もうちっとだけハッピーにするんじゃ   作:加賀美ポチ

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止まるんじゃねぇぞ……

 ブラックオニキス対策の時間は、訓練というより、ブラックオニキスという巨大な嵐を三方向から浴びせられるようなものだった。

 SENGOKUの演習フィールドには、幾度となく開始の鐘が鳴り響いた。

 天守閣を背にした石畳、風に鳴る軍旗、櫓の上で揺れる巨大な鐘、牛鬼が甲殻を軋ませながら蠢く湿った音。

 仮想空間であるはずなのに、足裏へ返ってくる地面の硬さも、頬を掠める風の冷たさも、武器同士が噛み合うたびに腕へ走る衝撃も、すべてが本番そのものの手触りを持っていた。

 

 その中心で、ヨミは何度も姿を変えた。

 最初に現れたのは帝アキラだった。

 紅い髪、黒い双角、肩へ掛かる黒い毛皮、荒々しい外套。

 その姿は配信で見るサービス精神旺盛な俺様キャラそのものだったが、立ち姿には浮ついた軽薄さなど微塵もない。

 現実では冷静沈着な酒寄朝日という人間の芯が、帝アキラという華やかな仮面の奥から透けて見えるようだった。

 

 ヨミの手には、帝の金棒型武器があった。

 一見すれば無骨な棍棒。だが、それは単なる鈍器ではなく、鞘であり、銃でもある。

 金属の鋲が打ち込まれた重厚な外装から刀身が引き抜かれ、残された鞘は歯車と装甲板を噛み合わせるようにしてライフルへ変形する。

 近距離では剣で斬り込み、中距離では棍棒の質量で圧をかけ、距離を取った相手には銃口を向ける。

 派手で、強引で、けれど観客が沸く瞬間だけは絶対に外さない、帝アキラらしい武器だった。

 

「かぐや、前に出過ぎ!」

「だって今いけると思った!」

「今のは行けるじゃなくて、行かされたの!」

 

 彩葉の声が飛ぶより早く、帝アキラを纏ったヨミの剣がかぐやの足元を掠めた。

 致命打ではない。

 けれど、一歩下がれば牛鬼の攻撃範囲、横へ逃げれば櫓前の鐘から離れる。

 かぐやはそこでようやく、自分が攻め込んでいたのではなく、攻め込まされていたのだと悟る。

 

「ほら、迷うなよ」

 

 声まで帝アキラだった。

 低く、艶があり、相手を煽りながらも決して雑に扱わない。

 真実が聞けば再び膝から崩れ落ちそうな声で、ヨミは笑う。

 

「勝ちたいんだろ、かぐやちゃん。なら、勝ちたい顔をもっと見せてくれよ」

「むっかー! 本人じゃないのに本人みたいなこと言うー!」

 

 かぐやは悔しさに顔を真っ赤にしながらも、次の瞬間には再び踏み込んでいた。

 怒りに任せた突進ではない。

 先ほどよりほんの少しだけ浅く、彩葉が横から差し込める距離を残した踏み込みだった。

 その小さな修正を、ヨミは見逃さなかった。

 

「いいね」

 

 帝アキラの声でそう言われた瞬間、かぐやの表情が一瞬だけ緩む。

 だが喜ぶ暇はない。剣戟が鳴り、銃声が石畳に弾け、彩葉は横合いから斬り込む。

 SETSUNAで磨かれた一対一の感覚が、ここではそのまま通用しない。

 相手を読むだけでは足りず、味方の位置、牛鬼の動き、櫓の鐘、大将落としの発生地点まで同時に見なければならない。

 

 彩葉は歯を食いしばった。

 自分は強くなった。

 それは間違いない。

 けれど、この戦場では強さの意味が違う。

 刃を届かせるだけでは勝てない。勝ち筋のある場所へ、味方ごと運ばなければならない。

 

 次にヨミが纏ったのは駒沢雷だった。

 帝アキラの赤黒い熱が消え、代わりに黒と紫を基調とした僧衣にも似た装束が現れる。深いフード、鋭い目元、余計な感情を削ぎ落としたような静かな佇まい。

 黒鬼でのキャラ付けとしては自信家で不遜な言動を与えられているはずなのに、その奥には素朴で寡黙な人間性が滲む。

 その二重性まで含めて、ヨミのトレースは異様なほど精密だった。

 

 雷の手に握られたのは、巨大な扇型武器だった。

 閉じれば大槌のような質量を持ち、開けば身の丈ほどの盾となり、さらに分割された扇面は障壁や牽制の刃として戦場へ配置される。

 攻めるための武器ではない。

 味方を通すため、敵の進路を塞ぐため、櫓前の空間そのものを支配するための武器だった。

 

「前線を下げるな。下げた分だけ櫓が遠くなる」

 

 雷の声で、ヨミは告げる。

 その言葉と同時に扇が開いた。轟、と低い風鳴りが響き、かぐやの進路を巨大な扇面が塞ぐ。

 速さでは帝アキラほどではない。

 だが、重い。

 真正面からぶつかれば押し負ける。

 横へ逃げれば逃げた先に次の扇面が置かれている。

 雷の強さは、派手な奇襲ではなく、戦場の床そのものを少しずつ傾けていくような圧力だった。

 

「これ、苦手なタイプ!」

 

 かぐやが叫ぶ。

 

「こっちがバンバン攻めてるのに、全然崩せない! おっきい岩をひたすら相手にしてる気分だよ!」

「それが雷さんの強さだと思う」

 

 ヨミの声は雷のまま、淡々と返ってくる。

 

「相手が嫌がる場所に立ち続ける。そこから退かない。派手な立ち回りにはならないけどチームを勝たせるには一番重要な役割。いぶし銀ってやつだね」

 

 彩葉はその言葉を聞きながら、胸の奥へ小さく刻み込む。

 勝つためには、目立つ場面だけを追ってはいけない。

 観客が沸く一撃の裏には、誰かが退かずに支え続けた時間がある。

 ブラックオニキスはそこを誤魔化さない。だから強い。

 

 三度目に現れたのは駒沢乃依だった。

 雷の重い気配がふっとほどけ、場の空気が不思議なほど軽くなる。

 白と黒の耳、縞の尾、桃色と濃紺を組み合わせた可愛らしい衣装。

 男性アバターでありながら、あえて愛らしい格好を纏う乃依らしい、気まぐれで掴みどころのない姿だった。

 声には少し眠たげな甘さが混じり、面倒臭そうなのに、こちらの隙だけは絶対に逃さない鋭さがある。

 

 その手元で、輪刀がくるりと回った。

 フラフープのように腰の周りを滑り、腕を通り、背中を抜け、次の瞬間には刃の輪として空間を裂く。

 円運動で距離を誤魔化し、視線を誘導し、追いかけた相手の足元を刈る。

 さらに輪刀は分割・展開し、弓へと形を変えた。

 弦が引かれると、光の矢が細く収束し、まるで視界の外から縫い止めるように飛んでくる。

 

「どこ行った!? 今いたよね!?」

「かぐや、右!」

「右ってどっちの右!?」

「あんたから見て右!」

 

 彩葉の叫びと同時に、乃依を纏ったヨミがかぐやの背後へ回り込む。

 ふわりとした声が、耳元を掠めた。

 

「見えてるものだけ追いかけたら、だめだよ」

 

 その瞬間、櫓の鐘が鳴った。

 高く澄んだ音が戦場へ広がり、視界の端で占拠ゲージが染まっていく。

 敗北表示こそ出ないものの、かぐやは地団駄を踏み、彩葉は肩で息をしながら天を仰いだ。

 

「今の、いつ鐘に行ったの……?」

「かぐやが俺を見失った時。ま、遠距離武器の射程距離の特権だね、離れてても櫓の鐘が鳴らせるのは明確な強みだよね」

「ならかぐやだって次はこの武器の鰻ランチャーで鐘鳴らしちゃうもんねっ!」

「ハンマー職の遠距離攻撃は弾がばらけやすくて精密射撃はしんどいよ?」

「むきー!」

 

 ヨミは乃依の声のまま、アドバイスのような軽口を叩きつつ、目線は配信カメラに向けて自身が最も盛れる自撮り角度でファンサを繰り返す。

 時折、両手の指でハートを作り、隙あらば視聴者に新たな扉を開かせようとしている。

 コメント欄は、もう何度目か分からない悲鳴と歓声で埋まっていた。

 

『帝→雷→乃依の切り替えが自然すぎる』

『声帯どうなってる?』

『プレイングまで別人なの怖い。ガチ勢怖い』

『雷の扇、圧がえぐい』

『乃依きゅんの精密射撃まで再現してるのなんなん? あと顔の作画良すぎ』

『これ練習相手じゃなくてブラックオニキス体験版では?』

『無料で見ていい配信じゃない』

『かぐやちゃん、さっきから顔芸が忙しい』

『いろPがどんどん戦士の顔になってる』

 

 笑いもあった、驚きもあった。

 けれど、フィールドの中にいる彩葉とかぐやにとって、それは悠長に眺められる祭りではなかった。

 

 帝アキラには主導権を奪われる。

 駒沢雷には戦線を押し潰される。

 駒沢乃依には視界と意識を散らされる。

 ヨミが一人で三人を演じているだけだというのに、二人は何度も足を止められ、何度も櫓へ辿り着く前に崩され、何度も「今のは本番だったら終わっていた」と思わされる場面を味わった。

 

 それでも、不思議と心は折れなかった。

 負けるたびに、敗因が見える。

 崩されるたびに、次に気を付ける場所が増える。

 分からないまま圧殺されるのではなく、分かった上でまだ届かない。

 その差は大きかった。届かないなら、届くまで手を伸ばせばいい。

 そう思えるだけの道筋を、ヨミは容赦なく、けれど丁寧に示していた。

 

「一回止めよう」

 

 何度目かの演習が終わった後、ヨミがそう言った。

 

 声はもう元に戻っていた。

 姿も白と黒の和装へ戻り、金細工の翼飾りが静かに揺れている。

 だが、その顔色にはわずかな疲労が滲んでいた。

 アンサートーカーで導き出した答えを、声色、立ち振る舞い、武器の癖、視線の置き方にまで反映させ続ける。

 それは単なる物真似ではない。別人の勝ち筋を、一度自分の神経へ流し込むような作業だった。

 彩葉は息を整えながら、ヨミを見た。

 

「……大丈夫ですか?」

「大丈夫」

 

 ヨミはいつもの調子で答える。

 

「ただ、三人分を続けて回すと少しだけ気疲れしちゃうかな」

「少しだけで済むんだ……」

 

 芦花が呆れたように呟く。

 かぐやはその場にしゃがみ込み、両手を膝につきながら顔を上げた。

 金色の瞳は疲れの色を帯びているが、光は消えていなかった。

 

「ヨミ」

「うん?」

「かぐや、さっきより強くなってる?」

 

 問いは真剣だった。

 褒めてほしいだけではない。

 励ましてほしいだけでもない。

 今の練習が本当に未来へ繋がっているのか、それを知りたい声だった。

 ヨミは少しだけ目を細める。

 アンサートーカーを使うまでもない。

 答えは、さっきから何度も戦場の中に出ていた。

 

「強くなってるよ」

 

 かぐやの瞳がぱっと揺れる。

 

「最初は帝アキラ役の私に前へ出されていた。でも途中から、一歩分だけ待てるようになった。雷さん役には正面からぶつかり続けていたけど、最後はイロさんが入れる角度を作ろうとしていた。

 乃依さん役には何度も動線を弓で遮られていたけど、さっきは弓での狙撃に対してランダムな動きを混ぜて櫓に向かう事が出来ていた」

 

 ヨミは一つ一つ、戦場で起きた事実を拾い上げる。

 

「全部、まだ本番で通用するとまでは言わない。でも、ちゃんと変わってる。だから大丈夫。練習した分だけ、勝ち筋は増えてるよ」

 

 かぐやはしばらく黙っていた。

 やがて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「じゃあ、もう一回!」

 

 その声は、疲労を振り払うように明るかった。

 

「次はもっとできる気がする!」

 

 彩葉はその横顔を見て、小さく笑った。

 根拠のない自信。

 けれど、何度負けても立ち上がる者にだけ許される、強い自信だった。

 

「私も、もう一回お願いします」

 

 彩葉は鍵盤型ブレードを握り直す。

 手の中に残る痺れが、逆に意識を澄ませていく。

 帝アキラの立ち回りの上手さ、駒沢雷の地盤固めの重さ、駒沢乃依の遊撃手たる軽さ。

 その三つの圧を浴びたことで、ブラックオニキスという巨大な壁の輪郭が少しずつ見え始めていた。

 

 見えれば、斬れる。

 届かないと思っていたものも、距離を測れるなら踏み込める。

 ヨミは二人を見つめ、それから静かに頷いた。

 

「分かった。次は少し条件を変えよう」

 

 ヨミが指を鳴らすと、フィールド上の光が組み替わる。

 牛鬼の位置が変わり、櫓の占拠状況が更新され、味方リスポーン地点にはジャンプ台が淡く点灯した。

 次の演習は単なる一対一ではない。より本番に近い、状況不利からの立て直しだった。

 

「次は、かぐやさんとイロさんが一つ目の櫓を落とされた直後から始める」

「うげ」

「うげって言わない」

「だっていきなりピンチな状況じゃん!」

「本番では、たぶんこういうリカバリーの必要な時が必ず来る」

 

 ヨミは穏やかに言った。

 

「大事なのは、不利にならないことじゃない。不利になった後、何を諦めて、何を取り返すかを間違えないこと」

 

 その言葉が、戦場の風に溶けた。

 かぐやは一度だけ深呼吸する。

 彩葉も足を開き、剣を構える。

 

 配信のコメント欄は相変わらず高速で流れている。笑い、驚き、考察、応援。そのすべてが混ざり合い、演習フィールドの外側で熱を帯びていた。

 だが、二人の耳にはもうほとんど届いていなかった。

 目の前にあるのは、勝ちたいという願い。

 隣にいるのは、その願いを共に背負ってくれる相手。

 そして正面には、最強の練習相手がいる。

 鐘が鳴る。

 次の演習が始まった。

 

 

