薬師アレンとエルフのリズレ   作:ルゥー創作するのは間違っているだろうかー

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英雄

 

フィオネが来てから、薬屋の空気は少しおかしくなった。

 

静かだった場所に、妙な生活音が増えたのだ。

 

「ねえアレン、この薬草なに?」

 

「触るな。乾燥中だ」

 

「へぇー、でも匂い好きかも」

 

「燃やすと毒になる」

 

「危な」

 

そんなやり取りが朝から続く。

 

リズレは窓辺に座ったまま、じっとその様子を見ていた。

 

落ち着かない。

 

フィオネという女は距離感が妙だった。

 

エルフは普通、人間にあそこまで無防備に近づかない。

 

なのに彼女は、まるで昔からここにいたみたいな顔をする。

 

「アレン、お茶ある?」

 

「勝手に飲むな」

 

「じゃあもらうね」

 

「聞け」

 

フィオネは笑いながら棚を開ける。

 

アレンは止めない。

 

止めても無駄だと理解した顔だった。

 

そのやり取りに、リズレの眉がぴくりと動く。

 

シェリアは壁際で腕を組みながら、小さく呟いた。

 

「……馴染むのが早い」

 

「早すぎる」

 

リズレは即答した。

 

フィオネは湯気の立つ茶を持ったまま振り返る。

 

「だって居心地いいんだもん、この薬屋」

 

「普通は警戒する」

 

「人間を?」

 

「……アレンを」

 

その言葉に、一瞬だけ空気が止まる。

 

フィオネはきょとんとして、それから笑った。

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

逆に言葉が詰まる。

 

アレンは黙ったまま薬草を刻んでいる。

 

フィオネは椅子に腰掛けると、頬杖をついた。

 

「優しいじゃん、この人」

 

「変人だ」

 

「そこは否定しない」

 

アレンがぼそっと返した。

 

フィオネは吹き出す。

 

シェリアまで小さく視線を逸らした。

 

リズレだけが納得いかない顔をしていた。

 

その時、外から馬の足音が聞こえた。

 

複数。

 

薬屋の前で止まる。

 

空気が変わる。

 

アレンの手が止まり、シェリアの目が細くなる。

 

フィオネだけが「来たかぁ」と軽く呟いた。

 

次の瞬間、戸が勢いよく開いた。

 

入ってきたのは武装した男たちだった。

 

傭兵。

 

そのうちの一人が、室内のリズレを見た瞬間、目を見開く。

 

「いたぞ!」

 

「銀髪のエルフだ!」

 

「本物だ!」

 

声が一気に重なる。

 

リズレが顔をしかめる。

 

フィオネは楽しそうに茶を飲んでいた。

 

傭兵の一人が懐から紙を取り出す。

 

そこには雑だが特徴を捉えた似顔絵。

 

銀髪、長耳、鋭い目。

 

完全にリズレだった。

 

「やっぱりだ……!」

 

男は興奮した声で続ける。

 

「封印崩壊を止めた英雄!」

 

リズレは深くため息を吐いた。

 

「違う」

 

「またまた!」

 

別の傭兵が勢いよく言う。

 

「俺たち見たんだ! あんたが風を起こした瞬間、崩壊が止まった!」

 

「いやあれは視界を——」

 

「しかも一人でケルベロスと戦ったんだろ!?」

 

話が膨らんでいる。

 

リズレのこめかみが痛くなる。

 

アレンが静かに口を開いた。

 

「騒ぐな。怪我人だ」

 

その一言で、傭兵たちがぴたりと止まる。

 

妙に迫力があった。

 

フィオネが小さく笑う。

 

「アレン、怒ると怖いね」

 

「怒ってない」

 

「怖いよ?」

 

リズレは頭を押さえたまま呟く。

 

「……帰りたい」

 

するとフィオネがにやっと笑った。

 

「でもさ、英雄様」

 

「その呼び方やめろ」

 

「案外、似合ってるよ?」

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