貞操逆転世界に転生した読者の俺はどうすりゃいいですか?   作:カナのドリルで精通侍

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主人公は転生者ですが適応力の高いゴキブリみたいなやつなので、ある程度は貞操逆転世界の常識に則した言動を取ります。蒼ほど勘違いを量産しません。が、美咲はイカれてるのでその適応を破ってきた感じです。
史上初…灰塚美咲の存在への適応が始まる…



第2話 Watashiga Sakini Suki Dirt Cheap “いともたやすく行われる脳破壊行為”

「ごめんくださーい! 桜ちゃんいますかー!」

 

 金曜日の朝である。玄関にゴミ袋を集めていた俺は、聞き覚えのある声を扉越しに耳にした。

 

 灰塚ちゃんマジか。昨日の今日で朝だぞ。いつでも遊びに来てねとは言ったけど、判断が早いよ。 

 

「まだ寝てるよ。灰塚ちゃん? 今日朝早いの?」

「その声は裕也さんですね! おはようございます♡ アナタの美咲でーす♡」

「あぁうん、おはよう」

「ひゃー!♡ 朝チュンしちゃった!♡」

「顔合せてすらいないんだよなぁ」

 

 ポジティブシンキングの申し子かな? 早起きできてえらいね♡ 残念美人日本代表がよ。

 

「ちょっとユウ、ゴミ出しはわたしの仕事でしょ。というか誰か来てるの?」

「おぁ、(すみれ)ちゃん。なんか桜の友達がね」

「ふーん…まだ7時なのに? 妙ね…」

 

 起きてきた姉の菫ちゃんが、俺の背後から抱きつきながら話しかけてきた。かと思えば玄関を睨みつけている。この姉も姉だな。

 俺は慣れた動作で抱擁を離れた。

 

「だよなぁ、桜の部活って朝練無かったし」

「そっち? まあ何かしら用事があるんじゃない? 呼んできなさいな」

「おけ」

「裕也さ〜ん♡ もう朝ごはん食べました〜? 今から朝マック行きましょうよ♡」

「なにっ」

「えっ知り合いなの!?」

 

 昨日ハンバーグ食べて今日朝マックは流石に…問゛題゛な゛い゛で゛す゛。

 我が家は基本俺の作る朝食ばっかで、朝に限らずあんまり外食しない。そこにきて朝マックとな。だから気に入った。

 

「いつ出発する? 菫ちゃんも同行…する?」

「いや昨日ハンバーグ食べたしいら「もしやそこにいらっしゃるのは義母様ですか!? はじめまして灰塚美咲といいます!」誰がアラフォーよこのメスガキァ!! 姉なるものじゃわたしはァ!!」

「ちょうるさいうるさい。近所迷惑」

「あっごめん…」

 

 姉の肩を掴んで諌める。自分の母親をアラフォー呼ばわりとは。母には申し訳ないが草を禁じ得ないな。

 

「義姉様でしたか! 失礼しました!」

「わたしを義姉様と呼ぶな!」

「ではなんとお呼びすれば?」

「奥様とお呼びッ!」

「ちゃっかりしてんなぁ」

 

 玄関越しに漫才する二人。不意に笑いがこぼれた。これこれ、こういうのを求めてたんだよ俺は。原作の百合好き腐男子の鈴木君じゃないが、俺はこの世界の女性が好きだ。偏に面白いから。

 しかし元の世界の価値観からすると俺は、男を手玉に取って楽しむ悪女ということになるのか? 自分と悪女という要素が結びつかな過ぎて滅!

 

「と、とにかくわたしはアンタを認めないわよ。桜の友達だか何だか知らないけど、わたしのユウと同じ空気を吸えるとは思わないことね」

「え? すみません聞き取れませんでした。玄関開けて喋ってもらっていいですか?」

「コイツ…! ゴミ袋ぶつけてやろうか…!」

「それ以上いけない」

 

 けれども争いが見たいわけではない。火種たる俺が燃え移った二人をどうこうできるとは思えないが、お互いを遠ざけるくらいはできる。火消し火消し。

 

「とりま、俺菫ちゃんの朝飯作るから、桜に朝マック行くか聞いてきてくんない? 灰塚ちゃん、申し訳ないけどちょっと待っててね」

「ハイ! ワカリマシタ!」

「ユウがそう言うなら…仕方ないわね…」

「なんならわたしゴミ出ししてきますよ!」

「えマジ? たすか「駄目よそれはわたしがやる」…だってさ」

 

