転生した女(オレ)って話【美少女といちゃつきたいのに俺が美少女なせいでイケメンしか寄って来ん】   作:りりらりら

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注意事項は前話の前書きをお読みください。
読了後の苦情は受け付けておりません。





第一話|少女、勝ち馬に乗りて【ドキドキ!波瀾万丈婚約者!】

 

 

 

 

 

 

第一話「少女、勝ち馬に乗りて」

・邂逅!婚約者

 

 

 

 

 

 

 

神様とやらの声が聞こえなくなると、また視界が光に包まれて、体が急に重みを増してきた。

 

曖昧だった感覚も戻ってきて、顔から下が柔らかいものに覆われているような、いや、これはベッドだな。

 

恐る恐る目を開けるとそこは、見慣れない天井だった。

身体を起こして手や足を動かしてみる、ちゃんと動くし、病気や怪我もなさそうだ。

にしても綺麗な身体だな、服もヒラヒラで、寝巻きにしては邪魔だろと思わずにはいられない。

 

ベッドから降りて、さっそく姿見に自分を写してみる。

 

「うわっ、なんだこいつ!超バチクソに可愛いじゃねぇか!!」

 

そう、そこにいたのはまさしく美少女、千年に一度レベルの逸材。

 

艶やかで絹のような長い白い髪。星空のような青みがかった紺の瞳。

 

少し心配になるくらい痩せ細って白い肌。

 

さっすがは俺!転生してもレベチだなぁ。

あ、そっか、この子、俺か………。

 

「ハァァーーーー…………」

 

くそっ、なんで俺女なんだよ…前世でこんなクソ美人に会いたかった…まじで…。

俺がなっちゃダメだろ…俺がこの子に会いてぇよ…。

 

ん?てことは…?

 

自分の下半身をそっと触ってみる。

 

「うああああああああああっ!!!!!!」

 

俺は、わかってたとはいえ、その場に泣き崩れた。

ない、ないっ。俺の大事な…息子がっ…。

なんと悲しいことだ、今のところ何よりもショックだ……。

 

いや、待て、落ち着け、そうだ、あの神の言葉を思い出せ。

"女を助けたら男にしてやる"

確かにあいつはそう言った。

よし、やるぞ、やってやる!俺はなんとしてもお前を取り戻すからな!息子よ!待ってろ!

 

 

 

さて、気を取り直して辺りを見てみると、バカ広くて下手したら、いや確実に俺のタワマンの部屋より広い部屋。これでもかとフカフカなベッド、クローゼットにてんこ盛りな可愛い服や靴の数々。他にも見て取れる情報を元に考察すると、この女は金持ちの令嬢か、それとも貴族ってところか。

 

転生あるあるだな、よしよし。

 

いや、転生あるあるってなんだよ。こんな異常現象がそうホイホイあってたまるかっ、て。

 

……ま、まぁ、それは一旦置いといて…。

 

こんな謎現象について真面目に考えると頭がおかしくなりそうだ…。

 

俺がモテモテハーレムのためにやるべきことはまず、可能な限りの女を救うこと。

 

そしてこいつ、いや、女(オレ)のことを幸せにすること。

 

なるほどな、うんうん。

 

いやわかんねぇよ!!!幸せとか漠然としたこと言ってんじゃねぇーーーよ!!!

 

いや、落ち着け俺、オレを幸せにする、よく考えてみろ?

 

異世界ものの女の幸せと言えばそう、王子とかと結婚することなんじゃないか?

 

ああ、それだ!うん、これで行こう!

 

よし、とりあえず目標は仮決定として、あとは…。

 

その時、ドアの向こうからノックが聞こえた。

 

 

「お嬢様、おはようございます、お召し物を替えに参りました」

 

「え?ああ」

 

 

お召し物を替えるってことは、こいつはメイドってところか、それにしても、転生して早々、女の子に着替えさせて貰えるなんて最高だなぁ。

 

 

「失礼します、お嬢様、昨晩はよく眠れましたか?」

 

 

そう言って入ってきたのは黒髪を一つ結びにした。シュッとした清楚な女性だった。気のせいか分からないが、目に光がない。どことなく生前のマネージャーを思い出す。

 

 

「え、ああもちろん、そりゃグッスリ」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 

"えっ"てなんだよえって、まさかオレはあんま健康的な奴じゃないのか?だとしたら、俺が引き継いだのは記憶だけじゃなくて運動神経とか、他のも一緒に引っ張られてんのか?

