マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest 作:マブラマ
一方、その頃。
コスプレエリアから少し離れた、賑やかなスイーツブースのテラス席。
かつてハリエットたちをいじめていた三人の貴族生徒たちは、テーブルに着き、目の前に並べられた色とりどりのスイーツを前に、複雑な表情を浮かべていた。
リリー・ラヴォアが、にこにこしながらトレイを置いた。
「ほら、君達の目当てのスイーツだよ♪ 今日は頑張ったご褒美だよ!」
カリナ・ジェンディーレが、悪戯っぽく笑いながら付け加えた。
「ウチがただで返すわけないじゃん。だって可哀想だし~」
大賀真桜が頭を下げて、申し訳なさそうに言った。
「すいません! ご迷惑おかけしちゃって!」
ユーロ・タワーの貴族生徒2(取り巻きA)は、フォークを手に取りながら、ぶっきらぼうに言った。
「まあ……食えるなら」
ユーロ・タワーの貴族生徒3(取り巻きB)も、ため息をつきながら小さく頷いた。
「そうね……」
リーダー格の貴族生徒1だけが、少し遠慮がちにカリナたちを見た。
「食べていいんですか?」
カリナが明るく手を振った。
「ウチらの分はあるから遠慮なく食ってね~♪」
テーブルには、ふわふわの苺のショートケーキ、濃厚なチョコレートタルト、色鮮やかなマカロン、フルーツたっぷりのパフェなどが並んでいた。
イベント限定の可愛らしい包装が施されたスイーツは、どれも美味しそうに輝いている。貴族生徒1はフォークを手に取り、苺のショートケーキを一切れ口に運んだ。
甘いクリームと酸味の効いた苺が舌に広がる。
「……美味しい」
彼女は小さく呟いたが、表情は晴れなかった。
先ほどのハリエットたちとのやり取りが、まだ胸の奥に重く残っているようだった。
貴族生徒2はチョコレートタルトを乱暴にフォークで刺しながら、苛立った様子で言った。
「はぁ……なんであんな連中に頭下げなきゃいけないのよ。リーダーったら本気で謝ってたじゃない」
貴族生徒3がマカロンをかじりながら同意した。
「本当に。せっかく落ちぶれたって自覚したって言ってるのに、あの反応……腹立つわ。『待って下さい!』ですって? ふざけてる」
リリーが笑顔のまま、しかし少し鋭い視線を向けた。
「まあまあ、二人とも。スイーツ食べて機嫌直してよ♪ ユーロビートも結構ノリノリで踊ってたじゃん」
カリナがくすくす笑いながら言った。
「特にリーダーさん、途中から楽しんでたよね~。魔王インペリアのリュシーちゃんよりリズム感あったかも」
貴族生徒1は頰を少し赤らめ、フォークを止めた。
「……楽しかったのは本当です。でも……ハリエットさんたちの顔を見たら、急に胸が苦しくなって……」
貴族生徒2が舌打ちした。
「リーダー、そんなに気にすることないわよ。昔の話でしょ? 私達はもう爵位も影響力も失ってるんだから、平等じゃない」
貴族生徒3がパフェのフルーツを突きながら、冷めた声で言った。
「そうよ。向こうは今やアークトゥルスで脚光浴びてるんでしょ? 私達はただの落ちぶれ貴族。謝っただけで許してもらえるほど、世の中甘くないってことよ」
真桜が静かに、しかしはっきりと言った。
「謝罪ってのは、相手が許すかどうかは相手次第です。自分たちの気持ちだけ一方的に押し付けて、許してくれって思うのは……少し傲慢じゃないでしょうか」
貴族生徒1が唇を噛んだ。
「……そう、よね。私……本気で謝りたかったのに……結局、取り巻き二人にまで迷惑をかけてしまった」
リリーが明るく笑って、貴族生徒1の肩をポンと叩いた。
「まあ、今日は一旦忘れてスイーツを楽しもうよ! 明日もコンテストあるんだからさ。ナタル・バジルールで頑張ってね♪」
カリナがウィンクした。
「ウチは応援してるよ~。ちゃんと本気出して踊ってくれたら、もっと美味しいスイーツおごっちゃう♪」
