マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest 作:マブラマ
ノヴァセレス・エンタメフェスの大通りは、祭りの熱気に包まれていた。
指揮官は腕を組み、人の波を眺めながら低く呟いた。
「平民・貴族問わず、沢山来ているな……融和施策と関係あるのか?」
ドロテア・カークランドが優雅に微笑んで答える。
「ふふ、関係大ありですわ。このイベントは貴族と平民の融和をアピールするための一つ。これだけ盛り上がっていたら、気分も上がってしまうのは仕方ありません」
ハリエット・ミルズが頷いた。
「そうですね。会長からも『アークトゥルスの仕事といっても、肩の力を抜いて楽しんで貰って構わない』と言われてますし」
「あら?」
その時、クラウディア・ヴァーグナーの声が響いた。
「あ、ドロテア先輩。こっちです!」
ハリエットが目を細めて微笑む。
「クラウディアさん、楽しんでる……?」
ドロテアは視線をブースの方へ向け、目を輝かせた。
「まあ、ここはイニDとMFゴーストのブースですわね。―――ふふ、エボⅢとⅣ、Ⅴ、Ⅵまで展示されて、本当に美しいですわ」
クラウディアが苦笑しながら注意する。
「だからって抜きすぎはダメですよ……」
すると、すぐ近くから明るい声が割り込んできた。
「楽しんでるじゃん」
アネット・ホーゼンフェルトが、イングヒルト・ブロニコフスキーと共に近づいてきた。指揮官が頷いた。
「そうだな、何事もバランスだ。だから今くらいはいいんじゃないか? あとできっちり締めれば良い」
クラウディアは少し肩を落としてため息をついた。
「指揮官さん……まあ……それもそうかもしれませんね」
ユニティ・エッジのメンバー1がからかうように笑った。
「クラウディアってば、指揮官さんの言葉には素直に従うよね~」
「ふふ、あとであなたと私、ふたりで『お話』ですよ♪」
「ひぃ~! 目が笑ってない……! ごめんってば~!」
少し離れたところで、コスプレの話題が持ち上がっていた。
リュシー・ムーアクロフトがため息混じりに言った。
「……で、何度も聞いてアレなんだが……本当にするのか? 『あの』格好……」
ミリアム・ヘイワードが胸を張る。
「当然だよ! それがユーロ・タワー―――ひいてはノヴァセレスからの依頼なんだから!」
ケイト・フルニエがおずおずと尋ねる。
「えっと……そんなに嫌ですか……?」
リュシーが頭を掻いた。
「いや、嫌と言うか……」
アネットが興味津々で近づいた。
「へえ、あんた達コスプレするんだ?」
ミリアムが元気よく頷いた。
「うん! そうなんだ! これもノヴァセレスからの」
ハリエットがくすっと笑う。
「コスプレはミリアムの個人的な楽しみですよね?」
リュシーが顔をしかめた。
「あの格好、ちょっと抵抗あるな……」
イングヒルトが優しく首を傾げた。
「あの格好……ですか?」
リュシーが小声で説明を始めると、イングヒルトは少し考えてから提案した。
「成る程……なら私から提案します。ネネカ隊のコスプレをするべきです」
「は? ネネカ隊ってVガンダムの!? それもなんかな……」
アネットが手を振った。
「待って、イングヒルト。もうこの娘、決めてるんじゃないかな? コスプレ衣装」「え? そうなんですか?」
リュシーが照れ笑いを浮かべた。
「あはは、お察しの通り。もう既に決めてしまったんだ…」
クラウディアが真面目な顔で言った。
「これもアークトゥルスの役目ですから。覚悟があれば大丈夫です」
指揮官が呆れたように呟いた。
「お前達は、生徒なのか?」
アネットが得意げに胸を張った。
「卒業生だよ」
「え!? 嘘だろ…」
