薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
翌朝。
薬屋の中には、穏やかな朝の空気が流れていた。
窓から差し込む光が棚の薬瓶を照らし、乾燥中の薬草が微かに揺れる。
アレンは朝の仕込みをしながら、手際よく薬草を刻んでいた。
フィオネは机に頬杖をつき、ぼんやり外を眺めている。
シェリアは静かに窓際に立っていた。
その時。
「リズレがいない」
シェリアの言葉に、アレンが手を止める。
店の奥を見る。
寝台は空。
外套もない。
フィオネが小さく笑った。
「朝から散歩?」
「する性格か?」
「しないわね」
即答だった。
アレンは小さく息を吐く。
「森か」
リズレが人目を避けたい時に行く場所など限られている。
昨日はあれだけ騒がれたのだ。
一人になりたくなるのも分かる。
ただ問題は――まだ怪我が治り切っていないことだった。
フィオネが肩をすくめる。
「迎え行く?」
アレンは少しだけ考えた。
放っておいても、多分戻ってくる。
だが、リズレは無理をする。
本人だけが“平気だ”と思っているタイプだった。
シェリアが静かに言う。
「確認くらいはした方がいい」
「……そうだな」
アレンは刻みかけの薬草を置いた。
「すぐ戻る」
「はいはい。迷子の猫探しね」
「お前、本人に聞かれたら刺されるぞ」
「半殺しで済めば優しい方」
その頃。
リズレは森の奥を歩いていた。
朝露が草を濡らし、冷たい空気が肺に入る。
静かだった。
街と違って、誰も自分を見ない。
英雄だの救世主だの、そんな言葉もここにはない。
リズレは木にもたれ、小さく息を吐いた。
そして脇腹へ手を当てる。
「……まだ残ってるかも」
傷は塞がっている。
普通に歩くだけなら問題ない。
だが深く動くと、鈍い違和感が走った。
痛みと言うほどではない。
けれど完全ではない。
だから確認しに来た。
どこまで動けるか。
戦えるか。
身体が鈍っていないか。
その時。
ガサリ、と茂みが揺れた。
灰色の魔狼が姿を現す。
二匹。
低い唸り声を上げながら距離を詰めてくる。
リズレは小さく目を細めた。
「丁度いい」
剣を抜く。
一匹が飛びかかった。
速い。
だがリズレは半歩だけずれ、首筋へ刃を走らせる。
血飛沫。
そのまま二匹目が横から迫る。
リズレは剣で爪を受け流し、反転して斬り払った。
魔狼が地面を転がる。
そこで脇腹に鈍い違和感が走った。
「……っ」
一瞬だけ眉を寄せる。
傷が軋む。
動けないほどじゃない。
だが無理をすれば開く。
リズレは小さく息を吐き、剣を鞘へ戻した。
「まだ完全じゃないか...」
認識を改めた、その時だった。
「やっぱりいた」
聞き慣れた声がした。
リズレが振り返る。
木々の間から現れたのはアレンだった。
薬草籠を片手に持っている。
どうやら探しに来るついでに採取もしていたらしい。
リズレは呆れたように眉をひそめた。
「何しに来た」
「薬草採りとついでにお前の確認」
「ついでなのね」
アレンの視線が自然にリズレの脇腹へ向く。
僅かな庇い方。
呼吸の浅さ。
それだけで察したらしい。
「痛むのか」
「違和感程度ね」
「つまり痛むんだな」
「……」
否定しなかった。
アレンは小さく息を吐く。
「治りかけで無茶すると長引くぞ」
「動けなくなるほど弱くない」
「そういう話じゃない」
淡々と返される。
リズレは少し黙ったあと、視線を逸らした。
森の風が枝を揺らす。
静かな空気だった。
アレンは薬草を籠へ放り込みながら言う。
「確認できたなら戻るぞ」
「子供扱いしない」
「怪我人扱いしてるだけだ」
リズレは露骨に嫌そうな顔をした。
だが完全には否定しない。
その反応を見て、アレンは少しだけ口元を緩めた。
「歩けるか?」
「当然」
そう言って歩き出す。
ただ、ほんの少しだけ速度は遅かった。
アレンは何も言わず、その横を並んで歩いた。