個性『異生獣(スペースビースト)』~僕とトガちゃんの共犯者物語~ 作:復活のB
ーーー某所、とある集会場
薄暗い照明が照らす広大な空間
おそらく、元は大型倉庫だったのだろう
高い天井
無機質なコンクリートの壁
鉄骨が剥き出しになった柱
その広い室内には、およそ200名ものヴィラン達が集められていた
ある者は腕を組み、ある者は床へ胡坐をかき、ある者は退屈そうに欠伸をする
集まっているヴィラン達の大半は、単なるチンピラやゴロツキ
そのほとんどは信念など持ち合わせていない
金の為、暴れる為、あるいは行き場を失った末に流れ着いただけ
そんな寄せ集めだった
しかし、その全員が今日ここへ集められた理由は一つ
ヴィラン連合による、初めての大規模作戦
雄英高校USJ襲撃
ざわざわ、と室内は絶えず騒がしい
「本当に雄英を襲うのか?」
「オールマイトもいるって話だぞ」
「へっ、面白ぇじゃねぇか」
好き勝手な声が飛び交う
統率などあったものではない
その様子を少し離れた場所から静かに眺める二つの人影があった
「……」
「すごい人数ですねぇ」
トガヒミコが感心したように辺りを見回す
一方の黒斗は、一人一人へ静かに視線を走らせていた
(約200名。戦闘経験はあるでしょうが……)
(統率は期待できませんね)
(士気も実力もばらつきが大きく、おそらく半数以上は囮程度にしかならない…)
冷静に分析する
戦力として数える者
逆に数えない者
黒斗の頭の中では、既に仕分けが始まっていた
すると、その横でトガが小さく袖を引っ張る
「黒斗くん」
「どうしました?」
「みんな怖い顔してます」
「そうですね」
黒斗も周囲を見渡す
「ですが…一番怖いのは、あの人達ではありません」
「?」
トガが首を傾げる
黒斗の視線は、集会場の奥へ向いていた
そこには、腕を組んで壁にもたれ掛かる死柄木弔
そして、その隣で静かに佇む黒霧
この作戦の中心人物達が、集まったヴィラン達を静かに見渡していた
「これだけの人数を集め、同じ目的の下で動かしている。それだけでも十分に脅威です」
黒斗がそう呟いた、その時だった
集会場全体へ響き渡るように、黒霧が一歩前へ進み出る
「皆様」
穏やかな声だった
しかし、その一言だけで、騒がしかった室内は少しずつ静まり返っていく
「これより、作戦開始前の最終確認を行います」
黒霧の声が集会場に響く
「皆様、本日の作戦は予定通り決行いたします」
「目的はただ一つ。USJへ侵入し、オールマイトを排除すること」
その言葉に、室内の空気が僅かに熱を帯びる
「おおっ!」
「ようやく暴れられる!」
「待ちくたびれたぜ!」
「雄英だろうが何だろうが関係ねぇ!」
そんな歓声とも怒号ともつかない声が飛び交う
死柄木はそんな様子を一瞥すると、不機嫌そうに首を掻いた
「……うるせぇ」
その一言だけで、室内は再び静まり返る
「お前らは細かいことは考えず、ただ暴れればいい」
「ヒーローを壊せ。それだけだ」
ヴィラン達は一斉に笑みを浮かべる
そんな中ーーーただ一人
黒斗だけは静かに周囲を見渡していた
(約200名…数は十分ですが、練度には期待できません)
(ならば)
(足りない戦力は僕が補います)
黒斗は静かに一歩前へ出る
「……?」
近くにいたヴィラン達が怪訝そうな視線を向ける
黒斗は何も言わない
ただ、ゆっくりと右手を前へ差し出し、掌を開いた
その次の瞬間
掌の中心から、勢いよく黒い液体が放たれた
「……は?」
その光景に、一人のヴィランが思わず声を漏らす
しかし、それは始まりに過ぎなかった
黒い液体は床へ落ちると、まるで意思を持つように蠢き始める
そう、まるでーーー生物かのように
そしてーーー
ズルリ
液体の中から一本の腕が現れる。無論、その腕は人間のそれではない
続いて頭部、胴体、脚と…次々と這い出てくる
黒い泥の海から産まれるように、異形の怪物達が姿を現してーーーいや、
誰一人として同じ姿はいない
しかし、一つだけ共通点があった。それはーーー
ーーーその全てが、生物として決定的に何かがおかしかったことだ
‘‘異形,,
その一言に尽きる
1体、10体、50体、100体と生まれていくが、それでも止まらない
黒い液体は絶えることなく溢れ続け、その中から生まれた怪物ーーースペースビースト達は、次々と床へ降り立っていく
やがて
黒斗の周囲には、およそ200体ものスペースビーストが静かに整列していた
その光景に、集会場から音が消える
「…………」
誰も喋らない
否、喋らないのではない
喋れなかった
200名ものヴィラン達。その全員が、目の前に並ぶ異形の軍勢へ息を呑んでいた
異様な静寂。その中で、黒斗だけが淡々と口を開く
「今回はこちらにも戦力を投入します」
「戦闘能力は個体によって差がありますが、連携には問題ありません」
「必要であれば囮、索敵、陽動にも使用できます」
