クールメイドの世界救世記   作:虎武士

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クールメイドと軍師と怪物

 Side クロム

 

 俺達が町へと着いた頃には火が激しくなっていて、その中で賊のリーダー格らしい男の高らかな声が響く。

 

「ぐはははははは! 殺せ! 奪え! 奪った家には火を放て! 町ごと消し炭にするんだ! これを見りゃあ、抵抗しようなんて気が起きなくなるだろうからなぁ!」

 

「いやぁ! 助けて…! 誰かぁ! 助けてぇー!」

 

 賊共の下卑た声と炎に紛れ、町の住人の悲痛な声が耳に入ってくる。

 

 奴等め…!姉さんの治めるこの国で、好き勝手に暴れるとは…!

 

「クロム様」

 

「スカーレット…」

 

「遅れて申し訳ありません、被害状況は?」

 

「見ての通りだ」

 

「そうですか……では、迅速に対処せねばなりませんね」

 

 スカートの端を摘み、頭を下げる彼女は誰に対しても相変わらず涼しい顔をしている。

 

「お兄ちゃん! 町の(みんな)が!」

 

「急ぐぞ…! これ以上、山賊に町を好き勝手にさせるわけにはいかない!」

 

 俺は剣を構える。リズはライブの杖、フレデリクは槍、スカーレットは短剣を構える。

 

 いざ町を救おうと駆け出さんとした時、背後から足音が聞こえてきた。

 

「──待ってくれ!」

 

「ルフレ様…!?」

 

「お前…! 逃げなかったのか!? 何故此処に来た!」

 

 部外者であるルフレが俺達を追って来た事に俺達は驚くが、ルフレはそんな事は関係ないとばかりに表情を強張らす。

 

「分からない……でも、僕も出来る事をしたい……!」

 

「……そうか、分かった。なら、力を貸してもらうぞ」

 

「……良いのですか、クロム様? 見ず知らずの者の手を借りるとは」

 

「言い分は分かるが、状況が状況だ。一刻も早く賊を討ち倒し、人々を安心させるには人手が必要だ。ルフレがどの位の実力を持つのか見極める必要がある」

 

 一人でも多くの人を救う為ならば利用しない手はなく、スカーレットの言葉に耳を傾けつつ町を蹂躙する賊共を見渡す。

 

「ルフレさん……これは実戦です。敵は略奪と殺戮を繰り返してきた凶悪な賊……此処での敗北は死に繋がります、どうかくれぐれも御注意を」

 

「ああ……肝に命じておくよ」

 

「良いお心掛けです。それに丸腰ではない御様子で何より」

 

 スカーレットが指摘するように、ルフレは丸腰ではない。剣と魔導書をその身に付けており、俺は魔法を使えるのかと問う。

 

 本人曰くどうも朧気(おぼろげ)にそう認識しており、一抹の不安を覚える。

 

「指揮は僕に任せてくれ……クロムとフレデリクは前へ、出来るだけ敵が認識するまでに距離を詰めて切り込んでくれ」

 

「ああ、分かった」

 

「承りました」

 

 乗馬する馬の手綱を引いて駆けるフレデリクの後に続き、俺は町中を駆け出す。

 

「っ!?な、なんだてめェら!」

 

「遅い!」

 

「失礼します」

 

「ぐっ!?」

 

「ぎゃああ…!!」

 

 俺の剣とフレデリクの槍が相対した相手の胴体を貫き、血飛沫を撒き散らして倒れる。

 

「次にスカーレットは周囲に目を配りつつ、リズの護衛をしてくれ。リズは恐らく、戦う術を持ち合わせていないのだろう…?」

 

「その通りです……ではリズ様、(わたくし)のお側を離れないで下さいね?」

 

「う、うん! ルフレさん、私は攻撃は出来ないけど、回復の杖を使って傷付いた人の怪我を治す事が出来るよ! えーとルフレさん、私はどう動いたらいいかなあ?」

 

「それならリズ、君はクロムとフレデリクの傷を治してくれ。あの二人は万が一の事は有り得ないと思うけど、一先ず敵に狙われないように移動して欲しい」

 

「分かった!」

 

 ルフレは的確に俺達に指示を送り、自身も向かってくる賊に対して青銅色の剣とサンダーの魔導書を駆使して、敵を薙ぎ払う。

 