 

 

「こ、これは大変な失礼を!なんでもございません…」

 

「おお、そうか」

 

「ええと…では、本日のご予定はいかがしましょうか?一応、ルーベルハインツ家からお茶会のご招待が来ていますが…」

 

「ああ、そうか。何時からだ?」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 

なんだよ、またかよ。なんなんだその反応は。まさかこのお嬢ちゃん、相当な引きこもりか?

 

ならこんな活発な感じでいくと流石にギャップがあり過ぎるか。

 

ま、不審に思われないようそれなりに取り繕いはするが、もう素で話したし、それほど不審がられてないからこのメイドにはこのままでいくか。

 

 

「ここ…これはまた大変な失礼を致しました!かしこまりました。直ちに準備を」

 

 

そう言って、メイドがパンッと2回手を叩くと、ぞろぞろと数人のメイドが入ってきて、俺はあっという間に茶会用の重いドレス、ワンピース?に着替えさせられた。

 

悪いな、俺は女物の服には興味が薄いんだ。

 

ていうか、だいぶ端折ったが、かなり手の込んだ身支度だったからな?なんであんなに何枚も何枚も布を重ねるんだよ。

 

現代のお手軽ファッションが恋しい…

 

 

「お嬢様、馬車の準備が整いました」

 

「おお、じゃ、早速行くか」

 

初、異世界観光へ!

 

 

 

 

 

 

 

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馬車に乗るのは生前も含めて初めてだったが、貴族用なのかかなり豪勢な作りで、そこまで乗り心地は悪くなかった。

 

ふと窓から俺が出て来た屋敷を眺めると、やっぱりというか、とんでもなくでかい建物だった。

 

なんとなく予想はついていたが、ここはヨーロッパ風の少し昔の世界らしい。

 

俺が昔主演をやった転生系ラノベもそういや、こんな世界観だった気がするが、こういうのがテンプレなのか?あまり好き好んで読んだことはないから分からんな。

 

外に出るまでにみた屋敷もだだっ広くて、しばらくは迷いそうだ。

 

景色を見ると、この辺りはそこまで都会ではないらしく、のどかな牧場や田園風景に近いなんとも田舎らしい風景が広がっていた。

 

俺は生まれも育ちも東京都だからな…田舎なんて、たまにロケで行くくらいか…そういえば最後に出演した映画の撮影地もそこそこ郊外の田舎だったような…。

 

……あの作品、まだ舞台挨拶やってなかったよな…マネージャー、悲しんでるかな、いや、俺みたいなクズから解放されて喜んでたりして。

 

 

「お嬢様、いかがなさいました?もしや具合が優れないのでは…」

 

「ん?いや、大丈夫。ただちょっと…」

 

「…いいところだよな。ここは」

 

「え?ええ。そうですね。旦那様は素晴らしい領主ですから…あっ」

 

「へぇ、そうか」

 

 

俺は窓の外を見ながら小声でそう言った。

 

だから、なぜか青ざめているメイドの顔も、見ることはなかった。

 

しかし俺がなんの反応も示さないと分かると、メイドは不思議そうに俺を見つめた。

 

それからしばらく、馬車に揺られながらそれなりにたった頃、遠くからでもわかるほど馬鹿でかい屋敷が見えてきた。

 

メイドの話では、あくまであれはいくつもある邸宅のうちの一つにすぎないらしい。

 

本邸は王都にあるのだとか。

 

恐ろしく金持ちだな。

 

しばらくして屋敷に着くと、早速あっちのメイドが出迎えた。

 

 

「ようこそお越しくださいました。アメリア・カーネスト様。この度は我が主人の招待をお受けいただき、使用人代表として誠に感謝致します。坊ちゃんはこの日をどんなに心待ちに…」

 

「あー、どうもどうも」

 

 

俺は柄にもなくこのメルヘンでファンタジーチックな建物にワクワクして、軽い挨拶だけをして、中へズカズカ入っていった。

 

 

「……あの、カーネストのお嬢様、何か体調がお変わりに…?」

 

「いえ、私にもよく…今朝から何か様子がおかしいとは思うのですが…」

 

 

そんなメイド達の話も俺の耳には入らなかった。

 

 

