貞操逆転世界に転生した読者の俺はどうすりゃいいですか?   作:カナのドリルで精通侍

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アニメの一気見には気を付けよう!

今回は一人称、三人称、一人称です。
 


第4話 母は、強し

 

 ウイルス進化説、という主張がある。

 

 生物は進化する。突然変異や自然淘汰によって。

 或いは、ウイルスの感染によりもたらされた新たな遺伝子が起因となって。

 ウイルス進化説とは、その可能性を説く仮説である。

 

 ウイルス、というとゾンビ映画のように悍ましいものを想像するかもしれないが、実際そこまで血生臭くはない。細胞内小器官の代表格たるミトコンドリアは、元々別の生物だったのを細胞内共生…簡単に言うとピンク玉のコピーみたく取り込んで獲得したのでは、とも言われている。加えて、哺乳類の妊娠もウイルスの感染が関わっているそうな。

 

 そのウイルス進化説が、俺が生きているこの貞操逆転世界にどう関係するのかが本題である。

 ここからは私の推理になってしまうんですけど(krhr)

 

 恐らく人類、性病で一回滅びかけてる。

 

 人類の祖先である猿は、群れ内の雄と雌が常に乱パ状態の複雄複雌形式だという。ボノボ然り。俺はそこに、性病が大規模に流行した過去があるのではと考えた。偏差値低い大学のヤリサーじみて性に乱れまくった猿たちは為すすべなく罹患し数を減らしたのだ。しかしこれでは雄も雌も共倒れである。

 更に考察という名の妄想を重ね掛けして悪いのだが、その性病とやらは雄への毒性が強烈だったのではないだろうか。それならこの世界の男が、前世基準で魅力的な巨乳や巨尻に拒否反応を示す理由も、魅力的な雌ほどその性病にかかっている可能性が高いため、と考えることができる。もしそのボンキュッボンな雌が番って妊娠したとして、番われた雄は死ぬし胎児も雄なら死にやすいのでは、と。

 そうやって性に消極的な雄が生き残って雌に襲われ、生まれてくる子供は雌ばかり。稀にポップする雄も性欲が薄く、そんな状態が定着したのちに性病は克服された。だがその毒性を失って尚、人類という種には多大な影響が残った。進化の罠、というやつである。

 そして人類は認知革命、農耕革命、産業革命、情報革命と順調に万物の霊長チャートをこなしていき、現在の貞操逆転へと至った。

 

 以上が俺の仮説である。

 脚本の人そこまで考えてないと思うよ

 

 

 


 

 

 

 そこは、硝煙と血煙の混ざり合う地獄だった。

 

 都市は焼け落ち、均衡は崩れ去り、国家体制は瓦解した。

 

 人間が怪物と化し、僅かに残る生存者たちを追い立てる。

 

 やがて、その牙と唾液が世界を血で染めあげるまで…

 

 

 

 流れ変わったなって思った? 残念ながら変わってないんだなこれが。

 

 どうも佐藤裕也です。読者のみんな、元気してた?

 え俺? 俺今マミーとゾンビ映画見てるよリビングで。なんか最近ハマってるらしい。

 一応ホラー映画ってジャンルになるんだろうけど、モンスターパニックあじが濃いすか? って感じでジャンプスケア多めだ。申し訳ないが俺にはあんまり刺さらない。

 やっぱりホラーは王道を征く…ジャパニーズホラーですかね。

 でも母が勧めてくるだけあって、ストーリー自体はかなり面白い。たかがゾンビ映画だとなめていたけど、これは認識を改める必要があるな。

 あ、あとゾンビ役のエキストラは全員女性である。露出度は高いけど特殊メイクがガチ過ぎて勃つモンも勃たんね。

 

「ぅきゃあっ!?」

「うおっデッ…」

 

 で、でた~www 登場人物が振り向いても怪物がいなくて安心したところにバン! とかいうしゃぶられ尽くした手法~www 映画そのものよりそれに驚いてバルンッ!! って揺れる母の乳房に度肝ぬいたわ。ヌけないけど。

 

 そうだ、それでふと思った。昨日は何故か家族のあられもない姿に勃起したというのに、翌日になると元通りなのはどういう理屈なんだろうか。

 俺は昔、この世界の成り立ちというものを考えたことがある。具体的にいつかって言うと、新生児のマジでやることが無くて暇に殺されかけた時だ。それで導き出したのがさっきの仮説である。身体能力に前世と差異が無いならそれくらいしか考えられんのよね。まあ色々とガバい説なのは認める。所詮素人考えだしな。

