艦これ〜転生陽炎の業務日誌~   作:目多須でぃてくた

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 オリジナル作品の準備に時間がかかり過ぎる事がわかったので、小説執筆のリハビリを兼ねて書き始めました。
 昔取った杵柄という奴です。



その1 転生したら艦娘にされた件

 

 艦これの世界に転生したわ。

 

 手にしたメスで人の生殺与奪を握る外科医として、前世では死生観とか宗教観ってのはまぁ複雑に考えてたわ。でもこうして自己を保ったまま第二の生を送れる奇跡には感謝しかない。

 問題はというと、ここがゲーム『艦隊これくしょん』“艦これ”の世界ってことよ。大事なことだから二回言ったわ。

 

 兵器萌え擬人化もの中興の祖にして、前世の私が死んだ二〇二六年頃には半ばカルト宗教化した界隈のお荷物。

 同郷の『刀剣乱舞』、お隣からやってきた『アズールレーン』『ドールズフロントライン』といった同業他社に負け、有象無象のソシャゲに負け続けた末に、変な国粋主義をこじらせた信者が逆恨みでよそ*1を攻撃して評判を下げる負のループ。

 落ちぶれた元凶は他ならぬ艦これ公式なのに、どうしてそんなことするのかしら?

 私は最初の三年ぐらいでやめた。最初のアニメ放送の時から空気が露骨におかしくなってたし、時間ドロボーのくせにストレスばかり溜まっていく苦行に付き合ってられないわ。

 

 ……前世(げんじつ)の話はここまでにしましょうか。

 

 公式記録で深海棲艦が確認されたのは今から一三年前。はっきりとした襲撃は翌年の環太平洋合同演習(リムパック)の参加艦艇への攻撃。

 日本海軍*2の艦も手ひどくやられて、虎の子のイージス艦を沈められているの。

 十一年前、日本政府は国防省の外局として『海上歩兵庁』を設立。艦娘を使って各国と可能な限り連携を取って戦うこととなったわ。つまりここがいわゆる大本営ね。

 ……海底ケーブルをやられたり制海権が不安定になってる現状、その()()()()が難しいのだけど。

 肝心の艦娘は公式小説『陽炎、抜錨します!』に近く、人間を素体にして作り出すもの。でも必要なのはいわば魂だけで、肉体はナノマテリアル*3のような物質で作り変えてしまう。

 軍は親から貰った身体を捨てて、お国のために戦ってくれる女性を募集し始めた。

 でもまた医者になるために勉強していた私にとって、艦娘だ鎮守府はあまり興味はなかった。相手が同じ人間じゃないだけで戦争は戦争、専門職である医療従事者は前世よりも足りなくなるって分かりきってたしね。

 

 

 ……あの腐れ親父、軍から支払われる金に目がくらんで私を売りやがった!!

 

 

 交通事故で母さんが亡くなってすぐ、子連れの浮気相手を家に連れ込んだのは百歩譲って黙認するとしても、本人に断りなくこんな真似をする!? 悪役令嬢もののテンプレかよ!

 酔いつぶれた親友に外泊証明書と偽って外人部隊の契約書にサインさせた奴にも劣るわ!

 なめるな小童、こっちは前世と合わせて五〇年以上生きてるのよ。即刻出るべきとこ出て絶縁してやったわ。

 

 ……ともかく、こうなってしまったのはもう諦めるしかない。艦娘として自己紹介しましょうか。

 私は陽炎型駆逐艦の艦娘、“陽炎(かげろう)”よ。これからよろしくね。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、艦娘のやることと言えば何が思い浮かぶ?

 だいたいは“提督”と呼ばれる指揮官のもと、深海棲艦と戦うかシーレーン防護にあたってるイメージかしら。実際それが主任務ではある。

 でも公式作品やよそのゲームみたいに、一人ないし少数の指揮官に一個一個ダブりがない駒が集まってるわけじゃないの。

 “海上歩兵”って名前が示す通り、扱いは軍艦というよりは歩兵部隊。だから大勢の提督と大量の同型艦娘がいるっていう、二次創作でみられるタイプの構成になっているのよ。*4

 ゲーム内イベントにあたる大規模戦闘にもなると、各鎮守府の“統括提督”があちこちの有力な提督を集めて文字通りの連合艦隊をくんだりするし。でも普段はだいたい遠征か演習ってところじゃないかしら?