 

 

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「へぇー、ふーん、中もめちゃくちゃいい感じの高級ホテルって感じだな。北欧のガチ貴族もこんな家に住んでんのかな」

 

 

俺は案内のメイドを振り切って(というかはぐれて)屋敷内を勝手に見てまわっていた。

 

道中出会う使用人達がなぜか奇怪な目を向けてくるのも無視して、俺は数十年ぶりの低い目線から、見慣れない景色を堪能した。

 

 

「あれってカーネスト家の?」

 

「ずいぶんお久しぶりに見かけましたわ…なぜこんなところに?」

 

「もう坊ちゃんとは会われたのかしら?」

 

「ならば、なぜお一人で居られるのです?」

 

「声をかけた方がいいのかしら…」

 

 

ひそひそと、メイドや使用人、執事たちが怪訝そうに様子を語りながら、手を止めてこちらを見ている。

 

そんな中、軽快な足取りで彼らに近づく、身なりの違う1人の少年がいた。

 

 

「いいえ、大丈夫ですよ。それには及びません」

 

「え?」

 

「まあ!」

 

 

流石に周りがうるさくなってきたと感じた頃、明らかにさっきとは違う、ざわざわとする気配を感じると、背後から突然声をかけられた。

 

 

「ご機嫌よう。リア。うちに来るのはずいぶん久しぶりだね。僕に挨拶もなしに、何をしているんだい?」

 

 

振り返ってみると、そこに居たのは緋色の髪をした、若緑色の瞳をした、爽やかなイケメンだった。

 

まだ若い…というより幼いというのに、もう生前の俺に近しい美しさだ。ま、俺の方が上だがな。

 

ただ、一緒にいると、どことなく落ち着かない雰囲気を感じる。なんというかこれは…圧?

 

 

「これは失礼しました、ええと…ルーベル〜…んん様。私、少々、久方ぶりのお出かけでしたので、迷ってしまいましたの」

 

 

目の前の美少年はなおも絶えず微笑みを浮かべているが、口を開き、話題を移す気配はない。

 

流石に名前を誤魔化すのは無理があったか?いや、覚えきれねぇよ。こちとら人の名前に加えていくつの役柄名覚えさせられたと思ってんだ。

 

いや、その言い方だと覚えてなきゃまずいか?まーそんなことはいい!

 

とにかくもっと上手くやらないと。俺のモテハーレムのためにも…!

 

 

「……ごめんなさい。本当は、あなたに会うのが少し怖くて…私、まだあなたに相応しい人でいられてるかしら」

 

 

どうだ。見たかこの俺の名優たる演技力!オトコの娘の役だってこなせるんだぞ!

 

まあ、言ってることは当てずっぽうだが。

 

 

「リア…そうかい。そんなこと、気にしなくていいのに。お茶会のお誘いを何度無視されようとも、不問にしてきた僕の気遣いを忘れた?」

 

 

え、なんだって?

 

 

「婚約者たる僕たちが、例え少しのブランクがあったとしても、パートナーらしく振る舞うのはなんの問題もないよ。そうだろう?」

 

 

こいつが…婚約者!?

 

 

「お、男…」

 

「?」

 

 

当たり前だけど…だけどもさ…。

 

突然見知らぬ男が現れ、しかもそいつが婚約者だという避けようのない事実が俺を襲う。

 

てことは、このお嬢ちゃんを王子と結婚させてさっさと難題クリアする計画がパーじゃねえか!

 

まあ元々出来るかはともかくとして…。

 

というか…もしかしてこいつ、怒ってる?

 

 

「さ、リア。お手をどうぞ」

 

「え、ええ…」

 

 

間違いない。この静かな怒り。人心掌握に長けたこの俺でないと決して気付かない僅かな殺気に近いもの…。

 

なるほど、さっきから感じてた圧みたいなのは、こちらを完全に見下して、かけらも情を持ち合わせていないであろうこいつの怒りか…。

 

無理もない。この中世的な価値観で考えると、男尊女卑なんて当たり前、こいつからして俺はただの政略結婚で所有物みたいなもの。

 

そんな奴が誘いを断り続けてたら、まあそういう感情にもなるか…。

 

この爽やかな微笑みの裏には、冷ややかな、年齢に見合わない達観した何かがあるに違いない。

 

俺にはわかる。こいつみたいなのは、芸能界に山ほど居たからな…特に俺の周りには。

 

野心的な婚約者…か。藪蛇にならないよう気をつけるか。

 

そんなことより………。

 

名乗れよ!!誰だよお前ー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、なんやかんやありつつもここからは楽しいお茶会。

 

お茶会…お茶会ね…。

 

 

「………」

 

「…………」

 

 

さっきからひとっっ言も喋んねぇぞこいつ〜!

