マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest 作:マブラマ
二次審査終了
ステージの照明がゆっくりと落ち、観客席から大きな拍手と歓声が巻き起こった。
月ヶ瀬ちゆるが汗を拭いながら、息を切らしてマイクを握った。
「皆さん、ありがとうございます! 二次審査……全参加者48名分の審査、無事終了しました!」
会場全体が再び大きな拍手に包まれる。
控え室に戻ってきたアネットは、興奮冷めやらぬ様子で両手を握りしめていた。
「はぁはぁ……! めっちゃ頑張った! どうだったかな、私!?」
グレーテルは眼鏡を外したまま、ため息をつきながら制服の襟を直した。
「……茶番に付き合わされただけだ。よく疲れなかったな、お前」
イングヒルトが二人の間に割って入り、優しく微笑んだ。
「二人とも、とても素敵でしたよ。特にグレーテルさん、眼鏡を外したたきなさん……本当に似合っていました」
「…………黙れ」
シルヴィアが壁にもたれかかり、冷めた目で言った。
「まあ、少なくとも最下位にはならなさそうね」
ステージ上では、ちゆるが結果発表の準備を進めながら、明るく締めくくっていた。
「二次審査では、皆さんの熱いパフォーマンスを本当にたくさん見せていただきました。
特に……アークトゥルスの皆さん、重甲ビーファイターの皆さん、そして暴走婦警コンビのお二方……本当に印象的でした!」
観客席から再び大きな拍手が沸き起こる。
ドロテアは控え室で優雅に扇子を広げながら、くすっと笑った。
「ふふ……なかなか楽しかったですわ」
リュシーが肩を回しながら言った。
「ミニパトの時よりはマシだったな。……まあ、楽しかったけど」
ハリエット、ミリアム、ケイトの三人も、互いに顔を見合わせてほっとした表情を浮かべていた。
クラウディアが少し緊張した面持ちで言った。
「最終審査……無事に進めるといいのですが」
アネットが両手を挙げて元気よく叫んだ。
「よーし! ここまで来たら優勝狙うしかないよね!みんな、最終審査も全力で頑張ろう!」
グレーテルが呆れながらも、わずかに口元を緩めた。
「……馬鹿みたいに元気だな、お前は」
ステージの幕が一旦下り、二次審査は終了した。
しかし、コンテストの本当のクライマックス――最終審査は、まだこれからだった。
会場全体に、期待と興奮の空気が満ちていく。
ノヴァセレス・エンタメフェスは、事件を乗り越え、より一層の輝きを放ちながら、最後の舞台へと進もうとしていた。
そして、最終審査へ――。
二次審査を勝ち抜いた精鋭たちが、ステージ上に再び集められた。
残ったのは総勢10組。
その中には、アークトゥルスからミリアム・ヘイワード、ハリエット・ミルズ、ケイト・フルニエ、ドロテア・カークランド&リュシー・ムーアクロフト、そしてアネット・ホーゼンフェルト&グレーテル・イエッケルンのペアが名を連ねていた。
クラウディア率いるユニティ・エッジの面々は、惜しくもギリギリのところで最終審査に残れず、悔しさを滲ませながらステージ袖で見守っていた。
ちゆるが、緊張と興奮が入り混じった声でマイクを握った。
「全審査員の評価が出たところで、結果発表ーーーーーー!!!」
観客席から、期待に満ちたどよめきが広がる。
指揮官が苦笑しながら呟いた。
「凄い勢いの声だ。まるで浜田みたいだ……」
ちゆるが大きく息を吸い、観客を煽るように叫んだ。
「さて、果たして優勝は誰か?――――」
ステージ上に並んだファイナリストたちの表情が一瞬で引き締まる。
ミリアムがごくりと喉を鳴らした。
「ごくり……」
ハリエットが小さく息を呑んだ。
「うぅ……」
ケイトが青ざめながら呟いた。
「ひぃ……」
アネットは拳を握りしめ、自信満々に笑った。
「あたし達の優勝ね!」
グレーテルが冷静に釘を刺した。
「まだ確定してない……」
