の表情はほとんど変わらない

 

「勧誘、ですか」

 

「はい」

 

黒霧は静かに頷いた

 

「もっとも、強制するつもりはありません。まずは我々がどのような組織なのかを知っていただき、その上で判断していただければ結構です」

 

「……なるほど」

 

黒斗は短く返す

 

その様子を見ていた死柄木が、再び首元を掻いた

 

ガリ……

 

「面倒な前置きはいいだろ」

 

苛立ったような声だった

 

「俺達の目的は一つだ」

 

死柄木はゆっくりと立ち上がる

 

「今のクソみたいな社会をーーー全部壊す」

 

その一言だけで、空気が変わった

 

「ヒーローが守る社会、法律、秩序…全部だ」

 

「そんなもんがあるから、俺達みたいなのが生まれる」

 

死柄木は乾いた笑みを浮かべる

 

「だったら、全部壊せばいい。誰もが好き勝手に生きられる世界…それが俺の目指す社会だ」

 

その言葉を聞きながら、黒斗は黙って死柄木を見つめていた

 

否定もせず、しかし肯定もしない。ただ、その思想を分析するように

 

すると、黒霧が静かに言葉を続ける

 

「現在の社会は、ヒーローを中心として成り立っています。だからこそ、その社会を支える仕組みそのものを根底から崩壊させる……それが我々ヴィラン連合の目的です」

 

「その為には、一人一人の力だけでは足りません。同じ志を持つ者達が集まり、一つの組織として行動する必要があります」

 

「その一員として、お二人には力を貸していただきたいのです」

 

再び静寂が訪れる

 

黒斗はゆっくりと目を閉じた

 

(ヒーロー社会の崩壊、ですか)

 

確かに大きな目的ではある

 

しかし、それだけでは黒斗にとって動く理由にはならない

 

彼が優先するものは、世界ではない

 

社会でもない

 

たった一つ

 

隣にいる少女(トガヒミコ)だけだった

 

だからこそ

 

「一つ、お聞きしても?」

 

黒斗が静かに口を開く

 

「仮に僕達がヴィラン連合へ加入したとして……僕達には、どのようなメリットがありますか?」

 

その問いに、黒霧は僅かに微笑み、死柄木もまた、首を掻く手を止める

 

二人は待っていた

 

綾瀬黒斗なら、必ずそこを尋ねると

 

黒斗の問いに、黒霧は一瞬だけ死柄木へ視線を向ける

 

しかし、返答したのは死柄木だった

 

「メリット、ね……」

 

ガリ、と首元を掻く

 

「そんなもん、人それぞれだろ。金が欲しい奴もいるし、暴れたい奴もいる。居場所が欲しい奴もいる」

 

「……俺は全部壊したいだけだ」

 

そこで一度言葉を切り、そして黒斗を真っ直ぐ見た

 

「だけど、お前は違うんだろ?」

 

「……」

 

図星だった

 

黒斗が求めているものは、金でも名声でもなければ、ましてや世界征服などでもない

 

死柄木は続ける

 

「先生から聞いた。お前は無駄な争いは好まない

 

「目的のためなら動く。逆に、目的がなければ絶対に動かない合理的な奴だ」

 

黒斗は否定しなかった

 

その通りだからだ

 

死柄木は僅かに口角を吊り上げる

 

「だから教えてやる。俺達に入れば、お前達を狙うヒーローや警察に対する情報も、人手も、協力も得られる。そうすりゃ単独で逃げ回るより、生き残る可能性は高くなる」

 

「それに…」

 

死柄木はちらりとトガを見る

 

「トガヒミコ。お前も一人じゃ好き勝手暴れられねぇだろ」

 

「仲間がいれば、できることは増える」

 

「……」

 

トガは黒斗を見上げる

 

「黒斗くん」

 

小さく袖を摘まむ

 

「私は、黒斗くんが決めるなら、それでいいですよ」

 

その言葉に、黒斗は少しだけ目を細め、苦笑する

 

(結局、僕が判断するしかありませんか)

 

数秒間、静かに考える

 

ヴィラン連合

 

組織としての規模はまだ小さい

 

しかし、その目的は明確

 

そして何より

 

組織に属することで得られる情報量は、便利屋である自分にとっても決して小さくない

 

(敵対するよりは、利用できる関係を築く方が合理的ですね)

 

そう結論付けた黒斗は、ゆっくりと口を開こうとする

 

その瞬間だった

 

「もっとも」

 

死柄木が不意に笑う

 

「今すぐ返事をしろとは言わない」

 

「まずは、一つ…俺達のやろうとしていることを見てもらう」

 

黒斗は僅かに首を傾げた

 

「やろうとしていること?」

 

死柄木は首元を掻きながらも、愉快そうに笑う

 

その笑みは、これまでで一番歪んでいた

 

「近いうちに、この社会に最初の一撃を叩き込む」

 

黒斗の瞳が僅かに細くなる

 

死柄木はゆっくりと口を開いた

 

「ーーー雄英高校を襲撃するんだよ」

 

To be continued……




いかがでしたでしょうか?次回、もしくは次次回から『USJ襲撃編』に入る予定です
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