 

庭に移動して、美味しいお菓子をつまみ、お茶を一杯飲んでから小一時間。

 

ずっと笑ってはいるけど…さっきと同じでまるで温度のない微笑み。

 

上辺っ面中の上辺っ面だな。

 

周りにいるメイドや執事達も気まずくて仕方なさそうにソワソワしている。

 

こいつ…何が目的だ?俺に何を求めてる?

 

なんで異世界まで来て早々面倒くさいやつの腹を探らなきゃなんねーんだよ!普通もっとトントン拍子に上手くいくだろ!?

 

なんでも都合よく解釈されるとかさ、イエスマンしか居ないとかさ、ないわけ?そういうの。

 

くそっ、好きにすればいい。こっちはお前の名前をなんとしてでも聞き出してやるからな。

 

こうなったら意地でも俺自身の手で!

 

 

「んっん」

 

「?お嬢様…いかがなさいました?」

 

「お前…名前は何だったかしら」

 

「えっ、なぜ急にひそひそ声になったのですか?」

 

「いいから!答えて」

 

「アリオですが…」

 

「アリオ!」

 

「は、はい。そんなに大声でなくとも聞こえていますが…」

 

「何か?」

 

「いえ、失礼しました。なんでしょうか」

 

「ルー…ルーべ…」

 

「ルーベルハインツ…」

 

 

アリオがひそひそ声でアシストしてくれた。

 

 

「ルーベルハインツ様が!お暇にされているわ。せっかくお誘いを受けたとはいえ、こちらがお邪魔しているのだから、こちらからも何か差し上げなくてはね」

 

「あれを持ってきて頂戴」

 

またもやひそひそと、俺たちは耳打ちをする。

 

「お嬢様、あれ、とは?」

 

「いいから、何か馬車の中から探してきて!こちらが気遣いもできないと思われるのはまずいでしょう」

 

「た、確かにそうですが…一体何を?」

 

「あっ、そうよ!馬!馬を連れて来れるように準備しておいて」

 

「え!馬ですか?」

 

「そうよ、分かった?」

 

「は、はい。かしこまりました」

 

「ふふ、ずいぶん楽しそうだね。お話は終わったかい?」

 

「ええ、すみません。少し確認をしておりました。ルーベルハインツ様」

 

「確認?」

 

「はい、ところで…」

 

「ところで、君はいつまでそうやって僕をファミリーネームで呼ぶのかな」

 

「え」

 

 

急に話を遮って、そいつはいけしゃあしゃあとそう言った。

 

 

「リア、愛しい君に久しぶりに会えたんだ、もう一度、君の声で僕の名前を呼んでほしいな」

 

 

はー?急に何だよ?

 

表情から考えを読み取ろうにも、やはりニコニコとしているだけで、全く何を考えてるのか分からない。

 

何のためにそんなこと?まさか見抜かれてる?いやまさか…でも…わからん。

 

怪しまれているのか?いや、考えている暇はない、何か、何か言わないと…。

 

 

「嫌ですわ、先ほども申し上げた通り、逢瀬は久方ぶりで、私は貴方様との距離感を測りかねていますの、無礼にならないように。だから、どうかそれはまだお待ちになって」

 

「リア、無礼だなんて、そう言わずにほら。さあ言って」

 

 

こいつ…引かねえとはいよいよなんのつもりだ?

 

 

「まあ…こんなに人がいては恥ずかしいですわ」

 

「では今から2人っきりに?」

 

「そーいえば!!」

 

 

周りのメイド達がビクッと肩を揺らす。

 

 

「今から見せたいものがありますの!」

 

「え、リア?」

 

「ちょっとこちらにいらしてもらえますかしら」

 

 

何か棒読みになった気がするがそんなことはいい!

 

このままペースにのまれるのはまずい、こいつの思考はよく分からんが、ここからは俺のターンだ!