 で、その仮説に基づくなら、雄が性欲に猛り爆ぜるスイッチがあるはずなのだ。じゃないと子孫残らんもんね。

 んで俺のこの体の場合、雄が複数の雌を侍らせているのがドツボなんじゃなかろうか。実際、昨日はお姉さんと閉館直前まで盛りあったし。5回も男汁を出したぜ。

 

 おっと、考え事してたら映画もクライマックスだ。主人公がウイルスに感染してしまった家族に震える手でハンドガンを向けている。

 感染した家族は…弟か。

 

「ずずっ…ぐすっ…」

「泣いちゃった!」

「だってぇ…」

 

 見兼ねてティッシュを箱ごと渡すと、母は遠慮なくチーンと鼻をかんだ。色気もクソもなくて草ですわよ。

 

「裕也がゾンビになっても、ママはママだからね」

「なんじゃそりゃ。元からゾンビみたく男に飢えてんじゃん」

「ふふん、ママだっていつまでも干からびてないのよ? だってつい昨日…えっと…///」

「恥ずかしいなら言わんでいいのに」

 

 今更恥じらうその姿、俺にとっては一番母親らしく見えるよ。

 ちなみに我が家で最も弱っちいのが母である。身体能力とか肝の太さ的な意味で。虫苦手だし。

 某呪いの家が舞台のホラー映画なんか見せたら、向こう三日は一人で寝れなくなるだろう(1敗)

 弱き生き物過ぎる…俺が守護(まも)らねば。

 

 しかし腐っても母親というべきか、いやゾンビ映画見てるのに腐るとか言うなよってツッコミはおいといて、ここぞという時は外さないのだ。

 俺はそういうところを親として尊敬してるんだ。

 

 エンドロールもちゃんと見る派の母と俺は、感傷に浸りながら感想を交わしだす。

 やれあのキャラの行動は悪手だっただの、あのゾンビはしばらく夢に見るだの。

 

 そうしてエンドロール後のおまけ映像も終わり、リビングに音がなくなると。

 どーしても、聞こえてしまうわけである。

 

 ギシッギシッギシッ

 

「んあぁんッ♡ 蒼兄のおちんぽ良すぎましゅぅ♡」

「さくらッ…! くうっ…! 妹オナホ最高っ!」

 

 二階で弟妹がパコってる音が。

 さては映画の音に紛れてヤッとったな? 途中から気付いたぞ。

 母も同じだったのか、表情で気まずさが窺える。美人で可愛いのに興奮しない不思議。

 

「マミーは参戦せんの?」

「ん~…したいのは山々だけど、明日の仕事に差し障るかもだしぃ…それにママ、昨日ので腰がちょっとね…」

「あーね」

 

 昨日の説得時の耳打ち(ASMR)でも腰砕けになってたし、マミーの腰はボドボドである。

 ここは労るべきだろう。我が家のために馬車馬の如く働く母を、俺は首がすわる前から知っている。マミーらいつもありがとう!

 日曜は母が飯当番だったが、晩は俺が代わるとしよう。既に昼はオムライスを作ってもらったのでな。しかしなぜ弟のだけ♡のケチャップを…?

 

 

 

「ユウちゃんの職員さんとの関係も、みんなにバレちゃったし」

 

 

 

 ソファから立ち上がってキッチンに歩き出そうとした足を、母の呟きが縫い止めた。

 

 不自然に固まった俺に、どうしたの、という声が通り過ぎる。

 目が合わせられない。

 

「…ごめん、黙っててくれたのに」

 

 母は知っていた。

 11歳の俺をセンターに連れてってくれたのは、母だから。

 知っていて、黙認してくれていた。

 だというのに俺は、母の気遣いを無下にしたのだ。

 

「え? あっ、責めてるわけじゃないのよ? ただ…ユウちゃん、家族相手じゃ全く興奮しないもんね」

 

 駆け寄ってきた母に手を握られる。そのまま豊かな双丘に預けられるが、俺の息子はピクリとも動かない。

 それもそうだ。この乳で俺は育ったのだから。心にあるのは安心感だけ。ときめきなんて起こり得ない。

 

「皆を満足させられぬ長男ですみません…」

「も〜責めてないってば。それとも責めてほしいのかな?」

「えちょっ、こちょこちょすな! ふひゃっw」

「うりうり〜」

「ひははっw やめっ、やめろって!」

 

 急になんだ。俺がくすぐり弱いの知っててやってるよな? 不満の表れか? なら甘んじて受けとくか…

 そんな俺の考えさえ、母は見透かしていたのだろうか。

 

