私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....?   作:顔のない女

36 / 36
第36話 どこまでも歪み切っている女の子

 翌朝。

 

「いつまで寝てるの!!」

 

 暴力的なまでの怒声と、肩を叩く強い衝撃で意識が強制浮上した。

 

 視界を埋める早朝の白い光。

 ぼんやりとした頭で彼女を視界に捉えようとするが、月宮さんはベッド脇の椅子に腰掛け、不自然な角度で窓の外を見つめたまま、頑なに目を合わせようとはしなかった。

 

「おはようございます。昨日はしっかり眠れましたか? 途中で起きたりしませんでしたか?」

「……眠れた」

「眼を合わせずに言われても、説得力ないですよ」

 

 妙だ。

 昨日までの彼女とは明らかに違う、奇妙な空気感がある。

 それが何なのか、今の私の寝ぼけた頭では正しく定義できない。

 

 何か心境の変化があったのだろうか?

 ……というか、何で顔を見せてくれないんだろう。

 

「顔を見せてくださいね〜」

 

 重い身体を引きずるようにベッドから立ち上がり、彼女の向かいの椅子に腰を下ろして、その表情を覗き込む。

 彼女は弾かれたようにそっぽを向いたが、その横顔が耳の付け根まで真っ赤に染まっているのを、私は見逃さなかった。

 

 熱があるのかと一瞬疑ったが、彼女は絞り出すような声で沈黙を破った。

 

「恥ずかしいの、色々と!」

「え?」

「昨日からずっと私の悪い部分ばっかり見せて、何にも良いとこないから、自分が嫌になってるの!!……分かるっ?!?!」

「あ〜……確かに」

 

 思えば昨日一日の月宮さんの行動を客観視すると、結構酷いものだ。

 

 空元気で人を振り回し倒すし、いつも通りの癇癪は起こすし、私のこと刺し殺そうとしてくるし。

 

 ……本当に酷いものだ。

 普通の友人関係というものが私にはよく分からないけど、この関係が例え家族だとしても、人によっては縁を切りたがるのではないだろうか。

 

 私は相手が月宮さんでなければ絶対に無理だし、他人だったら100%縁を切ってる。

 

「ねぇ、なんでそのまま肯定してるの? そこはもっと気の利いたフォローするべきでしょ」

 

 月宮さんは向かいの席から手を伸ばして、私の胸ぐらを力強く掴み上げ睨みつけてきた。

 

「理不尽」

 

 いつも通りの暴力的行為だ。

 さっき寝起きで感じた変な違和感は、気のせいだったのだろうか?

 

「こっちは同い年の子に寝かしつけられて、死ぬほど恥ずかしいの!! もっとちゃんとフォローして! じゃないと嫌いになりそう!」

「嫌い…………ですか」

 

 嫌いになりそう……ね。

 2日前までならはっきりと『大嫌い』と言ってくれた方が、心持ち的には有り難かったかもしれない。

 

 でも、今の私の頭はもうぐちゃぐちゃだ。

 先のことをどうするか――なんて、暫くは何も考えたくない。

 おまけにあまり良いシチュエーションとは言えないが、こっちは好きという感情を伝えてしまったし。

 

 本当に嫌われるなら、傷の浅い今のうちにそうなってくれた方がとても助かるかもしれない。

 あまり長いこと一緒にいると、私の心が持ちそうにないから。

 だからこその退学の提案だったのに。

 

「ごめん、冗談だから本気にしないで。……昨日の事は本当にありがとうって思ってるから」

 

 私が虚ろな目で思考の泥沼に沈んでいると、月宮さんは急に手を離し、椅子から立ち上がって横から私に抱きついた。

 

「ふぇ……?」

 

 伝わってくる彼女の身体は、小刻みに震えていた。

 

「きゅ、急にどうしたんですか?」

「……茜ちゃんが嫌な顔してたから」

 

 い、嫌な顔……?