 強情な姉である。しかしねぇ、玄関先で立たせ続けるのは偲びないのだから…

 俺としては玄関に入れちゃっていいと思うのだが、どうしたもんか。

 

「ほら菫ちゃん桜んとこ行って。ゴミは後でいいからさ」

「そうね、確かに()()のことなんかどうでもいいわね」

「悪意感じるんですけどー?」

 

 ちなみにウチの近所だと燃えるゴミは月水金である。ゲスい菌、他意はない。

 しかし姉はよほど腹に据えかねているのだろうな。ここは譲歩しておこう。

 

「帰りにアイス買ってくるから機嫌直してよ」

「…ダッツの抹茶で」

「りょ」

 

 やれやれだぜ。

 不承不承と階段を登る姉を見送り、俺は玄関の扉をそっと開けた。

 

「…っ!」

 

 顔を合わせた灰塚ちゃんは火を見るより明らかにぱあっと表情を変えて雛鳥のように近付いてくるが、俺は人差し指を立てて徐に手招きした。静粛に願おう。

 

「ゴメンねゴミ袋あって。10分だけ待ってて」

「ひゃ、ひゃい…!」

 

 初対面の時の借りてきた猫状態とでも言おうか、玄関に入った灰塚ちゃんは予想外に大人しくなった。う〜ん…この子、黙ってれば深窓の令嬢といっても過言じゃないくらい美人なんだがなぁ。

 

「あ、あの…? わたしの顔に何か…?」

「ん? あぁごめん、別になんでもないよ」

 

 そんなに見つめていたつもりはなかったが、灰塚ちゃんが顔を逸らしてしまった。でも目だけは合ってるんだよなぁ。野獣の眼光かな?

 するとそこに。

 

「ユウ兄? 美咲ちゃんが来てるの? なんで?」

 

 妹の桜も参戦してきた。

 起きたばかりなのだろう。寝間着のまま、虚ろな目で友達と俺を交互に見ている。

 

「あっ、さくら見ってる〜? 今ぁさくらのお兄さんとお話しちゃってま〜すw」

「ナチュラルに煽るね君」

 

 NTRの竿役ヤンキーみたいな台詞だなお前な。

 

「ちょっ、ユウあんた中に入れちゃったの!?」

「いやまあ桜の友達だし」

「中に…入れる…? ユウ兄、どういうこと…?」

「ああもうめちゃくちゃだよ」

 

 自分が始めた物語なんですけどね、初見さん。

 

 

 


 

 

 

「うまい! うまい! うまい!」

 

 結局姉も加わって、近くのマクド(表記揺れ)に俺たち4人はやってきた。

 

「あんたねぇ…そんなに頼んどいて残したら許さないわよ? おしおきされる覚悟の準備をしておきなさいよ?」

「わかってるって。奢ってくれてありがとね菫ちゃん」

 

 2階の角席、道路を行き交う車の群れを窓から眺めながら食うファストフードが、一番生を実感する。それがボクです。

 俺の食う量が多いのを一旦棚に上げるが、姉と妹は聊か小食なんと違うの? パンケーキ一箱を分け合って食べるとかどこの便利屋だよ。

 それで言うと灰塚ちゃんは育ち盛りらしい量で安心するね。どこにその栄養が行ってるのか、細っこい体からは見当もつかんけど。

 

「ま、まあこの中で一番年上だしぃ? ユウこそ、いつもご飯作ってくれてありがと」

「さくらからも感謝したいな。ユウ兄、いつもありがとう」

「食欲の旺盛な男性はアッチの欲も…ふへへ、唆るぜこれは…!」

「出てる声に出てる」

 

 家族からの日頃の感謝の裏で捗ってんじゃねえ! しかしその食事量誉れ高い。いやほんとにマジでどこに消えてるんだ…? 暗黒空間か?

 

「…でもやっぱりユウの食べっぷり見てるとわたしもお腹空いてきたわね」

 

 早々にミニパンケーキを食べ終えた姉が物欲しそうに見つめてくるので、俺はそこでアラッと思ってしまい、食べかけのソーセージマフィン()を差し出してしまいました。

 俗に言う間接キスである。がしかし。

 

「そう? じゃ食べる? はいよ」

「いいの? ありがと♪」

「まあ菫ちゃんが買ったやつだし」

 

 姉も姉でこういうやり取りには慣れている。共に過ごしてきた年季が違うのだよ年季が。年季とかいうとまたギャオりそうなので言わないけど。

 

「……何…………だと……」

 

 死神代行みたいな間の取り方で灰塚ちゃんが驚愕している。メガマフィンのケチャップ頬についてますよ。あと、驚きのあまり食べ物を取り落としたりとかはしないのね。なんて呑気な感想が浮かんだ。

 

「んん~? 手が止まってるわよ~灰塚の何某…もしかしてだけど、それだけ奢らせておいてまだ足りないなんて言わないわよねぇ~?」

「間接キッス…実在していたの…!?」

「お姉ちゃんだけずるいです。ユウ兄、さくらにも何かちょうだい?」

「しょうがないなぁさく太くんは」

 

 飲みかけのミルク()を桜にシューッ! 超インモラルィン!