 

 私がいる艦隊? 今から見せるわよ。

 

 

 


 

 

 

 午後十一時五〇分ごろ、相模湾某地点。

 沖合いでは月と星だけが海を照らすが、あいにくの曇り空で辺りは真っ暗であった。

 その闇夜に紛れて、遥かメキシコからやってきた不審船が陸へ近づきつつあった。

 不審船と言えばスパイ活動に使われる『工作船』の方が浮かぶかもしれないが、この船には正体不明の船舶という一般的な意味が適用される。

 船体は五〇メートル級、消灯はしているがディーゼルエンジンの騒音をドロドロと鳴り響かせる様は忍ぶつもりが微塵もないとしか思えない。

 しかし陸地側もまったくの無防備だ。この辺りは深海棲艦の攻撃を受けて壊滅的被害を受け、ゴーストタウンになって久しい場所なのである。

 神奈川県警による定期巡回は()()()大きく早まっており、不審船を出迎えようとする不審な集まりがあるのを見過ごしてしまっていた。

 

 「兄貴、なんなんすかこのガスマスクは?」

 「お前打ち合わせに出れなかったのか?」

 「組長の車の給油に行ってたもので」

 いかにも運送業者といった格好の暴力団員らは、懐中電灯で沖合いへ合図を送りながらしばしの談笑に勤しんでいた。

 「連中はマリファナ中毒だ。たばこ代わりにスパスパ吸うせいで船の中がやべえことになってるんだよ」

 「うげ」

 「だからこっちまでやられないように、わざわざこんなもんを用意しなきゃならねえって訳よ。俺たちは売る側だしな」

 長引く戦乱と世界規模の物流の不安定さは人々の心を荒ませ、矛先をそらすかのように大麻の合法化を進める国が増えた。

 日本でも喫煙率が一九九〇年代初頭*5の数値まで逆戻りしているが、それにつけ込むように大麻()()()の検挙率が上昇している。暴力団のような反社会的勢力にとってはまさに稼ぎ時なのだ。

 利潤を貪る反社会的勢力に空気の読めない仮想敵国の工作員、それと国内に潜むテロリスト。今の日本は某コンクリート・ウェスタンに負けず劣らず、治安は悪化の一途を辿っていた。

 

 

 しかし『司法側が無力なのが現実! 警察は腐りきっててド無能でなければ話が成り立たない!』という主張は、些か悪意が籠もりすぎている。

 

 

 「動くな!」

 「うわっ」

 暴力団は一番邪魔な県警を無力化していたため、すっかり油断しきっていた。雲で月が隠れて辺りが真っ暗だったのも理由だ。

 だからこそ全身黒づくめの兵士が忍び寄ってきたことに気付けなかった。

 「全員、その場で両手を頭の後ろへ当てて膝を付け。抵抗するなら発砲する」

 「ちくしょう、日帝の手下め! 昭和時代に帰れ!」

 「俺たちは旧軍の陸軍憲兵とは違うぞ。お前らヤクザが純然たる社会の敵になったようにな。……早く跪け!」

 先頭集団の後ろから現れた小隊長は、自動小銃の銃口を用心深く向けつつ、売り言葉に買い言葉とばかりにそう言い放った。

 

 国内情勢の悪化を受けて日本政府はやむを得ず、太平洋戦争の敗戦以来廃止されていた国家憲兵の復活に踏み切った。

 警察と海上保安庁は管轄の垣根を越えての柔軟な連携が難しく、また犯罪者の急激な凶悪化に対処するだけの余裕が残されていなかったのである。

 モデルケースは再びフランスの国家憲兵隊(ジャンダルムリ)。警察庁と国防省の指示を受けて動くが、旧陸軍憲兵の批判もあって規模は小さく纏められている。

 

 憲兵隊は暴力団員全員の武装解除と拘束、トラックに積まれていた取引物の差し押さえを手早く終わらせた。だが見張りが岸壁の様子に気付いたのか、不審船は船体に見合わぬ急旋回で沖へと引き返そうとする。

 「シェパード・リーダーより“海上歩兵警務隊”! 不審船が逃げる! お前らどこにいる!」

 『対策済みよ』

 無線機から少女の声が聞こえると同時に、不審船の船尾が轟音とともに持ち上がった。

 『制圧したらいったん岸壁につけるわ。護送車を追加してちょうだい』

 偵察兵(スカウト)が暗視スコープを不審船へ向けると、煙を吹きながら動かなくなったそれへ近づく複数の人影がかろうじて捉えられた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 航行灯を消した艦娘が二人一組、不審船の両舷を挟みこむように近づいて来る。