貴族生徒1は小さく微笑み、もう一度フォークを動かした。
「……ありがとうございます」
しかし、その笑顔の奥には、複雑で苦い感情が渦巻いていた。
かつてのプライド、現在の無力感、そしてほんの少し芽生えた後悔――。
貴族生徒2と3は相変わらず不満げにスイーツを食べ続け、時折ハリエットたちのことを陰口にしていたが、リリーとカリナの明るい話題で強引に話題を逸らされていく。
スタッフの一人がトレイを抱えて近づき、明るく声をかけた。
「あ、風紀委員会の皆様お疲れ様です」
リリーがにこやかに手を挙げて応じた。
「あ、お疲れ様です」
スタッフはリリーたちの顔を見て、すぐに先ほどのステージの記憶を思い出したようだった。
「おお、君達か。ステージで踊っていた貴族生徒の三人は?」
カリナが肩をすくめながら、悪戯っぽく笑った。
「この三人、実は過去で色々あってね…」
スタッフは特に深く追及せず、軽い調子で言った。
「ほー、何があったか知らないけど謝ればそれでいいんじゃないかな?」
真桜が静かに、しかしはっきりと言った。
「そんな簡単に言ってますけど、向こうは許してくれなかったようですよ」
スタッフはフォークを口に運びながら、気楽に笑った。
「そりゃあ残念だな…ま、目当てのスイーツは食えて幸せなんじゃないか?」
カリナが苺のショートケーキを一口食べながら、含み笑いをした。
「もし間近でウチらが目撃したら現行犯逮捕だったけど…」
貴族生徒1は、フォークを持つ手を止め、肩を小さく縮めた。
「う……ごめんなさい」
カリナが優しい、しかし少し冷たい視線を向けた。
「ウチに謝ってもしょうがないよ。でも前向いて生きるなら罪滅ぼしになるんじゃないかな?」
貴族生徒1は唇を強く結び、俯いたまま小さく頷いた。
その瞳には、悔恨と羞恥、そしてまだ拭いきれない苛立ちが混ざり合っていた。
貴族生徒2は苛立った様子でパフェのグラスをカチャカチャと音を立てながら言った。
「……別に、私達が謝ったって向こうは水に流す気なんて最初からなかったみたいだし。結局、形だけの謝罪って言われたわ」
貴族生徒3もマカロンを乱暴に噛み砕きながら、吐き捨てるように続けた。
「私達だって落ちぶれてるのに、あんな態度取られたら腹が立つわよね。リーダーが本気で頭下げてるのに……」
リリーが笑顔を崩さず、しかし声音を少し低くした。
「二人はまだ全然反省してないよね~。リリー、ちゃんと見てたよ? 頭下げてるフリして、目が全然謝ってなかったもん」
真桜が静かにフォローするように言った。
「謝罪に本気度がなければ、相手に伝わるはずがありません。ましてや、過去に傷つけた相手なら尚更です」
スタッフは空気を読んで軽く肩をすくめ、話題を変えるように言った。
「まあまあ、せっかくのイベントなんだから、今日はスイーツを楽しんでくれよ。明日もコンテストあるんだろ?」
カリナが貴族生徒1のグラスにジュースを注ぎ足しながら、明るく言った。
「ほら、飲んで飲んで。落ち込んでる顔してても可愛くないよ~。ナタル・バジルールで頑張って勝ち取ったら、きっと気分も晴れるんじゃない?」
貴族生徒1は小さく微笑もうとしたが、笑顔はぎこちなかった。
「……ありがとうございます。本当に……私、ちゃんと謝りたかったんです。でも、結果的に……」
彼女の声は次第に小さくなり、言葉の最後は飲み込まれるように消えた。
リリーが立ち上がり、貴族生徒1の背中を優しく叩いた。
「まあ、焦らなくていいよ。今日一日、ちゃんと楽しんで。罪滅ぼしってのは、一日で終わるものじゃないからね」
カリナがにやりと笑った。
「そうだよ。ウチら風紀委員会が、ちゃんと見張ってるから♪」
真桜が静かに付け加えた。
「逃げずに正面から向き合う……それが一番の贖罪だと思います」
三人の貴族生徒は、それぞれ複雑な表情でスイーツを口に運び続けた。