「なら、抵抗してみなさいな。朝からずっと、言いたいけど言えないことがあるって顔しちゃって」

「は…」

 

 俺の脇腹から肩に手を移した母と、目が合う。

 図星だった。俺は母に、言わなければならないことがある。

 それは進言だ。子の自由意志として親に提出するそれを、俺はまだ期限じゃないからと先延ばしにしようとしていた。

 だがこうして掘り起こされた以上はもう、差し出すより他ないだろう。遅かれ早かれだ。

 

「マミー……いや、()()()。俺さ、俺はさ」

 

 前世の母親に呼んでいた名前で、今世の母親に話しかける。

 あえて区別していた。混同しないよう、一線を越えないようにと弁えたそれを、今だけは無視した。

 そして俺は息を吸って、吐いて、言った。

 

「バイトがしたい、です」

「え…あ、それはダメ」

 

 すげなかった。

 

 

 


 

 

 

 佐藤菫には弟がいる。世にも珍しい、一卵性双生児の双子である。

 

 一人は菫も自慢の弟、裕也。上の弟だ。

 もう一人は、菫に童貞を捧げた──と菫は自認している──、蒼。下の弟だ。

 蒼とは、つい最近になって関係性を大きく変えた。蒼の記憶喪失がきっかけで。

 しかし裕也は、菫が物心つく前から態度も関係も変わらない。唯一無二の存在だった。

 

 菫が幼稚園で友達と喧嘩した日、彼女の話に相槌を打ったのは裕也だった。

 菫が小学校で先生に怒られた日、叱る母とは対照的に慰めたのは裕也だった。

 菫が中学校の勉強に苦戦した日、夜遅くまで宿題に付き合ったのは裕也だった。

 高校に上がって格闘技を始めた菫は、遅咲き故か試合に勝てず鬱屈していた。そんな菫を励ますでもなく、ただひたすら練習相手になったのは、他ならぬ裕也だ。

 

 菫は裕也のことを可愛い弟だと思っている。だがそれは、自分が守ってやるべきか弱い子供だと言っているのではない。

 一人の人間として尊敬しているのだ。そして、そんな出来た人間の姉である自分も、立派であれかしと奮い立つのである。

 

 それはそれとして性的な目で見てはいる。

 

 

 

 大学受験に受かった菫はバイトを始めた。チェーン店の飲食業、そのホールスタッフの仕事だ。

 シフトは日曜と平日のうち1か2くらい。友人に誘われる形で入ったので、そこそこ気楽に続けられている。

 今は日曜の夕飯時とあって相応に忙しいが、菫は格闘技で鍛えているので体力的に問題ない。

 長髪を団子にまとめて店内狭しと働く菫。彼女は既に立派なバイト戦士であった。

 

 そこに、珍しい客が訪れたのだ。

 

「いらっしゃいませ何め…って、さくらじゃない」

「お仕事お疲れ様です。来ちゃいました」

 

 妹の桜である。偶然にも会計をし終えた菫とかち合ったのだ。

 

「なんでここに…あっ、何名様でしょうか?」

「4人です。ふふ、なんだか新鮮ですね」

「こっちは恥ずかしいわよ…え4人?」

 

 佐藤家は5人家族で、長女の菫を除けば丁度4人。菫は桜の友達の可能性も考えたものの、店の扉をくぐってきた人影でそれを棄却した。

 

「お、すみれ姉さんだ。割と制服可愛いな…」

「蒼お前今プレイに使えそうって考えただろ」

「い、いやぁ…?」

「とぼけちゃってぇ…」

 

 店内がにわかにざわつく。客層がほとんど女のファミレスにあって、突如として現れた男性客は大層目立った。男だ、しかも二人。と客の中には眼光をぎらつかせる者も。

 彼らの姉としては心底不愉快である。裕也はともかく、蒼は自分たち佐藤家の女だけに視姦する権利があるのだ。

 だのに母はアホなのか。我が子が暴奸(レイプ)に遭ってもいいの? 菫は内心毒づく。

 

 次いで入店してきた件の母は、いつもの穏やかな笑みを消していた。

 菫に緊張が走る。これは只事ではないなという直感である。

 

「すみれちゃん? 角席空いてる?」

「角席? あぁ、なるほど。えーっと…空いてます」

「そう。案内してもらえるかな?」

「…ええ。こちらへどうぞ」

 

 ひとまず、店員に従事すべきと判断した菫。彼女は慣れた足取りで席へと向かった。

 

