マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest 作:マブラマ
コンテスト当日
コスプレコンテスト・出場控え室
控え室は緊張と興奮が入り混じった熱気に包まれていた。
鏡の前で最終確認をする者、深呼吸を繰り返す者、互いに衣装の乱れを直し合う者――それぞれが明日への舞台を目前に、思い思いの準備を進めている。
そんな中、グレーテルが通信端末を耳から外し、重い口調で告げた。
「―――そうか。わかった」
アネットがすぐ隣で振り返った。
「どうしたの?」
グレーテルは一度目を閉じてから、静かに告げた。
「ドロテアが別邸で朝から熱があって体調を崩したらしい。参加は絶望的だ」
ハリエットが目を大きく見開いた。
「え!? ドロテア様が……」
イングヒルトも表情を曇らせた。
「やっぱり、公務で忙しかったのも……」
グレーテルが小さくため息をついた。
「あり得るな―――彼女のことだ。無理強いしてまで参加したかったのだろう」
アネットが慌てて聞いた。
「え? ということはリュシーも?」
「参加見送りだ」
ミリアムがショックを受けた顔で呟いた。
「そんな……」
グレーテルは厳しい目で三人を見据えた。
「ふたり抜きの参加だ。いないから出来ませんというのは通用しないぞ」
ハリエットは一瞬唇を噛んだが、すぐに顔を上げ、力強く頷いた。
「分かっています。折角ここまで来たのですから、ドロテア様やリュシー様がいなくても頑張ります!」
グレーテルが満足げに頷いた。
「クラウディア達にも伝えておく。不安させたくないからな」
アネットが拳を握り、明るく声を上げた。
「あたしも参加するよ~。みんな頑張ろ♪ えいえいおー!」
グレーテルが即座に突っ込んだ。
「アネット、少しは真面目にやれ」
それからグレーテルは全員の顔をゆっくりと見回し、低く、しかし熱のこもった声で言った。
「目指すは優勝一択だ。負けることは許されない……これは我々の戦いだ。気合い入れろ」
アネットが苦笑しながら肩をすくめた。
「精神論で勝てたら苦労しないよ……」
「煩い! 貴様だけは言われたくない!」
ハリエットが静かに、しかし決意を込めて言った。
「……私達も、アークトゥルスの為に頑張りましょう」
ケイトが拳を小さく握った。
「うん!」
ミリアムが元気よく飛び跳ねた。
「気合い入れていくよ~! みんな!」
指揮官は少し離れた場所からその様子を眺め、内心で呟いた。
「(本当に強くなったな……)」
クラウディアが皆を鼓舞するように声を上げた。
「ユニティ・エッジも負けていられませんね。私達も最善を尽くしましょう!」
ユニティ・エッジのメンバー1が自作の弓を軽く掲げて笑った。
「任せて! 弓使いポピュリの拘り抜いたパフォーマンス、みんなに披露してあげるんだから!」
指揮官はもう片方のチームも心配なさそうだと、内心で安堵した。
ユニティ・エッジのメンバー3が大きく息を吸い、拳を天井に向かって突き上げた。
「よぉーーーし! アークトゥルスゥウウウウーーーー!! 出陣――――!!」
その掛け声に、控え室にいる全員が一斉に声を合わせた。
「オォーーーーーーーーーーー!!」
アネットが一番大きく、テンション高く叫んだ。
「おーーー!!!」
グレーテルが即座に冷たい視線を向けた。
「……少しは空気読め」
アネットは「えへへ」と頭を掻きながら笑ったが、その瞳はしっかりと闘志に燃えていた。
控え室の空気は一気に高揚し、緊張と興奮が渦を巻いていた。
ドロテアとリュシーが抜けた穴は確かに大きい。
しかし、それを埋めようとする彼女たちの意志は、むしろその欠落によってより強く結びついていた。
一次審査の開始を告げるアナウンスが、控え室のスピーカーから流れ始めた。
グレーテルが最後に、低く、力強く言った。
「行くぞ。―――私達の戦いを、思い知らせるんだ」
控え室の扉が開き、気合い十分に飛び出そうとした一行の前に、ひとりの人物が立っていた。
白髪に眼鏡をかけた、知的な風貌の男性――ヨハネス・ツヴァイクレだった。
ツヴァイクレは控え室の熱気を一瞬で感じ取り、口元に薄い笑みを浮かべた。
「お、気合い入ってるな」
グレーテルが目を輝かせて即座に反応した。
「ツヴァイクレ先生!」
彼女の声には、普段の冷静さを少し崩した嬉しさが滲んでいた。
恩師の登場に、背筋が自然と伸びる。
ツヴァイクレは眼鏡を軽く押し上げながら、控え室の中を見回した。
「ドロテア・カークランドとリュシー・ムーアクロフトが欠場したと聞いたが……それでもこの気迫か。なかなか良い顔をしているじゃないか」