甘い味が舌に広がる一方で、心の中は苦く、重い感情で満たされていた。
特にリーダー格の少女は、フォークを握る手が微かに震えていた。
ハリエットに浴びせた言葉、今も相手の胸に深く刺さっているという事実、そして自分がまだ本当の意味で許されていないという現実――それらが、彼女の心を静かに蝕んでいた。
リリーがフォークを置き、明るく話題を変えた。
「ところでさ、キミは特撮興味あるかな?」
貴族生徒1が少し驚いた顔でリリーを見た。
「え? 特撮…」
リリーが目を輝かせて身を乗り出した。
「スーパー戦隊シリーズにメタルヒーローシリーズ。仮面ライダーシリーズだね!」
貴族生徒1が少し困ったように笑った。
「あの…特撮は聞き囓り程度で」
リリーは気にした様子もなく、笑顔のまま続けた。
「聞き囓りでもいいよ!……キミ達がやった事は正義ではないけど、本当に反省する気があるなら今後、他人の事を考えて行動すれば良いと思うよ」
貴族生徒2がフォークを止めて、ぼそっと言った。
「え…私は」
カリナが甘い声で、しかし核心を突くように言った。
「反省ゼロ? 今はしなくても何れはしなくちゃダメなんじゃないかな?」
貴族生徒3が肩をすくめ、気のない調子で答えた。
「まあ……そうね」
リリーが再び明るく提案した。
「――――リリーのお勧めは『仮面ライダー龍騎』だね! バトルロワイヤルものだけど、結構面白いよ!」
真桜が隣で小さく苦笑した。
「リリーさん、困ってるじゃないですか…」
カリナが笑いながら肩を叩いた。
「ま、いいんじゃね? 特撮はリリーの十八番みたいなもんだし」
貴族生徒1は少し考え込むような表情で呟いた。
「……龍騎、ですか。聞いたことはありますけど……」
リリーがさらに熱を込めて語り始めた。
「うんうん! 鏡の世界でライダー同士が戦う話なんだよ。誰が正義で誰が悪か分からなくなるような、深い話もあってさ。キミたちも見てみたら? もしかしたら、自分のこととか重ねて考えられるかもしれないよ」
その言葉に、貴族生徒1の瞳がわずかに揺れた。
「(……本当に、私は変われるのだろうか。あの時の過ちを、ただ謝っただけで許されると思っていた自分が、なんて浅はかだったんだろう……)」
心の中で激しく自問する彼女の表情は、甘いスイーツを前にしていても暗く沈んでいた。カリナが優しい声で続けた。
「過去のことはすぐには消えないけどさ。スイーツ食べて、明日コンテスト頑張って、それから少しずつ変わっていけばいいんじゃない?」
真桜が静かに、しかし真摯な目で言った。
「急に踊らされたりして本当にごめんなさい。でも、あの場で少しでも気持ちが動いたなら、それで良かったと思っています」
リリーが最後に明るく締めくくった。
「とにかく、明日も頑張ろうね! コンテストでいいパフォーマンス見せてくれたら、リリーも応援するから♪」
三人の貴族生徒はそれぞれ無言で頷いた。
貴族生徒1は小さく微笑もうとしたが、その笑顔はどこか儚げで、瞳の奥には複雑な感情が渦巻いていた。
貴族生徒2と3は相変わらず不満げな顔を隠しきれず、フォークを動かす手にも力が入っていなかった。
甘い香りが漂うテラス席で、三人は残りのスイーツを無言で口に運び続けた。
華やかなイベントの喧騒が遠くから聞こえる中、彼女たちの心はまだ重く、ざわついたままだった。
リリー、カリナ、真桜の三人は、そんな彼女たちを静かに見守っていた。
強引にでも前を向かせようとする風紀委員会の姿勢と、過去の罪を背負った貴族生徒たちの葛藤――。
ノヴァセレス・エンタメフェスの明るい空の下で、二つの異なる想いが静かに交差していた。
明日という舞台が、彼女たちに何をもたらすのか――まだ、誰にも分からなかった。
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