「ひ、ひひひひ! 何だ、メイドを連れてんじゃねえか」

 

「しかもいい(ツラ)してやがる上、結構な上玉じゃねえの?」

 

「丁度いい! 此奴等ぶっ殺した後、この女は生かしてやろうぜ!」

 

「胸も尻もでけえし、いい遊び相手に──」

 

「──賊の皆様、品定めの上に御歓談中失礼しますが、隙だらけで御座いますわ」

 

 下衆な眼差しをスカーレットに向けて良からぬ企みを浮かべる賊共は、彼女の短剣による優雅な舞で次々に倒れ伏していく。

 

「後、一つ補足しておきますが、貴方方の様な低俗な輩に籠絡される程落魄れておりませんので、その先の言葉は死後の世界で語って下さいな」

 

 一瞬にして骸となった其奴等に氷の様な眼差しを向けた後、振り返って賊共との戦闘を繰り返す。

 

 勿論彼女はリズから離れないように一定の距離を保ちつつ、リズに近付く輩を返り討ちにする。

 

 指揮を取るルフレも微力ながら剣と持参しているサンダーの魔導書で敵を仕留め、俺達は敵から受けた傷を薬やリズのライブの杖で回復しつつ、迫り来る敵を討ち取っていく。

 

 ルフレは戦闘中に妙な感覚を感じているらしく、戦場に立つと相手の能力・戦況・武器が見えてくるようだ。

 

 その他にも仲間と共に戦う以上、仲間と隣り合わせで戦うと互いの力が高まると助言をしてくる。

 

 荒唐無稽に聞こえるが、何故かその言葉は俺達に力を与えるような気がしてならない。

 

 出自不明な上、何者かも分からない此奴には言葉では表せない不思議な雰囲気があった。

 

 それはきっとリズやフレデリク、スカーレットも同じ気持ちだろう。

 

 気付けば賊の数は次々に減らしていき、残るはそのボスだけとなった。

 

「ぐははははは! 俺様に逆らう奴は、皆殺しだぁ!!」

 

 賊の親玉は醜悪な笑みを浮かべ、その手に持つ斧を構えて俺達に向かってくる。

 

 時に斧を投擲してくるが、フレデリクが剣、スカーレットが短剣で受け流していき、然程苦戦を強いる事はなかった。

 

 サンダーの魔法攻撃を放つルフレ、皆の傷をリズがライブの杖で癒し、俺達は仲間と隣り合わせで親玉を追い込む。

 

「終わりだ…!」

 

「ぎゃああああ…!!」

 

 俺の振るう剣の一撃が親玉の胴体を斬り裂き、奴は胸から血飛沫を噴出して倒れる。

 

 町を襲った賊は全て討伐され、俺達全員が笑みを浮かべるのだった。

 


 

 Side スカーレット

 

 山賊の皆様は(わたくし)達が討伐し、町は救われました。

 

 ルフレ様の腕前と指揮を直に垣間見て、クロム様は彼を軍師として雇用しようかと提案してきます。

 

 フレデリク様はまだ彼を疑っていますが、クロム様はそんなルフレ様の才能に興味を抱き、御本人はこれを承諾……我々と共に行く事を決意しました。

 

 賊共はペレジア王国より流れ着き、今回のような悪行を繰り返しているそうです。

 

 結果的に町を救う事を成し遂げ、これに対して町に宿泊せずに夜間行軍、野営を行う事をフレデリク様の一存で可決されました。

 

 リズ様はそれに嫌そうなお声を上げ、町への御宿泊を御希望していらっしゃいます。

 

 ヴェイク様辺りならば嬉々とした御様子で肯定するのでしょうが、リズ様は女子であるが故に断固拒否しております。

 

「リズ様。我儘を仰ってはいけませんよ? 一自警団として何事も経験です」

 

「スカーレットの言う通りだね……それにしても厳しい副長だなぁ」

 

「フレデリクは笑顔の時が一番厳しいから気を付けろよ」

 

「わ、分かった」

 

「何か仰いましたか?」

 

『い、いや、何も』

 

 小声で話していましたが聞こえていたらしく、慌ててクロム様とルフレ様は首を左右に振って否定の意を示します……まあお気持ちは分からなくもありませんけれど。

 

 

 

 ※

 

 

 

