「科学とは、無知を整理する方法である。」
── Neil deGrasse Tyson
第五話 「魔力という未知変数」
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午前二時十七分。
Hogwarts Castle 七階、レイブンクロー塔。
大半の生徒が眠る中。
オリヴァー・ヘヴィサイドだけが起きていた。
机上には羊皮紙が散乱している。
インク瓶。
定規。
コンパス。
そして一本の杖。
彼は杖を睨みつけていた。
まるで敵を見る目だった。
「……再現性が低すぎる」
ノートへ書き込む。
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実験記録 No.21
対象:杖
観測:
・使用者によって反応差異
・精神状態で出力変動
・意識集中時、空間歪曲率上昇
結論:
魔法は“意思”に依存?
問題点:
そんな曖昧なものを法則へ組み込めるのか
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ペン先が止まる。
オリヴァーは深く息を吐いた。
そこが最大の問題だった。
魔法は不安定すぎる。
感情。
意志。
集中。
そんな定義不能なものが現象へ介入している。
科学的に最悪だ。
「……測定できない」
その瞬間だった。
パチッ。
杖先が青白く発光する。
オリヴァーの目が鋭くなる。
「今のは」
集中していたわけではない。
むしろ逆。
思考が途切れた瞬間だった。
彼はゆっくり杖を持ち上げる。
「つまり」
脳内で仮説が組み上がる。
「魔法は“明確な思考”ではなく」
杖先を見つめる。
「無意識側へ反応している?」
その時。
後方で声。
「やっぱりいた」
振り返る。
ハーマイオニーだった。
寝間着姿。
本を抱えている。
完全に同類だった。
「……何故ここに」
「それそのまま返す」
彼女は机を見る。
羊皮紙の山。
数式。
魔法理論。
そして中央。
意味不明な公式。
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M = \frac{W \cdot I}{R}
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「……何これ?」
「仮説式」
オリヴァーは即答する。
「魔法出力の簡易モデルだ」
「は?」
「Mは魔法出力」
ペンで示す。
「Wは杖適性」
「Iは意志強度」
「Rは現実抵抗値」
ハーマイオニーが固まる。
「現実抵抗値?」
「世界が“それは有り得ない”と判断する強度」
「待って、世界に意思がある前提なの!?」
「そう考えると説明できる現象が多い」
オリヴァーは立ち上がる。
窓の外では雷。
青白い閃光が石壁を照らす。
「浮遊呪文程度なら世界は抵抗しない」
杖を振る。
羽ペンが浮く。
「だが人体変換や空間転移では抵抗が跳ね上がる」
「……」
「つまり高位魔法ほど、“世界を書き換える力”が必要になる」
ハーマイオニーは言葉を失っていた。
普通の一年生は呪文を覚える。
この男は。
魔法体系そのものを解析している。
しかも恐ろしいことに。
理屈が通っていた。
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「でも」
ハーマイオニーが口を開く。
「それなら才能ある人ほど魔法が強い説明がつかないわ」
「つく」
「え?」
「才能とは演算速度だ」
即答。
「……演算?」
「魔法は現実改変だ」
オリヴァーの瞳が静かに光る。
「なら脳内では膨大な情報処理が起きているはず」
杖を見つめる。
「呪文詠唱はプログラム言語に近い」
「ぷろ……?」
「命令文だ」
オリヴァーは羊皮紙へ書き込む。
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Wingardium Leviosa
目的:
対象浮遊
必要工程:
・対象認識
・重力干渉
・運動制御
・座標固定
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「魔法使いは無意識でこれをやっている」
ハーマイオニーの顔が引きつる。
「そんなの考えたこともないわよ……」
「だろうな」
「なんでそんな発想になるの?」
オリヴァーは少し黙った。
静寂。
やがて。
「……理解したいからだ」
その声だけ、少し弱かった。
「理解できないものは怖い」
ハーマイオニーが目を瞬く。
初めてだった。
彼が“恐怖”を口にしたのは。
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翌日。
呪文学。
教壇には小柄な教授。
Filius Flitwick 。
「今日は浮遊呪文です!」
教室が沸く。
オリヴァーだけが真顔。
完全に研究者の目。
「Wingardium Leviosa」
次々と羽が浮く。
歓声。
失敗。
笑い声。
そんな中。
オリヴァーは杖を握ったまま動かない。
「ヘヴィサイド君?」
フリットウィックが首を傾げる。
「やらないのですか?」
「……確認中です」
「何を?」
「座標固定処理」
教授が固まる。
「ざ、座標?」
オリヴァーは羽を見る。
軽い。
空気抵抗小。
質量少。
なら必要出力は低い。
問題は。
「……ベクトル制御」
杖をゆっくり振る。
「Wingardium Leviosa」
その瞬間。
羽が浮いた。
だが。
普通じゃなかった。
羽が高速回転し始める。
「え?」
空気が裂ける。
ヒュンッ!!
羽が一直線に飛んだ。
黒板へ突き刺さる。
沈黙。
教室中が固まる。
黒板には。
羽が半分埋まっていた。
「…………」
フリットウィックの眼鏡がズレる。
「……ヘヴィサイド君?」
「はい」
「何をしました?」
「浮遊制御後、回転ベクトルを追加」
「一年生がやる魔法じゃありません!!」
教室が騒然となる。
ハーマイオニーだけが理解していた。
この男は。
呪文を使っているのではない。
呪文を“分解”している。
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授業後。
オリヴァーは黒板を見つめていた。
羽を引き抜く。
「……なるほど」
独り言。
「運動方向は追加指定可能」
ノートへ書き込む。
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新仮説
浮遊呪文は
“重力無効化”ではない
→対象への運動ベクトル付与
応用可能性:
極めて高い
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ハーマイオニーが呆れた顔をした。
「ねぇ」
「何だ」
「あなたそのうち絶対、先生達を頭痛にするわ」
オリヴァーは少し考えた後。
「既にしてる」
真顔で答えた。
ハーマイオニーは吹き出した。
初めてだった。
彼女がオリヴァーの前で、自然に笑ったのは。