薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
⸻
夜になる頃には、ようやく人の波も引いていた。
薬屋の外は静かだった。
昼間あれほど騒がしかったのが嘘みたいに、聞こえるのは虫の声と、遠くの川の音だけ。
アレンは戸締まりを終えると、小さく息を吐いた。
「……やっと帰ったか」
フィオネが椅子にだらりともたれかかる。
「すごかったねぇ。英雄人気」
「二度と来るな」
リズレは即答した。
昼からずっと人に見られ続けていたせいで、完全に疲れ切っている。
シェリアは窓の外を確認してから頷いた。
「少なくとも今夜は静か」
黒外套の傭兵も、いつの間にか姿を消していた。
残ったのは、いつもの薬屋だけだった。
薬草の匂い。
火の落ちた鍋。
古い木の軋む音。
その静けさに、リズレはようやく肩の力を抜く。
アレンが湯を沸かし始めた。
「飲むか」
「……何を」
「落ち着くやつ」
フィオネが笑う。
「雑な説明」
「伝わればいい」
しばらくして、湯気の立つ椀が並べられる。
薬草茶だった。
苦味は弱い。
代わりに少し甘い香りがした。
リズレは受け取って、一口飲む。
温かい。
昼間ずっと張っていた神経が、少しだけ緩む。
フィオネは椀を両手で持ちながら言う。
「でもさ」
「何だ」
「リズレちゃん、結局一回も否定しきれなかったね」
リズレが眉をひそめる。
「していただろ」
「“英雄じゃない”とは言ってた」
フィオネは湯気越しに笑う。
「でも、“助けてない”とは途中から言わなくなった」
静かになる。
リズレは視線を落とした。
アレンは何も言わず、薬草を束ねている。
シェリアだけが静かにリズレを見る。
しばらくして、リズレは小さく息を吐いた。
「……わからない」
珍しく弱い声だった。
「私は、生き残るために動いただけだ」
「でも結果として助かった人がいる」
「それを“救った”と言われても、実感がない」
フィオネは静かに聞いていた。
茶化さない。
ただ穏やかに笑う。
「別に実感なんてなくてもいいんじゃない?」
「無責任だな」
「英雄って大体そんなものよ」
リズレは呆れた顔をする。
だが少しだけ、昼より表情が柔らかかった。
その時、アレンがぼそっと言う。
「少なくとも」
全員の視線が向く。
アレンは薬草から目を離さないまま続けた。
「助かったやつは、お前に感謝してた」
リズレは黙る。
昼間の少女を思い出す。
小さな花束。
嬉しそうな顔。
アレンは淡々と言った。
「なら、全部否定する必要もないだろ」
部屋が静かになる。
火の残り香だけが揺れていた。
リズレは椀を両手で包み込む。
温かい。
その熱を確かめるみたいに、ゆっくり息を吐いた。
「……変な男」
アレンは小さく肩をすくめる。
「よく言われる」
フィオネが吹き出した。
シェリアまで少しだけ笑った。
ようやく薬屋に、いつもの静かな夜が戻っていた。