 町を出立して数刻後、空はすっかり暗くなり月が出ております。

 

 暗い森の中を行軍する中、リズ様は未だに御不満な御様子でした。

 

 まあその御様子も可愛らしいのですが、そろそろ夕食の御用意をせねばなりませんわね。

 

 ルフレ様も空腹を訴えておりますし、野営地の準備と食料調達の二グループに分かれる事に。

 

 (わたくし)、クロム様、ルフレ様は食料調達。

 

 リズ様とフレデリク様は野営地の設立と言う班分けとなりました。

 

 森の中で(わたくし)が狼を狩る中、ルフレ様とクロム様は熊を討伐。

 

 野営地に戻るとそれを捌き、調達ついでに集めた薪に(わたくし)はファイアーの魔導書を扱い、薪に火を点けます。

 

 捌いた熊肉と狼肉を火で炙り、十分に焼き揚げると(わたくし)達は美味しく口に運んで美味を感じます。

 

 咀嚼音が奏でられる夜食ですが、ルフレ様が躊躇なく熊肉に齧り付く御姿にリズ様は引いておられました。

 

 和気藹々と夜食を楽しみ、(わたくし)達は明日に備えて就寝するのでした。

 

 夜空に満月が浮かび上がる中、静かに寝息を立てる(わたくし)達。

 

 日中は見ず知らずの軍師に出会い、その軍師の指揮下で戦い──賊を討伐する事が出来ました。

 

 彼──ルフレ様の指揮は並の軍師では到底真似出来ない腕前であり、(わたくし)達は不思議とその指揮下で戦い易く感じました。

 

 不快感もなくその腕前は目に張るものでして、(わたくし)達の中で僅かながらも信頼を得たのかも知れません。

 

 もしも彼がイーリスの軍師になって下さればペレジアの侵攻を阻止出来るかも知れませんし、エメリナ様の肩の荷も少しは軽くなる事でしょう。

 

 彼も事情があるでしょうし無理強いは出来ませんが、何れはそうありたいと思います。

 

 そんな事を願っていながらの就寝は、突然響き渡った轟音で掻き消されました。

 

 一体何が起こったのか、眠気が飛んだ(わたくし)は起き上がって周囲を見渡すと……信じられない光景を目の当たりにする。

 

 地面が隆起して浮き上がり、その下から噴き出た炎が火球となり、それは忽ち森に降り注いで火の海へと変えていく。

 

 正しくそれは地獄絵図、いえ、そんな生易しいものではなく──天変地異と形容すべきでしょうか。

 

 (わたくし)と同じく飛び起きたルフレ様とフレデリク様は息を飲んでおり、この目にその光景を焼き付けています。

 

「クロムとリズは!?」

 

「先程、足音が遠ざかるのを聞きました。恐らく巡回に赴かれたのかと…」

 

「急ぎましょう! 御二人が心配です!」

 

 騎馬に跨って手綱を鳴らして先行するフレデリク様、その後を追って(わたくし)とルフレ様が続きます。

 

 この世の終わりを告げるかの様に燃え盛る木々を駆け抜けていき、見慣れた御姿が確認されました。

 

「クロム様、リズ様!」

 

「御二人共、御無事ですか!?」

 

「あ……フレデリク! スカーレット! ルフレさんも…!」

 

 御二人の視線を見ると、何やら不気味な存在が周囲に徘徊しておられました。

 

 人の形はしているのですが、肌は赤黒く、その口からはこの世のものとは思えない呻き声を放っておられます。

 

 動作もまるで屍のそれを彷彿とさせていて、より不気味に感じます。

 

 ルフレ様は「この国にはこんな化け物がいるのか…?」と疑問に思っていますが、少なくともあの存在をイーリスで確認された記録は一度もありません。

 

 クロム様達は先程まであの異形の化け物達に襲われていたのですが、リズ様にその魔の手が伸びようとした時、謎の剣士の方が助太刀に入ったようです。

 

 知らぬ間に剣士の方は忽然と姿を消していたのですが、恐らく何処かで化け物と戦っておられるのでしょう。

 

 ともあれ、今は眼前にて蔓延る異形共を対処しなければいけませんわね。

 

 何者かは存じませんがイーリスに迫る厄災である以上、目の前の火の粉を振り払うのみ。

 

 全く、今日一日不幸に苛まれますね…。

 

 

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