 

「ありがとう、ユウ兄♪」

「どういたしまして」

 

 実際、ちょっと頼みすぎた感もあったので助かってたり。

 すると、そのやり取りを見ていた灰塚ちゃんは頭を抑えてバグり始めた。

 

「あば、あばばばばば」

「大丈夫ですかブチャラティ!?」

「ぶちゃ…なにそれ?」

「ユウ兄って偶によくわからないこと言いますよね」

 

 口調が変わるほどのショックだったのか、灰塚ちゃんがぷるぷる震えている。綺麗な銀髪を惜しげもなく乱れさせて。

 なんか可哀想だしケチャップを拭ってあげよう。したらアッアリガトウゴザイマスと返ってきた。律儀だね。

 一方その頃姉ードランは十字の爪を食いこませてマフィンを食べていた。

 

「別にそんないいもんでもないと思うんだがなぁ。そうは思わないか桜」

「ユウ兄の言わんとすることはわかるけど、それはそれとして相手がユウ兄だからね」

「えぇー? 仮に好きな子のリコーダーでも舐めたくはならんでしょ」

「そう…なのかな…? 例えがちょっとわからないけど」

「マジか」

 

 平行世界ギャップだ。そういえば原作でも共学ってワードが存在しなかったくらいだし、学び舎という青春においてすら男は縁遠い存在なんだろうな。

 そう考えると憐れみを覚えるが、だからといって身銭を切るようなことはすべきじゃないだろう。自我の確立もそぞろな少女に甘い蜜を与えるだけ与えて放逐など、それこそ悪い大人そのものである。

 俺の肉体は脳みそ含めて16歳の小僧だが、前世も含めたら母より年上なのだ。改めて()()し、責任を負って生きるべきだ。

 思春期なんぞを言い訳に過ちを犯した俺には、そんな立派なことを口にする権利なんてないかもしれんが。

 

「ユウ兄? 大丈夫?」

「え? 何が?」

「いえ…なんというか、思いつめたような顔をしてたから…」

「あー…いや、別になんでもないよ。ごめんな桜、心配かけて」

「心配なんて、そんな…」

 

 桜はかしこいな。君のような勘のいい妹は誇りだよ。

 撫でてやりたいところだけど食事中だしな。エア慰撫にて仕る。

 

「何よユウ、言ってくれればすぐにでもわたしが手を下してやったのに」

「ナチュラルにわたしを元凶にするじゃないですか。…え、本当にわたしが元凶…?」

「昨日知り合ったばっかの人に思いつめられるほど役者向きじゃないって。俺は灰塚ちゃんを邪険になんて思ってないよ。これだけははっきりと真実を云々」

「それより、早くしないと遅刻しちゃいますよ美咲ちゃん」

「ウッそうだった。というかさくらって裕也さんにだけ敬語外すんだね」

「妹なので。妹なので」

「なんで2回言ったのよ」

 

 大事なことなのかそれ。までも確かに、敬語キャラのタメ口からしか得られない栄養はあるな。

 

 そんなこんなで、もくもく食べ進める灰塚ちゃんを眺めながら姉妹の他愛ない会話をbgmにしていると、あまりの穏やかさで微睡んでしまう。上がった血糖値が眠気に変わってしまったようだ。昨日の夜は勉強の根を詰めすぎたか。

 

 まあ支払いは済ませてるし、姉も今日は大学まで時間に余裕があるはず。

 少しくらい…寝ててもバレへんか…

 

 オラッ入眠!

