マブラヴガールズガーデン You're Under Arrest   作:マブラマ

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第8話 コンテスト当日

コンテスト当日

コスプレコンテスト・出場控え室

 

 

控え室は緊張と興奮が入り混じった熱気に包まれていた。

鏡の前で最終確認をする者、深呼吸を繰り返す者、互いに衣装の乱れを直し合う者――それぞれが明日への舞台を目前に、思い思いの準備を進めている。

そんな中、グレーテルが通信端末を耳から外し、重い口調で告げた。

「―――そうか。わかった」

アネットがすぐ隣で振り返った。

「どうしたの?」

グレーテルは一度目を閉じてから、静かに告げた。

「ドロテアが別邸で朝から熱があって体調を崩したらしい。参加は絶望的だ」

ハリエットが目を大きく見開いた。

「え!? ドロテア様が……」

イングヒルトも表情を曇らせた。

「やっぱり、公務で忙しかったのも……」

グレーテルが小さくため息をついた。

「あり得るな―――彼女のことだ。無理強いしてまで参加したかったのだろう」

アネットが慌てて聞いた。

「え? ということはリュシーも?」

「参加見送りだ」

ミリアムがショックを受けた顔で呟いた。

「そんな……」

グレーテルは厳しい目で三人を見据えた。

「ふたり抜きの参加だ。いないから出来ませんというのは通用しないぞ」

ハリエットは一瞬唇を噛んだが、すぐに顔を上げ、力強く頷いた。

「分かっています。折角ここまで来たのですから、ドロテア様やリュシー様がいなくても頑張ります!」

グレーテルが満足げに頷いた。

「クラウディア達にも伝えておく。不安させたくないからな」

アネットが拳を握り、明るく声を上げた。

「あたしも参加するよ~。みんな頑張ろ♪ えいえいおー!」

グレーテルが即座に突っ込んだ。

「アネット、少しは真面目にやれ」

それからグレーテルは全員の顔をゆっくりと見回し、低く、しかし熱のこもった声で言った。

「目指すは優勝一択だ。負けることは許されない……これは我々の戦いだ。気合い入れろ」

アネットが苦笑しながら肩をすくめた。

「精神論で勝てたら苦労しないよ……」

「煩い! 貴様だけは言われたくない!」

ハリエットが静かに、しかし決意を込めて言った。

「……私達も、アークトゥルスの為に頑張りましょう」

ケイトが拳を小さく握った。

「うん!」

ミリアムが元気よく飛び跳ねた。

「気合い入れていくよ~! みんな!」

指揮官は少し離れた場所からその様子を眺め、内心で呟いた。

「(本当に強くなったな……)」

クラウディアが皆を鼓舞するように声を上げた。

「ユニティ・エッジも負けていられませんね。私達も最善を尽くしましょう!」

ユニティ・エッジのメンバー1が自作の弓を軽く掲げて笑った。

「任せて! 弓使いポピュリの拘り抜いたパフォーマンス、みんなに披露してあげるんだから!」

指揮官はもう片方のチームも心配なさそうだと、内心で安堵した。

ユニティ・エッジのメンバー3が大きく息を吸い、拳を天井に向かって突き上げた。

「よぉーーーし! アークトゥルスゥウウウウーーーー!! 出陣――――!!」

その掛け声に、控え室にいる全員が一斉に声を合わせた。

「オォーーーーーーーーーーー!!」

アネットが一番大きく、テンション高く叫んだ。

「おーーー!!!」

グレーテルが即座に冷たい視線を向けた。

「……少しは空気読め」

アネットは「えへへ」と頭を掻きながら笑ったが、その瞳はしっかりと闘志に燃えていた。

控え室の空気は一気に高揚し、緊張と興奮が渦を巻いていた。

ドロテアとリュシーが抜けた穴は確かに大きい。

しかし、それを埋めようとする彼女たちの意志は、むしろその欠落によってより強く結びついていた。

一次審査の開始を告げるアナウンスが、控え室のスピーカーから流れ始めた。

グレーテルが最後に、低く、力強く言った。

「行くぞ。―――私達の戦いを、思い知らせるんだ」

控え室の扉が開き、気合い十分に飛び出そうとした一行の前に、ひとりの人物が立っていた。

白髪に眼鏡をかけた、知的な風貌の男性――ヨハネス・ツヴァイクレだった。

ツヴァイクレは控え室の熱気を一瞬で感じ取り、口元に薄い笑みを浮かべた。

「お、気合い入ってるな」

グレーテルが目を輝かせて即座に反応した。

「ツヴァイクレ先生!」

彼女の声には、普段の冷静さを少し崩した嬉しさが滲んでいた。

恩師の登場に、背筋が自然と伸びる。

ツヴァイクレは眼鏡を軽く押し上げながら、控え室の中を見回した。

「ドロテア・カークランドとリュシー・ムーアクロフトが欠場したと聞いたが……それでもこの気迫か。なかなか良い顔をしているじゃないか」

 