ドロテアが扇子を広げ、優雅に微笑んだ。
「ふふ、またミニパトを借りて暴れればよかったかしら?」
リュシーが肩をすくめた。
「それだと、『墨東署の取り締まりショー』になってしまうぞ……」
グレーテルが遠い目をしてぼやいた。
「講談社のスタッフ達に何回謝罪したか……でも結果的にはよかったから水に流そう」
緊張の空気が最高潮に達した瞬間、ちゆるが大きく声を張り上げた。
「優勝は――――」
会場が息を呑む。
ちゆるは一瞬の間を置き、最高の笑顔で発表した。
「優勝!アネット・ホーゼンフェルト(錦木千束)&グレーテル・イエッケルン(井ノ上たきな)!!!」
瞬間、会場が爆発的な歓声と拍手に包まれた。
アネットが両手を天に突き上げ、飛び跳ねながら叫んだ。
「やったぁぁぁぁ!!! 優勝だよー!! グレーテル、優勝したよ!!」
グレーテルは呆然としながらも、わずかに頰を緩めた。
「……ふん。まぐれだ」
「準優勝!ドロテア・カークランド(小早川美幸)&リュシー・ムーアクロフト(辻本夏実)!!!」
ドロテアが優雅に微笑みながら一礼した。
「まあ、準優勝ですの。十分に満足ですわ」
リュシーがニヤリと笑って拳を突き上げた。
「上出来じゃねえか!」
ミリアム、ハリエット、ケイトの三人も惜しくも入賞を逃したが、笑顔で拍手を送っていた。
アネットはステージ中央で、グレーテルとハイタッチを繰り返しながら大喜びしていた。
「最高だよ! リコリスコンビ、強すぎる!!」
グレーテルが苦笑しながら、ようやく小さく微笑んだ。
「……お前がうるさかったおかげだな」
ちゆるが、感極まった声で締めくくった。
「以上で、第○回ノヴァセレス・エンタメフェス コスプレコンテスト、全審査終了です!皆さん、本当にありがとうございました!!」
会場全体が、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
こうして、波乱に満ちたノヴァセレス・エンタメフェスは笑顔と感動、そして新たな絆を胸に、幕を閉じたのだった。
滞在最終日――ノヴァセレス・エンタメフェスが無事幕を閉じ、街は再び普段の穏やかな日常を取り戻していた。
午後の柔らかな陽射しが大通りを照らす中、指揮官はミリアム、ハリエット、ケイトの三人を連れて、ノヴァセレスの街を歩いていた。
彼女たちが「今回の付き添いと救助のお礼がしたい」と言い出したため、指揮官は渋々ながらも街の観光案内役を務めることになったのだった。
ミリアムが前を歩きながら、元気よく振り向いた。
「こんなお礼でよかったの? もっとこう、色々言ってくれてもよかったんだよ!」
ケイトが頰を少し赤らめながら、指を絡ませて恥ずかしそうに言った。
「その…指揮官さんなら……わたし達……えっと、嫌がるようなことはないので……」
ハリエットが即座に冷たい視線をケイトに向けた。
「あ、今変な想像しましたね? このヘンタイ」
「ひゃっ!? してないよ!?ハリィちゃん!!」
ケイトが慌てて両手を振る横で、ミリアムがにやにやと笑った。
「ケイ、顔真っ赤だよ~?」
指揮官は額に手を当て、深いため息をついた。
「……お前ら、俺をなんだと思ってるんだ」
三人は顔を見合わせてくすくすと笑い、指揮官の両側に並んで歩き始めた。
ハリエットが少し真面目な顔になって言った。
「本当は……ドロテア様やリュシー様、グレーテルさんたちにちゃんとお礼を伝えたかったんですけど、皆さんすぐにいなくなってしまって……」
ミリアムが頷いた。
「だから、せめて指揮官さんにはちゃんと感謝したくて!」
ケイトが上目遣いに指揮官を見ながら、小さく微笑んだ。
「今日、一日……一緒にいてくれて、ありがとうございます」
指揮官は照れくさそうに頭を掻き、視線を少し逸らした。
「大したことじゃねえよ。お前らが無事でよかった。それだけで十分だ」
