私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....? 作:顔のない女
毎日投稿、完結まで書ききってあります。
人が生を謳歌するためには、役割を持たなければならない。
――そういう研究があったはずだ。
たとえば「ネズミの楽園」実験。
餌も住処も与えられた環境で、やがて彼らは繁殖をやめ、静かに滅びたという。
中学生のころの私は、まさにその中のネズミの一匹だった。
誰にも必要とされず、居場所もなく、ただ日々を消費するだけの存在。
自分を卑下することが呼吸みたいに当たり前になり、負け組としての時間を過ごしていた。
――♪「きみの声が きみのままで 誰かを照らしている」
小学校でのいじめを受けたトラウマから、中学では友達が作れず一人で孤立し、誰かとタッグを組めと言われても組む人がおらず、先生とペアになってしまう自分。
お母さんに買い物を頼まれても、人前に出るのがあまりに怖い――というかストレスになり、仕方なしにいつも冷めた目で見てくる妹を付添わせて、やっとの状態で外に出ていた自分。
家族以外の他人と話すのに、寿命の前借りをしている気分になりながらも必死に取り繕って、なんとか会話を合わせようと頑張り、それを継続する体力がなくどこかで生活が破綻してしまう自分。
この世界は弱肉強食が絶対の普遍の原理で、虐められたり外の世界へ出るのを怖がっている者に生きる価値などない。
首を吊って死ぬべき――というのを、小学生の頃に理解した。
が、自分にそれをする度胸はなかった。
…………本当に、本当に……こんな自分が大っ嫌いで、中学2年生の頃までは『いつか自殺する』ってずっと考えていた。
でも、今は違う。
『だから泣かないで 生きて、生きて』
スマホのスピーカーから流れるその一節が、胸の奥を掴んで離さなかった。
何度も聞いたはずなのに、早朝の静けさの中で聞くと、まるで別の歌みたいに響く。
今日が特別な日だからだろうか。鼓動の音まで、どこか浮き立っていた。
「シオンちゃあああああああああん!!!! 今日も百億倍愛してますうううううううう!!!!!!」
私は布団の中で身を起こし、スマホをぎゅっと抱きしめる。
画面の中、ステージライトを浴びた彼女が笑っていた。
スマホの中で元気に歌い続けている彼女の名前は、天野シオン。
ワールドピース株式会社が運営するVtuber事務所【ぶいれいん】の2期生だ。
容姿は白髪に赤のメッシュが入ったくらげみたいな髪。
設定は吸血鬼。
ダウナーな声に刺々しい口調。
普段の活動は主にゲーム配信が中心。
性格と口は悪い方だけど、それとは打って変わって、メンバーを気づかう優しさを隠しているし、仕事熱心なところが超良い感じの――ぶいれいんで1番売れてる、私の最推しの女の子だ。
「シオンちゃん……! 外に出るのが怖いですけど、明日からのぶいフェスは絶対に行きま――」
そこまで言いかけた瞬間だった。
「お姉ちゃん!」
私の部屋の戸が、バシッと大きな音を立てて開かれた。
空気が震えたせいで、スマホを落としそうになる。
「ひゃいッ!…………って明日菜ですか、驚かさないで下さい」
乱暴に部屋の戸を開けたのは
今年で中学三年生になる、私の妹だ。
身長は私より少し低い。
髪は肩までの黒髪で、いつも寝癖を残したまま学校へ行く、少しだけズボラな妹である。
「……お姉ちゃん、今日って何の日か知ってる?」
妹の無表情のまま言うその声に、少しだけ棘を感じる……が、気にすることのほどでもないだろう。
「ふふ、それは舐めすぎですよ。今日は――ぶいフェス当日、前夜祭がある日です!!」
私は勢いよく布団から飛び出し、スマホを突き出した。
液晶には【ぶいれいん】のイベントホームページ。
ステージの告知画像の中央には、シオンちゃんの姿。
指でその顔をなぞりながら、私は微笑みながら妹を見上げた。
「明日菜の方からその話題を持ち出してくるとは思いませんでしたよ。血は争えないって事なんですね……」
「…………」
