マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest 作:マブラマ
コンテスト会場は完全に混乱の渦に飲み込まれていた。その時――会場の北側出入り口から、20台のアドトラックが一斉に姿を現した。
側面に大きく記された文字が、照明に照らされて輝く。
『Auf dem Weg zu einer Ära der Versöhnung zwischen Adel und Bürgertum』
―――「貴族と平民の融和時代へ」
アドトラックの荷台が次々と開き、灰色と緑の迷彩柄の精悍な機体が姿を現した。
20機の〈オベレーグ〉が、一斉に起動する。
低く唸る駆動音が響き渡り、コンテスト会場全体を震わせた。
同時刻。
講談社ブースから飛び出したホンダ・トゥデイのミニパトが、猛烈な速度で会場内を疾走していた。
運転席のドロテア・カークランド(小早川美幸コスプレ)が、鋭く前を見据えながら叫んだ。
「着いたわよ……夏実、準備はいい?」
助手席のリュシー・ムーアクロフト(辻本夏実コスプレ)が、ニヤリと笑って答えた。
「ええ、いつでも行けるわ!」
グァアアアアアアアア!!
ギャギャッ!
ブォォン!
ガアアアアアアアアアアアア!!
ミニパトはステージの階段を無理矢理駆け上がり、タイヤを激しく鳴らしながら舞台中央へと躍り出た。
ユーロ・タワーの貴族生徒2が目を剥いた。
「な、なんなの? あのミニパトは!?」
ハリエット、ケイト、ミリアムの三人が同時に息を呑んだ。
「!!!」
ブァアアアアアアア……!!
ドロテアがハンドルを切りながら叫んだ。
「夏実! 足ブレーキッ!」
リュシーが思い切りドアを開け、官給品の靴を磨り減りつつブレーキ代わりに地面を踏み込んだ。
「よっしゃあ!!」
ギャギャァァァァアアアアアアア……!!
ミニパトが派手なドリフトを決めてステージ上で横滑りし、武装した女性たちの真正面で急停止した。
武装した女性1が慌てて叫んだ。
「ヤバい……みんな逃げろ!」
《コラ! お前達逃げるな!》
ドロテアがミニパトのドアを開け、優雅でありながら力強い声で宣言した。
「墨東署よ! あなた達全員逮捕します!」
リュシーが拳を鳴らしながら降り立ち、凶悪な笑みを浮かべた。
「もう、逃げられないわよ!」
その瞬間、二人は同時に動き出した。
ドロテアは優しい笑顔のまま、しかし正確無比な手刀で武装女性の首筋を打ち、銃を奪い取る。
リュシーは野性的な動きで相手の腕を捻り上げ、背負い投げでステージに叩きつけた。
ハリエットは一瞬で気付いた。
「(あの優しい笑顔……!)」
ドロテア・カークランドだ。―――ハリエットが思わず叫んだ。
「ドロテア様……!」
ドロテアはハリエットに向かって、穏やかでありながら凛とした笑みを返した。
「大丈夫よ、ハリエット。もう怖くないわ」
リュシーが残りの武装女性を次々と制圧しながら笑った。
「遅くなって悪かったな! でも、ちゃんと間に合ったろ?」
武装した女性たちが次々と倒れていく中、MGのスピーカーから怒りの声が響いた。《我々、伝淑会はノヴァセレスの民の理想実現のため、融和施策など幻想に過ぎない!》グレーテルのオベレーグが、ステージ脇に着地しながら冷たい声で返した。
「それが貴様等の目的か……!」
《そうだ――お前達が調子に乗ってこんなふざけたイベントをやるだなんて甚だ図々しい! 平民は平民らしく貴族サマの言う事従ってればいいんだ!》
アネットのオベレーグが長刀を構えながら、怒りに満ちた声で叫んだ。
「ふざけんな! そんなの自分勝手じゃん! あんたらみたいな貴族は、ゴミ屑同然よ!」
《私はゴミなんかじゃない!!》
シルヴィアのオベレーグが電子戦ポッドを展開しながら、冷笑した。
「いいえ、ゴミよ。ゴミはゴミ箱に捨てる―――幼稚園児でも分かるわよ」
《平民如きが…!》
グレーテルが低く、しかし断固として言い放った。
「それに、貴様等みたいな屑が行政府と交渉しても無駄足だ。時代に取り残された愚かな貴族崩れが。その頭は飾りか?」
《古来より貴族が治め、導き、動かしてきた。地区に尽くし、施し、捧げ、政治、経済、権力を安定させてきた! 貴様等みたいな下品な平民共に融和なんて言ってその3つを分け与えるだと? 冗談じゃない!》
グレーテルが静かに、しかし激しく言い返した。
「……もう貴様の言い分は聞き飽きた。―――アネット、シルヴィア」
アネットが長刀を閃かせながら答えた。
「了解!」
シルヴィアが冷静に頷いた。
「潰していいのね?」
グレーテルが冷徹に命じた。
「やれ。だがパイロットは生け捕りにしろ」
《何故だ…? 何故そこまで融和施策に拘るんだ!? 何故秩序を破壊する道を選ぶ!?》
グレーテルはオベレーグのメインカメラをMGに向け、力強く叫んだ。
「秩序を破壊してるのは貴様等だろうが!」
20機のオベレーグが一斉に動き出し、ミニパトの美幸&夏実コンビと連携しながら、伝淑会の武装集団を圧倒し始めた。
グレーテル機のオベレーグが、伝淑会リーダーのMGを圧倒的な速度で接近した。
「貴様等は――――未熟だ!」
ザンッ!!