「嘘じゃないもん! まさか知らないの? かつてあたし達は貴族生徒たちから差別されて、ゾリャー校舎からオベレーグを借用して見返してやったのよ!」
指揮官が目を丸くした。
「は? それは初耳だぞ。ドロテア、此奴ら卒業生なのか?」
ドロテアが優雅に頷いた。
「ええ、彼女達は『シュヴァルツェスマーケン』という平民チームのメンバー、アネット・ホーゼンフェルトとイングヒルト・ブロニコフスキーですわ」
アネットは突然、指揮官を鋭く指差した。
「アンタが教導指揮官ね。一応言っておくけど、あたし達はアンタの性処理道具になんか絶対に、絶対に! ならないから!」
「は? え? ええ? 何が何だかさっぱり分からん」
「分からんじゃない! するな! よ。わかった? あと、イングヒルトを悲しませる思いをしたらあたしがアンタを嬲り殺してやる!」
指揮官は額に汗を浮かべながら内心で呟いた。
「(……ガードが堅いな…)」
イングヒルトが穏やかに一歩前に出た。
「初めまして」
「ああ、初めまして。―――アネット、イングヒルト。その話、詳しく聞かせて貰えないか?」
アネットはイングヒルトと目を合わせ、軽く頷いた。
「イングヒルト」
イングヒルトは静かに微笑んだ。
「―――彼なら信用出来ます。全部話しましょう」
アネットが隣で軽く頷き、イングヒルトの肩にそっと手を置いた。
イングヒルトは静かに語り始めた。
「私達はユーロ・タワー校舎の卒業生です。アネット、グレーテル、シルヴィア、そして私……四人とも平民、あるいは没落貴族の出で、当時の校内では徹底的に疎まれていました。机は消され、教室では無視され、悪口は日常茶飯事。挙げ句の果てに、私達が使うはずだったキャバリエを『目障りだから』という理由だけで勝手に廃棄処分されたんです」指揮官の表情がわずかに引き締まった。
「……本気か?」
「本気です。理由はただ『気に食わない』だけ。貴族の品位を下げる、存在自体が不愉快……それだけで十分だったそうです」
アネットが拳を軽く握り、悔しげに付け加えた。
「あの頃は本当に辛かったよ。でも、グレーテルが『正攻法じゃ無理だ』って判断して、ゾリャー校舎に頼りに行ったの。そこでオルガ・ヴォルコワさんと出会って……オベレーグを借りることができた」
ドロテアが優雅に目を細めた。
「そのオベレーグで、貴族チーム『ユーロ・ナイツ』を完膚なきまでに叩き潰した……という話ですわね」
「ええ。四対四の模擬戦で、連戦連勝。観客の前で完敗させたからこそ、上層部も隠しきれなくなったんです。その結果、当時の校長と教頭は失脚しました」
クラウディアが息を呑んだ。
「それが……アネットさん達の……」
アネットは照れくさそうに頭を掻きながら笑った。
「まあ、結局はオベレーグのおかげなんだけどね。あの機体、最高だったよ。今でも時々夢に見るくらい」
指揮官は腕を組み、感心したように頷いた。
「なるほど……お前達が『シュヴァルツェスマーケン』か。噂には聞いていたが、こんなに若いとは思わなかった。いや、卒業生だったな」
「若いって失礼じゃん!」
アネットが頰を膨らませると、イングヒルトがくすっと笑った。
リュシーやミリアムたちも近くで聞き入っていた。
コスプレの話などすっかり忘れた様子で、彼女たちの過去に引き込まれている。
ハリエットが静かに言った。
「貴族と平民の融和……表向きは綺麗事ですけど、実際はまだ根深い問題が残っているんですね」
ドロテアは扇子を軽く広げ、優しい微笑みを浮かべた。
「だからこそ、私達アークトゥルスが存在する意義があるのでしょう。でも……アネットさん、イングヒルトさん。あなた方が切り開いてくれた道があるからこそ、今の私達がここにいられるんですわ。感謝しています」