 

 

「さぁ!行きましょう、ね!」

 

「リア…?」

 

 

俺は手を引っ張ってズンズカ歩いた。

 

目指すは俺の馬車!

 

の、馬!

 

 

 

 

 

 

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「さあ、着きましたわ」

 

「お嬢様」

 

 

そこには言われた通りにした、やや困惑気味のアリオとその他数名の使用人、そして馬車から外された一匹の馬が待っていた。

 

 

「これって、君の馬車かい?」

 

「いいえ、そちらではなく、これです!」

 

 

俺は勢いよく駆け出した。

 

 

「は、ちょ、リア?」

 

「お嬢様!?」

 

 

俺はアリオの背を駆け抜け、隙をついて馬に跨った。

 

やはり運動神経は俺のものを引き継いでいるらしい。実に助かる。

 

賭けに出た甲斐があった。これはご都合展開も完全にないわけじゃないな?

 

いいぞー、そういうのどんどん出してくれ!

 

 

「今から馬で競争しませんこと?勝った方が何でも一つ相手の願いを聞く、そしてその願いの理由は聞かない。どうです?」

 

「……なんで急にこんなことを?」

 

「手土産代わりの余興に、と思いまして。乗馬は貴族の嗜み、でしょう?」

 

 

俺は上からやつを見下ろした。ヒラヒラした服がミスマッチにも程があるが、そんなこと言ってられない。

 

俺の読み通り、奴は他人から見下ろされるのは我慢ならないらしい。

 

 

「…いいよ。婚約者のわがままを叶えるのも僕の役目だ」

 

 

ほらな。簡単に食いついた。そして何というか、たまに失礼だなこいつ。現代の男女平等の価値観で育った俺には鼻につく。

 

まあ、薄っすらと感じてはいたが…。

 

 

「じゃあ、僕がコースを決めよう。馬術場までこられるかな?リア」

 

「ええ、もちろん」

 

 

ひそひそと、俺はまた耳打ちする。

 

 

「アリオ、よろしく」

 

「もう…またですか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

|

 

 

 

 

 

 

 

 

アリオの案内で馬術場に来た俺は、早速後悔することになる。

 

あのいけ好かないガキンチョの馬は見るからに王子が跨るような白馬で、完全に日々ふさわしい訓練や手入れを受けていることが一目で分かる。

 

対してこちらの馬は多分無作為に選ばれた馬車用の馬。

 

いや、お前だって貴族の馬の一頭!それなりにうまい餌を貰って手入れをされてるはず!

 

そんな顔をするな!そんな目で俺を見るな!冷や汗をかくな!お前なら出来る、俺ならやれる!

 

 

「僕の愛馬、メルだよ。そう言えば、君のその馬で僕に競争を挑むなんて、相当な自信だよね。昔から僕の馬術訓練を見に来てた君が勝負、しかも報酬ありのを挑むなんて、まさかこんな日が来るとは」

 

 

そうなの!?

 

 

「ええ、もちろん」

 

 

くそー!なんで俺はいつでも態度だけは自信たっぷりなんだー!

 

身体に染み付いているんだよー!

 

ちくしょうこのガキ…楽しそうにしやがって…。

 

仕掛けたのはこっちだってのに。

 

 

「君の馬の名前は?」

 

「ウィンホース」

 

「勝ち馬…?」

 

 

アリオ、ちょっと今は黙ってくれ。

 

 

「そうかい。よろしくね、ウィンホース」

 

 

おい、笑い堪えきれてねぇぞ性悪イケメンが。

 

手が震えてるんだよ。俺のウィンホースに触るな!

 

 

「んっん、では、早速はじめませんこと?」

 

「ああ、そうだね。コースはこの道を真っ直ぐ、あの木の下を最初に駆け抜けた方の勝ちだ」

 

「分かりましたわ」

 

 

ふーん、案外短いな。日和ったか?

 

 

「では僭越ながら私が号令を」

 

 

アリオ、なんか色々ごめんな。

 

 

「位置について、よーい」

 

 

お互いに手綱を握る、しっかりと、前を見つめて。

 

 

「スタート!」

 

 

俺は生前両親に習わされた乗馬の記憶、時代劇の撮影で教わったインストラクターの人との記憶を頼りに、精一杯の実力を出した。

 

しかし、何の差なのか、生前の記憶を持ってしても、現地の貴族の坊ちゃんには勝てなかった。

 

ったく、何で俺には転生特権的な生前の記憶ブーストがねぇんだ!

