マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest   作:マブラマ

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第12話 気に食わない感情

その後――伝淑会リーダーのMGがグレーテル機に完膚なきまでに制圧された瞬間、戦況は決した。

武装した女性たちは呆然とその光景を見つめ、次々と武器を地面に投げ捨て、両手を挙げて投降していった。

そりゃそうだ。

こちらにはユーロ・タワー卒業生たちが操る最新鋭の〈オベレーグ〉20機に加え、治安特殊部隊仕様のMGまで投入されている。

戦力差は歴然だった。

―――今更だが、彼女たちが持っていた武装はどれも貧相なものだった。

コンテスト会場襲撃時に構えていた拳銃やアサルトライフルは、ほとんどがモデルガンやエアガンなどの偽物。

唯一の本物だったウォーデン型MGも、古びたオンボロ機体で、明らかに資金難に喘いでいたことが見て取れた。

指揮官はステージ脇でその様子を眺め、苦々しく内心で呟いた。

「(伝淑会は爵位を持つ家柄のお嬢様が多いようだが、実家には黙って参加している子ばかりって話みたいだな。要するに持ち寄った『お小遣い』で、それなり形になってしまった貴族令嬢版の不良グループってところか……)」

その時、会場の外から本物のサイレンが響き渡った。

ドロテアがミニパトのボンネットに軽く腰をかけ、優雅に微笑んだ。

「あら? 本物の警察車両が到着したわ」

リュシーが金属バットを肩に担ぎ、満足げに笑った。

「一件落着ね!」

到着した警察車両の列が次々と会場内に進入し、投降した伝淑会のメンバーを次々に拘束し始めた。

その中に、ユーロ・タワーの貴族生徒2と3の姿もあった。

貴族生徒2がため息をつきながら、手錠をかけられながらぼやいた。

「はぁ……私らも終わりかぁ~」

伝淑会リーダーは、機体から警察官の一人に引き摺り下ろされ押さえつけられたまま、弱々しくも誇りだけは失っていない声で言った。

「我々は消えても、反融和派の思想が消えることはない。私達は正しい事をしているのだから」

貴族生徒3がまだ抵抗するように叫んだ。

「そうよそうよ! 正しいことをしているの! なのに、なんで私達が悪者みたいな扱いを……!」

リュシーが冷たい目で二人を睨み、金属バットを素手で握りしめた。

「正しい事をしているの―――か」

ドロテアが静かに言った。

「少しお灸を添える必要があるわね?」

リュシーは金属バットを素手でへし折った。

 

バキッ!

 

貴族生徒2と3が目を剥いた。

「!!!!」

リュシーはへし折ったバットを放り捨て、冷たく言い放った。

「……アンタ達が何を主義主張することは個人の勝手。だけどね、それを正しいと思い込んでるのは大間違いよ!」

ドロテアが優しい笑顔のまま、しかし容赦なく続けた。

「そうね。無垢な区民を傷付けたことは事実よ。救いようがないわね」

貴族生徒2が顔を歪めた。

「お前……!」

リュシーが貴族生徒1(リーダー)に向かって言った。

「アンタも何か言ってやりなさい」

貴族生徒1は少し迷った後、震える声で二人に向き合った。

「……あなた達は間違っています。『美幸』さん達の言う通り、主義主張することはともかく、それを正しいと思い込んでるのはあなた達一部界隈だけだからじゃないですか?」貴族生徒2が激昂した。

「……!!!!」

元いじめグループのリーダーは、警察の車両に乗る直前だった。

警察官たちが空気を読んで足を止めた。

貴族生徒2が吐き捨てるように言った。

「伝統を守るために正しい行いをした。それだけよ」

貴族生徒1が静かに問いかけた。

「なんで自分達の行動だけは正しいって言い切れるの?」

貴族生徒3が声を荒げた。

「言い切れるでしょ! 伝統を守らないと秩序が壊れる。秩序が壊れたらノヴァセレスが崩壊する。わからない?」

リュシーが苛立ったように言った。

「美幸、此奴ら殴っていい?」

ドロテアが苦笑しながら止めた。

「ダメよ夏実。そんなことしたら本当に『ノヴァセレスの秩序が壊れる』のと同じになっちゃうでしょ?」

リュシーが舌打ちした。

「ぐ……確かに……」

伝淑会リーダーが最後に貴族生徒1を見つめた。

「君こそどうして融和思想なんかにかぶれたんだ? 元々は私達と同じ考えだったと聞いているが」

貴族生徒1は静かに、しかしはっきりと答えた。

「私は無知だった。いいえ、自分達の『外』への理解が足りなかった。……ううん、理解しようともしてなくて、何なら敵意すら持っていた。家が没落して、周りの目が変わって、私自身の過ちにも気付いて……視点や立ち位置が変わって、私は何も理解していないことを理解したの」