アネットは少し照れながら手を振った。
「いやいや、大げさだよ。でも……クラウディアやドロテアさん達が頑張ってるの見ると、あたし達の戦いも無駄じゃなかったんだなって、嬉しくなる」
イングヒルトがアネットの腕を優しく引いた。
「アネット、そろそろ警備に戻りましょうか。シルヴィアさんに怒られますよ」
「えー、まだ話足りないのに!」
指揮官が苦笑しながら言った。
「また機会があったら、続きを聞かせてくれ。……お前達の話は、参考になりそうだ」
アネットはにっと笑って親指を立てた。
「いいよ! その代わり、指揮官もちゃんとクラウディア達を大事にしなさいよ? 変なことしたら、本気で嬲り殺すからね!」
「わ、わかった……」
クラウディアが慌ててフォローに入る中、イングヒルトは小さく微笑んだ。
イベントの喧騒はますます大きくなり、MFゴーストのエンジン音がBGMのように響く中、二つの世代はそれぞれの想いを胸に、再び人波の中に溶け込んでいった。
過去の傷を乗り越えた者たちと、今その傷を癒しつつ前を向く者たち。
ノヴァセレス・エンタメフェスの明るい空の下で、ユーロ・タワーの歴史は静かに、しかし確かに繋がっていた。
数十分後、会場から貸し出された更衣室の扉が開き、9人の少女たちが次々と姿を現した。
アネットは目を輝かせて両手を叩いた。
「お、着替え終わったみたいだね♪」
イングヒルトが隣で小さく首を傾げた。
「どんなコスプレでしょうね?」
ミリアムが元気いっぱいに飛び出してきて、両手を広げてポーズを取った。
「指揮官~! アークトゥルスコスプレバージョンだよ~!」
指揮官は思わず後ずさりした。
「うおっ!?」
アネットが目を丸くして声を上げた。
「えええっ!? ちょっと、これは流石に際どいよ。肌が露出しまくりだし」
イングヒルトも珍しく言葉を詰まらせた。
「うーん……」
指揮官は額に手を当てながら呆然と呟いた。
「これは……!」
当然と言えば当然だが、彼女たちがここに客として参加しているわけではない。
ユーロ・タワーから与えられた明確な使命があった。
それは『コスプレコンテスト』への参加である。
エンタメフェスの会場敷地の一角には、コスプレ専用エリアが設けられており、そこで2日目に開催される目玉プログラム『コスプレコンテスト』に、アークトゥルスのメンバーとして出場するよう要請されていたのだ。
イングヒルトが眉を寄せた。
「うーん、ちょっと露出が……」
アネットが指を差しながら言った。
「ハリエットのは『大賢者』なのはわかるけど、他の皆は何か違うんだよね……あたしが知らないだけかな? というかこれ絶対に地上波じゃないよね?」
指揮官は内心で(まあ、融和アピールの効果最大化を狙うなら、目玉プログラムに出るのが一番だしな)と納得していた。
イングヒルトがアネットの格好を見て目を細めた。
「アネット、その格好は?」
アネットはくるりと回ってポーズを決めた。
「ふふん♪ 『リコリス・リコイル』の錦木千束ちゃん♪」
イングヒルトの笑顔が若干引きつった。
「アネット、あとでふたりきりで『お話』しましょうね」
「うぅ、ごめん……イングヒルト……怒らないで!」
形式は個人参加型のプログラム。2日目の午前に舞台上で一人ひとりがパフォーマンスを行う一次審査、そして午後に最終審査が行われ優勝者が決まる。
指揮官が再びコスプレ姿の面々を見て呟いた。
「(いや、しかし……コスプレしてコンテストに参加するとは聞いていたが……)めっちゃ際どいな!?」
リュシーが顔を真っ赤にして叫んだ。