「ですが!シオンちゃんを好きになるのだけは許しません!!……私は同担拒否なので、身内に同じ子を推してる人がいるのを絶対に許せないんです」
ぶいフェスとは、ぶいれいん所属のVtuberたちが一堂に会し、ライブやトーク、展示やファン交流まで行われる、年に一度の夢の大舞台である。
これは画面越しでしか会えない推しと、同じ空気を吸える奇跡の日。
私にとっては、そこへ向かうことそのものが人生の大冒険だ。
……だから、明日菜がこの話題を切り出してきたのが、少しだけ嬉しくも思う。
だが私は同担拒否である。
推しを“共有”するなんて、愛の純度が薄まる行為だ。
なので、妹がシオンちゃんを好きになることだけは絶対に許せない。
「というわけで一応、明日菜の推しの名前を聞かせ――ぐふっ?!」
言い終えるよりも早く、胃のあたりに衝撃が走った。
何をトチ狂ったのか、妹はノータイムで私の腹を蹴り上げてきたのだ。
鈍い痛みが体の芯まで響き、私は布団の上に崩れ落ちる。
息が詰まり、視界が揺れる。
そのすぐ目の前で明日菜は冷えた表情のまま、私と視線を合わせるようにしゃがみ込み、スマホの画面を突きつけてきた。
そこに映っていたのは、無機質なカレンダーアプリだった。
「今日は5月14日木曜日、朝の6時45分。……お姉ちゃんが高校入学とほぼ同時に不登校になって、一ヶ月の記念日だよ?」
「…………うっ……ぅぅ、痛い……」
「お姉ちゃんはいつになったら学校に行くのかなぁ? 私は将来が心配で心配で仕方ないんだけどな〜?」
その声に感情はなかった。
まるで、冷え切った氷柱が喋っているような声色である。
私の部屋の空気まで、それに釣られて冷たくなった気がする。
「行きません……学校なんか絶対に!」
「どうして?」
……『どうして?』だって?
そんなの、何度も何度も言っているじゃないか。
私は人間関係に向いていない。
教室のざわめきも、他人の視線も、朝の電車の湿った匂いさえ耐えられない。
しかも人と会えば喉に何かつっかえたような感覚がする上に、その日の気分次第では眩暈で立ってられなくなることもある。
私はもう人生という舞台から降りた敗北者なのだ。
あんな環境で
そして義務教育という地獄はもう終わった。
これ以上、誰にも無理強いされたくない。
――そう家族には訴えたはずなのに。
……いや、もちろん自分でも分かっている。
これが社会を生きる人として、絶対に間違った道だというのは。
だけど仕方ないじゃないか。
呼吸するだけで心が擦り切れるこの私に、どうしてまっすぐ立てと言えるのだろうか?
……というわけで今の私に文句を言うなら、こんな人間が出来上がるようにシステムを作り上げてしまった神様に文句を言って欲しい。
私は悪くない。
「そんなフテクされた顔されても説明にならないよ」
「………………人間なんて私以外みんな死んじゃえば良いんです。なんで私はこんな恐ろしい世界に、生まれてきてしまったのでしょうか?」
俯きながら吐き出した言葉は、自分でも少し芝居がかっていると思った。
だけど止まらない。
胸の奥が焼けるように重く、誰かにこの気持ちを押しつけずにはいられなかった。
そんな私の腕を、明日菜は容赦なく掴む。
「はいはい。馬鹿なこと言ってないで下に降りて制服に着替えようね、お姉ちゃ〜ん」
「嫌です嫌です嫌ですぅッ!! 私は料理・洗濯・掃除とかその上勉強も全部完璧にやってるじゃないですかッ!」
「うんうん」
「それなのに貴女はこれ以上を求めると?! いま明日菜が強制しようとしている事は、私が自殺するまでの道にまた一歩、近づかせているに過ぎないと分からないのですか?!」
「うんうん、学生の本分は勉強だね〜」
「あすなぁぁぁぁあああああああッッッ!!!」
悲鳴じみた声が部屋に響く。
妹は悪びれることもなく、私をぐいぐいと引きずって行った。
前書きにも書いてある通り、メインヒロイン登場は第2話から。
初日は6話投稿。
だいぶ前に別サイトで今作を読んだ方もいるかもしれませんが、ハーメルンでの投稿に際してカクヨム版とハーメルン版は物語の構成がほんの少し変わってます。