 『不知火、黒潮、磯風。交戦規定はいつも通り。抵抗するなら死なない程度に痛めつけて』

 「銃はつこてええのん? 連中は絶対撃ってくるやろ?」

 『カービンの使用は相手が『想像以上に重装備だった、もしくは人質を取っていたり証拠隠滅の恐れがある場合』。それ以外はゴム弾で対処すること』

 「その先は言われんでも分かっとりまっせ。確認はルーティンですルーティン」

 黒潮は後ろの磯風へ左手を挙げて合図を送ると、右手に携えた連装砲を艤装へと引っかけて腰のホルスターから拳銃を抜いた。

 彼女が背負う改二艤装からは魚雷発射管と次発装填装置が下ろされ、代わりに突撃銃(20式小銃)と今ぶら下げた小銃型主砲、そして予備弾薬などを収めた防水ケースを装着している。横に大きく突き出た発射管は狭い船内では邪魔でしかない。

 

 不審船は先ほどとは打って変わり、予備電源で船じゅうの明かりを点けて乗組員が慌ただしく甲板上を走り回っている。

 そのうちの一人が近づいてくる艦娘に気付いてバズーカ(M72 LAW)を構えるが

 「Hey, Chef!(おい、大将!)

 船体の陰から伸びてきた手にシャツを掴まれ海へと引きずり込まれた。

 「威嚇射撃!」

 「了解」

 陽炎の背後から出た不知火は主砲を船橋へ向け、躊躇うことなく引き金を引く。見かけの口径が五ミリにも満たない砲身から飛び出した127mmの()()砲弾は瞬時に着弾し、まばゆい閃光と共に大きな爆発音をいくつも轟かせた。

 

 陽炎と黒潮は潜水艦娘(フロッグマン)があらかじめ貼り付けておいた足場を頼りに、一気に船上へと駆け上がる。

 目の前に現れたマリファナ臭い船員を特殊警棒で叩きのめし、陽炎は無線機を拡声器に切り替えて警告を発した。

 『こちらは海上歩兵警務隊! 全員武器を捨てろ! 抵抗するなら射殺する!』

 「¡Vete al infierno, perro militar!(くたばれ! 軍の犬め!)」 

 乗員の一人がスペイン語でまくし立てながら銃の引き金を引く。素人でも知っている旧ソ連製のライフル(AK-47)だ。

 五メートルという近距離ゆえに、放たれた銃弾はことごとく陽炎の身体へと命中した。

 「……Is that it?(それで終わり?)

 だが衝撃で軽く後ずさっただけでかすり傷一つついていない。

 銃声が止んだ直後、海面から先ほど引きずり込まれたギャングが放り込まれ、無惨な土左衛門を晒して仲間を驚かせた。*6

 

 「¡Es un monstruo!(化け物だ!)

 「Do you understand?(わかった?) Your future is either to die here and now,(あんた達の未来は今ここで死ぬか、) or to be arrested.(それとも逮捕されるかよ。)

 陽炎は不敵な笑みを浮かべて薬物中毒者どもを威圧する。

 海では同じ艦娘が主砲と魚雷発射管で船を狙っていおり、遠くからは数隻の巡視船がサーチライトをこちらへ向けながら近づいてきている。

 人の尊厳を踏みにじるのには慣れていても、自分が死ぬ覚悟などありはしない。マフィアどもはたちまち銃を捨てて命乞いを始めた。

 「制圧完了やな」

 「不知火、磯風。巡視船が追いついたら船を岸まで運ぶわよ」

 無線機ごしに短く『了解』の返事が返ってきた。

 「今回は楽な仕事で助かったわね。人を殺さずに済むならそれに越したことはないもの」

 

 

 彼女らの艦隊は海上歩兵警務隊と呼ばれている。

 『ただの人間』である海上保安庁や憲兵隊では困難が想定される事案や犯罪者検挙に投入され、一般的な艦娘艦隊とはまた別の形で海の安全と社会平和に貢献する特別チームなのである。

 

 

*1
特にアズールレーンの日本版パブリッシャーが配信しているタイトル。開発会社と営業担当会社が別々なのを理解できないらしい。

*2
この世界では1954年の再編時に自衛隊ではなく国防軍となっている。

*3
『蒼き鋼のアルペジオ』(Ark Performance)に登場する特殊な物質。アニメ版は艦これ唯一のコラボ先だが、艦これ公式は『霧の桐箪笥』というナノマシン製のしょーもない家具だけしか残さなかった。

*4
実際のところ、ゲーム内の『友軍艦隊』の編成はプレイヤー艦隊の艦娘と被ろうと関係ないので、演習と併せてこのように考える余地は公式にも存在する。

*5
男性で60〜70%

*6
※まだ死んでません





 本作は最低3千文字を想定したSSの予定です。
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