三人はその言葉に、互いに顔を見合わせて柔らかく微笑んだ。
ノヴァセレスの街並みは、フェスの熱気が去った後も美しく、穏やかな風が吹き抜けていた。
大通り沿いのカフェからは甘い香りが漂い、遠くの広場では子供たちの笑い声が聞こえてくる。
ハリエットがふと立ち止まり、空を見上げた。
「……私たち、ちゃんと強くなれましたかね」
ミリアムが元気よく答えた。
「なれたよ! だって、こんなに怖いことがあっても、ちゃんと舞台に立てたんだから!」
ケイトが静かに微笑んだ。
「これからも……アークトゥルスとして、頑張ります」
指揮官は三人の横顔を順番に見て、静かに頷いた。
「ああ。……お前らはもう、十分強いよ」
その言葉に、三人は嬉しそうに笑った。
フェスの喧騒が去ったノヴァセレスの街を、四人はゆっくりと、穏やかな足取りで歩いていった。
――事件の傷はまだ完全に癒えてはいない。
けれど、彼女たちの瞳には、確かに未来に向かう光が宿っていた。
数日後
ユーロ・タワー校舎 大体育館
全校集会の日。
広大な体育館は、ユーロ・タワー全校舎の生徒たちで埋め尽くされていた。
普段の喧騒とは違い、今日は厳粛で緊張した空気が流れている。
壇上には新任の校長、ホルツァー・ハンニバルが立っていた。
彼は静かな威厳を放ちながら、生徒たちを見渡した。
ハンニバル校長がマイクを握り、落ち着いた声で話し始めた。
「諸君、本日はお集まりいただきありがとう。先日のノヴァセレス・エンタメフェスにおける、諸君らの活躍について報告がある。」
場内が一瞬、ざわついた。校長は軽く手を挙げて静粛を促し、続けた。
「今回の事件は、残念ながら我が校の暗部を露呈する結果となった。しかし、同時に――多くの生徒たちが、勇敢に立ち向かい、ノヴァセレスを守った事実もある。その功績を、ここに正式に讃えたい。」
校長の合図で、スポットライトが壇上の右側に集まった。
まず呼ばれたのは――
「アークトゥルス連合チームの皆さん。ピクシス・マスール及びユニティ・エッジのメンバー、前へ」
クラウディア・ヴァーグナーを筆頭に、ドロテア・カークランド、リュシー・ムーアクロフト、ハリエット・ミルズ、ミリアム・ヘイワード、ケイト・フルニエ、そしてユニティ・エッジのメンバーたちが、整然と壇上に上がった。
ハンニバル校長が一人ひとりに表彰状とメダルを手渡しながら、声を張った。
「君たちは、融和の象徴としてだけでなく、危機の際に自らの身を挺して後輩たちを守り、事件の解決に大きく貢献した。その勇気と責任感を、ユーロ・タワー校舎は誇りに思う」
ドロテアが優雅に一礼し、リュシーが照れくさそうに頭を掻き、ハリエットたちは緊張しながらも嬉しそうに表彰状を受け取った。
続いて、校長がもう一組を呼んだ。
「そして――卒業生特別枠として。かつて『シュヴァルツェスマーケン』として、平民の誇りを背負い、差別と闘い続けた者たち。アネット・ホーゼンフェルト、グレーテル・イエッケルン、イングヒルト・ブロニコフスキー、シルヴィア・クシャシンスカ。前へ」
四人が壇上に上がると、体育館内にどよめきと拍手が広がった。
アネットは少し照れくさそうに、でも胸を張って歩いていた。
グレーテルはいつものように背筋を伸ばし、イングヒルトは穏やかに、シルヴィアは冷静に前を向いている。
ハンニバル校長は四人にそれぞれ表彰状を渡しながら、感慨深げに言った。
「君たちは在学中、理不尽な差別に抗い、ゾリャー校舎の協力を得てオベレーグを駆り、貴族エリートチームを打ち破った。その功績は、今日のアークトゥルスへと繋がる道筋を作ったと言っても過言ではない。卒業生として、改めてその功を讃えたい」
アネットが表彰状を受け取りながら、目に涙を浮かべた。
「……ありがとうございます」
グレーテルは静かに頭を下げ、イングヒルトが優しく微笑んだ。
シルヴィアはわずかに目を細めただけだった。
