私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....?   作:顔のない女

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第19話 第三者視点で見る告白

 時刻は放課後となった。

 みんながそれぞれ道具を片付け始める時間だ。

 

 一応流れとしては、この後すぐに二人で私達の家に直行となってはいるのだが……

 

「ごめんっ!」

「え?」

「ちょっとだけ校門で待っててくれない? すぐ終わらせてくるから!」

 

 月宮さんは両手を胸の前で合わせ、申し訳なさそうに首を傾ける。

 

「それくらい構いませんが……」

 

 うん、別にそれはいい。

 だけどなんだろう。

 

 月宮さんの背後からジロッと、気持ち悪い眼でこっちを見てくる男。

 確か同じクラスの男子だったはずだけど……私は興味のないクラスメイトの名前など、一々覚えていないので誰かは分からない。

 ただ、その憎い相手を見るような目つきだけは、一瞬で脳裏に焼き付いた。

 

 その男は月宮さんに近づき、話しかけた。

 

「……詩音、もう行こうぜ」

「分かったって!」

 

 短い言葉を交わして、月宮さんはその男と並んで廊下を出ていった。

 ふたりの背中が遠ざかっていく。

 

「はぁ……一体なんなのでしょうか」

 

 ……私なんか睨まれるような悪いことしたっけ?

 いや、絶対に何もやってないはず。

 

 するとすぐに彼は忘れ物でもしたのか、教室に戻ってきて、更にはゆっくりと私の席に近づいてきた。

 そして私の目の前に立ち止まった。

 彼の私に向ける視線はやはりひどく冷たかった。

 そしてその冷たさの中には、よく分からない熱のようなモノも混じっている気がした。

 

「……不登校してただけの社会不適合者が、どの面下げて詩音とつるんでんだよ気持ち悪い」

「……」

 

 突然の暴言に、冷水をぶっかけられたような気分だった。

 

 だけどなんだろう。

 その確かに私へ向けられた加害性に、過去の虐めがフラッシュバックする――なんてことはなかった。

 私は彼の言葉を肌で浴びて、高揚感のようなものが体から湧き出たのだ。

 

 ……もしかして詩音さんとの出会いが、私のメンタルを強くしてしまったのだろうか?

 原因は分からないけど、今はそう解釈することにした。

 

「お前のせいで全部台無しなんだよ。マジでさっさと学校から消えろ」

 

 そしてそう語る彼の瞳に、私は親近感のようなものを感じた。

 

 私は他人のことが大嫌いであるはずなのに、彼だけは何かが少しだけ違うような……そんな感覚を感じた。

 

「クソッ、なんで何も喋らないし笑顔なんだよ。……気持ち悪い」

 

 そう言って彼はすぐさま廊下の方に走って行った。

 

「あれ……今私、悪口を言われたんですよね?……おかしいな」

 

 脳が全くそうとは認識しない。

 悪口を言われて体が凍えるどころか、楽しくなってきている自分がいる。

 

 が――今はそんなことはどうでもいい。

 考えるべきは月宮さんの事である。

 

「ん〜……」

 

 校門で待ってて欲しい、か。

 

 ちょっと嫌だな。

 ……月宮さんを視界に映さない状態で、校内の敷地でよくわからない時間を待たされる。

 

 それは流石に不快だ。

 だったら。

 

「私もバレないようについていくしかないですよね」

 

 私は走って二人の後を追いかけた。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 そして――

 

 どうにか後を追い続け、辿り着いたのは中庭の隅だった。

 日が落とす長い影の中、風に揺れる木々の音がやけに耳に刺さる。

 私はその一本の樹の陰に身を隠し、息を詰めて二人の様子を窺ったのだが……

 

「……詩音、俺と()()()()付き合ってくれ!!」

「無理」

 

 え?

 ――いや、まさかの告白現場だった!?

 

 とても興味深い光景ではあると共に……聞き間違いだろうか?

 ()()()()という声が聞こえたような気がする。

 

 もしかしてあの男子と月宮さんは、昔付き合っていた?