 

 

 


 

 

 

「ね、寝ちゃった…裕也さん疲れてたのかな…」

「無防備すぎよ…ほ~んと、無防備…♡」

「お姉ちゃん? 抜け駆けはいけませんよ? さくらだって…♡」

「本人が寝た途端これとかこの姉妹卑しくない?」

 

 美咲の指摘は姉妹の無言の圧力によって封殺された。悲しい哉、どれほど積極的であれど美咲は部外者に他ならないのである。喋ってる暇があるならはよ食えという催促も含まれているのでどのみち彼女に発言権はない。

 

「それにしても、最近のユウは様子がおかしいわよね」

「やっぱりお姉ちゃんもそう思いますか…」

「んえ?」

 

 様子がおかしい、という菫の言葉にピンとこない美咲。

 彼女の知る佐藤裕也という男性は、ネットで見たリアルな男像を尽く逸脱していて、かといって創作物のように都合が良すぎるわけでもなく、どこか浮世離れした魅力を持つ人である。出会って日の浅い身なれど、彼の温和な為人(ひととなり)は美咲にも伝わってきた。

 そんな裕也が、何か問題を抱えているとでも言いたげな姉妹の言には、美咲とて反応せずにはいられなかった。

 

「アンタは昨日会ったばっかなんだっけ? 見ての通りユウは自慢の弟だけど、なんでもかんでも自分一人でやろうとする悪癖があるのよ。家事だって、我が家じゃ大体ユウが担当してるわ」

「おお…ほれはふふうにふごい(それはふつうにすごい)、んぐっ、のでは?」

「そうね、確かに凄いわ。他の家のことは知らないけど、多分ユウほど立派な男なんてそうそういないでしょうね」

「ふふーん」

「なぜにさくらがドヤ顔を」

 

 妹も姉も、自分の兄であり弟である佐藤裕也という人物を相当買っているということは、今までの会話や言動から美咲も重々理解できる。

 その上で、だ。温厚篤実の権化たる佐藤裕也の弱みになり得ることとは一体。

 美咲は、この場に自分がいることに不安を抱き始めた。

 

「ね、ねえさくら、わたしが聞いてもいいやつかなぁそれ…」

「え? え~…うぅ~ん、どうでしょう…」

 

 桜は自分の考えに確証を持てないために曖昧さで返したが、煮え切らない回答は益々美咲の不安を大きくする。

 しかし、年長者の菫はそんな()()を励ますように言葉をかけた。

 

「大丈夫よ。少なくとも、アンタが原因じゃないことは確か。ユウも言ってたしね。それに、もしアンタが原因ならわざわざ家に入れないし、ケチャップを拭き取ったりなんてしないわよ」

「あ、あぅ…///」

 

 そう面と向かって告げられると、先ほどの情景を思い出して赤面する美咲だった。ネット弁慶の耳年増な彼女だが、この中じゃ一番男性に耐性のないウブなのである。

 

「でも、だとしてもユウ兄が悩んでる…もしくは困ってる…? ことの理由って、何なのでしょうか…」

「そこよねぇ…さくらはいつから気付いてたの?」

「んーと…多分、新学期が始まったあたりからだと思います」

「学期…学校…? 学校に行きたがってるとか?」

 

 ただの連想ゲームだが、案を出してみる美咲。

 

「いや…ユウは誕生日に資格の本買うくらい勉強熱心だけど、違う気がするわね。学校って勉強というより、同年代と関わって社会性を身に着けるって側面も強いのよ。でもユウ、双子の弟はともかく男にまるで興味が無いというか…養豚場の豚を見るような目をするというか…」

「えっこわっ。男嫌いな男の人っているんです?」

「そういえばニュース見てた時も、さくらがいるからか我慢してたけど凄い渋い顔してました…」

「マジなんだ…あれ、双子? 弟がいるんですか?」

 

 菫の語った内容に美咲が引っ掛かり、問われた菫は「そこ聞くのか…」とでも言いたげな渋面をする。

 

「まあそうね…一応いるわよ。今は入院してるけど」

「はえー、入院…」

「さくらも詳しくは知らないんですが、頭をぶつけてしまったとかで。でも、お母さんはそこまで大事じゃないって言ってました」

「そうなんだ…なら原因ではない、のかな…」

 

 なんとなく、佐藤家の内情を垣間見た美咲はそれ以上聞かないことにした。藪蛇はスルーするに限るのだ。

 

 さあ、退店しなければいけない時間が差し迫っている。

 美咲と桜はトレーを片付けに席を立ち、残る菫は裕也を起こす必要があった。

 

「ユウー、こんなところで寝ちゃだめでしょ? 寝るなら家で寝なさいな」

「んぅ…」

「…写真撮っとこうかしら」

 

 スマホを取り出し、起動したカメラの画角に被写体を収め、パシャリ。この間2秒。

 満足した菫は再び裕也を起こしにかかる。幅の広い肩をゆさゆさ、姉はムラムラ。

 すると、器用に机の上で寝返りをうった裕也は唇を僅かに動かした。

 