 何度目かの鐘が鳴り終えた時、演習フィールドにはしばらく誰の声も落ちなかった。

 

 天守閣を照らしていた夕焼け色の光が薄れ、牛鬼の巨体も、櫓の輪郭も、大将落としの影も、細かな粒子となって空へほどけていく。

 戦場を模していた石畳は訓練用ラウンジの黒い床へ戻り、頬を撫でていた風も、火花を散らしていた武器の余韻も、すべてが嘘のように消えた。

 けれど、身体の奥に残った緊張だけは消えない。

 彩葉の指先にはまだ鍵盤型ブレードを握っていた感覚があり、かぐやの肩には、何度も櫓前で押し返された悔しさと、それでも一歩ずつ前へ進めた確かな手応えが熱として残っていた。

 

「……終わったぁ」

 

 かぐやがその場にへたり込む。

 普段なら床へ沈む前に何かしら大袈裟な言葉を付け足すところだが、今はもう、そんな余裕もないらしい。

 両手を投げ出し、仰向けになり、金色の瞳だけをぱちぱちと瞬かせている。

 その様子は、敗残兵というより、全力で遊び尽くした子どものようでもあった。

 

 彩葉も壁際へ歩み寄り、静かに息を吐いた。

 疲れている。

 だが、嫌な疲れではなかった。

 何も分からないまま殴られ続けた疲労ではない。

 自分の未熟さを見せつけられ、失敗を何度も積み上げ、それでも次に直すべき場所を一つずつ拾えた疲れだった。

 腕は重く、頭は熱く、胸の奥には焦りがある。

 けれど、その焦りの隣には、わずかだが確かに勝ちへ近づいているという感覚もあった。

 

「二人とも、かなり良くなってる」

 

 ヨミがそう言った。

 声はいつもの穏やかなものに戻っている。

 帝アキラの艶やかな煽りでも、駒沢雷の低く硬い指示でも、駒沢乃依の甘く気まぐれな囁きでもない。

 けれど、彩葉にはその声が、三人分の嵐を抜けた後だからこそ、妙に深く沁みた。

 

「本番で勝てる、と簡単には言えない。でも、最初よりずっと試合になる。特にイロさんは、SETSUNAで身につけた読みを、少しずつSENGOKU用に変換できてきてる。かぐやさんも、勢いだけで飛び込む癖が減ってきた」

「ほんと?」

 

 かぐやが床に転がったまま顔だけを上げる。

 

「ほんと」

「じゃあ、かぐやこの成長期で帝を追い越してぶっとばーす!」

「イロさんとの協力プレイならそう難しくはないかもね」

「もっと褒めて!」

「調子に乗るからそこまで」

「ぶー、けち!」

 

 かぐやは頬を膨らませたが、その声には隠しきれない嬉しさが混じっていた。

 彩葉はそんなかぐやを見て、小さく笑う。

 負けず嫌いで、褒められたがりで、すぐ調子に乗る悪童。

 それでも、何度倒されても立ち上がる強さだけは本物だった。

 しかし、そこで芦花が視線を横へ流した。

 

「問題は、そっちじゃないんだよね」

 

 その言葉に、全員の目が自然と真実へ向く。

 真実はラウンジの隅で座り込み、両手を胸の前で握ったまま、いまだにどこか夢見心地の顔をしていた。

 帝アキラ本人がいるわけではない。

 ヨミが声色と立ち振る舞いを再現しただけである。

 それでも、彼女の目は潤み、頬は上気し、魂の半分ほどがまだ演習フィールドの帝アキラのもとへ置き去りにされているようだった。

 

「まみ、大丈夫?」

 

 かぐやが心配そうに覗き込む。

 

「大丈夫……」

 

 真実は小さく答えた。

 だが、その声にはまったく大丈夫ではない者特有のふわふわした響きがあった。

 

「帝様が……帝様の声で……まみはいつも頑張ってるなって……」

「それ、ヨミだからね?」

「分かってる。分かってるんだけど、耳が理解を拒否してる」

 

 真実は真剣な顔でそう言った。

 彩葉は思わず額へ手を当てる。

 心配していたことが、あまりにも現実味を帯びてきた。

 ブラックオニキス戦において、真実の知識量と理解度は間違いなく武器になる。

 重度のファンだからこそ、帝アキラの見せ方も、雷と乃依の役割も、試合中にどこで盛り上げてくるかも察しがいい。

 けれど同時に、その推しへの感情が戦場で爆発すれば、最悪の場合、開始前に戦力外になる。

 

 帝アキラのファンサを真正面から浴び、あまりの感激で真実が気絶し、急遽お助けヤチヨがチームへ入る。

 冗談みたいな展開だが、今日の様子を見る限り、十分に起こり得る未来だった。

 

「真実」

 

 彩葉が慎重に声を掛ける。

 

「本番、本当に出られそう?」

 

 問いは柔らかかったが、場の空気は少しだけ引き締まった。

 かぐやも身体を起こし、芦花も黙って真実を見る。

 ヨミは何も言わず、真実が自分の言葉で答えるのを待っていた。

 

 真実はしばらく黙っていた。

 推しを前にした熱に浮かされた顔から、少しずつ、いつもの彼女らしい穏やかな表情へ戻っていく。

 帝アキラが好き。

 ブラックオニキスが好き。

 その気持ちは消えない、むしろ消す必要などない。

 けれど、かぐやと彩葉の隣に立つなら、それだけでは足りない。

 

「……正直に言うと、分からない」

 

 真実は小さく息を吐いた。

 

「帝様が目の前に来て、こっちを見て、声を掛けてくれたら、たぶん普通じゃいられないと思う。今日だってヨミさんの再現だけでこれだもん。本物だったら、たぶん私、一回は死ぬ」 

「死なないで」

 

 かぐやが真顔で言う。

 

「比喩だよ」

「まみの比喩っていうか、帝が絡むと本当に起きそうで怖いのっ」

 

 真実は困ったように笑い、それから自分の胸に手を当てた。

 

「でも、出たい。推しだからこそ、逃げたくない。帝様が本気で来るなら、私はちゃんと受け止めたいし、ブラックオニキスのファンとしても、かぐやちゃんたちの仲間としても、ただ倒れて終わりにはしたくない。

 ……だから、もし本番で私が駄目になったら、その時はヤチヨにお願いするしかないかもしれない。でも、最初から諦めたくはない」

 

 静かな言葉だった。

 そこに派手な決意表明はない。

 けれど、推しへの感情を抱えたまま、それでも仲間として立とうとする真実なりの精一杯があった。

 言っていることは真摯なものだが、内容はファンサで失神しないように頑張るというアレな内容なのだが。

 彩葉はその言葉を聞いて、少しだけ表情を緩める。

 

「分かった。じゃあ、できるところまで一緒にやろう」

「うん」

「ただし、本番前に帝アキラのファンサを真正面から浴びるのは禁止」

「それは無理」

「無理じゃない」

「帝様がファンサしてくれたら受け取るのが礼儀だよ」

「戦闘不能になる礼儀は捨てて」

 

 真実は非常に真面目な顔で悩んだ。

 その様子に、ついに芦花が吹き出す。

 かぐやもつられて笑い、ラウンジにようやく練習後らしい空気が戻ってきた。

 張り詰めていた糸が、ぷつりと切れるのではなく、温かな手でゆっくり緩められるような時間だった。

 

 やがて配信を締め、コメント欄へ礼を言い、次の練習日程を軽く確認してから、その日は解散となった。

 ツクヨミのラウンジから一人、また一人と姿が消えていく。

 かぐやは最後まで「次はもっと勝つ」「帝にかぐやの成長を見せつける」と騒いでいたが、転送の光に包まれる直前には大きな欠伸をしており、彩葉に「寝落ちしないでね」と釘を刺されていた。

 ヨミも自室エリアへ戻り、静かな仮想空間の中でようやく肩の力を抜いた。

 

 三人分のトレースは、思った以上に神経を使った。

 アンサートーカーが答えを示すとはいえ、それを身体へ反映させるのは自分自身である。

 声帯、姿勢、視線、間合い、武器の変形タイミング、配信者としての見せ方。帝アキラならどう笑うか。

 雷ならどこに立つか。

 乃依ならどこで視線を外させるか。

 そのすべてを一度自分の中に通す作業は、終わってみれば、頭の芯がじんわり熱を持つほどの負荷だった。

 

 その時、通知音が鳴った。

 真実からのDMだった。

 

『今日は本当にありがとうございました』

 

 まずは丁寧な礼文。

 続いて、少し間を置いたように次の文章が表示される。

 

『ところで、折り入って相談があります』

 

 ヨミは何となく嫌な予感を覚えた。

 

『帝様の声真似で、個人鑑賞用のボイスドラマをお願いすることはできますか? 報酬は言い値でお支払いします』

 

 ヨミは画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。

 あまりにも真実らしい。

 らしいが、勢いが強すぎる。

 しかも金銭が絡むと、妙に面倒な話が付随しそうだった。

 権利、線引き、冗談で済む範囲、ファン心理の暴走。そういう単語が、ヨミの頭の中を静かに横切っていく。

 

 断るべきだろう。

 そう思った。

 だが同時に、今日の真実の顔も思い出してしまった。

 推しを好きでいることに真剣で、その好きと戦うことにも真剣だった。

 ヨミは少しだけ考え、返信を打った。

 

『お金が絡むと色々面倒になりそうなので、報酬は結構です。代わりに美味しいお店を紹介してくれたら、時間がある時に少しだけなら』

 

 送信してから、ヨミはすぐに思った。

 少しだけ。

 この一言は、果たして真実に通じるだろうか。

 返信は速かった。

 

『ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 感嘆符の数が多い。

 続いて届いた文章は、もはや震えが画面越しに伝わってくるほどだった。

 

『では台本を送ります。長くなってしまったので、お時間のある時にご確認ください』

 

 ファイルが添付された。

 ヨミは無意識に開き、そして、後悔した。

 そこにあったのは、台本というより文庫本だった。

 導入、出会い、再会、日常、看病、励まし、決戦前夜、勝利後のご褒美、眠る前の囁き。

 章立てがある。

 登場人物の感情指定が細かい。

 帝アキラの声色について「ここはやや低め、けれど優しさを残す」「ここは配信向けの俺様ではなく、素が少し滲む感じ」など、演出指示まで付いている。

 スクロールしても終わらない。

 さらにスクロールしても終わらない。

 ページ数表示を見た瞬間、ヨミは静かに目を伏せた。

 

「……少しだけ、とは」

 

 誰に向けるでもない呟きが、静かな自室に落ちる。

 親切心だった。

 ほんの少し、今日頑張った真実へのご褒美になればいいと思っただけだった。

 しかし、その親切心は今、文庫本一冊分の熱量となって返ってきている。

 推しへの愛は、人をここまで動かすのか。ヨミは改めてその事実を噛み締めながら、添付ファイルをそっと閉じた。

 

 閉じたところで、現実は変わらない。

 画面の向こうでは、真実がきっと期待に満ちた顔で待っている。

 ヨミは深く息を吐いた。

 

「……お店は、かなり美味しいところを教えてもらおう」

 

 そう呟いた声には、わずかな諦めと、それでも断り切れない自分への苦笑が混じっていた。

 こうして、対ブラックオニキス戦の練習は一応の成果を得た。

 彩葉とかぐやは勝ち筋の輪郭を掴み、真実は自分が本番で気絶する可能性と真剣に向き合い、ヨミは三人分のブラックオニキスを演じ切った代償として、文庫本一冊分のボイスドラマ台本を抱えることになった。

 大きな戦いの前夜には、しばしば予想外の事件が起こる。

 けれどこの場合、事件の発生源は敵ではなく、味方の推し活だった。

 

 

 その日、ツクヨミ特設スタジアムの空は、祭りの熱に焦がされていた。

 

 KASSEN用に展開された巨大な円形ステージは、左右に天守閣を抱き、三本のレーンを光の道のように伸ばしている。

 上空では、透明な身体を持つ巨大なレプトケファルスが、煙のようにゆるやかに身をくねらせながら泳いでいた。

 ウナギやウツボの幼生を模したそれは、会場演出の一部であるはずなのに、夜空を漂う姿は妙に神秘的で、竹林の光、城郭の黒、観客席の熱狂と混ざり合い、まるで月から降りてきた奇妙な吉兆のようでもあった。

 

『注目のイベントが始まります! 王者ブラックオニキスが、異例の速度でのし上がった超新星かぐや・いろPに宣戦! そしてまさかの求婚! 運命を懸けたKASSENが、今まさにここツクヨミ特設スタジアムで始まろうとしています!』

 

 実況を務める元プロゲーマー・乙照琴の声が、スタジアム全体へ高く響き渡る。

 その隣では、解説役の忠犬オタ公が、ヤチヨカップの残り時間や、この試合が獲得ファン数に与える影響について、妙に早口でまくしたてていた。

 会場の熱は、ただの対戦イベントのそれではない。恋愛沙汰めいた煽り文句、王者への挑戦、竹取物語をもじった大看板、それらすべてが燃料となり、観客の期待を天井知らずに押し上げている。

 

 世紀の竹取合戦。

 そう銘打たれた舞台の上で、彩葉は狐面の奥から静かに息を吐いた。

 いつもの狐の着ぐるみではない。

 今日の彩葉は、狐面をつけたアバターでステージに立っていた。

 白い面の奥に表情を隠し、いろPとしての距離感を保ったまま、かぐやの隣に並んでいる。

 面の内側には、呼吸の熱がうっすら籠もっていた。

 視界の端ではかぐやがそわそわと足踏みし、未だ現れないブラックオニキスに向かって、今にも文句を飛ばしそうな顔をしている。

 

「あわわわわ……」

 

 そして、真実は既に怪しかった。

 

 まみまみとしての衣装を整え、どうにか姿勢だけは保っているものの、頬は火照り、瞳は忙しなく揺れ、まだ姿を見せていない帝アキラの名前だけで意識が半分ほど飛びかけている。

 ヨミとの特訓で、帝アキラの声色も、仕草も、立ち振る舞いも一度浴びている。

 それでも、本物の帝アキラが目の前に現れるとなれば話は別だった。

 推しというものは、理屈で耐えられる存在ではないらしい。

 

