薬師アレンとエルフのリズレ   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー

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英雄ごっこ

 

薬屋の空気が、静かに張り詰めていた。

 

窓の外では夜風が揺れている。

 

だが室内だけが妙に重い。

 

リズレは黒外套の傭兵を見つめたまま動かなかった。

 

「……崩壊の連鎖?」

 

男は頷く。

 

「ああ」

 

低い声だった。

 

「封印そのものは、もう半分壊れてた」

 

「誰がやっても完全停止は無理だった」

 

シェリアが静かに口を開く。

 

「中央の解析と一致してる」

 

リズレの眉が動く。

 

男は続けた。

 

「だが、お前の風で流れがズレた」

 

「暴走が一方向に逃げたんだ」

 

アレンが腕を組む。

 

「偶然じゃないのか」

 

「偶然だろうな」

 

男はあっさり言った。

 

「本人もそういう顔してる」

 

リズレは露骨に嫌そうな顔をした。

 

フィオネが吹き出す。

 

「確かに」

 

だが男は笑わなかった。

 

「けど結果は変わらない」

 

「数秒あれば避難できた」

 

「封印の波が散ったことで、生き残った奴がいる」

 

部屋が静かになる。

 

リズレは視線を落とした。

 

自分はただ、生き残るために風を使った。

 

熱を逃がし、視界を開き、崩れる衝撃を逸らしただけ。

 

だがその“だけ”が、誰かの命を繋いでいた。

 

アレンが低く言う。

 

「それで英雄扱いか」

 

「人間は結果で騒ぐ」

 

男は窓枠に寄りかかった。

 

「特に“滅びかけた後”はな」

 

フィオネが頬杖をつく。

 

「でもまあ、英雄譚って大体そういうものよね」

 

「勝手に作られる」

 

リズレがぼそっと言う。

 

「そうそう」

 

フィオネは気楽に頷いた。

 

「本人の意思とか関係なくね」

 

シェリアも否定しない。

 

「すでに中央では固定された」

 

「“銀風の英雄”」

 

その二つ名に、リズレが深くため息を吐く。

 

「最悪だ」

 

すると黒外套の男が、初めて少しだけ笑った。

 

「まだマシだ」

 

「……何が」

 

「中央じゃ今、“風で封印を縫い直したエルフ”って噂まである」

 

沈黙。

 

フィオネが肩を震わせる。

 

シェリアが顔を覆った。

 

アレンが真顔で言う。

 

「盛られすぎだろ」

 

「だろ?」

 

男は即答した。

 

リズレはもう反論する気力もなかった。

 

頭が痛い。

 

その時、外からまた声が響いた。

 

「英雄様ー!」

 

リズレがぴくりと反応する。

 

「銀風の英雄様いるー!?」

 

子供の声だった。

 

窓の外を見ると、昼間の少女が友達を連れてきている。

 

手には木の枝。

 

完全に英雄ごっこだった。

 

「見て! 風の剣!」

 

「俺ケルベロス役やる!」

 

「じゃあ私が英雄!」

 

リズレは真顔になる。

 

「やめろ」

 

だが子供たちは楽しそうだった。

 

アレンが小さく笑う。

 

本当に少しだけ。

 

リズレがそちらを見る。

 

「……今笑ったな」

 

「笑ってない」

 

「笑った」

 

「気のせいだ」

 

フィオネがにやにやする。

 

「アレン、最近ちょっと楽しそうだよね」

 

「面倒事が増えただけだ」

 

「英雄と暮らしてるから?」

 

「怪我人を泊めてるだけだ」

 

即答だった。

 

だがリズレは少しだけ黙る。

 

英雄。

 

その言葉はまだ嫌いだった。

 

けれど窓の外の子供たちは、恐怖ではなく笑っていた。

 

それが妙に、胸に残った。

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