薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
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その日の夜、薬屋は久しぶりに静かだった。
外の野次馬も、日が落ちる頃にはほとんど引き上げている。
残ったのは雨上がりの冷たい空気と、薬草の匂いだけだった。
リズレは窓辺に座り、昼にもらった花束をぼんやり眺めていた。
小さな白い花。
英雄に贈るには、あまりにも素朴だ。
だが妙に捨てられなかった。
奥ではアレンが薬草を束ねている。
カサ、カサ、と乾いた音だけが響く。
フィオネはいつの間にか椅子で寝ていた。
勝手に毛布まで使っている。
シェリアは呆れた顔をした。
「馴染みすぎ」
「追い出せばいいだろ」
アレンが言う。
「あなたが追い出してない」
「面倒だから放置してるだけだ」
「優しい言い訳ね」
リズレは小さく息を吐いた。
その時だった。
コン、と窓を叩く音。
全員の視線が向く。
窓の外。
黒い外套の男が立っていた。
空気が変わる。
シェリアの目が細くなる。
アレンは静かに立ち上がった。
男はゆっくりフードを下ろす。
細い傷のある顔。
傭兵だ。
だが昼間の連中とは違う。
もっと空気が重い。
男は窓越しにリズレを見た。
「やっと見つけた」
低い声だった。
リズレの表情が消える。
「……お前か」
フィオネが目を開ける。
「知り合い?」
誰も答えない。
男は静かに続けた。
「中央が騒ぐ前に消えたと思ったが、薬屋に隠れてたとはな」
アレンが一歩前に出る。
「患者だ」
男はアレンを見た。
少しだけ目を細める。
「人間か」
「見ればわかる」
昼間と同じ返答だった。
だが空気はまるで違う。
男は鼻で笑った。
「なるほど。“銀風の英雄”はずいぶん穏やかに暮らしてる」
リズレの声が低くなる。
「その名で呼ぶな」
「だが事実だろ?」
男は窓枠に肘を置いた。
「お前が封印を止めた。三人の証言もある」
「勝手に言ってるだけだ」
「違うな」
男は静かに言った。
「あの場にいた俺にはわかる」
部屋が静まる。
リズレの指先がわずかに動く。
男は視線を外さない。
「あの瞬間、お前は確かに風を使った」
「……」
「崩壊の流れが変わった」
シェリアが低く言う。
「あなた、現場にいたの」
「ああ」
男は頷く。
「死にかけながら見てた」
そして小さく笑った。
「だから他の連中よりは正確だ」
リズレは黙ったまま男を見る。
男は続けた。
「お前、自分じゃ気付いてないだろ」
「何を」
「封印そのものじゃない」
男の声は静かだった。
「お前が止めたのは、“崩壊の連鎖”だ」
アレンの手が止まる。
シェリアの目が細くなる。
フィオネだけが静かに男を見ていた。
男は窓の外で続ける。
「あと数秒崩れてたら、山ごと吹き飛んでた」
「村も街道も全部消えてた」
リズレは言葉を失う。
男は肩をすくめた。
「だから英雄扱いされてる」
「中央の連中は盛りすぎだが、ゼロじゃない」
夜風が静かに吹き込む。
リズレは初めて、自分の沈黙の理由が少しわからなくなっていた。