「まみ、大丈夫?」

 

 かぐやが覗き込むと、真実はぎこちなく親指を立てた。

 

「だ、大丈夫。今日は敵として、ちゃんと、帝様と向き合うから……私、倒れないから……」

 

 言葉だけなら立派だった。

 だが、声は震えていた。

 

「まみ、もう顔が倒れそうだよ?」

「倒れない。推しの前で倒れるなんて、そんな失礼なこと……」

 

 その時だった。

 

『来ました! 黒鬼です!』

 

 実況の声が跳ねる。

 次の瞬間、会場上空の岩山めいたセットが砕け散り、破片の隙間から巨大な鬼と、それに跨る虎バイクが姿を現した。

 虎バイク。虎が前足で前輪を、後ろ足で後輪を掴んだような、理解しようとした瞬間に脳が諦める乗り物である。

 その背に乗った帝アキラは、黒い毛皮をなびかせ、紅い髪と黒い双角を輝かせながら、鬼へ真正面から突っ込んでいった。

 

 轟音。

 衝突の直前、帝は虎バイクを蹴って跳躍した。

 宙に浮いた身体が、金棒型の武器へ手を伸ばす。

 一見すれば無骨な棍棒。

 だが、そこから刀身が抜かれた瞬間、会場の空気が裂けた。

 幾筋もの斬撃が、目にも止まらぬ速さで鬼の身体を刻み、次の瞬間、それらは爆ぜて、夜空いっぱいの花火へ変わる。

 

 火花が降る。

 歓声が沸く。

 帝アキラはその中心へ、まるで最初からそこが自分の玉座であったかのように降り立った。

 その後ろから、駒沢雷と駒沢乃依が現れる。

 雷は黒と紫を基調にした僧衣めいた装束を揺らし、巨大な扇型武器を肩に預けている。

 乃依は白黒の耳と縞の尾を揺らし、桃色と濃紺の可愛らしい衣装のまま、輪刀をくるりと回して観客へ手を振った。

 

『黒鬼、ご来臨――!』

 

 会場が揺れた。

 音圧が身体の表面を叩き、彩葉の狐面の内側までびりびりと震わせる。

 このためなら、なんでもする男だ。

 兄としての酒寄朝日を知る彩葉は、帝アキラの徹底したサービス精神を理解していた。

 理解しているからこそ、今この場で相対することの重さが、胃の奥へ冷たい石のように沈んでいく。

 帝アキラが、こちらへ歩いてきた。

 

「どーも、対戦受けてもらってありがと」

 

 軽い声だった。

 けれど、その一言だけで、観客の熱がさらに上がる。

 帝アキラは、声の置き方を知っている。

 視線の投げ方を知っている。

 相手に余裕を見せ、自分のファンには夢を見せ、対戦前の数秒すら切り抜きになるように仕立ててくる。

 その帝へ、真実がふらふらと一歩踏み出した。

 

「あの私っつ、ふぁふぁファンでっつ」

 

 緊張で舌が回っていない。

 だが、それでも真実は帝へ話しかけた。ファンとして、敵として、まみまみとして。

 彼女なりに、正面から向き合おうとしたのだろう。

 帝は真実を一瞬見ると、ふっと笑った。

 

「まみ、悪いけど今日は手加減できない」

 

 そして、ウインクした。

 ただそれだけだった。

 ただそれだけで、真実の身体が大きく傾いだ。

 顔中に「!?」が浮かんだような表情のまま、足元から力が抜けかけ、今にも止まる直前の駒のようにくるくると倒れていきそうになる。

 しかし。

 

「……っ」

 

 真実は、踏みとどまった。

 

 片手で胸元を押さえ、もう片方の手で自分の頬を叩く。

 乾いた小さな音が、熱狂に包まれたステージの片隅で、妙にはっきりと響いた。

 推しのウインクを受けた瞳は潤み、唇は震え、足元は危なっかしい。それでも彼女は、崩れ落ちそうになる身体を必死に支え、歯を食いしばるようにして帝アキラを見上げた。

 

「まみ……?」

 

 かぐやが驚いたように声を掛ける。

 真実は、息を吸った。

 

「だ、大丈夫……です」

 

 声は細い。

 けれど、そこには確かに意思があった。

 

「帝様のファンだからこそ、今日はちゃんと敵として立ちたいんです。応援してきた人が、本気で戦う舞台に、自分も立てるなら……倒れて終わりなんて、もったいないから」

 

 その言葉に、彩葉は一瞬だけ目を見張った。

 真実は、ただの推し活でここにいるのではない。

 好きだからこそ、正面から見たい。

 好きだからこそ、同じフィールドに立って、相手の強さを受け止めたい。

 そういう不器用な誠実さが、震える声の奥にあった。

 帝アキラの笑みが、わずかに深くなる。

 

「いいね」

 

 軽い声。

 しかしその一言には、ファンを雑に扱わない彼らしい温度があった。

 

「じゃあ、最後まで見ててくれよ。俺らの本気」

 

 真実の瞳が、さらに潤んだ。

 耐えた。

 一度は、確かに耐えた。

 だが、帝アキラはそこで、ほんの少しだけ視線を細めた。

 観客席へ向ける華やかな笑みではなく、真正面の一人へだけ届くような、柔らかな表情だった。

 

「それと、まみ」

「は、はい……」

「いつも応援、ありがとな」

 

 それは、駄目だった。

 真実の表情から、完全に理性が消えた。

 

「…………耳が、幸せぇ……」

「まみー!?」

 

 今度こそ、真実は綺麗に倒れた。

 かぐやが慌てて抱き留め、彩葉が駆け寄る。

 真実は魂だけが帝アキラのファンサに昇天したような顔で気絶しており、口元にはこの世の未練をすべて推しの一言に置いてきた者の安らぎが浮かんでいた。

 彩葉は倒れた真実へ次々とグルメ画像を見せる。ラーメン、チキンオーバーライス、ビリヤニ、スパイスカレー、分厚いカツサンド。だが、真実の意識は帰ってこない。

 

「ねえどうする〜?」

 

 かぐやが真実のアバターから装飾のおにぎりを毟って食べながら訊いてくる。

 

「毟らない。食べない。あと味がないからって捨てない」

「味しない」

「だから食べないでって言ってるの!」

 

 彩葉は頭を抱えた。

 とはいえ、完全な想定外ではなかった。

 ヨミとの特訓の時点で、真実が本物の帝アキラに耐えられるかは怪しいと全員が思っていた。

 思っていたが、一度踏みとどまった分だけ、余計に惜しい。

 あの一瞬、真実は確かに敵として立とうとした。

 けれど推しは強かった、強すぎた。

 

「そして俺の姫、かぐやちゃん」

 

 気障な身振り手振りでかぐやに呼びかける帝に対して、かぐやがやにわに立ち上がる。

 そして、肩をいからせながら大股で帝に対して近寄っていく。

 

「どおらぁっ!帝、勝負だぁ!」

「へへ、前傾姿勢かわいすぎ」

 

 威勢よく帝を威嚇するかぐや。

 ツクヨミアバターに付属された髪の毛と同色のウサギ耳がピンと立ち、その闘争心を表していた。

 しかし、帝がそんなかぐやの様子を嬉し気にして距離を詰めると、威勢の良かった耳が垂れ下がり、悪童は及び腰で後ずさった。

 

「俺が勝ったら──結婚してくれんの?」

「んなわけっ……ねえだろ!」

 

 帝の求婚に対して、かぐやが口を開く前に保護者枠が動いた。

 伊達にかぐやが赤ん坊の時から世話していない彩葉が刹那の踏み込みで帝との距離を詰め、その手に持つ鍵盤型ブレードを振るう。

 帝はその保護者の威嚇攻撃に対して大袈裟に後ろに跳んで躱す。

 しかし。

 後方に跳んだ眼前には、すでに狐面が目と鼻の先に追って来ていた。

 

「まじ!?」

「かぐやをアンタみたいなのらりくらりした男の嫁に出すわけないでしょ!」

 

 彩葉の方も伊達にSETSUNA最上位勢と経験を積んできたわけではない。

 容赦の無い追撃に帝は冷や汗を掻きながら寸前のところで金棒を差し込む。

 響き渡る金属音。

 衝撃に空中で両者の距離が開く。

 

 その時、空から巨大な玉手箱が降ってきた。

 金色の煙を噴きながら、箱はステージ上へぽすんと着地する。

 観客席がざわめいた瞬間、蓋が勢いよく開いた。

 

「じゃっじゃーん! 呼んだー?」

 

 玉手箱から、バトル用の爽やかな衣装を纏ったヤチヨがぴょーんと飛び出した。

 光を浴びてくるりと回り、可愛らしくポーズを決める。

 その笑顔は、あまりにも自然で、あまりにも眩しく、彩葉の胸を一瞬だけ強く掴んだ。

 

「え~ヤチヨちゃんが入るの?」

「ウフフフ、この前は帝様側に付いてましてよ?」

 

 口では不満を流していてもその表情は余裕綽々といった様子の帝。

 そんな帝に対してお助けヤチヨは艶やかな様子で返していた。

 

「えええええええ!?」

「えへへっ、絶対勝とうね」

 

 ヤチヨがにっこり笑う。

 その瞬間、彩葉の胸の奥に、単純で強い感情が灯った。

 勝ちたい。

 帝アキラが相手だからでも、ヤチヨカップの逆転が懸かっているからでもない。

 かぐやが隣にいて、ヤチヨが助けに来てくれて、真実が一度は踏みとどまり、それでも倒れるほど本気で推しに向き合った。

 その全部を無駄にしたくないと思った。

 

 

『試合開始です!』

 

 法螺貝の音が鳴り響いた。

 低く、太く、腹の底を震わせるような音。

 KASSENの開始を告げるその響きと同時に、ステージが戦場へ変わる。

 円形のKASSENフィールドは左右に大きく分かれ、右端にこちらの天守閣、左端にブラックオニキスの天守閣が立つ。

 間を繋ぐのは、トップ、ミドル、ボトムの三本のレーン。

 トップとボトムには櫓があり、その手前では中ボスである牛鬼が、甲殻を鳴らしながら待ち構えている。

 

 かぐやは自分のハンマーのジェットエンジンに点火し、その上に乗って飛び出した。

 彩葉は巨大な黒いオオタカへ跨り、狐面の奥でマップ情報を睨みながら、かぐやと並んでトップレーンへ向かう。

 ヤチヨはサカバンバスピスが担ぐ神輿、通称サカバン神輿に乗り、軽快な掛け声と共にボトムレーンへ進んでいった。

 

 そして、ブラックオニキスの動きがマップへ映った瞬間、彩葉の胸がどくりと鳴った。

 トップ、ミドル、ボトム。

 三つすべてのレーンに、一人ずつ。

 帝アキラ、駒沢雷、駒沢乃依が、それぞれ別方向へ進軍している。

 

「トライデント……」

 

 彩葉は呟いた。

 驚きではない。

 恐怖でもない。

 それは、ヨミの言葉が現実になった瞬間の、冷たい確認だった。

 ブラックオニキスは、やはりこの形を選んできた。

 三人全員に見せ場を作り、全レーンで局所戦を発生させ、観客へ最高の興行を見せる布陣。

 そして同時に、一対複数でも崩されないという圧倒的な自信の表明でもある。

 

「ヨミの言ってたやつ!」

 

 かぐやが叫ぶ。

 

「そう。予定通り」

 

 彩葉は短く返した。

 完全に舐められている、と感じる部分がないわけではない。

 だが、ただの慢心ではないことも分かる。

 これはブラックオニキスの美学だ。

 勝利を前提に、どう魅せるかまで設計する王者の戦い方だ。

 

 下方から無数の矢が飛んできた。

 彩葉とかぐやは同時に飛行モードを解き、落下しながらミニオンの群れを一掃する。

 高速ライドはある程度まで進むと地上ミニオンの総攻撃を受けるため、ここで降りる必要がある。

 足元に迫る石畳、風を切る音、弾けるエフェクト。

 落下の重さが腹にかかり、仮想の身体であるはずなのに、彩葉の指先は冷えていた。

 

 銃声が聞こえた。

 来た。

 彩葉はミニオンへの攻撃を即座に切り上げ、近くの岩陰へ滑り込む。

 銃声が近づいてくる。

 こちらの位置を削り出すように、的確な間隔で弾丸が石を砕いていく。

 

 彩葉は息を止めた。

 ヨミとの特訓で何度も見た。

 帝アキラは、銃で相手を倒すためだけに撃つのではない。

 撃つことで選択肢を削り、隠れたくなる場所へ誘導し、飛び出すタイミングまで握ってくる。

 

 だから、待つだけでは駄目だ。

 彩葉は鍵盤型ブレードを構え、片側の刃を分離させるように変形させた。

 岩陰から投げる。

 刃は弧を描いて飛び、帝の射線を一瞬だけ乱した。

 その隙に飛び出す。

 避けられた刃を仕込まれたワイヤーで即座に回収し、片手剣の形へ戻しながら斬りかかった。

 火花が散った。

 帝アキラの刀と、彩葉のブレードが噛み合う。

 

「お前、彩葉だろ」

「チガウ、オレ、イロハチガウ」

 

 即答した。

 狐面の奥で、彩葉は奥歯を噛み締める。

 ツクヨミにいれば、帝アキラの活躍は嫌でも耳に入る。

 けれど、こうして言葉を交わすのは何年ぶりだろう。

 兄である酒寄朝日と、妹である酒寄彩葉。

 今ここでその関係を持ち込むには、この戦場はあまりにも熱く、あまりにも騒がしかった。

 

 背後から、うなぎ形の弾丸が発射された。

 かぐやのうなぎ砲だ。

 

「彩葉ー!」

「あっ、おい」

 

 言うなって。

 そう思った瞬間、意識が一拍かぐやへ逸れた。その隙を、帝アキラは見逃さない。

 棍棒型の鞘が唸り、彩葉の身体を横から叩きつけた。

 鈍い衝撃が腕と肩へ走り、視界の端でHPゲージが削れる。

 

「今の名前で全部出たな」

「かぐや!」

「ごめーん!」

 

 かぐやが慌てる。

 帝は笑った。

 

