マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest   作:マブラマ

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第10話 伝淑会の目的

コンテスト会場は、華やかな熱気が一瞬にして凍りついた。

指揮官は観客席で立ち上がり、喉が裂けんばかりに叫んだ。

「みんな逃げろ! これは演出じゃない!! 早く逃げろ!!」

しかし、その呼びかけはほとんど効果を発揮しなかった。

人々は呆然とステージ方向を見つめ、互いに顔を見合わせるばかりで、席を立つ者すら少ない。

指揮官は歯噛みした。

「(正常性バイアスって奴か……!)」 

彼はそれ以上待たず、観客席を飛び出し、ステージへと駆け上がった。

「クラウディア! ハリエット! 全員、無事か!?」

ケイトが青ざめた顔で指を差した。

「指揮官さん……あれって……!」

ステージ中央に堂々と鎮座するウォーデン型MGが、ゆっくりと上半身を旋回させていた。指揮官が叫んだ。

「とりあえず逃げるのが優先だ! あれは演出じゃない!!」

しかし、アークトゥルスの面々はすぐに事態の異常性を察知していた。

これまで数々の危機を潜り抜けてきた彼女たちの目は、すでに冷静な緊張を帯びている。クラウディアが唇を固く結んだ。

「他の人達より先にそれは出来ません!」

アークトゥルスという立場が、彼女たちから「真っ先に逃げる」という選択肢を奪っていた。

指揮官は内心で(その考え自体は、めちゃくちゃ褒めてやりたいところだが……)と思いながらも、必死に言った。

「なら、とりあえず警察に―――」

その瞬間、MGの外部スピーカーから、歪んだ女性の声が響き渡った。

《会場にいる人たちよ! 動くな! 警察への連絡はなしだ!》

直後、MGの右腕に装備された大型ライフルが、誰もいない地面に向けられた。

 

ドンッ!!

 

巨大な警告射撃が炸裂し、コンクリートの地面が大きくえぐれた。

爆風と土煙が舞い上がり、観客席に恐怖が広がった。

観客1が震える声で呟いた。

「え? 発砲?」

観客2が青ざめた。

「うそ……もしかしてガチ!?」

ようやく人々が事態の重さを理解し始め、悲鳴と混乱が爆発的に広がりかけた。

《騒ぐな! 騒ぐと撃つ!》

その脅しに、観客たちは恐怖で凍りつき、次第に頭を低くして静かになっていった。

イングヒルトも逃げ遅れ、観客たちと同じく床に屈んでいた。

司会のアマネがマイクを握ったまま、呆然と呟いた。

「えぇ……騒ぐなとか、アマネちゃんの存在意義が……」

その直後――MGの両脇、会場の複数の出入り口、そして舞台の袖から、数十人の武装した女性たちがなだれ込んできた。

武装した女性1が叫んだ。

「お前ら動くな!」

武装した女性2が銃を構えて威嚇した。

「動くと撃つ!」

武装した女性3が冷たい声で言った。

「これは脅しじゃないぞ!」

ミリアムが歯を食いしばった。

「此奴らは……!」

ハリエットが周囲を見回し、静かに言った。

「結構いますね……」

指揮官が拳を強く握りしめた。

「くそっ! 会場を囲まれたか……!」

ケイトが震える声で聞いた。

「ど、どうしましょう!?」

指揮官が必死に冷静さを保とうとした。

「落ち着け! 指示に従っている限りは手出ししないはずだ! もし傷付ける気があるなら、すでにやっているはず!」

その時、MGのスピーカーから再び声が響いた。

《我々は『伝統を愛する淑女の会』―――『伝淑会』! 本会は誇り高く由緒あるノヴァセレスを守るため、活動している! ノヴァセレスは代々貴族が、その秩序を成り立たせてきた! 貴族と平民の融和など、秩序の崩壊に他ならず、不愉快である!我々は再三に渡り、この悪しき催しに中止を申し入れてきた! しかしその要望は理不尽にも聞き届けられなかった! よって此度、実力行使に踏み切ったのである!》