校長が最後に、全校生徒に向かって宣言した。
「差別も、偏見も、容易に消えるものではない。しかし、今日ここにいる彼ら、彼女らが示したように――一歩ずつ、未来を変えていくことはできる。ユーロ・タワーは、これからもその道を歩み続けることを、ここに誓う」
体育館全体が、大きな拍手に包まれた。アネットは壇上で、胸を熱くしながら仲間たちを見回した。
――かつての屈辱が、今日の栄光に変わった瞬間だった。
全校集会は、長い拍手とともに幕を閉じた。
しかし、これは終わりではなく、新たな始まりの合図でもあった。
元いじめっ子たちのその後
事件から数ヶ月後――
ユーロ・タワー校舎、そしてノヴァセレス全体に、静かな変化の波が訪れていた。
ユーロ・ナイツをはじめとする、かつてアネットたちを徹底的にいじめ、差別し、キャバリエを廃棄に追い込んだ元貴族生徒たち――彼女たちのその後は、決して華やかなものではなかった。
まず、ユーロ・ナイツのメンバー4名は、ユーロ・タワーから永久追放処分を受けた。
アクスマン校長の失脚に伴い、彼女たちの親族にも厳しい調査の手が伸び、複数の経済犯罪や権力濫用が発覚。
家名は大きく失墜し、ほとんどの者が爵位を剥奪されるか、実質的な「名ばかり貴族」へと転落した。
ゾリャー校舎での再教育プログラムに送られた彼女たちは、半年間、平民生徒と同じ寮で暮らし、同じ授業を受け、徹底した「共生教育」を強いられた。
当初は反抗的だった者も多かったが、周囲からの冷たい視線と、容赦のない教官たちの指導の前に、次第にプライドを砕かれていった。
特にリーダーだった少女は、再教育終了後も自ら志願して、ゾリャー校舎の裏方スタッフとして残る道を選んだ。
今では毎日、平民生徒たちの制服の洗濯や、訓練場の掃除を黙々とこなしているという。
誰とも目を合わせず、ただひたすら働く彼女の姿は、かつての傲慢さの欠片も残していない。
一方、ハリエットたちをいじめていた元貴族生徒たち――エマ・ローゼンタールとその取り巻き二人も、似たような運命を辿った。
エマは接近禁止令を受けながらも、事件後、一切ハリエットたちの前に姿を現さなかった。
彼女は実家からも勘当同然の扱いを受け、現在はノヴァセレス郊外の小さな工房で、職人見習いとして働いている。
コスプレが好きだったという過去の趣味を活かし、今はイベント用の衣装制作のアルバイトもしているらしい。
取り巻きだった二人は、もっと厳しい結果となった。
伝淑会への積極的な関与が明らかになり、地区法廷で有罪判決を受け、半年間の保護観察処分が下された。
現在はそれぞれ異なる地方に強制的に移住させられ、身分を隠して暮らしていると聞く。ある日、ハリエットは校舎の廊下で、偶然エマの姿を見かけたという。
遠くから、控えめに掃除をしているエマの後ろ姿を、ただ静かに見つめていただけだった。
ハリエットは小さく呟いた。
「……許すことは、まだできないけど……少しだけ、頑張ってるみたいですね」
アネットはそんな話を聞いた後、屋上で空を見上げながら言った。
「結局、みんなそれぞれの罰を受けているんだね……でも、あたし達が勝ち取ったものは、絶対に無駄にはならないよ」
グレーテルが隣で静かに頷いた。
「そうだ。彼らがどれだけ変わろうと、私達の傷が消えるわけではない。ただ……彼らが二度と同じ過ちを犯さないことを、祈るしかない」
イングヒルトが優しく微笑んだ。
「それでいいんです。私達は前に進む。彼らも……それぞれの道を、歩いていくのでしょう」
ユーロ・タワーの体育館に飾られた表彰状は、今も静かに輝いている。
過去の闇を乗り越え、未来へ歩み始めた者たちと、その闇に飲み込まれ、変わろうともがく者たち。
二つの道は、もう二度と交わることはないのかもしれない。
しかし、それでも――ノヴァセレスは、少しずつ、確かに変わり始めていた。
Ende