ドロテアとリュシーは黙ってその言葉を聞いていた。

貴族生徒1は涙を浮かべながら続けた。

「……あのね、私結構気に入ってるんだ、コスプレってやつ。なんだか別人になって……本格的ごっこ遊びって感じが楽しいの。こんなの前の私じゃ知ることも、理解もできなかった。きっかけは受け身的だけど、今は少し良さを理解できてると思う」

貴族生徒3が苛立った。

「何が言いたいの」

貴族生徒1は静かに微笑んだ。

「あのね、私だって伝統や慣習を壊すことを正義だとは思ってないよ。寧ろ独善的に壊す事こそ、社会の悪だと思う」

貴族生徒2が叫んだ。

「じゃあ、どうして―――」

「でもいろいろ視点を変えたりして考えていると、機会や役割が身分を理由に偏っても、それはそれで非効率だって気付いたの。システムの悪い部分は、壊すまではしなくても最適化する必要はあるんじゃないかって」

伝淑会リーダーが静かに聞いた。

「……それが君の言う『融和』ってことかい?」

「うん、融和は何でもかんでも一緒くたにすればいいとは思ってないよ。食べ物にだって『食べ合わせ』って概念があるでしょ? それぞれは身体にいいものでも、組み合わせ次第では栄養摂取が阻害されたり最悪体調不良にもなる。それと同じで身分の平等や公平って、無理矢理同じとこに押し込むんじゃなくて、役割の適材適所や機会の公平さが大事なんだと思う。要は雑に混ぜるんじゃなくて、ちゃんと配置するっていうか。それで私は融和って、アップデートという意味では必要だなって思うよ」

貴族生徒3が頭を抱えた。

「……わかんないよ。何言ってるかわからない。伝統が、秩序が、ノヴァセレスが――故郷が壊れるんだよ!?」

貴族生徒1が悲しそうに微笑んだ。

「よりよくしようって話をしているんだよ?」

貴族生徒2が叫んだ。

「違う違う違う! 壊れるの!!」

貴族生徒1はもう何も言わなかった。

そこへグレーテルが歩み寄り、低く言った。

「……彼女の話を聞いてあげたら、どうなんだ?」

貴族生徒2が睨みつけた。

「何よ?」

グレーテルが冷ややかに言った。

「……その頭と耳は飾りか? 少しは理解しようと思えば楽になれるぞ。撥ね除けてばかりだといつか破滅するぞ」

貴族生徒3が声を荒げた。

「はぁ!? 煩いわね! あなた達異常者のことなんて、理解しようと思うこと自体が無駄でしょ!」

グレーテルが静かに、しかし鋭く切り返した。

「異常者なのは貴様等の方だ! 政治的指導が必要だな……一方的に敵認定して聞くことを放棄して、他人の理解を一切しようとしない。貴様等みたいな害虫が『叛乱分子』と呼ばれるんだ!」

貴族生徒2が顔を歪めた。

「―――!!」

グレーテルが最後に冷たく言い放った。

「ノヴァセレスでよかったな。もっとも貴様等には今後永久的に『帰れない』がな。―――ここがレドフカなら再教育施設に送られて最悪死ぬことになるぞ」

貴族生徒3が震えた。

「嘘よ! そんなの……」

グレーテルが淡々と答えた。

「残念ながら本当だ。実際、ユーロ・タワー校舎で一部のいじめグループ全員レドフカの再教育施設に送られ、授業を聞かなかったり、教官の指示に従わなかった人間が粛正されたって話がある。そんな末路迎えたくないだろ…?」

貴族生徒2と3は言葉を失った。

伝淑会リーダーが静かに言った。

「……もういい、連れて行ってくれ」

貴族生徒2が慌てた。

「リーダー!? 此奴らにわからせてやらないと――」

リーダーは静かに首を横に振った。

「……感情とは、厄介なものだ。もうこれ以上、話すことは何もないよ」

グレーテルが警察官たちに命じた。

「――――連行しろ」

警察官たちが「は」と応じ、三人を連行していった。

コンテスト会場に、再び静けさが戻ってきた。

ドロテアはまだ泣きじゃくる貴族生徒1の背中を優しく撫で続け、リュシーはため息をつきながら周囲を見回した。

 

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