「その面、いつまで被ってるつもりだ?」

 

 金棒型武器を肩へ担ぎ直し、帝は彩葉を真正面から見据える。

 観客へ向ける派手な笑みではない。

 もっと近く、もっと深く、兄だけが持っている妙な遠慮のなさを含んだ目だった。

 

「本気出そうぜ」

 

 彩葉の指が、狐面の縁へ掛かった。

 面の内側に籠もった息が熱い。

 視界は狭く、白い縁の向こうで帝アキラが笑っている。

 この狐面は防具ではない。能力を上げる装備でも、攻撃を防ぐ盾でもない。

 けれど、いろPという名前の奥へ本当の自分を隠してきた彩葉にとって、その面は鎧に等しかった。

 

 裏方でいるための距離。

 傷つかないための境界。

 自分は前に出る人間ではないと、心のどこかで言い訳するための薄い壁。

 けれど、もう隠れてはいられない。

 ヨミとの特訓で、嫌というほど叩き込まれた。

 不利になった時、何を諦め、何を取り返すかを間違えてはいけない。

 今ここで捨てるべきものは、守りに使っていた距離だった。

 取り返すべきものは、かぐやの隣で戦う自分自身だった。

 

「……かぐや」

 

 彩葉は静かに言った。

 

「ここからは、私もちゃんと前に出る」

 

 そして、狐面を外した。

 白い面が、指先から離れる。

 仮面の下から現れた素顔に、会場のざわめきが一瞬遅れて広がっていった。

 いろPではない。

 いや、いろPであるはずなのに、そこに立っていた少女は、これまで視聴者が知っていた裏方の印象とはまるで違っていた。

 狐面の奥に隠されていた顔立ちは、作り物めいた美貌ではなく、凛とした線の細さと芯の強さが同居する端正なものだった。

 涼しげな目元には、今まで画面の裏からかぐやを支えてきた冷静さが宿り、けれど頬へ直接当たるステージの光のせいで、どこか危ういほど生々しい熱も帯びている。

 ライバー『イロ』として、狐面の向こうに隠してきた顔。

 その素顔が、今、スタジアム中の視線の前へ晒された。

 コメント欄が壊れた。

 

『え』

『顔』

『顔が良い』

『いろP!?』

『待って待って待って』

『今まで狐面でこれ隠してたの!?』

『端正すぎる』

『裏方の顔じゃない』

『かぐやちゃんの隣に並んだ時の絵面が強すぎる』

『なんていうか……その…いろPが狐面を外したとき……下品なんですが…フフ……』

『イロ、普通にライバーとして前に出てくれ』

『推す』

『今推した』

『さっきまでかぐや推しだったけど二人まとめて推す』

 

 そこへ、帝アキラの言葉が重なった。

 

「やっぱ、彩葉じゃん」

 

 その一言で、熱狂はさらに形を変えた。

 

「私のアバターなんて知ってんの」

「お兄ちゃんにはなんでもお見通し――ってね」

 

 喋りながら放った彩葉の攻撃を、帝は喋りながら躱した。

 

「えっ、お兄ちゃん!?」

 

 彩葉に合わせてちょこちょこ攻撃を加えていたかぐやが、手を止めてこちらを見る。

 驚きのあまり、目がまん丸になっていた。

 

『お――っと衝撃の告白だー!! 帝といろPは兄妹だった――!?』

 

 実況の声が耳に届く。

 その瞬間、コメント欄は完全に阿鼻叫喚となった。

 

『兄妹!?』

『帝の妹!?』

『帝家の顔面偏差値どうなってんの!?』

『顔が良くてゲームが強くて帝の妹!?』

『情報量で殴るな』

『いや待て、帝の妹がかぐやの相方やってたの?』

『兄妹対決!?』

『竹取合戦だと思ったら家族戦争始まった』

『イロの素顔公開だけでも事件なのに帝妹バレまで来るの何?』

『かぐやちゃん、そこ代わって』

『いや代わるな、二人で並んでくれ』

『今日この配信見ててよかった』

 

 会場のざわめきが膨れ上がる。

 歓声なのか悲鳴なのか、驚きなのか興奮なのか、もはや判別できない巨大な音の塊が、波のようにフィールドへ押し寄せた。

 彩葉の頬に、ステージの光と観客の熱が直接触れる。

 狐面越しでは届かなかったものが、今はすべて肌の上へ降ってくる。

 だが、もう後戻りはできない。

 彩葉は狐面を握った手を下ろし、鍵盤型ブレードを構え直した。

 

「今それ言うの、ずるい」

「兄貴だからな」

「口出さないで」

「そりゃ母さんも気にしてたぞ。連絡くらい取りゃ良いのに」

 

 帝アキラの声音が、ほんの少しだけ変わった。配信用の華やかさが薄れ、内部通信用に切り替わったような近い響きになる。

 酒寄朝日としての温度が、帝アキラの仮面の奥から滲む。

 

「こっちにも順序ってもんがあるの!」

「それも母さんの教えだろ? いちいち真に受けちゃうからギスギスすんの。母さんは反抗待ちなんだから」

「知らん! 今それ言うな!」

 

 言い返しながら、彩葉は斬り込んだ。

 帝の剣が横薙ぎに走る。

 彩葉は受けない。

 半歩沈み、刃の下を潜るようにして懐へ入る。

 SETSUNAでヨミと戦った時の感覚が、身体の奥から蘇る。

 相手の呼吸、重心、視線、刃の角度。どこまで踏み込めば届き、どこから先へ行けば狩られるのか。

 あの極限の一対一で叩き込まれた距離感が、今、帝アキラの喉元へ細い道を引いた。

 

 剣だけなら、届く。

 読み合いだけなら、決して一方的ではない。

 帝アキラは強い。

 だが、届かない神様ではない。

 純粋なタイマンなら、彩葉の刃は少なくない確率で彼へ届く。

 その確信は慢心ではなく、ヨミとの死闘を通して身体に刻み込まれた、冷静な距離測定だった。

 

「彩葉!」

 

 かぐやのうなぎ砲が横から火を噴いた。

 帝のライフルの銃口が、わずかにずれる。

 その一瞬で、彩葉のブレードが帝の胸元へ届きかけた。

 ほんの刹那、帝アキラの笑みが消える。

 

『入るか!?』

『いろP、帝に届いている!』

『今の踏み込み、速い!』

『狐面を外してから動きが変わったぞ!』

 

 歓声が遅れて弾ける。

 だが、帝アキラはそこで受けなかった。

 金棒型の鞘を地面へ叩きつけ、反動で身体を後ろへ逃がす。

 同時に変形したライフルの銃口が、彩葉ではなく牛鬼へ向いた。銃声。

 弾丸が牛鬼の甲殻を撃ち抜き、戦況ゲージが大きく傾く。

 

 彩葉は歯を食いしばった。

 勝てたかもしれない。

 だが、勝負そのものをずらされた。

 一対一なら押し切れたかもしれない刹那を、帝アキラはSENGOKUの勝ち筋へ変換した。

 自分の身を守るためだけでなく、櫓の優位を取るために退いた。

 その判断の速さが、この男の本当の怖さだった。

 

「あと一歩ってとこだな」

 

 帝が笑う。

 その笑みは、ただ煽っているだけではなかった。

 目の前の相手が、本当に自分へ届き得ると認めた者の顔だった。

 彩葉はブレードを握り直す。

 一対一なら、届く。

 けれど、ここはSENGOKUだ。

 帝アキラは勝負そのものをずらしてくる。

 櫓を使い、牛鬼を使い、観客を使い、味方を使い、こちらの刃が届く瞬間さえチームの勝ち筋へ変えてくる。

 

 だからこそ、一人で勝つのではない。

 彩葉は隣のかぐやを見た。

 かぐやはまだ兄妹発覚の衝撃を完全には飲み込めていない顔をしていたが、それでも武器だけはしっかり構えていた。

 月へ帰る姫ではなく、誰かに連れて行かれる物語の登場人物でもなく、自分の足でハッピーエンドへ走ろうとする少女として、真っ直ぐ前を見ている。

 

「かぐや」

「なに?」

「あとで説明する。今は殴る」

「うん! わかった!」

「でも一人で突っ込まないで」

「うっ」

「行く時は一緒に行く」

 

 かぐやの顔が、ぱっと明るくなった。

 

「うん!」

 

 遠くのボトムでは、乃依の輪刀が弓へ変形し、ヤチヨの足元へ精密な光矢を落としていた。

 ミドルでは、雷の扇が開き、戦場の通路そのものを塞ぐように紫の障壁を展開している。

 ブラックオニキスの三叉槍は、今なお戦場全体を貫いている。

 

 だが、彩葉はもう飲まれていなかった。

 見えれば、斬れる。

 届かないと思っていたものも、距離を測れるなら踏み込める。

 そして今は、一人ではない。

 

「行くよ、かぐや」

「うん! 彩葉!」

 

 二人は同時に地を蹴った。

 帝アキラが笑う。

 その笑みは、挑戦者を迎える王者のものだった。

 竹取合戦は、ここからようやく本当の熱を帯び始めた。

 

 

 二人は同時に地を蹴った。

 石畳を踏み割るような音が足裏から響き、舞い上がった砂塵が、トップレーンを流れる風にさらわれていく。

 帝アキラは、その正面で笑っていた。

 黒い毛皮が翻り、金棒型の鞘が肩から滑り落ちる。

 引き抜かれた刀身は、会場の照明を吸って白く光り、残された鞘は内部機構を噛み合わせながらライフルへ形を変えた。

 近距離の剣。

 中距離の棍棒。

 遠距離の銃。

 その三つが、帝アキラという一人のプレイヤーの中で、まるで呼吸のように切り替わる。

 

「かぐや、右に膨らんで!」

「うん!」

 

 かぐやが横へ跳ぶ。

 以前なら、そのまま真正面から突っ込んでいた。

 勢いと勝ちたい気持ちを全部まとめて、帝アキラの懐へ叩きつけようとしていたはずだ。

 けれど今は、ほんの一拍だけ待てる。足元を撃ち抜こうとした銃弾を、ハンマーの柄で弾き、着地の勢いを殺さず斜めへ流れる。

 帝の目が、わずかに細まった。

 

「前傾姿勢一辺倒かと思いきや緩急をつけることも知ってるんだな、かぐやちゃん」

「かぐや、成長期なのだ!」

「いいねえ。じゃあ、その成長、どこまで伸びるか見せてもらおうか」

 

 帝が踏み込む。

 黒い外套が視界を覆うように広がった。

 彩葉はその影の下へ潜り込む。

 鍵盤型ブレードの刃が、帝の刀と噛み合い、火花が白く弾けた。

 衝撃は重い。

 腕の芯へ鈍く響き、指先が一瞬痺れる。

 それでも、受けられる。

 崩されない。

 

 ヨミと戦った時間は、無駄ではなかった。

 あの猛禽のような視線に晒され、こちらの癖を一枚ずつ剥がされ、逃げ道を塞がれ続けた経験が、今、帝アキラの剣筋を見るための目になっている。

 以前の彩葉なら、今の踏み込みで落とされていた。

 剣を受けようとして体勢を崩し、銃口を向けられ、足元を削られていた。

 

 けれど今は、半歩だけ沈める。

 半歩だけ待てる。

 その半歩が、刃を届かせる距離になる。

 彩葉は帝の剣を受け流し、刃を返した。

 鍵盤型ブレードの白い軌跡が、帝の胸元へ走る。

 かぐやのうなぎ砲が横から飛び、ライフルの銃口を一瞬だけずらす。

 二人の攻撃は荒い。まだ完璧な連携ではない。

 けれど、先ほどまでのように個別に処理されるだけの攻めではなかった。

 帝の表情から、また笑みが薄れた。

 

「……お前、いつの間にそんな間合い覚えた?」

 

 その声には、兄が妹をからかう響きではなく、対戦相手の力量を測るプロの硬さがあった。

 

「対人最上位勢に、さんざん揉まれたからね」

「ヨミか」

 

 帝は短く笑う。

 

「なるほど。あいつ相手にやり合ってたなら、そりゃ刃も届くわけだ」

 

 だが、次の瞬間、帝アキラはその刃を真正面から受けなかった。

 金棒型の鞘を地面へ叩きつけ、反動で身体を逃がす。

 同時に、変形したライフルの銃口は彩葉ではなく、背後で暴れる牛鬼へ向いた。

 銃声が三つ、間隔を置いて鳴る。

 甲殻の継ぎ目を正確に撃ち抜かれた牛鬼が、低い唸り声を上げて体勢を崩した。

 

 彩葉は息を呑む。

 タイマンから逃げたのではない。

 勝負をずらしたのだ。

 個人戦で危険な間合いが生まれた瞬間、帝アキラは迷わず、彩葉との読み合いをSENGOKUの勝ち筋へ変換した。

 こちらの刃が届くことを認めた上で、その刃が届いても試合に勝てるとは限らない場所へ戦場を動かす。

 それが、この男の怖さだった。

 

『トップレーン、帝アキラが牛鬼の弱点を撃ち抜いた! 速い、処理が速い!』

『イロ選手の踏み込みもかなり鋭いっすけど、帝はそこで付き合いませんね。対人の勝負を、すぐオブジェクト勝負に変えてます』

 

 実況と解説の声が、耳の奥をかすめる。

 彩葉は舌打ちしそうになるのを堪えた。

 

「かぐや、牛鬼を止める!」

「止めるって、帝もいるよ!?」

「両方!」

「むちゃ言う!」

 

 言いながらも、かぐやは走った。

 ハンマーのジェットを短く噴かし、牛鬼の脚元へ滑り込む。

 重い甲殻が頭上を掠め、石畳を砕く。

 衝撃で体が浮きかけるが、かぐやはハンマーを地面へ叩きつけて踏みとどまった。

 

 その瞬間、ミドルレーンの方向から、低い風鳴りが響いた。

 駒沢雷の扇が開いたのだ。

 黒と紫の障壁が、ミドルからトップへ抜ける支援ルートを塞ぎ、さらにトップ櫓へ向かう細道の一部を切り取るように展開されていく。

 雷はここにいない。

 けれど、いないはずの場所にまで圧が届いている。

 ヨミの言葉が、彩葉の脳裏で蘇った。

 