グレーテルが一歩前に出て、しっかりと答えた。

「はい。二人を欠いた分、私たちで埋めます。……先生の前で、恥はかかせません」

アネットがにっと笑って手を挙げた。

「ツヴァイクレ先生! あたしも出場してるんですよ~! 見ててくださいね!」

ツヴァイクレはアネットを見て、わずかに目を細めた。

「ホーゼンフェルト……相変わらず元気だな。『リコリス・リコイル』の錦木千束のコスプレか。似合っているぞ」

「えへへ、ありがとうございます!」

イングヒルトが優しく微笑みながら頭を下げた。

「先生、ご無沙汰しております」

ツヴァイクレは軽く頷き、ハリエット、ミリアム、ケイトの三人にも視線を移した。

「君たちもか。アークトゥルスの面々……よくここまで来た。ドロテアがいなくても怯まずに立てる。それだけで十分に価値がある」

ハリエットが真剣な表情で答えた。

「はい……全力で挑みます」

ミリアムとケイトも揃って「はい!」と声を合わせた。

ツヴァイクレは満足そうに頷くと、審査員バッジのついた胸元を軽く叩いた。

「私は審査員として公平に採点するが……期待しているぞ。過去を乗り越え、今を生きる者たちのパフォーマンスを、しっかり見せてもらいたい」

グレーテルが力強く頷いた。

「了解しました。先生」

ツヴァイクレは最後に全員を見渡し、静かだが芯の通った声で言った。

「貴族も平民も関係ない。この舞台では、コスプレのクオリティと心意気だけが問われる。……存分に暴れてこい」

その言葉に、控え室の空気がさらに引き締まった。アネットが拳を突き上げた。

「オッケー! 先生、絶対にいいところ見せますから!」

ツヴァイクレは小さく笑い、控え室の出口へと歩きながら背中で言った。

「楽しみにしてるぞ。―――シュヴァルツェスマーケンの誇りと、アークトゥルスの未来を、存分に刻みつけてこい」

扉が閉まる直前、グレーテルが小さく、しかし熱く呟いた。

「……先生、ありがとうございます」

一次審査開始まであとわずか。控え室に残った面々は、ツヴァイクレの言葉を胸に、それぞれの想いを新たに舞台へと向かおうとしていた。

華やかな照明と観客の歓声が待つ本舞台へ――彼女たちの戦いが、今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ、目玉プログラム『コスプレコンテスト』が開幕した。

 

コスプレコンテスト特設ステージ

 

 

 

 

明るい照明が一気に灯り、観客席から大きな歓声が沸き起こる。

司会の女性が、元気いっぱいにマイクを握った。

「あーあー。マイクテス。マイクテス。ワンツーワンツー……配信も繋がってるっすかー?―――――みなさーん! コンチワー! 楽しくコスってるぅ~? みんな大好き! 『コスプレコンテスト実行委員会』の司会役アマネっすー! なんと今日は学園から出張だぁーーーーーッ!」

