薬師アレンとエルフのリズレ 作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー
朝の光が薬屋の中に薄く差し込んでいた。机の上には昨夜まとめて乾燥させた薬草が広げられている。葉、根、花弁。どれも似たような色と形で、外から見ればただの“草の山”にしか見えない。
リズレはその前に座り、眉をひそめた。
「これ……全部同じじゃない?」
「違う」
アレンは短く言っただけで、手元の仕分けを続ける。
それで終わりだった。
説明はない。補足もない。
リズレは小さく息を吐いた。
「そういうの、もう少し丁寧に言えないの?」
「丁寧にしても変わらん」
即答だった。
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リズレは渋々、目の前の一束を指でつまむ。
乾いた葉の感触。少しだけ土と雨の匂いが残っている。
「で、これは?」
「解熱用」
次。
「これは?」
「止血」
「こっちは?」
「毒草の近縁種。混ぜると危ない」
さらりと告げられ、リズレの手が止まる。
「……そういうの、先に言ってよ」
「言った」
「今のは注意じゃなくて事実でしょ」
アレンは視線も上げない。
「事実は注意だろ」
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リズレはもう一度、机の上を見る。
同じように見える葉の中に、何か違いがあるらしい。
だが、それがどこなのかは分からない。
戦場では、そんなことを考える必要はなかった。
見えるのは敵か、それ以外かだけだ。
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「お前さ」
アレンがふと手を止めた。
「戦ってる時も、こういうの見てたのか」
リズレは少しだけ言葉に詰まる。
「……見てないわよ」
「じゃあどうしてた」
「全部“終わらせるもの”だったから」
短く、それだけ。
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アレンはそれ以上聞かなかった。
ただ、少しだけ仕分けの手が遅くなる。
その沈黙が、妙に落ち着かない。
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リズレはもう一度薬草に触れる。
さっきよりは、少しだけ違って見える気がした。
どれが正しいのかは分からない。
でも、間違えたら困るということだけは分かる。
それだけで十分だった。
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「……難しいわね」
ぽつりと漏らすと、アレンはようやく視線を上げた。
「最初はそんなもんだ」
その一言は淡々としていたが、否定はしなかった。
リズレは少しだけ息を吐く。
そして、もう一束だけ手を伸ばした。
さっきより少し分かりやすい位置。
それだけで、妙に“扱う前提”になっている気がした。
指先で軽く触れる。
乾いた葉は思ったより柔らかく、ほんのわずかに甘い匂いがした。
「……これが、ちゃんとしたやつ?」
「そうだ」
アレンは短く答える。
リズレはそれを見つめたまま、小さく眉をひそめた。
「見分け方、適当すぎない?」
「適当じゃない」
「でも説明は雑」
「必要なら覚えるだろ」
その言い方は、突き放しているようで、妙に当然だった。
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リズレはふっと息を吐く。
「戦場だとさ、そういうの全部いらなかったのよね」
アレンは手を止めないまま「知ってる」とだけ言う。
それだけで終わるのが少し腹立つ。
でも、同時に楽でもあった。
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しばらく、二人とも黙ったまま薬草を分ける時間が続いた。
リズレはときどき間違えて、アレンに無言で直される。
そのたびに少しむっとするが、不思議と嫌ではない。
怒られるわけでもなく、責められるわけでもない。
ただ、そこに“置き直される”だけだ。
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「ねえ」
リズレがぽつりと言う。
「これ、できるようになったら何になるの?」
アレンは少しだけ考えてから答えた。
「死ななくなる」
あまりにも短い答えだった。
リズレは一瞬だけ言葉を失う。
「……それ、わりと重要ね」
「重要だろ」
アレンは淡々と続ける。
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その言葉が、少しだけ胸に残る。
戦場では“どう生きるか”より、“どう終わるか”の方が近かった。
でも今は違う。
終わらないためのものを、目の前で触っている。
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リズレはもう一度、薬草を見つめる。
さっきより、少しだけ形が違って見えた。
完全には分からない。
でも「間違えたらいけない」という感覚だけは、はっきりしている。
それで十分だった。
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「アレン」
「ん」
「これ、全部覚えたら褒める?」
アレンは少しだけ間を置いてから言う。
「褒める必要あるか?」
「あるでしょ普通」
「なら、その時考える」
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その曖昧な返事に、リズレは小さく笑った。
ちゃんとした答えじゃないのに、不思議と悪くない。
薬草をもう一度指で整える。
今度は、少しだけ迷いが減っていた。