 相手が嫌がる場所に立ち続ける。

 そこから退かない。

 派手ではないが、チームを勝たせる役割。

 まさにその通りだった。雷は目立つ一撃を放たない。

 だが、通りたい道を狭め、助けに行きたいタイミングを遅らせ、戦場全体の床を少しずつ傾けていく。

 さらにボトムから、ヤチヨの声が弾けた。

 

『うっ! 乃依ちゃ、足止めが狙いだったか〜ぎえっ』

 

 視界端のミニマップで、ヤチヨのアイコンが不自然に鈍く動く。乃依の輪刀が弓へ変形し、鈍足効果を持つ矢を連続で撃ち込んでいるのだろう。

 ヤチヨは強い。

 お助け補正も乗っている。

 だが、乃依は倒すためではなく、動かさないために撃っている。

 勝つための一撃ではなく、遅らせるための連射。

 その判断が、あまりにも嫌らしい。

 

「ヤチヨが止められてる……!」

 

 彩葉が呟いた瞬間、帝が牛鬼へ肉薄した。

 棍棒型の鞘から抜かれた刀が、光を帯びる。

 ウルト──超必殺技。

 視認できた時には、もう遅かった。

 帝の身体が赤黒い残光となって牛鬼の周囲を駆け抜け、斬撃が甲殻の継ぎ目を何度も通過する。

 次の瞬間、牛鬼が砕けた。

 巨体が光の粒へ崩れ、櫓の鐘へ至る道が開く。

 

「くそっ!」

 

 彩葉は走ろうとした。

 だが、足元へ銃弾が撃ち込まれる。

 止まれば遅れる。

 避ければ回り道になる。

 真正面から突っ込めば、帝の剣が待っている。

 

「もっとうまくやれよな、俺みたいに」

 

 帝は配信用の声へ戻し、決め台詞と共にウインクを放った。

 余裕綽々の態度に腹が立つ。

 だが、手捌きには文句のつけようがない。

 

『瞬殺~~! トップレーン、帝アキラが牛鬼を撃破!』

『ボトムレーンのヤチヨも牛鬼を撃破しています! ですが――乃依の鈍足連射が刺さっている! ヤチヨ、櫓へ届かない!』

 

 まずい。

 彩葉は瞬時に状況を計算した。

 トップの櫓は帝が先に鐘へ向かっている。

 ボトムはヤチヨが牛鬼を倒したが、乃依に足を止められている。

 ミドルから雷が支援ルートを塞ぎ、こちらの動きを遅らせている。

 二つの櫓を同時に取られれば、その瞬間、コールド負け。

 

「かぐや、帝を止める!」

「うりゃあ~~~!」

 

 かぐやがハンマーを振りかぶる。

 しかし動きが直線だった。

 帝は読んでいたように身を半歩引き、棍棒の腹でかぐやの胴を打つ。

 かぐやが「うわああ」と情けない声を上げながら吹き飛ばされる。

 すぐに彩葉が斬り込むが、その一瞬の遅れが致命的だった。

 トップ櫓の鐘が鳴る。

 同時に、ボトムからも高く澄んだ音が響いた。

 

『乃依が櫓を占拠しました!』

『トップも帝アキラが占拠! トライデントのまま両櫓占拠でコールドです! ブラックオニキス、一戦目を鮮やかに奪取!』

 

 戦場が止まった。

 敗北表示が、空中へ淡く浮かぶ。

 一回戦は、終わった。

 彩葉はブレードを握ったまま、しばらく動けなかった。

 良いところがなかったわけではない。

 刃は届いた。かぐやも止まれた。ヤチヨも乃依を相手に粘った。

 ヨミとの特訓で得たものは、確かにこの戦場で形になっていた。

 

 けれど、ブラックオニキスはその一つ一つを、別のレーンの勝ち筋へ変換してきた。

 こちらが一歩成長していたことを認めた上で、それでも勝っていく。

 それが王者の強さだった。

 

「ごめんね~、ずっとなめくじ状態でした」

 

 ボトムから戻ってきたヤチヨが、軽い調子で両手を合わせる。

 

「いやいや、ヤチヨは最強ですよ……」

 

 彩葉はそう返したが、声には少しだけ苦みが混じった。

 ヤチヨが悪いわけではない。

 誰か一人のミスで負けたわけでもない。

 むしろ全員ができる限り動いた上で、ブラックオニキスが上回った。その事実が、単純な敗北よりも重かった。

 

 かぐやは、少し離れたところで空を見ていた。

 落ち込んでいるのかと思った。

 だが違った。

 その口元には、悪童めいた含み笑いが浮かんでいた。

 

「ねえ、帝ってさー」

「……今度は何に付き合わされるんだか」

 

 彩葉が嫌な予感を覚えるより早く、かぐやは上空を泳ぐ透明なレプトケファルスを指差した。

 

「アレ、乗れるかな」

「乗れるかなじゃない。普通は乗らない」

「でもメロンパンあげたら乗せてくれそうじゃない? このまみから毟ったやつで」

「何その理屈」

「かぐや理論!」

 

 かぐやは胸を張った。

 その目が、きらきらしている。

 

 ヨミの特訓中、乃依役のヨミは言っていた。

 見えているものだけ追いかけたら、だめだよ、と。

 かぐやはそれを、かぐやなりに受け取っていたのだろう。

 自分は乃依のように精密な射撃も、流れるような遊撃もできない。

 けれど、相手の見えている情報を壊すことなら、別のやり方でできる。

 

 SENGOKUの二次元マップに、上下情報は表示されない。

 ならば、上に隠れればいい。

 その発想は大雑把で、無茶で、あまりにもかぐやらしかった。

 

「その裏技に気が付くとは、かぐやは目の付け所が違うね~」

「え!? 本当に乗れるの!?」

 

 ヤチヨの一言に彩葉は目を剥いた。

 

 

 二回戦。

 法螺貝の音が再び鳴り、戦場が初期状態へ巻き戻る。

 彩葉とかぐやは、先ほどと同じくトップレーンへ向かった。

 ミニマップ上では二人のアイコンが重なっている。

 帝アキラもそれを見ているはずだった。

 先ほどよりも警戒した動きで、銃声がこちらの移動先を削ってくる。

 

「かぐや姫は?」

 

 帝の声が飛ぶ。

 彩葉は岩陰からブレードを投げ、帝の射線を逸らしながら答えた。

 

「月に帰ったよ」

「は?」

 

 その瞬間、上空。

 透明なレプトケファルスの背に乗ったかぐやが、ハンマーのジェットを短く噴かした。

 風を切る音が、戦場のざわめきに紛れる。

 ミニマップには、彩葉とかぐやが同じ場所にいるようにしか映らない。

 帝の視界には彩葉しかいない。

 だが、実際にはかぐやは頭上を通り抜け、ボトムレーンへ向けて一直線に落下していた。

 

「雷、トップレーン! フォロー! 乃依がやられる」

 

 帝の判断は速かった。

 速すぎるほどだった。

 だが、その一拍を彩葉は逃さない。

 帝がかぐやの行方へ意識を割いた瞬間、彩葉は一気に距離を詰めた。

 鍵盤型ブレードが白く鳴り、連続する斬撃が帝の足を止める。

 

「行かせない」

「妹に足止めされる日が来るとはな」

 

 帝が笑う。

 余裕はある。

 だが、完全には無視できない。その事実が、彩葉には分かった。

 純粋な一対一なら、刃は届く。

 帝もそれを分かっている。

 だからこそ、彩葉を放置できない。

 

 そのわずかな拘束時間が、かぐやの奇策を成立させる。

 ボトムレーンでは、ヤチヨと乃依が交戦していた。乃依の輪刀が弓へ展開し、精密な光矢がヤチヨの足を狙う。だが、そこへ上空からかぐやが降ってきた。

 

「うりゃ~~! チェストツクヨミ!!!!」

「え、上?」

 

 乃依の声に、初めてわずかな驚きが混じる。

 チェストツクヨミとはかぐやの使う隠語で『ぶっ飛ばせ』の意である。

 かぐやのハンマーが、ボトム櫓の手前へ隕石のように叩きつけられた。

 衝撃波が輪刀の軌道を乱し、ヤチヨがその隙に鈍足から抜ける。

 

 そこから先は、きれいな作戦というより勢いだった。

 かぐやが叫び、ヤチヨが笑い、乃依が楽しそうに目を細めながらも後退し、やがて櫓の鐘が鳴る。

 

『かぐや、櫓を占拠!』

『二次元マップに上下情報がないことを逆手に取った撹乱です!』

『レプトケファルスに乗るという発想、普通は出ません!』

 

「やったああああ!」

 

 かぐやの歓声がボイスチャットへ流れる。

 彩葉は笑いそうになるのを堪えた。

 というか、あれは乗り物だったのか。呆れと感心が入り混じったその一瞬、けれど彩葉は完全には気を抜かなかった。

 胸の奥で、ヨミとの特訓の記憶が細く冷たい糸のように張っている。

 対人最上位勢は、相手が笑った瞬間に踏み込んでくる。油断ではなく、緩み。緩みではなく、呼吸。その一拍を、あの猛禽のようなプレイヤーは何度も刈り取ってきた。

 だから、彩葉は見えない棍棒の気配へ、半歩だけ重心を沈めた。

 

「油断」

 

 帝の棍棒が、横薙ぎに走った。

 鈍い衝撃が空気を裂き、狐面を外した頬を風圧が掠める。

 受ければ吹き飛ばされる一撃。だが彩葉は受けなかった。

 鍵盤型ブレードの柄を斜めに差し込み、棍棒の軌道を完全に止めるのではなく、滑らせるように逸らす。

 火花が扇状に散り、身体が石畳を削りながら数歩分押し戻された。

 

 以前なら、ここで落とされていた。

 けれど今は、落ちない。

 ヨミと渡り合ってきた時間が、彩葉の身体へ細かな修正を刻み込んでいる。

 力で受けるな。真正面から答えを出すな。相手の攻撃を否定するのではなく、行き先だけをずらせ。

 あの対人最上位勢の無慈悲な詰め筋に何度も晒されたことで、彩葉の反応は、ただ速いだけのものではなくなっていた。

 

「……へえ」

 

 帝の声から、薄く笑いが引く。

 そこにいたのは、妹をからかう兄ではなかった。

 対戦相手の力量を測る、帝アキラだった。

 

「今の、耐えるんだ」

「耐えるだけなら、散々やらされてきたから」

「ヨミ相手に?」

「そう」

 

 彩葉はブレードを握り直す。

 手の中に、先ほどの衝撃が痺れとして残っている。

 けれど、その痺れは恐怖ではなく、むしろ意識を鋭くした。

 帝アキラの足運び、銃口の角度、棍棒を握る手首の返し、刀へ変形するまでのわずかな予備動作。それらが、一つずつ視界の中で意味を持ち始める。

 

 帝は強い。

 途方もなく強い。

 けれど、見えないほどではない。

 純粋な一対一であれば、彩葉の刃は届く。

 いや、届かせなければならない。ここで帝を自由にしてしまえば、トップ櫓から生まれた大将落としを押し込まれる。

 かぐやとヤチヨがボトムで掴み取った奇策の価値が、帝一人の判断で消されてしまう。

 

 だから、彩葉の役目は倒すことではなかった。

 止めること。

 帝アキラという王者を、この場に縫い止めること。

 トップ櫓の鐘が鳴る。

 帝も櫓を占拠した。

 だが、今度は両櫓ではない。

 かぐやとヤチヨが、ボトムを取っている。

 フィールドの空気が変わり、自陣天守閣にジャンプ台が出現する。ボトム側ではかぐやとヤチヨが大将落としへ向かって動き出し、乃依の輪刀が弓へ変形する光が遠くに見えた。

 

『両チーム、櫓を一つずつ取得! かぐや・いろPチーム、踏みとどまった!』

『ここからは、どちらが先に大将落としを天守へ運ぶかの勝負です!』

 

 実況が叫ぶ。

 帝アキラは一瞬、ボトム側へ視線を流した。

 その瞬間を、彩葉は見逃さなかった。

 対人最上位勢は、攻撃している時ほど次の盤面を見ている。

 ヨミと戦って覚えたことだった。

 目の前の相手だけを見ているプレイヤーは、上には行けない。帝も同じだ。

 いや、帝だからこそ、より強くその癖がある。

 視線は彩葉を捉えながら、意識はレーン全体へ伸びている。

 ボトムの乃依、ミドルの雷、自陣天守、相手の大将落とし、リスポーン位置、観客の熱、そのすべてを同時に見ている。

 

 だからこそ、その一瞬だけ、目の前の彩葉への比重が薄くなる。

 彩葉は踏み込んだ。

 鍵盤型ブレードの刃が、低い位置から跳ね上がる。

 帝は剣で受けようとしたが、彩葉はそこで刃を止めない。

 衝突する直前にブレードを分離させ、片側をワイヤーで外へ逃がした。受けるために差し込まれた帝の刀が空を切り、もう片方の刃が帝の懐へ滑り込む。

 

「おっと」

 

 帝が笑う。

 棍棒型の鞘が、彩葉の手首を叩き落とすように振るわれる。

 彩葉は手首を引かない。むしろ前へ出る。

 ヨミならどう詰めるか、ヨミならどう狩るか、ヨミならこの半歩をどう使うか。

 あの白と黒の和装を纏った猛禽めいたプレイヤーと切り結んだ記憶が、彩葉の背中を押す。

 

 受けに回れば、帝の手数に飲まれる。

 距離を取れば、銃で削られる。

 だから、近いまま戦う。

 怖いほど近い間合いで。

 刀とブレードが噛み合い、火花が散った。

 棍棒が唸り、彩葉の髪を風圧が揺らす。

 ライフルの銃口が腰元で開きかけた瞬間、彩葉は蹴りでその向きをずらした。

 弾丸が石畳を撃ち抜き、破片が頬の横を飛ぶ。痛みはない。だが、身体は痛みを想像して震えた。

 

「やるじゃん、彩葉」

「今はイロ」

「いいね。じゃあ、いろP」

 

 帝の笑みが深くなる。

 

