薬師アレンとエルフのリズレ   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー

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花束

 

中央の使者が帰ったあとも、薬屋の外のざわめきは消えなかった。

 

むしろ増えていた。

 

「英雄様はまだいるのか?」

 

「風を見せてくれ!」

 

「ケルベロスを倒したって本当か!?」

 

話が勝手に育っている。

 

リズレは椅子に座ったまま、完全に無表情になっていた。

 

魂が半分抜けている。

 

フィオネが横から覗き込む。

 

「大人気だねぇ」

 

「死にたい」

 

「英雄が言う台詞じゃない」

 

「だから英雄じゃない」

 

即答だった。

 

シェリアは窓の外を確認しながら静かに言う。

 

「少なくとも中央はそう扱う」

 

「最悪だ」

 

アレンは鍋をかき混ぜながらぼそっと言った。

 

「有名人は大変だな」

 

「他人事みたいに言うな」

 

「他人事だからな」

 

リズレは睨む。

 

だがアレンはいつも通りだった。

 

薬草を刻み、火加減を見て、包帯を畳む。

 

外がどれだけ騒がしくても、薬屋の中だけは妙に普通だ。

 

それが少しだけ救いだった。

 

その時。

 

コンコン、と戸が鳴る。

 

今度は静かな音だった。

 

全員の視線が向く。

 

「……またか」

 

リズレの声が死んでいる。

 

アレンが扉を開ける。

 

立っていたのは、小さな少女だった。

 

十歳くらい。

 

両手で花束を抱えている。

 

後ろには困った顔の母親。

 

少女は緊張した顔でリズレを見ると、小さく頭を下げた。

 

「あ、あの……」

 

リズレが固まる。

 

少女は震える声で続けた。

 

「お姉ちゃん、ありがとう」

 

部屋が静かになる。

 

少女は花束をぎゅっと抱えたまま言った。

 

「村のみんな、封印が壊れたら死ぬかもって言ってた」

 

「でも、お姉ちゃんが止めてくれたって」

 

「だから……ありがとう」

 

リズレは言葉を失った。

 

フィオネも黙る。

 

シェリアは静かに視線を落とした。

 

アレンだけが少女とリズレを交互に見ている。

 

リズレはしばらく何も言えなかった。

 

自分は英雄ではない。

 

封印を救ったつもりもない。

 

ただ、生き残ろうとしただけだ。

 

けれど目の前の少女にとっては、それで十分だった。

 

少女はおそるおそる花束を差し出す。

 

「これ、お花……」

 

リズレは迷ったあと、ゆっくり受け取った。

 

小さな野花だった。

 

山でよく見る、どこにでも咲く花。

 

その軽さが妙に胸に残る。

 

少女はほっとしたように笑う。

 

「よかったぁ……!」

 

母親も深く頭を下げた。

 

「本当にありがとうございました」

 

二人はそれだけ言って帰っていく。

 

薬屋の中に静けさが戻った。

 

リズレはしばらく花束を見ていた。

 

やがて、小さく呟く。

 

「……困る」

 

フィオネが少し笑う。

 

「優しい子だったね」

 

「そういう話じゃない」

 

リズレの声は低い。

 

「私は、何も——」

 

そこで言葉が止まる。

 

本当に“何も”していないのか。

 

崩壊の瞬間、風を使った。

 

必死だった。

 

生き残りたかった。

 

それだけだ。

 

だが、その結果として助かった人間がいるなら。

 

アレンが静かに薬湯を差し出した。

 

「飲め」

 

リズレは受け取る。

 

温かい。

 

アレンは淡々と言った。

 

「理由がどうあれ、助かったやつは感謝する」

 

「……」

 

「お前が決める前に、世界の方が先に決めたんだろ」

 

リズレは黙ったまま薬湯を見る。

 

湯気が静かに揺れていた。

 

フィオネが柔らかく笑う。

 

「だから言ったじゃない」

 

「英雄って、自分で決めるもんじゃないよ」

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