グレーテルが一歩前に出て、しっかりと答えた。
「はい。二人を欠いた分、私たちで埋めます。……先生の前で、恥はかかせません」
アネットがにっと笑って手を挙げた。
「ツヴァイクレ先生! あたしも出場してるんですよ~! 見ててくださいね!」
ツヴァイクレはアネットを見て、わずかに目を細めた。
「ホーゼンフェルト……相変わらず元気だな。『リコリス・リコイル』の錦木千束のコスプレか。似合っているぞ」
「えへへ、ありがとうございます!」
イングヒルトが優しく微笑みながら頭を下げた。
「先生、ご無沙汰しております」
ツヴァイクレは軽く頷き、ハリエット、ミリアム、ケイトの三人にも視線を移した。
「君たちもか。アークトゥルスの面々……よくここまで来た。ドロテアがいなくても怯まずに立てる。それだけで十分に価値がある」
ハリエットが真剣な表情で答えた。
「はい……全力で挑みます」
ミリアムとケイトも揃って「はい!」と声を合わせた。
ツヴァイクレは満足そうに頷くと、審査員バッジのついた胸元を軽く叩いた。
「私は審査員として公平に採点するが……期待しているぞ。過去を乗り越え、今を生きる者たちのパフォーマンスを、しっかり見せてもらいたい」
グレーテルが力強く頷いた。
「了解しました。先生」
ツヴァイクレは最後に全員を見渡し、静かだが芯の通った声で言った。
「貴族も平民も関係ない。この舞台では、コスプレのクオリティと心意気だけが問われる。……存分に暴れてこい」
その言葉に、控え室の空気がさらに引き締まった。アネットが拳を突き上げた。
「オッケー! 先生、絶対にいいところ見せますから!」
ツヴァイクレは小さく笑い、控え室の出口へと歩きながら背中で言った。
「楽しみにしてるぞ。―――シュヴァルツェスマーケンの誇りと、アークトゥルスの未来を、存分に刻みつけてこい」
扉が閉まる直前、グレーテルが小さく、しかし熱く呟いた。
「……先生、ありがとうございます」
一次審査開始まであとわずか。控え室に残った面々は、ツヴァイクレの言葉を胸に、それぞれの想いを新たに舞台へと向かおうとしていた。
華やかな照明と観客の歓声が待つ本舞台へ――彼女たちの戦いが、今、始まろうとしていた。
いよいよ、目玉プログラム『コスプレコンテスト』が開幕した。
コスプレコンテスト特設ステージ
明るい照明が一気に灯り、観客席から大きな歓声が沸き起こる。
司会の女性が、元気いっぱいにマイクを握った。
「あーあー。マイクテス。マイクテス。ワンツーワンツー……配信も繋がってるっすかー?―――――みなさーん! コンチワー! 楽しくコスってるぅ~? みんな大好き! 『コスプレコンテスト実行委員会』の司会役アマネっすー! なんと今日は学園から出張だぁーーーーーッ!」
指揮官は観客席で額に手を当てた。
「あの子、ほんとにどこにでも現れるな………」
グレーテルが冷めた目でステージ上の緑髪ツインテールの女性を睨んだ。
「誰なんだあの緑髪のツインテールで阿呆顔の巨乳女は」
指揮官が苦笑した。
「言い方が悪いだろ……彼女はアマネって言って『メイズラッシュ』や『アークトゥルス選考会』『P-1グランプリ』等のイベントでの司会役を担当してる女性だ」
グレーテルがため息をついた。
「学園も…何考えてるんだか。もう少し真面目な司会はいなかったのか?」
「学園にはいないな」
「よりによってこの女が……」
指揮官、グレーテル、イングヒルトの三人は観客席から、アークトゥルスのメンバーたちの勇姿を見届けることにした。
ステージ上には、総勢48名の参加者が肩を並べていた。
色とりどりのコスプレが輝き、観客の視線を一身に浴びている。
その中に、ドロテアとリュシーを除くアークトゥルスの7人も堂々と立っていた。
無論、アネットもその隣で胸を張っている。
アネットが興奮気味に小声で言った。
「おー、凄い数…これがコスプレコンテスト…緊張するなー。くぅー! 何だか高揚感湧いてきたー!」
クラウディアが隣で小さく震えながら答えた。
「い、いよいよですね……! 今になって緊張してきたかもしれません………!」
アネットが笑顔でクラウディアの肩をポンと叩いた。
「大丈夫大丈夫♪ 千束ちゃんがいるよ♪」
「うぅ…ちょっと緊張が……!」
ユニティ・エッジのメンバー1がアドバイスをした。
「そういうときは手のひらに『人』って書いて、飲むといいって聞いたよ!」
アネットが即座に突っ込んだ。
「何それ? おまじない? そんなことより羊の数数えればいいんじゃない?」
クラウディアが弱々しく笑った。