「どこまで俺を止められる?」

 

 次の一秒は、ほとんど目で追えなかった。

 帝が刀を抜く。彩葉が半歩下がる。

 銃口が開く。彩葉がワイヤーを張る。

 棍棒が回り、ブレードが弾かれ、弾かれたブレードをさらにワイヤーで引き戻して、彩葉は帝の肩口へ二度目の斬撃を入れる。

 帝はそれを首だけで躱し、返す刀で彩葉の胴を狙う。

 彩葉は跳ばない。跳べば撃たれる。沈む。沈んで、刀の軌道の下を抜け、石畳を蹴り、刃を突き上げる。

 

 観客の歓声が、遠くなる。

 実況の声も、コメント欄の滝も、ほとんど聞こえない。

 彩葉の世界は、帝アキラの呼吸と、刀身の光と、自分の心臓の音だけになっていた。

 これはSENGOKUだ。

 分かっている。

 だが今この瞬間だけ、ここには一対一が成立していた。

 

 帝アキラと、イロ。

 王者ブラックオニキスの中心と、対人最上位勢ヨミと渡り合ってきた少女。

 二つの刃が、互いの喉元を狙って火花を散らしている。

 

『これは……トップレーン、完全に一対一です!』

『帝アキラがボトムのフォローに行けない! イロ選手が縫い止めています!』

『単なる足止めじゃないっすね。今の帝、少しでも判断を間違えたら落ちますよ』

 

 その声が耳に届いた瞬間、彩葉は理解した。

 自分は、今、帝を止めている。

 倒してはいない。

 勝ってもいない。

 けれど、止めている。

 それだけで充分だった。

 

 ボトムでは、かぐやとヤチヨが動いている。

 ヤチヨの笑い声が通信の向こうで弾け、かぐやの叫びがそれに重なる。

 乃依の矢が何度も光り、輪刀が弓へ、弓が輪刀へ戻る音が遠くで鳴っている。

 雷の扇も動いているはずだ。ミドルからの圧は消えていない。けれど、帝は動けない。

 

 ブラックオニキスのトライデントは強い。

 だが、その中心にいる帝を、今だけは彩葉が押さえていた。

 

「ヤチヨ、右ー!」

「はいはーい、ヤッチョ華麗に避けますとも〜☆」

「かぐや、押す! すっごく押す!」

「押しちゃえ押しちゃえ〜!」

 

 かぐやとヤチヨの声が、通信越しに弾ける。

 大将落としが動く。

 重い木塊が、敵天守閣へ向けて少しずつ進む音が、地響きのように伝わってくる。

 帝の視線が、わずかにそちらへ流れる。

 行きたいはずだ。ボトムへ行けば、帝なら流れを変えられる。

 ヤチヨと乃依の間へ割り込み、かぐやを一瞬で落とし、大将落としを止められるかもしれない。

 けれど、その一歩を彩葉が許さない。

 

「行かせないって言ってるでしょ!」

 

 彩葉は叫び、帝の進路へブレードを突き立てた。

 帝の剣がその刃を受ける。金属音が耳の奥で爆ぜ、衝撃が腕から肩へ抜ける。

 彩葉の足裏が石畳を削り、身体が押し込まれかける。

 だが、退かない。ここで一歩でも退けば、帝アキラはその隙間を通っていく。

 王者の中心が動けば、ボトムの勝ち筋は潰える。

 

 自分は、今ここから動けない。

 かぐやたちのもとへ駆けつけることはできない。

 以前なら、そこで焦っていただろう。

 自分が行かなければ、自分が何とかしなければと、視野を狭めていた。

 だが、今は少しだけ違う。かぐやは考えている。ヤチヨは戦えている。

 なら、自分にできることは、帝を止めること。そして、届かない場所で戦う二人を信じることだった。

 彩葉は奥歯を噛み締め、鍔迫り合いのままボイスチャットを開いた。

 

「かぐや、ヤチヨ!」

「なにー!?」

「はいはい、ヤッチョ聞いてるよ〜!」

 

 通信越しに、二人の声が返ってくる。

 彩葉は帝の剣を押し返しながら、息を吸った。喉が熱い。腕は痺れている。

 だが、言葉だけは真っ直ぐ出た。

 

「……勝って!」

 

 一瞬、通信の向こうが静かになった。

 その短い沈黙のあと、かぐやの息を呑む気配が聞こえた。

 驚きと、嬉しさと、何よりも強い決意が、声になる前から伝わってくる。

 

「うん!」

 

 かぐやが叫ぶ。

 

「かぐや、勝つ! 彩葉がそこにいてくれるなら、絶対勝つ!」

 

 続いて、ヤチヨの明るい声が弾けた。

 

「うけたまかしこまつかまつり~~~☆」

 

 ふざけた調子なのに、その声には不思議な頼もしさがあった。

 軽やかで、眩しくて、聞いた者の背中を勝手に押してくるような声。

 彩葉がずっと画面越しに追いかけてきたヤチヨが、今は同じ戦場で、同じ勝利へ向かって走っている。

 

「ヤッチョとかぐやで決めちゃうから、いろPは帝様をお願いね!」

「お願いされなくても」

 

 彩葉は帝を睨む。

 

「ここから先には、通さない」

 

 帝アキラが、わずかに眉を上げた。

 

「……本当に強くなったな」

 

 その声は、配信用ではなかった。

 ほんの一瞬だけ、酒寄朝日の声だった。

 彩葉の胸が揺れた。

 だが、剣先は下げない。

 

「お兄ちゃんが、勝手に遠くまで行ったからでしょ」

「お前も来たじゃん」

「まだ途中」

「そっか」

 

 帝は笑った。

 

「じゃあ、続きは上で待ってる」

「勝手に締めないで」

 

 彩葉が踏み込む。

 帝も踏み込む。

 二人の刃が、真正面からぶつかった。

 衝撃で、周囲の石畳がひび割れる。

 彩葉の腕が痺れ、足が沈み、視界が白く弾ける。

 それでも、彩葉は退かなかった。ヨミと渡り合った時も、何度もこういう瞬間があった。

 勝てるかどうかではなく、退いたらそこで終わる瞬間。そこで前へ出られるかどうかだけが、次の一手を生む瞬間。

 

 彩葉は前へ出た。

 帝も前へ出た。

 刃と刃が滑り、鍔迫り合いになった。

 距離は近い。帝の笑みが目の前にある。観客の音が戻ってくる。

 ボトムから、かぐやの叫びが聞こえる。

 

「いっけえええええ!」

 

 次の瞬間。

 大将落としが、ブラックオニキス側の天守閣へ叩き込まれた。

 轟音。

 敵天守閣の一部が崩れ、勝利表示が弾ける。

 

『決まったあああああ! かぐや・いろPチーム、一矢報いる!』

『トップでイロ選手が帝アキラを止め、ボトムでかぐや選手とヤチヨが押し切った! これは綺麗に役割が噛み合いました!』

 

 勝利表示が出た。

 彩葉は、まだ帝と刃を合わせたままだった。

 数秒遅れて、帝が力を抜く。

 

「……やられたな」

 

 悔しそうではなかった。

 むしろ、どこか楽しそうだった。

 

「ボトムを見に行けなかった。完全に止められた」

 

 彩葉は息を吐いた。

 肺の奥が熱い。腕が重い。指先は痺れ、額には汗に似た光の粒が浮いている。

 勝ったのは、かぐやとヤチヨだ。天守を落としたのは二人だ。けれど、その勝利の端を、自分の刃が確かに支えていた。

 それが、どうしようもなく嬉しかった。

 

「……かぐや、すごいね」

 

 伝えようとしたわけではない。

 ほとんど独り言だった。

 けれど、かぐやの地獄耳はそれを逃さなかったらしい。ボイスチャットの向こうで、彼女がぱっと笑う気配がした。

 

「彩葉と、勝ちたいから!」

 

 その声は、まっすぐだった。

 まっすぐすぎて、彩葉は少しだけ視線を伏せた。

 その隣で、帝アキラが小さく笑う。

 

「いい相方じゃん」

「でしょ」

 

 彩葉は、今度は迷わずそう答えた。

 狐面を外した頬に、戦場の風が直接触れている。

 もう、隠れてはいなかった。

 

 

 三回戦。

 最終戦の空気は、最初の二戦とは明らかに違っていた。

 ブラックオニキスが遊んでいるわけではないことは、もう全員が分かっている。

 かぐや・いろPチームがまぐれだけで一勝したわけではないことも、会場中が理解していた。

 歓声には、期待と緊張が混じっている。誰もが、次の数分で何かが起こることを予感していた。

 

『激戦です! 櫓を各々取得し、かぐや・いろPはジャンプ台から櫓へ!』

『待ち受けるのは帝との一騎討ち!』

 

 ジャンプ台から射出された彩葉とかぐやは、風を切ってトップ櫓へ降り立った。

 そこに、帝アキラがいた。

 

「遅かったな」

 

 金棒型武器を肩へ担ぎ、黒い外套を風になびかせながら、帝は笑った。

 背後では大将落としがゆっくりと出現し始めている。

 ここで押し込めば勝ちに近づく。

 だが、帝は天守へ向かわず、ここで待っていた。

 

「なんでこっちに? ミドルから天守に行けば、勝ちだったんじゃない」

「ブラックオニキスはな、みんなに夢見させなきゃいけねーんだよ」

 

 その答えに、彩葉は少しだけ目を細めた。

 兄らしいと思った。

 そして、帝アキラらしいとも思った。

 勝つだけなら、もっと冷たい選択肢はいくらでもある。

 だが、この男はそれをしない。観客が見たいもの、相手が持っているもの、自分たちが魅せるべきもの。

 その全部を秤にかけた上で、もっとも熱い場所へ立つ。

 

 面倒な男だ。

 けれど、嫌いではなかった。

 彩葉とかぐやは、同時に動いた。

 帝の剣と彩葉のブレードがぶつかる。かぐやのハンマーが地面を砕き、帝のライフルがその衝撃の隙間を縫って弾を撃ち込む。

 足元の石畳が割れ、瓦礫が跳ね、櫓の鐘が風に揺れる。視界の端ではミニオンが動き、遠くではヤチヨが雷と乃依を相手に粘っている。

 

 彩葉は、剣を振るいながら思い出していた。

 父がいなくなってから、兄は変わった。

 家にいる時間が増え、ずっと続けていたサッカーもやめて、本を読むかゲームをするようになった。

 母と揉めればすぐにやってきて、矢面に立ってくれた。昔はもっと生意気で、向こう見ずで、喧嘩っ早い悪ガキだったはずなのに、いつの間にか静かで、穏やかで、少しずつ父に似ていった。

 

 その兄がゲームを好きになり、プロになり、帝アキラになった。

 彩葉はその配信を、見ていないふりをしながら、時々見ていた。

 色々なことを抜きにすれば、兄が活躍している姿は好きだった。

 悔しいくらい、格好良かった。だからこそ、今こうして剣を交えていることが、どこか夢の中の出来事のようにも思えた。

 

「ぼーっとしてる暇あるか?」

「ない!」

 

 帝の剣が迫る。

 彩葉はそれを受けず、半歩だけ沈んで躱した。

 ヨミと渡り合ってきた経験が、また身体を動かす。

 対人最上位勢は、攻撃している時ほど次の盤面を見ている。

 目の前の相手だけではなく、相手の背後、レーン、オブジェクト、味方の位置、次の勝ち筋。そのすべてを見ようとする。

 

 だからこそ、その一瞬だけ、目の前の相手を見ていない時がある。

 帝の視線が、ほんのわずかに右へ流れた。

 ヤチヨが雷と乃依を相手にしている方向。

 次の勝ち筋を確認するための、プロとして当然の視線移動。

 以前の彩葉なら、見逃していた。

 けれど、ヨミと何度も斬り結んだ今の彩葉には分かる。

 今だ。

 

「かぐや!」

「うん!」

 

 彩葉とかぐやは、武器を入れ替えた。

 彩葉の手にはかぐやのハンマー。

 かぐやの手には彩葉の双剣。

 帝の周囲を円を描くように動きながら、二人は武器を投げ、交換し、足場を壊していく。

 大雑把に見える。ほとんど即興に近い。けれど、その大雑把さの中に、彩葉にはかぐやの意図が見えた。

 わざと前に出る。

 わざと帝に狙わせる。

 自分が強自我で突っ込むかぐやだと、帝に思わせる。

 かぐやは、いつも相手をよく見ている。勝つために、裏をかく。大胆で、雑で、危なっかしいのに、その中心には不思議なほど鋭い観察眼がある。

 彩葉と、勝ちたいから。

 その言葉が、胸の奥で熱を持つ。

 

 彩葉はハンマーを地面へ叩きつけた。

 そこへ、かぐやが投げた双剣の片割れがワイヤーを伸ばしたまま飛ぶ。

 帝はそれを、かぐやの攻撃だと思っただろう。

 実際には違う。

 ワイヤーの先のアンカーは、彩葉が地面へ固定したハンマーへ刺さっている。

 帝がかぐやへトドメを刺そうと踏み込んだ。

 

「ゲームセットだ」

 

 その瞬間、彩葉はワイヤーを巻き取った。

 たわませていた線が、一気に張る。

 空気が鳴る。

 帝の身体が、見えない鎖に捕らえられたように止まった。

 

「ハンマーにワイヤー……? 囮は、かぐやちゃん!」

 

 帝の声に、初めて明確な驚きが混じる。

 かぐやが無茶をすることは読めた。

 彩葉が強くなっていることも読めた。

 だが、彩葉がかぐやの雑で大胆な作戦を理解し、自分の精密なワイヤー操作で成立させるところまでは、読み切れなかった。

 

 彩葉は踏み込む。

 手の中に戻したブレードが、白銀の軌跡を描く。

 こっちは、かぐやのおしめだって替えてきた。

 かぐやの考えることくらい、分かってる。

 

「かぐやの考えることくらい、わかってるっつーの!」

 

 振り下ろした剣が、帝アキラを一刀両断した。

 赤黒いエフェクトが弾ける。

 帝のアバターが光へほどける直前、彼は不思議なくらい静かに笑っていた。

 

「……やりゃできんじゃん」

 