クラウディアが怒りに声を震わせた。

「なんて身勝手な……!」

その瞬間――

「きゃあっ!?」

ハリエットが短い悲鳴を上げた。

舞台袖に一番近い位置にいた彼女の背後に、素早く二人の武装女性が忍び寄り、腕を捻り上げて拘束していた。

指揮官が血相を変えた。

「ハリエット!!」

その二人の女性は――ユーロ・タワーの貴族生徒2が、にやにやと笑いながら言った。「おっと、動かないでよ! 人質がどうなってもいいの!?」

ユーロ・タワーの貴族生徒3が、ハリエットの髪を乱暴に掴みながら続けた。

「本当はドロテアをとっ捕まえるつもりだったけど、なんかいないみたいだし、仕方ないよね」

ハリエットが痛みに顔を歪めた。

「ドロテア様を!? それって―――ぐあっ!」

貴族生徒2が彼女の脇腹を強く殴った。

「これ以上、殴られたくなければ、質問禁止ね」

指揮官が怒鳴った。

「てめぇ! ハリエットに何しやがる!」

貴族生徒3が嘲るように笑った。

「なに、こんな陰キャにマジギレして。もしかして教導指揮官とデキてるとか? とんだスキャンダルじゃない!」

その時、控え室の方から震える声がした。

ユーロ・タワーの貴族生徒1(リーダー)が、青ざめた顔で二人の仲間を見つめていた。「ね、ねえ……ふたりとも……どういう……こと……なの……?」

貴族生徒2が鼻で笑った。

「は? 見て分かんない? 私達も伝淑会ってこと! 実は前から繋がっていたの」

貴族生徒1の顔から血の気が引いていく。

「う、うそ……じゃあ、一緒にコンテストに出てくれるってのは……」

貴族生徒3が冷たく言い放った。

「事前に掴めた情報でドロテアが学園の外かつ、特定の時間に確実に所在がわかるのが、このタイミングだけだったからよ」

貴族生徒2が肩をすくめた。

「それ以外だと、確実性が薄かったしね。あんたがコンテストに参加するって聞いて、作戦に利用させて貰ったの」

貴族生徒3が続けた。

「私達の役目は作戦当日、確保対象であるドロテアの動向を逐一報告すること。だから参加する方が都合がよかった」

貴族生徒2が嘲るように笑った。

「……と思って控え室を盗み聞きしたらまさか警備が厳重なお屋敷でオネンネとかテンション下がったけど」

貴族生徒1が震える声で、かすかに笑った。

「そんな……私達……友達……だったよね…?」

貴族生徒2が冷笑した。

「は? あんたの価値って家柄だけでしょ? 自分で言ってたじゃない。今思うと早々にグループ抜けたあの子の判断が正しかったわ」

貴族生徒3も追い打ちをかけた。

「私達はもうちょっとあんたに付き合ってたらいいことないかなーって思ってたけど、結局そんなことなかったわね」

貴族生徒2が最後に吐き捨てた。

「なんか最近融和派に思想寄ってるみたいだし、そっち方面でも『もういいわ』って感じ?」

貴族生徒1は力なく笑い、視線を落とした。

「……そうなんだ……そっか………そっか……あははは…」

指揮官が低く問いかけた。

「それで、ハリエットを人質にする意味はなんだ? わざわざドロテアを狙ってた目的とも関係あるんだろ?」

すると、MGのスピーカーから新たな声が響いた。

《それは私が答えよう! 学園の教導指揮官殿!》

指揮官が顔を上げた。

「俺のこと知ってるのか…!」

《君は有名人だからな。うちのメンバーに学園の生徒も多くてね。さて、今回の我々の目的だが、ふたつある! ひとつはこの気色悪いエンタメフェスの即時中止! まあ、こちらは二つ目の要求が満たされれば、自然と将来的に中止どころか開催もできなくなるが》指揮官が歯を食いしばった。