指揮官は観客席で額に手を当てた。

「あの子、ほんとにどこにでも現れるな………」

グレーテルが冷めた目でステージ上の緑髪ツインテールの女性を睨んだ。

「誰なんだあの緑髪のツインテールで阿呆顔の巨乳女は」

指揮官が苦笑した。

「言い方が悪いだろ……彼女はアマネって言って『メイズラッシュ』や『アークトゥルス選考会』『P-1グランプリ』等のイベントでの司会役を担当してる女性だ」

グレーテルがため息をついた。

「学園も…何考えてるんだか。もう少し真面目な司会はいなかったのか?」

「学園にはいないな」

「よりによってこの女が……」

指揮官、グレーテル、イングヒルトの三人は観客席から、アークトゥルスのメンバーたちの勇姿を見届けることにした。

ステージ上には、総勢48名の参加者が肩を並べていた。

色とりどりのコスプレが輝き、観客の視線を一身に浴びている。

その中に、ドロテアとリュシーを除くアークトゥルスの7人も堂々と立っていた。

無論、アネットもその隣で胸を張っている。

アネットが興奮気味に小声で言った。

「おー、凄い数…これがコスプレコンテスト…緊張するなー。くぅー! 何だか高揚感湧いてきたー!」

クラウディアが隣で小さく震えながら答えた。

「い、いよいよですね……! 今になって緊張してきたかもしれません………!」

アネットが笑顔でクラウディアの肩をポンと叩いた。

「大丈夫大丈夫♪ 千束ちゃんがいるよ♪」

「うぅ…ちょっと緊張が……!」

ユニティ・エッジのメンバー1がアドバイスをした。

「そういうときは手のひらに『人』って書いて、飲むといいって聞いたよ!」

アネットが即座に突っ込んだ。

「何それ? おまじない? そんなことより羊の数数えればいいんじゃない?」

クラウディアが弱々しく笑った。

「それだと眠たくなっちゃいますよ」

その時、ミリアムが少し離れた場所を指差した。

「ね、ねえ、あの子達、こっち見てるんだけど……」

ケイトが不安げに呟いた。

「どうする?」

アネットは一瞬そちらを見て、すぐに明るく言った。

「え? そんなの無視無視。どうせ話したところで何の収穫ないもん!♪」

ハリエットが冷静に頷いた。

「『千束』さんの言うとおりですね。どの道今は込み合った話なんて出来ないし」

ステージ中央で、アマネが大きく両手を広げた。

「本日、ここにいる48人が、各々思い思いのパフォーマンスを披露し、一番を競い合って頂くっす!! さぁ、誰がもっとも作品世界のキャラクター達を憑依させられるか……!! 最後まで、ごゆっくり楽しんでってくださ――え?」

突然、アマネの声が止まった。

観客席も、参加者たちも、一斉にざわつき始めた。

それもそのはず――会場の大きな入口から、1機のMGが堂々と乗り込んできたのだ。

重厚な装甲と、威圧的なシルエット。

明らかにイベント用の演出ではない、本物の軍用機体だった。

グレーテルが観客席で立ち上がった。

「MG!?」

イングヒルトが息を呑んだ。

「あの機体は…ウォーデンSMG型」

指揮官の表情が一瞬で引き締まった。

「……!」

グレーテルは即座に通信機を耳に当て、低く命じた。

「……グレーテルだ。例の作戦を実行しろ。早急にだ」

観客席から驚きの声が上がる。

「な、なにあれ? コスプレ?」

「ないでしょ、流石に演出か何かじゃないの?」

指揮官が歯を食いしばった。

「(いや…演出じゃない!)」

グレーテルが二人の方に素早く言った。

「すまない。席を外す」

イングヒルトが驚いて振り向いた。

「え? グレーテルさん!?」

「すぐ戻る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

講談社ブース

 

 

ブース内では『逮捕しちゃうぞ』のグッズが所狭しと並び、劇中で使用されたホンダ・トゥデイのミニパトが展示されていた。

グレーテルが息を切らして駆け込み、スタッフに詰め寄った。

「少し構わないか?」

スタッフ1が目を丸くした。

「何でしょうか?」

「緊急事態だ。このミニパト、使わせて貰うぞ」

「え?」

グレーテルの後ろに、二人の人物が立っていた。

病気で寝込んでいるはずのドロテア・カークランドと、その看病をしているはずのリュシー・ムーアクロフト。

二人とも、完璧な婦人警官コスプレ――小早川美幸と辻本夏実を再現した特殊メイクと衣装だった。

ドロテアが優雅に、しかし力強く言った。

「少しお借りして良いでしょうか?」

リュシーがニヤリと笑った。

「すぐ返すから」

スタッフ1が呆然とする中、グレーテルが胸を張った。

「そういう訳だから借りるぞ。拒否権はない。私はノヴァセレス地区議会のグレーテル・イエッケルンだ! 緊急事態により車両を貸して頂きたい!」

スタッフ1が慌てた。

「どゆことですか?」

「MGがコスプレコンテストの会場に現れた」

「何ですって!?」

グレーテルが鋭く言った。

「反融和派のテロ組織の可能性が高い―――鍵をよこせ」

スタッフ1が青ざめながら無線で確認を取った。

女性スタッフが叫んだ。

「会場本部から連絡が来ました! 襲われています!」

スタッフ1が即座に判断した。

「……鍵をくれ!」

スタッフ2が戸惑った。

「え? しかし…」

「説明は後でする! 渡せ!」

「あ、はい!」

スタッフ1は鍵を渡しながら、震える声で言った。

「……騒動が収束したら返却してくださいね」

グレーテルが短く答えた。

「ああ、絶対に傷一つ付けたりしない」

ドロテアは運転席に滑り込み、エンジンをかけた。

低いエンジン音が響く。

ドロテアが声を張り上げた。

「行きますわよ…いえ――――行くわよ、夏実!」

ギュルルルルル……ブォン!

コトコトコト……

リュシーが助手席でニヤリと笑った。

「了解…―――OK!」

ドロテアがスイッチを入れる。

「ニトロオン!」

カチッ。

ブァァン!!

グァアアアアアアアアアア!!

ギャアアアアアア!!

ギャギャァァァ!!

ミニパトが猛烈な加速でブースを飛び出し、MGに向かって突進していった。

スタッフ1が呆然とその背中を見送り、ぽつりと呟いた。

「………美幸と夏実だ…」

グレーテルは遠ざかるミニパトを見つめ、静かに呟いた。

「……無事でいろよ」

コンテスト会場は一瞬にして、華やかな祭りの空気から緊迫した空気へと変わっていた。アネットたちはステージ上で何が起こっているのかを把握しきれず、ただ事態の推移を見つめていた。

―――祭りの裏側で、再び火蓋が切られようとしていた。

 

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