薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
数日が過ぎても、リズレの動きはまだぎこちなかった。
寝返りを打つたび、肋の奥が鈍く痛む。
呼吸はできる。歩くこともできる。けれど「何も感じないふり」を続けていると、ふとした瞬間に身体が思い出す。
戦いの最後。
爪が肉を裂いた感触。
魔力が焼けるように通り抜けた衝撃。
「……っ」
リズレは小さく息を詰めて、布団の端を握った。
薬屋の中は静かだ。
アレンは外に薬草を取りに出ている。
その静けさが、逆に落ち着かない。
誰もいないと、自分の“弱さ”だけが浮き上がる。
ゆっくりと寝台から降りる。
床に足をつけた瞬間、少しだけ視界が揺れた。
「まだか……」
誰に言うでもなく呟く。
治っているはずなのに、治りきっていない。
体じゃない。
感覚の方だ。
剣を握る動きが、まだ“戦場のまま”になっている。
⸻
台所の方から音がした。
アレンが戻ってきたらしい。
リズレは反射的に姿勢を正そうとして――やめた。
意味がない。
あの男は、そういうところを見ていない。
案の定、アレンはいつも通りだった。
「今日は歩けるか」
「歩けるけど」
「無理はするな」
それだけ言って、薬草を束ね始める。
淡々としている。
気遣いなのか、ただの習慣なのか分からない。
リズレは少しだけ黙ってから言った。
「……普通、もっと心配するでしょ」
「してるだろ」
「してるように見えない」
アレンは手を止めないまま答える。
「見せる必要あるか?」
その言葉に、リズレは少しだけ詰まる。
⸻
夜。
薬屋の灯りは小さい。
リズレは椅子に座っていたが、ふとした瞬間、指が震えた。
理由はない。
ただ、体が勝手に警戒する。
音がないのに、何かが近い気がする。
「……っ」
短く息を吐いて、机に手をつく。
その様子に気づいたアレンが、視線だけ向ける。
「痛むか」
「違う」
即答したあと、少し間を置く。
「……違うんだけど」
言葉が続かない。
説明できない違和感。
戦場にいた時間が、まだ身体の奥に残っている。
アレンは少しだけ黙ってから、薬草を刻む手を止めた。
「座れ」
「座ってる」
「寝ろじゃない。そこにいろ」
意味の曖昧な指示。
リズレは眉をひそめる。
「何それ」
「今、立つ必要ないだろ」
その一言で、妙に力が抜けた。
⸻
しばらく沈黙が続く。
リズレはぽつりと呟いた。
「……戦うのって、こんなに残るものだっけ」
アレンは少しだけ間を置く。
「残るやつは残る」
それだけだった。
慰めでもないし、否定でもない。
ただの事実。
リズレはその言葉を、少しだけ噛みしめるように聞いていた。
まだ終わっていない。
戦いは終わったはずなのに。
身体の中では、まだ続いている。
でも今だけは、その続きを誰にも見られていないことが、少しだけ救いだった。