「言うな!! ああもう、やっぱり無理だ!! このデザイン考えた奴、変態じゃないか!?」
アネットが同調するように頷いた。
「確かに……」
ミリアムが胸を張った。
「変態じゃないよ!? 魔王はそういう格好が好きなの! まあ、ちょっと露出が多い気もするけど……」
アネットが自分の胸を指差した。
「いや、ちょっとどころじゃないわよ。あたしのコスプレを見習いなさい! ファーストリコリスだよ♪」
イングヒルトがため息をついた。
「アネット……『リコリス・リコイル』好きなんですね」
リュシーが羨ましそうに言った。
「アンタが着てるファーストリコリスの方がマシな格好だよ……羨ましいぜ」
アネットが笑顔で提案した。
「着たい? 次からはセカンドリコリスのコスプレ持ってくるわ! 意外と似合いそうだし」
リュシーは少し考えてから答えた。
「考えとくよ……」
ケイトがおずおずと自分の格好を直しながら言った。
「げ、原作がこうなので! 普通です! 仕方ないのです!」
アネットは内心で(これ職質に遭いそうなコスプレだ)と思いながら聞いた。
「原作?」
イングヒルトが尋ねた。
「どんな作品なんですか?」
ハリエットが静かに微笑みながら言った。
「……アネットさん、悪人の目を潰して良いですか?」
アネットが即答した。
「片目を潰しちゃえ♪」
指揮官が慌てて止めた。
「やめてくれ!」
ユニティ・エッジのメンバー3が指揮官に甘えた声で聞いた。
「ねーねー! 指揮官さぁーん♪ 私達のコスプレ、似合ってますかぁ~?」
指揮官は視線を少し逸らしながら答えた。
「あ、ああ、多少目のやり場には困るが……みんな、とても可愛いと思う!」
ドロテアが優雅に微笑んだ。
「ふふっ、ありがとうございますっ♪」
指揮官が改めて全員のコスプレを見回した。
「にしても、なんのコスプレなんだ? コスプレというからには、その格好の大元となる作品とかあるんだろ? アネットのは分かるが……」
アネットが興味津々で聞いた。
「どんな作品のコスプレなのか教えてよ~!」
ミリアムが芝居がかった口調で胸を張った。
「よくぞ聞いてくれた!」
ハリエットが補足した。
「実はコスプレする作品に指定はなかったので、ミリィ、ケイと相談して提案させて頂きました」
ケイトが少し恥ずかしそうに説明した。
「え、えっと、『コスモファンタジア』っていう、ボードゲームが原作の作品です」
アネットが首を傾げた。
「『コスモファンタジア』……? 聞いたことないわね……」
ケイトが熱心に語った。
「歴史が長く何度もアニメ化、デジタルゲーム化、漫画化までされている名作です」
アネットが感心したように言った。
「うわー、かなりマニアックな作品だね。歴史が長いってことは過去に実写映画化や実写ドラマ化とかされたことは?」
ケイトが残念そうに答えた。
「実写映画はないですけどドラマは一度だけあります。ファンからは不評で制作サイドで内容を改変とかあったり……5話で打ち切りに」
アネットが顔をしかめた。
「内容酷すぎたんだ……」
指揮官も珍しく興味を示した。
「そんな作品があったのか……知らなかったな」
アネットが笑った。
「アングラ系ボードゲームね?」
ミリアムが目を輝かせて言った。
「じゃあ、教えてあげる!」
そう言うと、ミリアムは大仰な仕草で語り始めた。
「時は千年前――世界は大魔導士グレンツェの脅威に晒されていた。人々の希望はひとりの聖騎士に託され――」
指揮官がぽつりと言った。
「あ、それって以前ミリアムとケイトがやってたボードゲームか」
ミリアムが嬉しそうに頷いた。
「そうそう!」
アネットが驚いた。
「あれ? 知ってたの?」
指揮官が苦笑した。