 ……ま、まぁ、月宮さんは月宮さんだから、別に誰と付き合っていようが関係ないけど…………

 

「なんで俺じゃダメなんだ! 前は付き合ってくれただろ?」

「はぁ…………寛太くん、それはね」

 

 月宮さんが静かに口を開きかけたその瞬間。

 男が苛立ちに任せて彼女の声を押し潰した。

 

「俺は知ってるぞ! お前は俺以外の男に告白されても全員振ってるし、他の奴とは誰とも付き合ってない筈だ! なら――」

「寛太くん!」

 

 バシッと空気を裂くような声。

 その一言に木の葉が震えた気がした。

 

「もうあんたに微塵も興味ないの。二度と私に近づかないで。……何度も何度も何度も何度も何度もッ!……告白されて、いい加減しつこい」

 

 ……こ、怖い。

 

 その声は冬のアスファルトのように冷たかった。

 彼女の目はもはや“人”を見ていない。

 

 ゴミでも見るような、あるいは視界に入れたくもないと訴えているような……そんな感じの目だった。

 

「ここまでしつこい男はあんたくらいだし、そろそろキモすぎるから、友達として周りにいてもらうのも限界かも」

「……は、はぁ!? そ、そんなこと言って良いのか!? お前を幸せにできるのは俺だけなんだぞ!!」

「……きっっも」

 

 唇の端をほんの僅かに歪め、吐き捨てるように言い、月宮さんは靴音を鳴らして背を向けた。

 

 その様子に慌てて、男が叫ぶ。

 

「おい! そこまで言うんだったら、本当に目の前から消えるぞ!! 良いんだな??! お前を支えてた俺がいなくなるんだぞ??」

「勝手にすれば? それと次話しかけてきたら先生か警察に相談するから、そのつもりでいてね」

 

 男が怒鳴り地面を蹴りつけ空気を震わせても、月宮さんは一度として振り返らなかった。

 ひとつだけため息を吐いてそのまま踵を返し、校舎の向こうへと消えていく。

 

「畜生……!なんでだよ!!」

 

 男は自身の衝動に任せて、拳を思いっきり壁に叩きつけた。

 鈍い音が響き拳の皮膚が裂ける。

 そして彼は消えて行った月宮さんの方向に振り返り、叫んだ。

 

「数ヶ月後、絶対にお前は後悔する!! 俺は分かってるからな!!! どうせ誰にも他にいい奴がいなくて、俺んところに戻ってくるって!!!」

 

 そして彼は流れた血を拭いもせず、涙を混ぜながら走り去っていった。

 

 ……残された空気は奇妙なほど静まり返っていた。

 まるで一幕の芝居が終わったあとの、舞台のようだった。

 

「わぁ……学校ってこんな漫画みたいな衝撃映像を見れるんですね」

「本当にね〜。しおっちは男子達の告白を蹴りまくる魔性の女の子だね〜」

「えっ、月宮さんってそんなにいっぱい告られてるんですか?」

「んーっと、学校入ってから茜っちと一緒に帰るようになる前で、確か30回とか告られてるんじゃなかったっけ〜。大体月に10回くらい告白されてる計算〜」

「えぇ……本当に人気者――って、へ?」

 

 返事をしながらもようやく違和感に気づく。

 私は確かに誰かと会話していた。

 けど今までその「誰か」が誰なのか、まるで気にも留めていなかった。

 

 ぞくりと背筋を冷たいものが這い上がり、私はゆっくりと横を見る。

 

 そこにいたのは銀髪の少女。

 ここは学校だというのに制服ではなく、派手なアロハシャツに短パンという常識外れの格好。

 芝生の上であぐらをかき、手にはコンビニで売っているタイプの酒を持っている。

 そしてその小柄な体からは、妙に場違いな大人びた空気が漂っていた。

 

「あっ……うぅっ……誰ですか、貴女は…………」

 

 気味の悪さから、私が一歩木の根を踏みながら後退る。

 

 すると少女は口元に指を当て「ぷふぁ……!」と軽い息を吐いた。

 缶を軽く振り残りを飲み干して立ち上がる。

 

「え〜、分かんないのー? 同じ空間に何日か居たはずなんだけどな〜」

 

 ……同じ空間にいた?