「それだと眠たくなっちゃいますよ」
その時、ミリアムが少し離れた場所を指差した。
「ね、ねえ、あの子達、こっち見てるんだけど……」
ケイトが不安げに呟いた。
「どうする?」
アネットは一瞬そちらを見て、すぐに明るく言った。
「え? そんなの無視無視。どうせ話したところで何の収穫ないもん!♪」
ハリエットが冷静に頷いた。
「『千束』さんの言うとおりですね。どの道今は込み合った話なんて出来ないし」
ステージ中央で、アマネが大きく両手を広げた。
「本日、ここにいる48人が、各々思い思いのパフォーマンスを披露し、一番を競い合って頂くっす!! さぁ、誰がもっとも作品世界のキャラクター達を憑依させられるか……!! 最後まで、ごゆっくり楽しんでってくださ――え?」
突然、アマネの声が止まった。
観客席も、参加者たちも、一斉にざわつき始めた。
それもそのはず――会場の大きな入口から、1機のMGが堂々と乗り込んできたのだ。
重厚な装甲と、威圧的なシルエット。
明らかにイベント用の演出ではない、本物の軍用機体だった。
グレーテルが観客席で立ち上がった。
「MG!?」
イングヒルトが息を呑んだ。
「あの機体は…ウォーデンSMG型」
指揮官の表情が一瞬で引き締まった。
「……!」
グレーテルは即座に通信機を耳に当て、低く命じた。
「……グレーテルだ。例の作戦を実行しろ。早急にだ」
観客席から驚きの声が上がる。
「な、なにあれ? コスプレ?」
「ないでしょ、流石に演出か何かじゃないの?」
指揮官が歯を食いしばった。
「(いや…演出じゃない!)」
グレーテルが二人の方に素早く言った。
「すまない。席を外す」
イングヒルトが驚いて振り向いた。
「え? グレーテルさん!?」
「すぐ戻る!」
講談社ブース
ブース内では『逮捕しちゃうぞ』のグッズが所狭しと並び、劇中で使用されたホンダ・トゥデイのミニパトが展示されていた。
グレーテルが息を切らして駆け込み、スタッフに詰め寄った。
「少し構わないか?」
スタッフ1が目を丸くした。
「何でしょうか?」
「緊急事態だ。このミニパト、使わせて貰うぞ」
「え?」
グレーテルの後ろに、二人の人物が立っていた。
病気で寝込んでいるはずのドロテア・カークランドと、その看病をしているはずのリュシー・ムーアクロフト。
二人とも、完璧な婦人警官コスプレ――小早川美幸と辻本夏実を再現した特殊メイクと衣装だった。
ドロテアが優雅に、しかし力強く言った。
「少しお借りして良いでしょうか?」
リュシーがニヤリと笑った。
「すぐ返すから」
スタッフ1が呆然とする中、グレーテルが胸を張った。
「そういう訳だから借りるぞ。拒否権はない。私はノヴァセレス地区議会のグレーテル・イエッケルンだ! 緊急事態により車両を貸して頂きたい!」
スタッフ1が慌てた。
「どゆことですか?」
「MGがコスプレコンテストの会場に現れた」
「何ですって!?」
グレーテルが鋭く言った。
「反融和派のテロ組織の可能性が高い―――鍵をよこせ」
スタッフ1が青ざめながら無線で確認を取った。
女性スタッフが叫んだ。
「会場本部から連絡が来ました! 襲われています!」
スタッフ1が即座に判断した。
「……鍵をくれ!」
スタッフ2が戸惑った。
「え? しかし…」
「説明は後でする! 渡せ!」
「あ、はい!」
スタッフ1は鍵を渡しながら、震える声で言った。
「……騒動が収束したら返却してくださいね」
グレーテルが短く答えた。
「ああ、絶対に傷一つ付けたりしない」
ドロテアは運転席に滑り込み、エンジンをかけた。
低いエンジン音が響く。
ドロテアが声を張り上げた。
「行きますわよ…いえ――――行くわよ、夏実!」
ギュルルルルル……ブォン!
コトコトコト……
リュシーが助手席でニヤリと笑った。
「了解…―――OK!」
ドロテアがスイッチを入れる。
「ニトロオン!」
カチッ。
ブァァン!!
グァアアアアアアアアアア!!
ギャアアアアアア!!
ギャギャァァァ!!
ミニパトが猛烈な加速でブースを飛び出し、MGに向かって突進していった。
スタッフ1が呆然とその背中を見送り、ぽつりと呟いた。
「………美幸と夏実だ…」
グレーテルは遠ざかるミニパトを見つめ、静かに呟いた。
「……無事でいろよ」
コンテスト会場は一瞬にして、華やかな祭りの空気から緊迫した空気へと変わっていた。アネットたちはステージ上で何が起こっているのかを把握しきれず、ただ事態の推移を見つめていた。
―――祭りの裏側で、再び火蓋が切られようとしていた。
Fortgesetzt werden