「いや、初めて知ったよ。以前ミリアムとケイトがやってたボードゲームはこれだったんだな」
アネットが呆れ気味に言った。
「アングラ系……じゃないわね。マニアック中のマニアックな作品ね」
イングヒルトが静かに突っ込んだ。
「もうアングラ系扱いでいいんじゃないですか?」
ミリアムはさらに熱を込めて語り続けた。
「漫画12巻にあったオリジナルエピソードのグレンツェの過去話、世間的には賛否両論だけど、ボクとしては泣いたなぁ……」
アネットが感心した。
「へえ……そうなんだ」
ケイトが目を輝かせた。
「笑いあり……涙あり……アニメ版12話クライマックスの熱さも必見……!」
ハリエットも珍しく熱くなった。
「大賢者アナーキの師匠との恋愛エピソードも、涙なしで語れない……!」
急に説明に熱を帯びてきたのを見るに、この三人は相当なファンらしい。
ケイトが頰を赤らめながら言った。
「ち、ちなみに……わたしがその……聖騎士コスモのコスプレです……しゅ、主人公なんて恐れ多いですが……」
指揮官が優しく言った。
「恐れ多いなんて。ケイトが主人公ってのも俺はいいと思うぞ」
ケイトの顔がぱっと明るくなった。
「そ、そうですか……? えへへ」
アネットが思わず言った。
「聖闘士聖矢?」
イングヒルトが即座に突っ込んだ。
「ペガサス流星拳!……って違いますよ!!」
ハリエットが優雅に髪をかき上げた。
「私がコスモの仲間、大賢者アナーキです。『賢』者……まさしく私に相応しいコスプレですね」
アネットがにやりと笑った。
「へー、そしてヴォルデモート郷に変貌……」
イングヒルトとハリエットが同時に叫んだ。
「しません!!」
指揮官が面白そうに笑った。
「へー」
ハリエットが冷たい視線を向けた。
「何ですかその目は? 浄化してあの世に送りますよ?」
指揮官が肩をすくめた。
「俺はアンデッドか何かか」
ミリアムがさらに興奮して続けた。
「そしてそしてこのボクが、魔王様のいちのしもべ! コスモのライバル、大魔導士グレンツェ!」
アネットが笑いながら言った。
「ほえー、てっきりおジャ魔女どれみかと思ったよー」
ミリアムが慌てて否定した。
「おジャ魔女どれみは違うよ~」
指揮官が全員を見回した。
「ってことは他のみんなもその作品のキャラから取ってるわけか……」
ドロテアが優しく微笑んだ。
「はい、そうです。ちなみにわたくしのはシスターのリーパというそうです」
指揮官が目を細めた。
「それって以前文化祭で着ていた……」
アネットが食いついた。
「文化祭?」
指揮官が慌てて誤魔化した。
「そっちの話だよ」
アネットがにやにやしながら言った。
「ふーん、あんたさ……ドロテアをベッドに……」
指揮官が声を荒げた。
「如何わしい台詞をするな!」
アネットが手を振った。
「はいはい~。そういう事にしておくよん♪」
ドロテアが周囲を見回して言った。
「それにしても、会場には他にも同じ作品の格好をした方がいらっしゃいますね。『リコリス・リコイル』の井ノ上たきなさんのコスプレしてる方がいますわ」
アネットが目を輝かせた。
「おお! いいじゃん! あとで写真撮って貰おうかな? えへへ」
指揮官が感心したように言った。
「結構いるな……ちなみにミリアムが言ってた魔王ってのは」
リュシーが渋々答えた。
「……なんだよ?」
アネットがからかい気味に言った。
「いやあ、エネオスのレースクイーンより際立ってるよ~」
指揮官が苦笑した。
「いや……」
アネットがさらに煽った。
「まさか…サキュバスなの!?」
指揮官が驚いた。
「!!!!」
リュシーが声を張り上げた。
「ちげーよ! あたしが魔王インペリアだ!」
指揮官が大げさに後ずさりした。