 その声は、兄のものだった。

 あんなに煽るようなことばかり言っていたくせに、最後だけそんな顔をする。

 どう受け取ればいいのか分からない。けれど、悪い気はしなかった。

 かぐやが喜び勇んで走ってくる。

 二人はハンドサインを交わした。

 その瞬間、会場が爆発したように沸いた。

 

『帝アキラ、撃破――!』

『かぐや・いろP、王者のリーダーを落とした!』

『今の連携、即興ですか!? 読めませんよ、あれは!』

 

 ヤチヨが雷と乃依を相手して倒してくれたことで、今生き残っているのは彩葉とかぐやだけだった。

 帝はリスポーンからの出発。

 こちらはライドに乗って天守閣を目指せる。

 順調に行けば、逆転されることはない。

 

 勝てる。

 本当に勝てる。

 

「彩葉が危なくなったら、かぐやが助ける!」

「かぐやがミスっても私は置いてくー」

「なんで!?」

「あははっ」

 

 なんだかおかしくて、彩葉は笑ってしまった。

 自分が笑うのを見て、かぐやは目に涙をためて喜んでいた。

 変なやつだと思う。けれど、その変さが、今はたまらなく心強かった。

 二人なら、どこまでも行ける。

 そんな気がした。

 

『帝も、かぐやチーム側の天守閣に向かうー!』

 

「こっちから見てて! かぐや大活躍!」

「うぇーい、勝ち確ーーーー!!」

 

 かぐやがそう叫んだ瞬間だった。

 足元が光った。

 

「……え」

 

 次の瞬間、爆炎が咲いた。

 かぐやの身体が、炎と共に上空へ吹き飛ぶ。

 何が起きたのか、彩葉は一瞬理解できなかった。攻撃は見えていない。帝はまだ遠い。乃依も雷も倒されているはずだった。

 

『あー! 雷の地雷トラップーーーー!』

 

 実況の声が、状況を告げる。

 雷。

 地盤固め。

 目立たない場所に立ち、相手が嫌がる場所を押さえ続ける男。

 最後の最後に、彼が残していたものが、勝敗をひっくり返した。

 かぐやの残機が消える。

 彩葉は天守閣へ駆け上がろうとした。

 だが、帝アキラのリスポーン位置から赤黒い光が走る。ウルト。超加速。彼は一直線に戦場を切り裂き、ミニオンを蹴散らし、地形を飛び越え、こちらの天守閣へ爆速で迫っていた。

 

「間に合え……!」

 

 彩葉は走った。

 風が喉を焼く。

 足裏の感覚が消える。

 手を伸ばす。

 けれど。

 

『逆転! 決まってしまった! 勝者、ブラックオニキス――っ!』

 

 最後に天守閣で突き上げられたのは、ブラックオニキスリーダー、帝アキラの拳だった。

 敗北の表示が、空に浮かぶ。

 彩葉はその場に立ち尽くした。

 悔しい。

 どうしようもなく悔しい。

 あと一歩だった。帝を倒した。

 かぐやと合わせた。ヨミとの特訓で得たものも、イロとして積み上げた対人経験も、全部ちゃんと力になっていた。

 それなのに、最後の最後で、雷の置き土産に足を掬われた。

 

 でも。

 良いとこなしではなかった。

 確かに届いた。

 帝アキラに、ブラックオニキスに、そして見ている全員に。

 かぐやと彩葉は、届いたのだ。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 ここならぬいづこの物語なり。

 人の世は、花のごとく咲き、火のごとく燃え、灰の中よりまた芽吹くものなり。

 八千年の旅路をゆく月の姫は、その夜、人の業と、人の強さとを知りぬ。

 これは、焦土と化せし帝都にて、小さき花を抱きし花売りの少女と、姫に温もりを残して逝きし少年の物語。

 時は昭和、空より火の降りし夜にて――

 

 

 花売りの少女は、何が起きたのか分からないまま、少年の腕の中で息を止めていた。

 ほんの一瞬前まで、自分は崩れ落ちる家屋の下にいたはずだった。

 頭上では柱が折れ、梁が軋み、火に炙られた壁板が悲鳴のような音を立ててこちらへ倒れ込んできていた。

 逃げなければ、と頭では思った。

 けれど足は動かなかった。爆音と熱と煙が全身を押し潰し、怖いという感情すら形になる前に、身体が石のように固まっていた。

 

 その花売りの少女を、少年は迷わず抱えて飛び出した。

 転がった先の地面は焼けた砂と土埃にまみれ、頬に当たる小石は熱を持っていた。

 耳の奥ではまだ轟音が鳴り続けていて、遠くからなのか近くからなのかも分からない悲鳴が、幾重にも重なって聞こえてくる。

 花売りの少女は咳き込み、煤の混じった空気を吸い込んで、そこでようやく自分が生きていることを知った。

 

「……怪我はない?」

 

 少年は、花売りの少女の肩に手を添えたまま、静かに尋ねた。

 年の頃は花売りの少女とそう変わらない。

 けれど、その声には、この燃え崩れる街には不釣り合いなほど落ち着いた響きがあった。

 怖がっていないわけではない。

 頬には煤が付着し、額からは汗が流れ、息も浅い。

 それでも彼の目だけは、驚くほど澄んでいた。炎の赤も、空を覆う黒煙も、人々の悲鳴も、そのすべてを映しながら、なお何かを探し続ける目だった。

 

「だ、だいじょうぶ……」

 

 花売りの少女がかすれた声で答えると、少年は少しだけ安堵したように頷いた。

 

「よかった」

 

 たったそれだけの言葉だった。

 だが、その言葉を聞いた瞬間、石垣の陰に転がっていた白いウミウシの小さな身体が、震えた。

 かぐやは、少年を見ていた。

 初めて見る顔のはずだった。

 初めて聞く声のはずだった。

 あの人と同じ姿など、どこにもない。背丈も、年頃も、時代も、身に纏う服も違う。

 平安の都で出会った彼でもなければ、長い旅のどこかで別れた彼女でもない。

 

 それでも、分かった。

 魂の奥で、分かってしまった。

 何度も何度も、時代を越えて、名を変え、顔を変え、けれど決して自分を見捨てなかった気配。

 八千年という長すぎる旅路の中で、孤独に押し潰されそうになるたび、どこかで必ず風のように現れて、常に寄り添ってくれた存在。

 

「……君」

 

 かぐやの声は、爆撃の轟音に掻き消されそうなほど小さかった。

 少年はその声に気付き、振り返った。

 白いウミウシの姿を見て、目を丸くすることはなかった。

 驚きも、拒絶もない。

 ただ、困ったように、懐かしそうに笑った。

 

「久しぶり、かぐや」

 

 その一言で、かぐやの胸の奥に溜まっていた時間が、一気に崩れた。

 

「……なんで」

 

 問いは、幾つもの意味を抱えていた。

 なんでここにいるの。

 なんでその姿なの。

 なんでまた会えたの。

 なんで、こんな地獄の中で。

 少年は答えようとした。だが、その前に、空が再び唸った。

 低い、腹の底を抉るような音だった。

 かぐやが空を見上げる。

 黒い編隊はまだ去っていなかった。

 赤い火の筋が、幾つも空から落ちてくる。それは星ではなかった。願いを叶える光でもなかった。ただ街を焼くためだけに落とされる、人の手で作られた火だった。

 

「走って」

 

 少年の声が変わった。

 柔らかさを残したまま、しかし一切の迷いを許さない声だった。

 

「こっちの路地は駄目。奥で火が回る。右の水路沿いに行く。煙を吸わないように、袖で口を押さえて」

「え、でも、お母ちゃんが……」

 

 花売りの少女が震える声を上げる。

 少年は花売りの少女の目を見る。

 

「探す。だけど、今ここで止まったら君が死ぬから」

 

 あまりに率直な言葉だった。

 花売りの少女の顔が泣きそうに歪む。

 けれど、少年は言葉を濁さなかった。

 優しい嘘をつく時間がないことを知っていた。

 彼の内側では、幾つもの答えが同時に鳴っている。

 右へ二十歩。倒れる電柱。左へ避ける。三軒先の屋根が崩れる。花売りの少女を先に押す。

 かぐやは火の粉に弱い。濡れた布が必要。水瓶。だが水瓶の横の壁は五秒後に崩れる。そこへ行けば間に合う。だが戻りが遅れる。

 

 答えは見えていた。

 見えすぎるほど、見えていた。

 だが、身体は一つしかなかった。

 手は二本しかなかった。

 時間は戻らなかった。

 アンサートーカーが示す最善は、万能の奇跡ではない。

 目の前にある無数の破滅の中から、最も多くを残すための細い道を選ぶものだった。

 だが今、空から降ってくる火は多すぎた。崩れる家も、逃げ惑う人も、泣く子どもも、火の回る路地も、煙の溜まる低地も、すべてが同時に迫っていた。

 正解はある。けれど、その正解のすべてを掴み取るだけの腕がない。

 

 少年は、それでも走った。

 花売りの少女の手を引き、かぐやを懐に入れるようにして、焼けた街路を駆け抜ける。

 足元には割れた瓦、折れた竹、火の移った紙片が散っている。

 裸足同然の草履が熱を拾い、足裏に焼けるような感覚が走る。花売りの少女は何度も躓きかけ、そのたびに少年が引き上げた。

 

「頭を下げて!」

 

 叫ぶと同時に、頭上を瓦が飛んでいった。

 

「止まらない!」

 

 次の角を曲がった直後、背後で壁が崩れた。

 

「息を吸わないで、今だけ!」

 

 黒煙が路地を塞ぎ、少年は濡れた布を花売りの少女の口元へ押し当てる。

 いつ取ったのか、かぐやには分からなかった。

 水瓶の横に干されていた布だ。あの一瞬で少年はそれを掴み、濡らし、花売りの少女へ渡していた。

 

「かぐやも、ここ」

 

 少年は自分の袖を裂き、小さく湿らせて、かぐやの身体を包むようにした。

 ウミウシの身体では、何もできない。

 走ることも、誰かを抱えることも、瓦礫をどけることもできない。

 ただ少年の懐で震えながら、燃える街を見ることしかできない。かぐやはその無力さに、喉の奥を締めつけられるような苦しさを覚えた。

 

「こんなの……こんなの、知らない」

 

 かぐやは呟いた。

 この国が戦争をしていることは知っていた。人々が苦しい暮らしをしていることも、空を気にして生きていることも知っていた。

 けれど、ここまでだとは知らなかった。

 街が、昨日まで人が笑っていた街が、今日摘んだ花の色を話していた街が、これほど簡単に炎の中へ沈んでしまうなど、知らなかった。

 

「これで、本当に……未来に繋がるの?」

 

 声が震える。

 

「こんなに壊れて、こんなに燃えて、人がこんなに泣いて……本当に、彩葉のいる未来まで行けるの?」

 

 少年は走りながら、かぐやを一瞬だけ見た。

 その目に、痛みがあった。

 けれど、否定はなかった。

 

「行ける」

 

 短い答えだった。

 

「絶対に?」

「絶対に、とは言わない。人のすることに、絶対なんてないから」

 

 火の粉が降る。

 少年は花売りの少女を抱き寄せ、燃えた梁の下をくぐらせる。

 

「でも、人は終わらない。こんなひどいことをするのも人だけど、焼け跡で誰かを探すのも人だ。知らない子どもに水を分けるのも、瓦礫の下から声が聞こえたら手を血だらけにして掘るのも。

 もう何も残っていない場所で、それでも明日食べるものを探すのも人なんだ」

 

 その言葉は、息切れと煙に掠れていた。

 それでも、かぐやの耳へまっすぐ届いた。

 

「街は燃える。家は壊れる。たくさんの人が死ぬ。こんなもの、綺麗な言葉で包んじゃいけない。これは、人の業だよ。人が作った地獄だ。

 でも、かぐや。地獄を作るのが人なら、そこから誰かを連れ出そうとするのも人なんだ。私は、それを信じてる」

 

 かぐやは何も言えなかった。

 少年が信じているものは、綺麗な夢ではなかった。

 炎を見ないふりをしているわけでも、死を軽んじているわけでもない。

 街が焼ける音を聞き、泣き叫ぶ声を聞き、それでもなお、その灰の下に残る温もりを信じている。

 

 その強さが、痛かった。

 あまりにも痛かった。

 その時、花売りの少女が悲鳴を上げた。

 

「おばさん!」

 

 路地の向こう、倒れかけた塀のそばで、女が動けずにいた。

 足を挟まれている。火はすぐそこまで来ていた。

 花売りの少女が駆け出そうとする。少年は一瞬でその手首を掴んだ。

 

「だめ」

「でも!」

「私が行く」

「でも……だめだよ! 危ないよ!」

 

 花売りの少女の叫びに、少年は笑った。

 

「危なくない道は、もうないんだ」

 

 彼は花売りの少女をかぐやのいる陰へ押しやると、崩れかけた塀へ走った。

 かぐやは息を呑む。

 アンサートーカーが──答えが、彼の中で鳴り響いていた。

 どの瓦礫をどければ女の足が抜けるか。どこを支えれば塀が数秒だけ持つか。どこから火が回るか。どの角度で押せば花売りの少女を安全な方へ逃がせるか。

 

 そして。

 どこで、自分が逃げ遅れるか。

 

「やめて」

 

 かぐやは叫んだ。

 

「やめて、行かないで!」

 

 少年は振り返らなかった。

 女の足を挟んだ材木を持ち上げる。重い。子どもの腕にはあまりにも重い。

 けれど、彼は歯を食いしばり、肩を押し当て、体重を全部使って持ち上げた。

 女が這い出る。花売りの少女が駆け寄り、女の腕を引く。

 

「右へ! そのまま走って!」

 

 少年が叫んだ。

 女と花売りの少女が走る。

 

 その瞬間、上から新たな焼夷弾が落ちた。

 爆発は近かった。

 世界が白く弾けた。

 かぐやには、何も見えなかった。

 熱風がすべてを吹き飛ばし、耳が音を失い、視界が土煙と火の粉に覆われる。

 小さな身体が転がり、濡れた布が剥がれ、焼けた地面の熱が腹に触れた。

 苦しい。熱い。怖い。けれど、それよりも先に、かぐやは少年を探した。

 