 

このままダサく負けるのか?いや、そんなことはあってはならない!意地っ張りの意地、ナルシストのナルシズムを見せてやる!

 

と、意気込んでは見ても、距離は遠くなるばかりで、ちっとも縮まらない。

 

どころか、ウィンホースは徐々に息切れしてきて、見る見るうちに輝く白馬は遠く離れていく。

 

茶色い泥馬はもう足を動かすのもキツそうだ。

 

短く見えた距離は想像よりもずっと遠く、坂やぬかるみでちっとも走りやすくない。

 

 

「ウィンホース…キツいのか?」

 

 

俺はももの付け根を軽く触った。

 

すると荒い息をして、ウィンホースはか細い唸り声を上げた。

 

ふと、生前の元カノのことを思い出した。

 

会ったのは3回くらいで、すぐに振ったが、最終的に元カノの猫の方を気にかけてたくらい、薄い関係だった。

 

あの子は泣きながら、猫にするように、少しでも情を持って労ってくれと、俺に泣きついて来たな。

 

それをきっかけにして別れたんだったか…。

 

なんで急に思い出したんだ?

 

そうだ、確かあの子、俺と付き合えたことをいたく喜んで、「ちゃんと自立して透輝くんのこと安心させるね!」と言って馬車馬のように働いたんだったか。

 

まあ、最終的には猫に嫉妬するくらい思い詰めた訳だが。

 

馬車馬を見て思い出すなんて、俺の中のイメージはだいぶそれに固定されてるらしいな。

 

にしても、そうか…労り…か。

 

俺は、くだらないハッタリのせいで、死にものぐるいになって走るウィンホースを見た。

 

そして、やっと少し冷静になった。

 

 

「ウィンホース、ありがとう。もういいよ」

 

 

俺は優しく、情を込めて、労わるように足の付け根を撫でた。

 

その瞬間、ウィンホースは目を見開いて唸り声を上げた。

 

 

「もういいんだ。あの馬…メルには勝てない。お前は俺の期待に応えてよくやってくれた。競技用の訓練も受けてないのに」

 

「ありがとう、ウィンホース」

 

 

まぁ、婚約者とはいえ、たかがガキンチョの名前だし、意地にならずに、誰かに聞けばいいか、と、やっと持ち前の冷静さを取り戻した俺がポジティブに諦めようとしたその時。

 

けたたましく唸ったウィンホースは、目つき、いや、目の色を変えて、さっきの疲れが嘘のように、風を切って走り出した。

 

 

「ウィンホース!?ちょ、ま、まて!」

 

 

何がこいつをそうさせたのか。分からないが、引退した競馬の馬達は、ふとした人間の仕草、自分へのアクションで、かつての現役時代を思い出すという。

 

もしかしたら、もしかして…。

 

もしかするかもしれない!

 

俺はもう一度手綱を握り直し、一気に背中が見えて来たあの輝く立て髪を、この目でしっかり捉えた。

 

 

「!?リ、リア?」

 

「ご機嫌よう!」

 

 

俺は追い抜き様に華麗にウインクしてみせた。

 

あの時のあいつの顔ときたら!ほんとに傑作だった!もう一度見たいよ。

 

そして、先にゴールしたのは…。

 

 

「見事!勝者アメリア様でございます!」

 

 

老齢の執事がそう告げた。

 

 

「爺や、流石にもう視力が衰えたのではないかい」

 

 

負け惜しみかー?クソガキ。ふっふっふ、悔しいだろうそうだろう。

 

 

「いいえ、坊ちゃん。この爺や、腰は痛むとも勝負事の勝ち負けを見紛うほど落ちぶれてはいません。確かにとてもとても僅差でしたが、勝者は確かにカーネストのお嬢様でしたよ」

 

「………」

 

 

ほら見たことかー!!