銀色の長刀が閃き、リーダー機の右腕を根元から斬り飛ばした。
火花と金属の悲鳴が響き渡る。
《ぐあっ…!!》
あっという間にグレーテル機が敵機を地面に叩きつけ、膝で胸部を押さえつけた。
武装した機体であっても、ユーロ・タワー卒業生たちの連携と技量の前には、手も足も出なかった。
アネット機が長刀を肩に担ぎ、倒れた敵機を見下ろして笑った。
「ゲームオーバーよ」
地面に倒された伝淑会のMGを、グレーテル機は容赦なく押さえ付けた。
《クソ…! こんな……》
グレーテルが冷徹に言い放った。
「我々を敵に回した時点で既に敗北してるんだ……勝てる訳ないだろ!!」
《ぐ……まだだ! この程度……!》
シルヴィア機が電子戦ポッドを展開し、敵機のシステムを乱しながら嘲るように言った。「いいえ、もう終わりよ。―――あなたは弱すぎる。相手にならないわ」
クラウディアが呆然と呟いた。
「えっと……私達の出番は?」
ユニティ・エッジのメンバー2が苦笑した。
「実況解説でもする?」
ユニティ・エッジのメンバー3が手を挙げて叫んだ。
「バトルしゅーーーりょーーー!!って、もう終わったんだけど!」
伝淑会のメンバーたちが次々と声を上げた。
「嘘でしょ……」
「リーダーが、負けた……?」
「しかもめっちゃあっさり……」
その時、リュシーが雄叫びを上げながら突進した。
「うおりゃああああああああ!!」
彼女は伝淑会の武装メンバーたちを次々と背負い投げで投げ飛ばした。
「ぐお!」
「がは!」
「げぶ!」
「く……あんなの相手してられないわ!」
逃げようとした一人が叫んだ瞬間、ドロテアが優雅にその前に立ちはだかった。
「何処に行くの?」
「!」
ドロテアが優しい笑顔のまま、手刀を放つ。
ゲシィッ!
「がぶぅぁあ!」
ユーロ・タワーの貴族生徒2が苛立って叫んだ。
「もう何よ! 邪魔してくれちゃって!」
ユーロ・タワーの貴族生徒3が拳を振り上げた。
「本当にムカつく! まずはそこの暴走婦警のコスプレしてる奴、アンタからよ!」
しかし、相手は武器を持っているにもかかわらず、ドロテアとリュシーの敵ではなかった。
動きの悪さから、伝淑会に入る前からも特訓や鍛錬をサボっていたことが明らかだった。ドロテアはさっと二人の背後に回り込み、首の後ろに手刀を叩き込んだ。
もう一人はリュシーの八極拳が真正面から炸裂し、気絶した。
「きゃっ!?」
「ぶごぉぁぁぁぁぁぁっ!!」
リュシーが倒れた二人を見下ろし、冷たく言った。
「手加減はしておいたわ。あとでしっかり罰を受けなさいよね」
ケイトが目を丸くした。
「ドロテア様……だよね?」
ハリエットが静かに、しかし確信を持って頷いた。
「ええ――――私が間違うはずがありません」
ミリアムも呆然と呟いた。
「ドロテア様…? それにリュシー様も……」
ユーロ・タワーの貴族生徒1(リーダー)は、呆然とその光景を見つめていた。
「……墨東署……それにあのミニパト……」
ドロテアが優しく微笑み、彼女に近づいた。
「もう大丈夫よ」
貴族生徒1が震える声で言った。
「え? でも……」
リュシーが乱暴に、しかし優しく頭を撫でた。
「大丈夫よ! あんたは利用されただけ。何も悪くないわ」
その瞬間、貴族生徒1の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「うぅ……うぅううう……うあああああああああああん」
ドロテアは跪き、泣き崩れる少女を優しく抱き寄せた。
「よしよし、辛かったわね。今は思う存分泣きなさい。―――あなたは……本気で謝ろうとしてくれていたのよね。ちゃんと分かっていたわ。だからこそ、こうして泣けるのよ。……よく頑張ったわね」
リュシーがそっと背中を撫でながら言った。
「……泣け泣け。溜め込んでた分、全部出せ」
貴族生徒1はドロテアの胸に顔を埋め、声を上げて泣き続けた。
これまで家柄に縛られ、取り巻きに囲まれ、偽りのプライドで自分を保ってきた彼女にとって、今日という日は心の底から崩れ落ちる日となった。
ハリエット、ミリアム、ケイトの三人も、静かにその光景を見つめていた。
ミリアムが小さく呟いた。
「……あの人、結局一番傷ついてたんだね」
ハリエットは静かに頷いた。
「ええ……」
ステージ上では、まだ散発的な抵抗が続いていたが、ドロテアとリュシーの暴走婦警コンビ、そして外部から突入したオベレーグの圧倒的な存在感により、伝淑会のメンバーたちは次々と制圧されていった。
ドロテアは泣きじゃくる少女の頭を優しく撫でながら、穏やかな声で囁いた。
「これからは……自分の人生を生きなさい。家柄でも、過去でもなく、あなた自身として」
貴族生徒1は嗚咽の合間に、かろうじて頷いた。
「……は、はい……」
華やかなコスプレコンテストの舞台は、涙と決着、そして新たな始まりの場へと変わっていた。
グレーテルはオベレーグのコックピットの中で、静かに息を吐いた。
「……これで一件落着、か」
しかし、彼女の瞳はまだ油断なく、周囲を警戒し続けていた。
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