薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
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薬屋の前は、昼前には完全に人だかりになっていた。
「本当にいるのか?」
「銀風の英雄……!」
「封印を止めたエルフだろ?」
好き勝手な声が飛び交う。
リズレは窓際から離れ、完全に顔を伏せていた。
「……帰りたい」
心底うんざりした声だった。
アレンは薬棚の整理を続けながら言う。
「無理だな」
「即答するな」
「外見ろ」
見なくてもわかる。
薬屋の前には馬車まで止まり始めている。
傭兵、旅人、商人、野次馬。
その全員が“英雄”を見に来ていた。
フィオネは面白そうに窓の隙間から外を覗いている。
「すごい人気」
「他人事みたいに言うな」
「半分くらい私のせいかな?」
「八割だ」
シェリアが即答した。
フィオネは笑う。
アレンだけが静かだった。
すると突然、外がざわつく。
人混みが左右に割れる音。
足音は重く、統率されていた。
シェリアの目が細くなる。
「……来た」
薬屋の戸が開く。
入ってきたのは、白い外套を纏った男だった。
背後には護衛が二人。
装飾は少ないが、一目で“中央の人間”だとわかる空気がある。
男は室内を見回し、リズレを見つけると静かに頭を下げた。
「お初にお目にかかります。“銀風の英雄”殿」
リズレが真顔になる。
「やめろ」
男はまったく気にしない。
「中央評議会より参りました」
アレンが小さくため息を吐いた。
「面倒なのが来たな」
「ええ、本当に」
シェリアまで同意する。
男は懐から巻物を取り出した。
「正式な要請です。現在、“封印を止めた英雄”としてあなたの召喚が決定しました」
リズレの顔が完全に死んだ。
「断る」
即答。
だが男も慣れている。
「すでに記録は公開済みです」
「知らない」
「似顔絵付きで各地へ通達されています」
「やめろ」
フィオネが吹き出した。
「仕事早いねぇ中央」
アレンがぼそっと言う。
「似顔絵まだ下手だな」
「そこ気に入ってるんですか?」
初めて中央の男が少し困惑した顔をした。
リズレは額を押さえる。
頭痛がしてきた。
男は真面目な顔のまま続ける。
「現在、各地であなたの噂が広がっています。特に“崩壊しかけた封印を風で押さえ込んだ”という証言は——」
「誇張だ」
「ですが三名の傭兵の証言が一致しています」
「偶然だ」
「さらに魔力痕も確認済みです」
逃げ道が消えていく。
リズレは初めて、本気で疲れた顔をした。
その時だった。
アレンが静かに口を開く。
「まだ治療中だ」
部屋が少し静まる。
アレンは淡々と続けた。
「連れ出すなら、せめて歩けるようになってからにしろ」
中央の男が言葉を止める。
フィオネがにやにやし始める。
シェリアは静かに目を閉じた。
リズレだけが少し驚いた顔でアレンを見る。
アレンは視線を向けないまま薬草を刻んでいた。
「怪我人を無理に動かすと悪化する」
それは薬師として当然の言葉だった。
だが今この場で、唯一“英雄”ではなく“怪我人”として扱った言葉でもあった。
リズレはしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
「……変な男」
アレンは手を止めずに返す。
「よく言われる」