 

 

「ウィンホース!やったよ!!すごい、偉い!」

 

 

ウィンホースは間違いなく嬉しそうに、誇らしげに嘶いた。

 

 

「アリオ!帰ったらすぐこの子に専用の小屋を用意して!」

 

「ええ、もちろん。かしこまりました」

 

「爺や、席を外してくれるかい。メルも連れて、人払いをしてくれ」

 

「はい。承りました。どうぞ、お二人でごゆっくり」

 

「ではお嬢様、また後でお迎えにあがります」

 

「ええ、ありがとう」

 

 

2人はそれぞれ馬を連れて戻って行った。

 

俺たちは木の影に座り込んだ。

 

 

「……はぁ、見事だったよ、一体どうやって、あの馬であの速度を出せたんだい」

 

「ふふ、まぁ、そんなことどうだってよくありませんか?」

 

「え?」

 

「約束、覚えてますよね」

 

「ああ…」

 

 

やけに真剣な面持ちで、そいつは顔を変えた。

 

なんだ?そんなに人の言いなりになるのが嫌なのか?筋金入りだな。

 

 

「では、私のお願い、聞いてくれますか?」

 

「ああ。約束だ。なんでも聞こう」

 

「では、教えてください」

 

「貴方の名前!」

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

|

 

 

 

 

 

 

「あははは!はーあ、あはは!」

 

「君ね…何がそんなにおかしいんだい」

 

「いえ、すみません!とてもそんなお顔をされる方だとは思わなくて」

 

「でも、ふふ、とてもいいものを見せてもらいました」

 

「まさか、このためにこんなわけのわからないことを?いや、やめよう。理由は聞かない約束だ」

 

「では、改めて名乗ろう。僕の名前はエリック、エリック・ルーベルハインツ。君の最愛の婚約者、だよ」

 

 

流石だな、最後まで嫌みを忘れないその姿勢。見習いたいね。

 

 

「エリック様」

 

「! リア、名前を…」

 

「ふふ、これで許してくれますか?競争中にした無礼な振る舞いを」

 

「あれは…」

 

 

そう言うと、急にエリックは顔を隠してしまった。

 

やばっ、まだ怒ってる?え、どうしよう。

 

 

「ああ!そうだ!用事を思い出しました」

 

「え、ちょっと」

 

「すぐにアリオのところへ行かないと。ではこれで失礼します。今日はお招きいただきありがとうございました。ご機嫌よう!」

 

「まだ居ればいいのに…待って!」

 

「……行ってしまった」

 

「結局、あの変わり様はなんだったんだ」

 

「それに、あの件も忘れたのか?てっきりお願いはあれだとばかり…でなければ、どうして急にここに来る気になったんだ?」

 

「…途中まで確かに僕の名前を忘れていた。何か意味があるかと思えば、競争で勝って僕の名前を聞くだなんて、それに…それに…」

 

「あの僕を出し抜く時の仕草…おかしい…どうして顔が熱くなるんだ?」

 

「リア…いつから君は…どうしてそんな風に」

 

「……まあいい。理由なんて聞かなくても分かってる」

 

「あの男……君もまだ彼を…」

 

「君が出て来てくれた。このチャンスを逃さない。彼に近づくために、まだ君を利用するよ」

 

「アメリア」

 

 

 

 

 

 

 

|帰りの馬車にて

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、こんなことしてる場合じゃない。女を幸せにしないとだった」

 

「? よく分かりませんが、お嬢様は今日女の子を1人…1人?幸せにしましたよ。確かに」

 

「ん?」

 

「ウィンホースは女の子ですから」

 

「……えええ!?」

 

 

 

 

 

 

|

 

 

 

今日の成果

 

・1人…一匹 : ウィンホース

 

 

 

 

 






真面目な良作転生ファンタジーを期待していた方はもうお気付きだと思いますが。本作は頭空っぽにして読む系のやつです。次話は2話となる訳ですが、3話くらいまで読まないと訳わかんないかもしれません。力量が足りず申し訳ないです。




|おまけ



・アリオ・リグラ
最近カーネスト家にやって来たメイド。とても優秀で、既にメイド長補佐に就いている。仕事には真面目だが、熱心というほどでもなく。忠誠心的なのも皆無。時々感情が漏れるが、いたって事務的に仕事をこなす。仕事に私情は持ち込まないタイプ。適応力が高く、いい意味で塩対応。何事にも臨機応変に対応する。

貴族に仕えるメイドの教訓 : 主人について余計な詮索はしない。言われたことには従う。



・ルーベルハインツ
王家の遠縁に当たる由緒正しき血縁。王家との確執を根に持ち、因縁を引きずる厄介な元老院が一部の保守派として権力を握っている。エリックは次期当主。






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