「きゃ~! やだ、こわ~い! さすが、魔王様!」
アネットが笑いながら言った。
「女魔王だー! デトニクス コンバットマスターで撃っちゃうぞ?」
リュシーが拳を振り上げた。
「闇の魔法でぶっ飛ばすぞ! コラァッ!」
アネットが楽しそうに笑った。
「おー、怖い怖い。命は大切にしないと…ね?」
リュシーが本気で怒り始めた。
「おちょくってんのか!? テメェ!! 殺すぞ!!」
指揮官が大笑いした。
「ツッコミ番長も健在だな! いや、今はツッコミ魔王様か!」
アネットが腹を抱えて笑った。
「ツッコミ魔王…ぷぷ!」
リュシーが頭を抱えた。
「どっちもちげーよ!? いちいち突っ込ますな!!」
クラウディアが優しく微笑んだ。
「ふふ、楽しそうですね。リュシーさん」
リュシーが頰を赤らめてそっぽを向いた。
「う、べ、別に楽しくなんか……」
アネットが元気に叫んだ。
「『私はいつもやりたいこと最優先』~!」
指揮官がクラウディアの格好を見て聞いた。
「そう言えばクラウディアのもコスモファンタジアか?」
クラウディアが頷いた。
「ええ、そうですよ。アマツっぽいデザインですが、巫女のデモ子というそうです」
アネットが感心したふりをして言った。
「ほえー、『巫女巫女ナース』かあ……」
ハリエットが即座に突っ込んだ。
「アネットさん、それ古すぎます」
イングヒルトも笑いながら言った。
「どう見ても違うでしょ? 巫女だけが合ってるだけで」
ハリエットが興味深そうにクラウディアの腰に視線を落とした。
「あの、ちょっと気になったのですが……」
クラウディアが警戒した。
「はい?」
ハリエットが無邪気に聞いた。
「その尻尾ってどうやってくっついてるんでしょう?」
アネットが目を輝かせた。
「おお、ホントだ! 引っ張っていい?」
イングヒルトが即座に止めた。
「ダメですよ?」
クラウディアが慌てふためいた。
「え、どどどど、どうしてそんなことを!?」
ハリエットが穏やかに言った。
「いえ、ただの好奇心です。最初デモ子の格好もいいなと思ってたので」
クラウディアが顔を真っ赤にした。
「あ、え、えっとぉ……」
ユニティ・エッジのメンバー1が自慢げに言った。
「ね、ねーねー、それより! 弓使いポピュリの弓矢だけ自作なんだけど、矢尻部分の角度とかめっちゃこだわったんだ!」
アネットが嬉しそうに自分の鞄を見せた。
「あたしは鞄かな? 千束ちゃんの鞄、結構拘ったんだよ。同じ鞄探すの大変だったんだからね!」
ハリエットが目を輝かせた。
「ほう、それはいい仕事してますねぇ~! まさにファンメイド魂……! もっとよく見せて下さい!」
アネットが笑顔で頷いた。
「うん、いいよ~! ―――イングヒルトはコスプレやらないの?」
イングヒルトが静かに首を横に振った。
「私はいいわ。見てるだけで十分よ」
ドロテアが皆をまとめながら言った。
「それでは、コンテストの受付に行きましょうか。本番は明日ですが、出場手続きは今もう受け付けてるみたいですし」
クラウディアが頷いた。
「そうですね。今のうちに済ませてしまいましょう」
アネットが元気よく手を挙げた。
「あたしも参加する!」
イングヒルトが呆れたようにため息をついた。
「アネット! 仕事は?」
アネットが悪びれもせずに笑った。
「そんなのあとあと!」
イングヒルトが諦めたように微笑んだ。
「もう!……全く仕方ないんだから」
賑やかな笑い声と軽口を交わしながら、彼女たちはコンテスト受付へと足を進めた。
ノヴァセレス・エンタメフェスの華やかな空の下で、過去の世代と現在の世代が織りなす、明るく賑やかな時間が続いていくのだった。