「え、待たなくていいの?」

「そういうモンだ。慣れとけ」

 

 チェーン店には男性客用の席が用意されている。順番を待つ他の客を差し置いてと躊躇する蒼に、裕也は諭すように肩を叩いた。

 席を横切る度、ひっきりなしに好奇の目が向けられる。姉として牽制すべきとも思ったが、菫は加減が利かなそうなのでやめておいた。職を失いたくはないのだ。

 

「あそうだ、水入れとこ」

 

 不意に、蒼がコップを手に取った。

 

「あっおい、やめといた方が…」

「えなんで?」

「殺到するからですよ、蒼兄」

「???」

 

 ドリンクバーならまだしも水は、コップの淵に器具が接触する場合がある。間接間接キスの危険があるのだ。そのため、男性が直接入れずに付き添いの女性がコップを器具に触れさせず入れるという、面倒なことをしなければならないのである。

 流石にそんな事情、一瞬で理解できるはずもなく。蒼はもうコップを水で満たした後だった。

 

「後で説明するから。行くぞ」

「お、おう…」

 

 入れるつもりだった二つ目のコップを空のままに、釈然としない顔で蒼は付いていった。

 菫は家族を席に案内すると、定型文(ご注文お決まりしましたらベルでお呼びください)を若干の早口でまくしたて、デシャップに引っ込んだ。

 

「ちょっ、ちょっと菫、あれ菫の家族ってマジ…!?」

「ま、まあそうよ…てかあんたキッチンでしょ、なんでここいんのよ」

 

 案の定というべきか、菫の友人がしゃしゃり出てきて聞いてくる。友人には弟が二人と妹が一人いることを伝えているので勘付かれたのだ。

 

「いやホールの子がね? なんかイケメン二人が入ってきたとか言うから」

「仕事しなさいよ…」

「わ、何か急に緊張してきた…! アタシあのイケメンに料理作るかもなんだ…!」

「マニュアル外れんじゃないわよ」

「流石にわかってるって。どれがどこの注文とか確認してる暇は…あっやばそろそろ戻んないと」

 

 いそいそと持ち場に戻っていく友人同様、菫も本来の仕事に戻った。

 注文の品を運び、空いた席に客を案内し、会計を相手する。

 そう長くはなかったはずだが、随分待った気がした。家族がベルを鳴らすまでが。

 できれば菫が向かいたかったものの、そこまで融通できるほど余裕はない。日曜の夜は忙しいのだ。

 

 誰が家族の注文を取りに行ったのかは一目で分かった。余程丁寧な対応だったのか、その店員は客相手でも過剰なほどの満面の笑みで戻ってきた。恐らく彼女ほど、この店のDX化が遅れていることに感謝した者はいないだろう。タッチパネル注文なら起こりえないのであるからして。

 そんな仕事仲間を生暖かい目で見られる余裕が、今の菫にはあった。なんなら今夜のキャンプファイヤー(意味深)の薪にくべられるほどだった。具体的には以下の通りである。

 

『今日、同じバイトの子があんたによくしてもらったみたいじゃない?』最初はネットリと(ピアニッシモ)

『えぇ? 普通にしてただけだよ?』

『それが普通だと思ってるようなら、蒼。あんたは罪作りな男ね♡』徐々に勢いをつけて(メゾフォルテ)

『すみれ姉さんほどじゃないさ』ここでピストンを早める(フォルティッシモ)

『くぅっ♡ 蒼に夢見ちゃったあの子には悪いけど、蒼はもうわたしのものなのよね♡ あっちょっとイグッ♡』

 

 ちょっとイッてんじゃねえよ。バイト中だぞ。

 

「それはそうと、なんでここに食べに…?」

 

 妄想を済ませ、現実問題はそこだ。夕飯を作るのが面倒だったとしても、菫の働くこの店に来た理由は何なのか。出前でも取ればよかったものを、態々だ。

 それだけではない。菫は女の嗅覚(直喩)で嗅ぎ取っていた。妹から、濃厚な雄スメルが漂っていたことを。察するに蒼のありとあらゆるブツを体中に擦り付けて染み込ませたのだろう。シンプルに卑しい。

 

 しかし、菫は今そんなことに思考を割けるほど仕事慣れしているわけでも、客が少なくもない。なんなら家族が入店してから謎の行列ができている始末。

 これは久々にやばいぞと、制服の帯を締めなおす菫だった。

 

 

 


 

 

 

 母らしくないやり方だと思った。

 

 結論から言えば、俺たちが姉のバ先に食べに来たのは、俺に現実を見せるためだった。

 俺という“男”が女性の集団に入っていくことの険しさ、危うさ。母はそれをまざまざと見せて、俺の人生を佐藤家の中で完結させようとしている。

 

──わけではない、はずだ。

 

 だったらなんで、資格勉強の本なんか買い与えた? 俺が望んだからか? それでご機嫌を取りたかったからだとでもいうのか?