まるで、「資材を運びます」とでも言う程度の軽さで言ってのけた
ビースト達は一斉に黒斗へ視線を向けると、次の瞬間
ズンッ……
200体全てが、一糸乱れぬ動きで黒斗へ跪いた
その様子を見たヴィラン達の間から、小さなどよめきが広がる
「お、おい……」
「何だよ、あれ……」
「まさか、全部あいつの個性なのか……?」
「嘘だろ……」
死柄木もまた、首を掻く手を止めてその光景を見つめていた
「…………」
数秒の沈黙
やがて、その口元がゆっくりと吊り上がる
「……はは、いいな…やっぱり、お前を誘って正解だった」
その隣で黒霧も静かに目を細める
「まさか、ここまでとは…先生がお二人を評価されていた理由が、よく分かりました」
一方、トガはそんな異様な光景の中心で、どこか誇らしげに笑っていた
「えへへ、黒斗くん、かっこいいです」
その一言に、黒斗は少しだけ照れくさそうに視線を逸らした
「……そうですか」
だが、無意識にその耳が僅かに赤くなっていたことには、本人だけが気付いていなかった
200体ものビースト達が静かに整列する
その異様な光景を前に、集会場はしばし静寂に包まれていた
やがて死柄木が小さく笑う
「……いいな。その戦力なら期待できそうだ」
そう呟くと、彼は黒霧へ視線を向けた。
「黒霧」
「はい」
「‘‘あれ,,を見せろ」
その一言で、黒霧は静かに頷く
「承知いたしました」
黒霧は静かに一歩前へ出る
その足元から、黒い霧がゆっくりと広がっていく
濃密な闇
まるで底の見えない穴が床に開いたかのようだった
「……?」
今度は一体何が出てくるのかと、ヴィラン達が息を呑む
すると、その霧の奥から、ゆっくりと一つの巨大な影が姿を現す
2メートルは優に超えるであろう巨体
異常なまでに筋肉の発達した、黒い体表を持つ筋骨隆々とした肉体
虚な目
大きな口に、鳥類を思わせる嘴
そして、剥き出しになった
「…………」
何も喋らない
ただ、そこに立っているだけ
それだけにも関わらず、圧倒的な威圧感がその場を支配した
「……何だ、あれ」
「人間、なのか……?」
ヴィラン達の間からざわめきが起こる
同時に、その場にいたヴィランの多くは理解していた
ーーー強い
自分達とは次元が違う。圧倒的な暴力の塊
一方、黒斗だけは無言でその存在を見つめていた
(異常な筋繊維の密度…生命反応も普通の人間とは違う)
(何より、脳への処置痕……人工的に造られた戦闘兵器、でしょうか)
視線を逸らさない
彼の目は怪物を見る目ではなく、未知の生物を観察する研究者のような眼差しだった
その様子に、死柄木は僅かに口角を上げる
「気になるか?」
「ええ」
黒斗は率直に頷いた
「これは?」
死柄木はゆっくりと振り返る
そして、不敵に笑った
「脳無」
「先生が造った、最高傑作だ」
その一言に、集会場の空気が変わる
「こいつは、オールマイトを殺すためだけに造られた」
静まり返る室内
黒斗は再び脳無へ視線を向ける
(対オールマイト専用……)
(つまり、単純な戦闘力だけではなく、それに対応できるだけの性能を持っている)
(少なくとも、見た目だけで判断するのは危険ですね)
黒霧が穏やかな口調で補足する
「詳細につきましては作戦上、お話しできません。ですが、死柄木弔の仰る通りです」
「この脳無こそが、本作戦最大の切り札となります」
黒斗は静かに頷いた
「……理解しました」
それ以上は聞かなかった
切り札とは、本来そういうものだ
味方にすら全てを明かす必要はない
それを理解しているからこそ、黒斗は深く追及しなかった
死柄木は集まったヴィラン達を見回す
「話は終わりだ」
「お前ら」
「今日はヒーロー共に、
首元を掻きながら笑う
「派手に暴れろ」
「それだけだ」
その言葉に、ヴィラン達は一斉に歓声を上げた
「おおおおおっ!!」
最早怒号にも似た歓声が響き渡る
その熱気を包み込むように、黒霧が静かに両腕を広げた
「それではーーー参りましょう」
彼の体から、漆黒の霧が一気に広がる
集会場全体を覆い尽くさんばかりの、巨大なワープゲート
その先に見えるのは、昼間の光が差し込む、見覚えのない施設の一角
USJーーー決戦の舞台
「各員、準備を。転送を開始します」
ヴィラン達が次々と黒い霧の中へ足を踏み入れていく
トガは嬉しそうに黒斗の袖を掴んだ
「黒斗くん!行きましょう!」
「ええ」
黒斗は小さく頷く
その直後、彼の後方で200体のスペースビーストが一斉に咆哮を上げた
まるで、主へ応えるかのように
その声を背に受けながら、黒斗は静かにワープゲートへ足を踏み入れる
こうしてーーー
ヴィラン連合による初めての大規模作戦
そして、後に
‘‘USJ襲撃事件,,
そう呼ばれる戦いが、静かに幕を開けようとしていた
いかがでしたでしょうか?次回からUSJ襲撃編に本格的に突入します。かなり(主にヒーロー側にとって)HARDな展開になりますので、ご注意ください