数十分後、コスプレ専用エリアに移動した一行は、その熱気と人の多さに改めて圧倒された。
ケイトが周囲を見回しながら、感嘆の声を漏らした。
「それにしても、大盛況ですね……」
ハリエットが自分の露出度の高い大賢者コスプレを少し直しながら、珍しく弱音を吐いた。
「うぅ、コスプレエリアだけでこの数……! 舞台の上に立つとき緊張しそう……」
アネットが目を輝かせて辺りを見渡した。
「ほえー、凄い数のお客さんだね」
イングヒルトが穏やかに微笑みながら言った。
「イベントだからね」
その時、元気な女性の声が飛んできた。
「すみませーん! そこの皆さん、撮らせて貰ってもいいですかー!」
アネットは即座に手を挙げて明るく応じた。
「あ、はいはーい! 今行きまーす!」
ミリアムが少し驚いた顔で周りを見た。
「え? ボク達?」
ドロテアが優雅に扇子を広げ、微笑んだ。
「いいですね。撮って頂きましょう。アークトゥルスとして断れません。文化交流のいい機会ですわ」
リュシーが慌てて後ずさりした。
「あ、あたしもか!?」
アネットがにししと笑いながらリュシーの背中を押した。
「にしし、当たり前でしょ? 誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって」
すると、次々とカメラを持った女性たちが集まってきた。
「あ、私も撮りたーい!」
「私も私もー!」
アネットが嬉しそうに笑った。
「どんどん増えてきてるよ!」
コスプレエリアの宿命か、アネットを含め10人もの派手なコスプレイヤーが固まっていたこともあり、注目度は抜群だった。
瞬く間に人だかりができ、スマホや一眼レフを構えた人々が周囲を取り囲んでいく。
フラッシュが何度も光り、歓声と称賛の声が飛び交った。
「わあ、すごいクオリティ……!」
「特にあの魔王様と聖騎士の組み合わせが最高!」
「リコリスの千束ちゃんも可愛い~!」
「大賢者さん、色気すごい……!」
ハリエットが微かに頰を赤らめながらも気品を保ち、ミリアムは魔王グレンツェらしい大仰なポーズを決め、ケイトは聖騎士コスモとして恥ずかしそうに剣を構え、リュシーは仏頂面をしながらも渋々魔王インペリアの威圧感を醸し出していた。
ドロテアはシスター・リーパの優雅で慈愛に満ちた笑顔を崩さず、クラウディアは巫女デモ子の神秘的な雰囲気を纏いながらも、尻尾を気にしている様子だった。
アネットは千束の鞄を軽く振りながら、満面の笑みでピースサインを連発していた。
イングヒルトは少し離れた場所からそんな仲間たちを温かく見守りながら、小さく呟いた。
「本当に……賑やかですね」
女性カメラマンたちが次々とシャッターを切り、「アークトゥルスの方々ですよね!?」「融和の象徴!」「一緒に写ってもいいですか!?」と興奮した声が飛び交う。
指揮官は少し離れたところで腕を組み、苦笑しながらその光景を眺めていた。
「(……これが融和アピールか。確かに目立つには目立つが……)」
アネットがこちらを振り返り、大きく手を振った。
「指揮官も来なよ! 一緒に撮ろうよ!」
「俺はいい……っておい、待て!」
結局、指揮官も巻き込まれ、10人+αの大所帯で写真撮影はさらに盛り上がっていった。コスプレコンテスト本番を翌日に控え、彼女たちは『アークトゥルス』として、そして一人のコスプレイヤーとして、ノヴァセレス・エンタメフェスの熱狂にどっぷりと浸かっていた。
過去の世代が切り開いた道を、今の世代が明るく、賑やかに、時には際どくも歩み続けている――そんな光景が、そこにあった。
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