「……どこ」

 

 声にならない声で呼ぶ。

 

「どこ、どこにいるの」

 

 煙の向こうで、何かが崩れる音がした。

 かぐやは必死に這った。白い身体は煤で汚れ、火の粉が近くに落ちるたびにびくりと震える。

 それでも進んだ。進むしかなかった。胸の奥が冷たくなっていく。見つけたくないと思う自分と、見つけなければならないと思う自分が、同時に叫んでいた。

 

 そして、瓦礫の陰に、少年はいた。

 倒れていた。

 崩れた梁が身体の横へ重く落ち、焼けた木片が国民服の上衣を破っている。

 血が流れていた。

 赤黒く、熱い地面へ吸い込まれていく。致命傷だと、かぐやにも分かった。分かりたくなかった。けれど、分かってしまった。

 

 少年は、かぐやに気付くと、困ったように笑った。

 

「……本当はこんな姿、君に見せるつもりではなかったんだけどね」

 

 その一言で、かぐやの中の何かが壊れた。

 

「いや」

 

 声が震える。

 

「いやだ。いやだよ。なんで。なんで逃げなかったの。君なら分かったでしょ。どうなるか、分かったんでしょ」

「分かったよ」

 

 少年は静かに答えた。

 

「でも、ほかの答えだと、あの子が死んだ。かぐやも火に巻かれた。おばさんも助からなかった。私がここで止まる答えだけが、いちばん多く残せた」

「そんなの、答えじゃない!」

 

 かぐやは叫んだ。

 ウミウシの小さな身体では、少年の手を握ることもできない。

 傷を押さえることも、身体を起こすこともできない。ただ、その足元に近寄り、泣くことしかできない。

 涙など出る身体ではないはずなのに、胸の奥から熱いものが溢れて止まらなかった。

 

「ずっと、ずっとそうだったの? ずっと、かぐやに見せないようにしてたの? 死ぬところ、痛いところ、苦しいところ、全部……かぐやが知らないところで」

 

 少年は目を伏せた。

 炎の光が、煤に汚れた頬を赤く照らしている。

 

「君の旅は長すぎるから」

 

 彼は言った。

 

「八千年だよ。楽しいことだけを覚えていても、きっと足りないくらい長い。なのに、私が会うたびに悲しいものを置いていったら、君はいつか歩けなくなると思った。

 だから、できるだけ、君には笑っていてほしかった。人の世には、怖いことも、汚いことも、悲しいこともたくさんある。でも、それだけじゃないって、君に信じていてほしかった」

「そんなの……そんなの勝手だよ」

「うん」

 

 少年は少し笑った。

 

「勝手だった」

 

 かぐやは言葉を失った。

 責めたいのに、責められなかった。怒りたいのに、怒りの行き場がなかった。

 彼の優しさは確かに勝手で、残酷で、かぐやを一人にしてきた。

 けれど、それはかぐやに悲しい記憶を増やしたくないという願いから生まれたものだった。

 

 だからこそ、余計に苦しかった。

 その時、花売りの少女が戻ってきた。

 煤だらけの顔で、泣きながら走ってくる。

 

「お兄ちゃん!」

「来ちゃだめって言ったのに」

 

 少年はそう言ったが、声に叱る力はなかった。

 花売りの少女は少年のそばに膝をつき、何度も首を横に振る。

 

「血、血が……どうしよう、どうしよう、誰か、誰か呼んでくる」

「待って」

 

 少年は、花売りの少女の袖を弱々しく掴んだ。

 

「聞いて。これから君が生きる道を言う」

「やだよ、そんなの後でいいよ」

「今じゃないと、言えない」

 

 花売りの少女の顔が歪む。

 少年は呼吸を整えようとした。だが、息を吸うたびに胸の奥で血が絡むような音がする。

 時間は少ない。アンサートーカーはまだ動いている。

 火の広がり、避難路、誰がどこにいるか、どの言葉を信じれば花売りの少女が救われるか。死にゆく身体の中で、彼は最後の力を未来へ伸ばしていた。

 

「朝まで、この石蔵の裏にいる。正面の道には行かないで。煙が溜まる。水路沿いも、今はだめ。橋の下に人が集まるけど、そこは火が回る」

 

 花売りの少女は泣きながら頷く。

 

「夜が明けたら、北へ歩いて。大きな銀杏の木が一本だけ焼け残る。そこに、赤い手拭いを巻いた女の人が来る。

 名前は、たえさん。君のお母さんの知り合いだって言えばいい。いや、分からなかったら、花をくれた子だって言って」

「花……」

「うん。君がいつも、かぐやに花をくれたこと。あの人は知ってる」

 

 花売りの少女はかぐやを見た。

 白いウミウシは、煤に汚れながらも、少年のそばを離れなかった。

 

「三日後、配給所で咳のひどい男の子に水を分けてあげて。その子の家族が、君をしばらく置いてくれる。春が過ぎたら、川沿いの町へ行くことになる。そこで、君は花を育てる人に会う」

 

 少年の声は、少しずつ弱くなっていく。

 それでも、言葉だけは途切れなかった。

 

「君は、生きる。たくさん泣くし、怖い夢も見る。忘れられないものもできる。でも、生きる。いつか、自分で花を選べるようになる。誰かに売るためじゃなく、誰かに渡したいと思って、花を摘める日が来る」

 

 花売りの少女は泣き崩れた。

 

「ほんとに?」

「ほんと」

「わたし、幸せになれる?」

 

 少年は、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「なれる。幸せは、悲しいことを何もなかったことにはしてくれない。でも、悲しいことがあった後にも、ちゃんと来る。だから、君は生きて」

 

 花売りの少女は何度も頷いた。

 泣きながら、声にならない声で返事をした。

 少年は、今度はかぐやを見た。

 かぐやは震えていた。

 

「いやだ」

 

 彼が何かを言う前に、かぐやはそう言った。

 

「言わないで。最後みたいに話さないで。かぐや、嫌だ。こんなの嫌だよ。君が死ぬのを見るなんて、嫌だ。

 だって、君はいつも……いつも、また会えるみたいにいなくなって、でも、死ぬところなんて見せなかったのに」

「ごめん」

「謝らないで!」

 

 炎の音が近くで爆ぜる。

 空は赤く、黒煙は月を隠していた。

 かぐやは息もできないほどの恐怖の中で、必死に言葉を探した。

 

「彩葉に会えるって、思ってた。もう少しだって、思ってた。あと何十年かしたら、きっと会えるって。

 なのに、こんなに街が壊れて、人が死んで、君も死んじゃうなら……本当に未来なんて来るの? 本当に、かぐやは彩葉に会えるの?」

 

 少年は、その問いをまっすぐ受け止めた。

 そして、痛みに顔を歪めながらも、静かに言った。

 

「大丈夫。人の力は思っているよりもずっと強い。ここから、君が望む未来まで、人の力が導いてくれる」

「でも……」

「この街は焼ける。でも、終わらない。焼け跡に水を撒く人がいる。瓦礫をどける人がいる。いなくなった人の名前を呼ぶ人がいる。

 泣きながら、それでも子どもにおにぎりを半分分ける人がいる。人は、壊す。けれど、繋ぐこともできる。君が見てきた八千年は……それを証明しているはずだよ」

 

 途切れ途切れの言葉で、少年は言葉を紡ぐ

 かぐやは黙り込んだ。

 

「君は、まだ彩葉に会っていない。だから、怖いんだと思う。ここで全部が途切れてしまうんじゃないかって。

 でも、途切れない。君が歩き続けるなら、未来は必ずどこかで君を迎えに来る。彩葉も……君を待つことになる。まだそのことを知らないだけで……」

「……ほんとうに?」

「ほんとう……」

 

 いつしか少年の息は無呼吸と深い呼吸を繰り返し、そしてあえぐような呼吸になっていた。

 死に際のか細い呼吸。

 少年は、かぐやへ手を伸ばそうとした。

 

 けれど、手は途中で落ちた。

 現実の身体では、もう届かなかった。

 かぐやはそれを見て、絶望に似た小さな声を漏らした。

 

 

 その瞬間だった。

 周囲の音が、ふっと遠ざかった。

 炎の爆ぜる音も、空襲の轟音も、人々の悲鳴も、すべてが水の底へ沈むように薄れていく。

 かぐやは気付けば、瓦礫の街ではない場所にいた。暗い、けれど恐ろしくはない空間。月明かりにも似た淡い光が満ちる場所に、かぐやは人の姿で立っていた。

 

 長い髪。

 細い手足。

 かつて失ったはずの、月の姫としての身体。

 

「……え」

 

 かぐやは自分の手を見下ろした。

 指がある。

 掌がある。

 震える腕がある。

 そして、その前に少年が立っていた。

 煤に汚れた国民服ではない。どの時代のものともつかない、淡くほどけるような姿だった。

 魂だけが形を取ったような、今にも光へ溶けてしまいそうな姿。それでも、彼は確かにそこにいた。

 

「かぐや」

 

 彼が名前を呼んだ。

 次の瞬間、かぐやは駆け出していた。

 八千年の孤独が、足を動かした。

 人に触れられなかった時間。

 誰かの手を握れなかった夜。

 愛しても、抱きしめる腕を持たなかった日々。

 そのすべてが一つの叫びになって、かぐやを彼の胸へ飛び込ませた。

 抱きしめられた。

 温かかった。

 その事実を理解した瞬間、かぐやの中で堰が切れた。

 

「……あったかい」

 

 声が震える。

 

「人って、こんなに、あったかかったんだ」

 

 少年の腕が、かぐやの背を包んでいた。

 強くはない。死にゆく魂の抱擁は、現実の肉体ほど確かな力を持たない。

 けれど、その温もりは、かぐやが忘れかけていたすべてを呼び覚ました。

 誰かに抱きしめられるということ。自分がまだ、抱きしめられてよい存在だということ。

 人の世界から遠く離れ、人ならざるものの姿で旅を続けてきた彼女にとって、それは救いであり、同時に耐え難いほどの痛みだった。

 

「いやだ」

 

 かぐやは彼の胸に顔を押しつけた。

 

「行かないで。次なんて嫌だ。今ここにいて。かぐや、もう待つの嫌だよ。八千年も待った。まだ待たなきゃいけないの? また一人で歩かなきゃいけないの?」

「ごめんね」

 

 少年は、かぐやの髪を撫でた。

 

「でも、君は一人じゃない。今はそう思えなくても、君がもらった花も、君が交わした言葉も、君が信じた人たちも、全部君の中に残ってる。私も、いなくなるわけじゃない。次のどこかで、また君を見つける」

「死ぬくせに」

「うん」

「また、かぐやを置いていくくせに」

「うん」

「なのに、どうしてそんなに優しい顔するの」

 

 少年は答えなかった。

 答えの代わりに、かぐやをもう一度強く抱きしめた。

 

「君は、きっと彩葉に会える」

 

 耳元で、彼は言った。

 

「この夜を越えて。焼け跡を越えて。何度も寂しくなって、何度も怖くなって、それでも、君は会える。だから、どうか楽しいものを見つけることをやめないで。

 花を綺麗だと思うことを、笑うことを、人を好きになることを、諦めないで」

「……本当に、会える?」

「会える」

「彩葉は、かぐやのこと、見つけてくれる?」

「見つけるよ」

 

 少年は笑った。

 

「だって、君は見つけてもらうために、八千年も歩いてきたんだから」

 

 かぐやは泣いた。

 声を上げて泣いた。

 悪童めいた快活さも、八千年を歩いた者の諦観も、すべて剥がれ落ち、ただ一人の少女のように泣いた。

 彼はその間ずっと、かぐやを抱きしめていた。温もりが少しずつ薄れていく。腕の輪郭が光へほどけ、身体が遠くなる。

 

「待って」

 

 かぐやは必死に彼を掴もうとした。

 

「まだ、まだ行かないで」

「かぐや」

 

 彼は最後に、穏やかに微笑んだ。

 

「大丈夫だから」

 

 その言葉と共に、魂の温もりがふっとほどけた。

 かぐやの腕の中から、彼の姿が光になって消えていく。指の間をすり抜けるように、春の朝に散る花びらのように、静かに、優しく、けれど二度と引き留められない確かさで。

 次の瞬間、かぐやは再び焦土の中にいた。

 現実の自分は、小さな白いウミウシのままだった。

 少年の身体は、もう動かない。

 花売りの少女は泣いていた。けれど、その手には、少年に言われた道筋を忘れまいとするように、小さな拳が固く握られていた。

 空襲はまだ終わっていなかった。

 街はまだ燃えていた。

 

 それでも、夜の向こうには、まだ朝がある。

 かぐやは、少年のそばに落ちていた一輪の花を見た。

 朝、花売りの少女がくれた黄色い花。土と煤にまみれ、花弁の端は少し焦げていたが、それでも完全には燃え尽きていなかった。

 かぐやは小さな身体を引きずり、その花へ寄り添った。

 

「……大丈夫」

 

 誰に言ったのか、自分でも分からなかった

 花売りの少女へか。

 死んだ少年へか。

 それとも、未来のどこかで自分を待つ彩葉へか。

 

「かぐやは、歩くよ」

 

 炎の赤に照らされながら、白いウミウシは震える声でそう呟いた。

 

「ちゃんと、彩葉に会うまで」

 

 焼け跡の街に、朝はまだ遠かった。

 けれどその遠い朝へ向かって、誰かが生き延び、誰かが泣き、誰かが瓦礫をどけ、誰かが名を呼び続ける。

 人の業が街を焼いた夜。

 それでも、人の強さが未来を繋ぐことを、かぐやは涙の中で信じようとしていた。




・チェストツクヨミ
 チェストん意味聞くようなもんはチェストできん!

・まみまみ依頼のボイスドラマ
 学園ものらしい

・世紀の竹取合戦の勝敗
 「かぐやがミスっても私は置いてくー」のくだりが好きすぎて大筋は変えたくなかったでござるの巻

・かぐやと彩葉を再開させた後の主人公のムーブ
 そのままフェードアウトしようとしている模様、クソボケですね

・え、この主人公あの格好もしたんですか?

【挿絵表示】
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