 いや、確かにどこかで聞き覚えのある声な気がする。

 だけど思い出せない。

 

 喋り方的に月宮さんの知り合いっぽいけど、とりあえず知らない人と会話をしたくないので、ここから退散したかった。

 

「まぁいいや。ちょっと寄り道しただけだし、私も帰るねー!」

 

 彼女は踵を返して歩き出す。

 そして背伸びをしながら、ひらひらと後ろ手に手を振ってきた。

 

 その後ろ姿は沈みかけた夕陽に照らされて、銀色の髪がまるで光の糸みたいに揺れている。

 だが数歩進んだところで、不意に振り向いた。

 

「そうだ。茜っち」

「…………?」

()()()()()()に手を出したツケとして、暫くキミを観察対象とさせてもらうよ〜」

 

 それだけ言い残すと少女は指先で空を指し、ふっと笑う。

 私が瞬きした時には、彼女の影は消えていた。

 

「今のは……流石に幻覚……じゃないですよね」

 

 ……っていうか、普通に制服じゃなくて私服で酒飲んでたけど、成人の方なんだろうか?

 私や月宮さんより身長低くて、幼く見えたのに。

 そしてどうやって学校に入ってきて、今どうやって目の前から消えた???

 

 そんな考えをめぐらせていると、不意にスマホが震えた。

 LINEの着信音だ。

 私は反射的に画面を見ずにスワイプして通話に出る。

 

「はい、もしもし」

『ねぇ!今どこにいるの!! 校門の前で待ってて言ったよね?!』

「おぉ……シオンちゃんの声がスマホから聞こえてきます」

 

 スマホのスピーカー越しに響く、聞き慣れたこの声。

 何気にミ◯キー声以外でLINE電話を掛けられたのが初めてなので、結構脳に響く。

 月宮さんが目の前にいないせいで、シオンちゃんとして声が変換されるのがだいぶ大きい。

 

『ど こ に い る の ? !』

 

 あっ……

 ヤバい。

 今の月宮さん、超機嫌悪い感じだ。

 

 絶対にあの男子の告白が尾を引いている気がするし、たぶん睡眠不足っていうのもありそうだ。

 それに私が待ち合わせ場所にいないのも、悪いかもしれない――っていうか悪い。

 

「……すみません。中庭です」

「――――――」

 

 恐る恐る答えた瞬間、通話がぷつりと切れた。

 

 そして直後――

 

 ――ドンッ!!

 

 空気を裂く音と同時に視界が揺れた。

 月宮さんが中庭の角から疾風みたいに飛び込んできて、そのまま私にタックルをかましてきたのだ。

 

 酷すぎる。

 機嫌が悪いからって私に当たってこないでほしい……

 

「こんなところで何してたの! さっさと行くよ!」

「はいぃ……」

 

 彼女は私の腕をぐいっと掴んで、容赦なく引っ張る。

 月宮さんは歩幅を合わせてくれず、半ば引きずられるように帰り道を進んだ。

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 

 バス停までの道すがら、彼女は一言も喋らなかった。

 機嫌が悪い時は黙ってるのがデフォらしい。

 

 バスが来ると、彼女は迷いなく乗り込み、窓際の二人席に座った。

 私は少し遅れて隣に腰を下ろす。

 発車からわずか三十秒。

 不意に肩へ柔らかな重みがのしかかった。

 

「……あの、月宮さん?」

 

 ちょっと初の触れ合い方なので、少しだけ心臓がドキりとした。

 月宮さんの方に目を向けると、彼女は眼を瞑っていて眠たそうにしていた。

 

「うるさい、別にこれくらい良いでしょ。それよりなんで中庭なんかにいたの?」

「それは……そのぉ〜……」

 

 はたして正直に言って良いものか。

 これ以上機嫌が悪くなって、バスから途中下車されても困るし。

 

「……当ててあげようか?」

「すみませんでした!」

 

 バスのエンジン音にかき消される程度の声量で、私は必死に謝る。

 車内の乗客がちらりとこちらを見る気配がして、顔が熱くなりそうだった。

 

「別に謝らなくてもいいんだけど」

 

 月宮さんはそう言って今度は軽く息を吐いた。

 話し方が少しだけ甘くなった気がする。

 

「私から誰かに告白したわけじゃないんだし」

「そ、そうですよね!」

 

 勢いで同意すると彼女はふっと笑って――そのまま私の頭に、自分の頭をこつんとぶつけてきた。

 