 本当に、それだけが理由なのか?

 

 俺は知っている。

 俺が初めて一人で買い物に行った日、俺の帰りを泣いて喜んでくれたのは誰なのか。

 俺が弟と言い争いになってしまった日、自分も怖いだろうに仲裁してくれたのは誰なのか。

 そして、俺が夜遅くまで勉強している日、いつも夜食のおにぎりを握ってくれるのが誰なのか。

 それが今更掌返して、息子のやりたいことを抑えつけるわけが、ない。

 

 なればこそ、これは試練だ。()()に打ち勝てという試練と、俺は受け取った。

 気弱だが気高く、何よりも慈愛に満ちたあの母が、我が子を千尋の谷に突き落とす覚悟を決めたのである。

 これに応えなかったら嘘だろう。

 

「コンビニ寄ってくる」

「んなっ…!?」

 

 恙なく食事を済ませ、姉に会計をしてもらっている母の背に呼びかけた。姉はUnwelcome顔で驚いているが、当の母は振り返らなかった。

 

「…何を買いに行くの?」

「菫ちゃんのアイス。そういえば買ってなかったから」

「そう…気を付けていくのよ」

「うん」

 

 姉が何かを言いたそうな顔をしながらも、必死に耐えていた。凄い胆力だと思う。

 コンビニは客層の広さ故、ヤバい客とのエンカ率も高いのだ。だから俺は買い物にはスーパーを選んでいた。

 そういえば、図らずも原作と同じくコンビニに行くことになるわけだ。相違点は姉の不在と俺の存在か。最寄りのコンビニでもないので、本当にどんな客と出くわすかは運次第だ。

 

 姉は唇を嚙んでいた。母は肩を震わせていた。妹は状況が呑み込めず、しかし俺から離れようとしなかった。

 そして弟は。

 

「お兄ちゃんお菓子買っていい?」

 

 能天気だった。

 

「いいぞ。500円までな」

「遠足かよ。じゃあバナナで水増ししよ」

「バナナならすでに…いえ、なんでもないです」

 

 よう耐えた! それでこそ天使(エンジェル)! 桜! カブト虫!

 

 どっかで見たことのあるカラーリングの店頭。そういやマクドも厳密にはMcD〇naldじゃなかったな。なんてしょうもないこと考えつつ。店内へと入っていく。

 弟と妹を連れ、アイスの入ったショーケースに足を運ぶ。蒼には一応まとまって動くようにと言っているが、あまり本気にしてなさそうだ。本気で、女が襲い掛かってくるとは思っていないのだ。

 

 かくいう俺も、まだこの世界を知らない。

 原作を読んでいるからなんでも知ってる事情通みたいに振る舞うオリ主はよくいるが、俺はそれこそ愚の骨頂だと思っている。ダニング・クルーガー効果ってやつで、聞きかじった情報なのに自信満々でいられるやつはよっぽど世間が狭いのだろう。いつかバカの山から絶望の谷に突き落とされる。

 じゃあ、それを恐れて立ち止まるのか? 否である。

 

 俺には夢がある。端的に言うと、大黒柱に俺はなるのである。

 貞操逆転世界において、家長は女が主流、というか常識だ。男とは社会全体の共有財産であり、資源。そういう価値観。

 俺がやりたいことをするには、まずその固定観念をぶち壊す必要があるのだ。

 バイトがしたいと言ったのはその第一歩、のための一呼吸だったわけだな。

 

「! ユウ兄蒼兄、【女の性欲(メスオーラ)】を探知しました。場所は入口…これは…っ!?」

「どうした急に」

「来ちまったか…妹レーダーに感ありだ。構えろ蒼」

「えっわかってないの俺だけ?」

 

 商品棚の隙間から敵影の探知を試みるも、それらしき気配はない。

 だがしかし、見覚えのある銀色がチラリと…

 

「あ、え…? 裕也さんが…二人…?」

 

 背後からの声に、ホラー映画主人公ばりのリアクションで振り向く。

 

「灰塚ちゃんだ」

「美咲ちゃんですね」

「さくらのお友達? かわいいね」

 

 見知った顔だった。世間は狭いね。

 

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