「まだまだ…食べ盛り…」

「寝言? レアね」

「もりもり…」

「ふふっ。変なユウ」

 

 菫は微笑んだ。弟の新たな一面に、それを発見したのは自分が最初であろうことに。

 だが、ここでいつまでも弟を観察するわけにはいかない。心苦しいが、菫にも生活があるのだ。

 

「ほらユウ、早くしないと置いてっちゃうわよ」

 

 両腕に隠され、伏せられた裕也の顔を菫は覗き見る。

 

 

 

「お姉さん…いかないで…」

 

 

 

 その目尻には、涙が溜まっていた。

 

「……は? ()()()()…?」

 

 ここでアイデアロール成功。SAN値チェックである。

 dice1d100=100、SAN値チェック失敗により、不可逆の狂気が菫の脳を破壊する。

 

「誰……それ……」

 

 裕也は何故か、姉なるものこと菫に対し「姉さん」や「姉ちゃん」といった二人称を使ったことがない。

 加えて「お姉さん」である。家族を呼ぶには距離があるそれは、年上の他人を呼ぶならそういうのだろうなと、菫のシナプスは導き出した。ついでに焼き切れた。

 

わたしが()さきに()すきだったのに()

 

 哀れ、菫の脳みそは爆発四散。

 辞世の句には程遠い嘆きを残して、美咲たちが戻ってくるまでフリーズするのだった。

 

 

 


 

 

 

 二度寝するのは気持ちいいZOY☆

 

 はい、お恥ずかしながらドカ食い気絶の片鱗を味わった佐藤裕也です。

 あの後はそのまま登校していった桜と灰塚ちゃんと別れて、姉と家に帰っていつも通り過ごした。ただ、おや…? 菫ちゃんの様子が…? って言いたくなるくらい姉は挙動不審だったけど。何があったのか聞こうにも怖くて聞けんのだが。

 まあ多分、なんかまた勘違いして自傷ダメージ食らっただけでしょ。

 

 それはさておき。

 昨日は病院の近くで一泊した母が今日、帰ってくる。

 この世界の台風の目である、佐藤蒼を引き連れて。

 

「え~っと、俺は記憶喪失だからみんなには色々迷惑をかけると思うけど、それでもよろしくお願いしたいな」

 

 夜。学校から帰ってきた姉と妹、そして俺をリビングに集めた母は、今世の俺と瓜二つの男の子を対面させた。

 一応、平行世界の弟ということになる彼は、俺たちをぐるりと見回してから少し強張った笑顔でそう告げた。

 そんな弟の様子を見るに、懸念していた原作崩壊のルートはなさそうだ。俺は一先ず安堵する。

 もし俺が生まれた影響で主人公がどジャアぁ~ンしてこなかったら目も当てられなかったが。例えそうなったとしても、俺がやることは変わらないけどな。

 

 俺がやること。やるべきこと。それは、前世の分まで家族を幸せにすることだ。未だに具体性の見えてこない漠然としたこの目標は、佐藤蒼、彼の到来によって否応なしに定まっていくだろう。

 異常編──成人向け版──のように酒池肉林の限りを尽くすのかもしれないし、原作通りの面白人間として振る舞うのかもしれない。どう転がっても俺は俺の家族と、()()の為に人事を尽くす。

 

 それこそが、俺がこの世界で存在する意味となるのだから。

 

「さしあたって蒼、お前の覚えてることと覚えてないことを教えてくんない? こっちの認識のすり合わせのためにさ」

「あ、ああ。俺が覚えてるのは自分の名前と、あと言語くらい。他のことは何も…」

「そうか。ごめんな、混乱してるだろうに」

「いや、大丈夫だよ。心配してくれてありがとな、()()()()()

「…おう」

 

 お兄ちゃん、か。某赤血系長男を連想する。俺があのキャラくらい長男力を爆発させる日は来るのだろうか。

 

「俺は基本家にいるから、何かあったら聞きに来てくれな。部屋は階段上がって奥、右だ」

「わかった、そうするよ」

「じゃあマミー、俺勉強してくる。あとよろしく」

「ええ、今日も家のお仕事お疲れ様。いつも助かってるわ、裕也」

「マミーの息子だからな」

 

 俺はそう言い残して、リビングの扉を閉めた。

 この頃は考え事が多い。今日は少し早めに寝るとしよう。

 

この世界線は…

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