「い、痛っ……」

「そういうところ、直してね」

「……はい」

 

 そう言いながら月宮さんは、再び肩に頭を預けてくる。

 

「そうだ。さっきの告白の話の続きなんだけど」

 

 唐突に彼女が言う。

 車内の揺れに合わせて髪が頬を掠め、少しだけ掠れた声が私の耳に落ちてきた。

 

「もし、私が誰かと付き合ったら──茜ちゃんはどう思ってくれるのかな?」

「……」

 

 ほんの少しだけ息が詰まる。

 月宮さんの言葉には、わざとらしい軽さが混じっていた。

 

「茜ちゃんは私のガチ恋じゃん? だからもしもの話とか気になるな〜、なんて」

 

 でもその奥には、小さな棘のようなものの存在も感じとれた。

 

「どう思うも何も……」

 

 う〜ん。

 ……これはどう答えるのが正解なんだろうか?

 別に月宮さんが誰かと付き合ったところで、私のシオンちゃんが誰かの物になるわけではない。

 言ってしまえば声優が誰かと結婚したところで、アニメキャラまでが結婚相手の物になるわけじゃないのと同じ。

 

 だけど、シオンちゃんは月宮さんで構成されているわけであるから、もしかしたら私のメンタルにも影響があったりするのかもしれない。

 

 まぁ、今考えるだけで考えても答えは出ない問いだ。

 実際にその状況になってみないと分からない。

 

 ただ一つ。

 私はまだ、月宮さんという原動力無しでは動く気になれないという点である。

 

「茜ちゃんは酷いね、狙ってやってるみたいで効いちゃうよ」

「え?」

「そこで黙ったらもう答えじゃん。……私のことなんて本当はどうでもいいんでしょ」

 

 月宮さんはまたもや何か勝手に解釈したらしい。

 冷たい溜息を吐いて、私から体を離そうとした。

 

 今日の彼女はもうさっきの事があるせいで、今までで一番機嫌が悪い。

 ここで月宮さんとの距離を離してはいけないと、直感が語っていた。

 でも下手な嘘を吐けば、秒で看破されて更に状況が悪化する。

 私は私のまま想いを伝えるしかないのだ。

 

「……あ」

「離れないでください」

 

 逃げようとした月宮さんの頭にそっと腕を回し、彼女の体温が肩に戻ってくる。

 

 そして私は今から口にすることが、恥ずかしいものだという自覚があったので、なるべく顔を合わせないために窓を見ながら口を開いた。

 

「月宮さんが付き合う付き合わないに、私から口を出すつもりはありません。だってそれは当人の自由ですから」

「そう…………」

「でも月宮さんが他の人にばっかり時間を使って、私に眼を向けてくれなくなったりしたら、とても困っちゃいます」

 

 私がそう言ったその瞬間、彼女の肩がわずかに震えた。

 

「…………ふふっ」

「なので今の変な私であるうちは、誰かと付き合ったりしないで、ずっと一緒――ごふ?!」

 

 ――ドンッ

 

 と、突然みぞおちに鋭い痛みが走った。

 息がほんの少しの間出来なくなり、思わず前かがみになる。

 横を見ると、月宮さんが拳を引っ込めるところだった。

 

「もう黙ってていいよ。なに言うか分かったし」

「はぁ…………何が『酷いね、茜ちゃん』ですか。酷いのはそっちの方ですよ。……真面目に喋ってたのに」

「それにしても自覚あったんだね、変人って。私はそっちの方が驚きかも」

「入学後すぐ不登校になる人が変人じゃなかったら、なんなんですかね」

「…………………………」

「え、無視?」

「…………すぅ……すぅ……」

 

 隣から規則的な寝息が聞こえてきた。

 視線を向けると、月宮さんは私の肩に頭を預けたまま、静かに眠っていた。

 さっきまでの不機嫌さはどこへやら、表情は穏やかで、まつ毛が小刻みに揺れている。

 

 ……この速さ、もしかして月宮さんは家に帰った後も、配信直前まで寝ているタイプだったりするのだろうか。

 

 まぁいいか。

 起こす理由もないし、人は寝たら機嫌も基本的に治るだろうし、家に着くまでの間、暫く寝ててもらおう。

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