「どういうことだ?」

《二つ目、それは……簡単に言えば、『アークトゥルスの貴族階級のメンバーの身柄』が欲しかったのだよ》

指揮官が息を呑んだ。

「貴族階級のメンバー?」

貴族生徒2が笑いながら言った。

「別にこの女の人質にしたかったわけじゃないわ。アークトゥルスの貴族であれば、誰でもよかった」

貴族生徒3が肩をすくめた。

「とはいえ、やっぱドロテアが一番だったけどね。それ以外は下位互換だし」

指揮官が怒りを抑えながら聞いた。

「何やらせる気だ?」

《この子を使ってノヴァセレス行政府と交渉するのだ》

「交渉?」《クソみたいな融和施策をなくせ! そう訴えるのだよ!》

指揮官は言葉を失った。

彼女達は一言で言えば、反融和派だった。

伝統への愛着、既得権益の喪失への恐怖、変化への拒絶――様々な理由が絡み合っている。

《そこの彼女が言ったように、本当はドロテア様が理想だったけどね。融和の象徴たるアークトゥルスのリーダーであり、今なお影響力を持ち、行政府にも顔の利く公爵家の令嬢――ドロテア様がいれば、交渉も幾分か楽だったはずだ。だが、今はそれが叶わないから、次点で少しでもマシな奴を連れて行くだけだね。或いは仲間を人質に取れば、結果的にドロテア様も巻き込めるかもしれないからな》

指揮官は拳を強く握りしめた。

「(ったく、ほんとどこが淑女だよ……! だが、ここで奴等の要求を突っぱねたところで、生身じゃMGには勝てないし、暴れられると観客に被害が出る……)」

その考えは、他のアークトゥルスのメンバーたちも同じだった。

ミリアムが突然声を上げた。

「――だったら、ボクも連れて行って!」

指揮官が驚いた。

「ミリアム!?」

クラウディアが慌てた。

「ミリアムちゃん!?」

ユニティ・エッジのメンバー1が止めた。

「ちょ、なに言ってんの!?」

ケイトも震えながら前に出た。

「わ、わたしも…お願いします……。ハリィちゃんだけに背負わせたくない……ですっ!」

MGのスピーカーから、楽しげな声が返ってきた。

《へえ、友情ってことかい? まあ、元々そのつもりだったけど、積極的になってくれるなら、それに越したことはないな! ふたりの積極性を免じて、この場の全員は無事解放すると約束しよう!》

指揮官が二人を見つめた。

「ミリアム…ケイト…」

ミリアムが無理に笑顔を作った。

「大丈夫……だと思う! 要は彼奴らは要求に従う限り、ボク達を傷付けないってことだよね!」

ケイトが涙を堪えながら言った。

「私達なら大丈夫です。代わりに、ドロテア様やリュシー様、警察にこのことをお伝え下さい…!」

クラウディアが歯を食いしばって頷いた。

「わかりました…」

指揮官が力強く言った。

「必ず助けに行くからな!」

ハリエットが静かに、しかしはっきりと言った。

「……ええ、待ってます。遅くなったら怒りますよ」

指揮官が頷いた。

「ああ…!」

貴族生徒2が笑いながら二人を呼んだ。

「というわけよ、2人もこっち来い!」

ミリアムが覚悟を決めて歩き出した。

「わかったよ…!」

 

 

 

 

 

何とか会場から逃げてきたシルヴィアは、物陰から状況を見守るしかなかった。

シルヴィアが低く呟いた。

「これはマズいわね……イングヒルトが人質になってる」

その時、彼女のスマホが激しく鳴り響いた。シルヴィアはすぐに通話に出た。

「私よ」

グレーテルからの声が響いた。

《シルヴィア、オベレーグを用意した。機体はアドトラックに隠している。敵を欺くには最適だ》

シルヴィアが目を細めた。

「は? あなた、何を考えて……」

《連中がここに来ることは把握済みだ。奴等は短期で負けず嫌いな貴族崩れ―――もしかすると、私達をかつていじめていた連中もいるかもしれない》

シルヴィアが小さく笑った。

「フン…オルガ達は?」

《連絡済みだ。この件について全部話したら使用を承諾してくれた。『許可出すまでもありません。自由に使ってください』と》

シルヴィアがため息をついた。

「……その様子だと、まだ学園の『生徒』のようね」

《では切るぞ。作戦は慎重に行けよ》

シルヴィアは通信を切り、冷たい視線を会場に戻した。

「わかったわ」

華やかな祭りの舞台は、今や完全にテロの舞台へと変わっていた。

しかし、その闇の中に、静かに、しかし確かに反撃の牙が動き始めていた。

 

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