 自分ではそんな表情をした覚えはない。

 考えごとに一瞬集中してたので、覚えがなくて当然かもしれないが。

 

「そんな酷い顔してましたか? それはすみません。一応参考までにどんな顔をしていたか聞きたいんですが……」

「…………」

「…………すみません」

 

 彼女は答える代わりに、私を抱きしめる腕に力を込めた。

 やがて月宮さんはゆっくりと身体を離し、数歩歩いて背中を向けた。

 

「…………なんでこうなったんだろう。元々茜ちゃんを外に引っ張りあげて、普通に戻すための旅行だったのに……」

「それは……要らぬお節介をかけてしまったようですね」

 

 ……この旅行にそういう意味があったのには驚きだけど、それ以上にやっぱり違和感が目立って仕方ない。

 

 何だろう。

 なんなんだろう。

 私は一体何に気になっているのだろう。

 

「本当にね。……こっちがおかしくなっちゃっただけだった」

「ふふっ、私の変人オーラが月宮さんに伝播してしまったようで、すみません」

 

 嫌われているわけでは絶対に無い。

 かと言って恋とも私の視点から見ると、断言できそうに無い。

 

 ……ちょっと分からないから、言葉でジャブを打ってみるのもアリかもしれない。

 

「でも大丈夫です。私は月宮さんがどこまで頭がおかしくなっても嫌いになったりしませんし、見捨てもしませんから」

「――――――ッ!?」

 

 私がそう言うと彼女の肩がピクリと震えた。

 

「なので、安心して今まで通り振る舞ってくださいね。貴女が私を繋ぎ止める為の脅し(キスの件)も、勿論まだ有効ですよ」

「……期限の一年が過ぎても退学せずにずっと一緒にいてくれる? 私と一緒にいてくれる?」

 

 私はこのぎゅうぎゅう詰め状態の高校生活が、本当に嫌だ。

 せめてある程度自由が保障されている大学を一緒に通うという条件なら、今の私でも彼女が隣にいてくれるなら、全然喜べるけど……

 

 流石に高校を3年間通い続けるのは、やっぱり今考えても厳しい。

 絶っっっ対に死んでも無理だ。

 

 ここら辺の考えはいまだ月宮さんありきでも、中々変わらない。

 

「それは無理です」

 

 私が告げると同時に、月宮さんの右手が空を切り、私の頬を叩いた。

 

「ぶへぇっ!」

「歯磨きしてくる」

 

 吐き捨てるように言い残し、彼女は洗面所へと消えていった。

 

「…………はい」

 

 私はテーブルに両肘を置き、頭を俯かせた。

 

「はぁ……なるほど、起きてからの違和感はそういうことでしたか」

 

 ここまで来ると流石の私でも理解できる。

 頬に残る熱い感触。

 昨夜から今朝にかけての出来事で、すべてがはっきりとしてしまった。

 

 ――月宮さんの心は、おそらく私への依存心へと傾き始めた。

 

「……客観的に自分に似たタイプを見る機会がないせいで、少し気づくのが遅れちゃいましたね」

 

 今の私且つ、今の状態の月宮さんの言動と行動だからこそ、それを理解できた。

 その事実には凄く喜ばしいことだとは思う。

 何故なら彼女は私を一番に見てくれているというのだから

 

 ……でも依存と恋は近いようでもちろん違う。

 それは私が彼女に友人として依存していながら、恋愛対象はシオンちゃんであったように。

 そして事に及ぼうとした時に、彼女の体が私を拒絶していたように。

 

 私は弦巻さんの手によって最終的なベクトルを固定されてしまったけど、月宮さんのこの感情が最後にどう転ぶかは分からない。

 

 けれど今の弱り切った彼女なら、この依存心を利用して上手く立ち回れば、私が望む恋人という関係を成就させることも、決して不可能ではないだろう。

 

 …………でも、それを私の意思でするという事は、私は人の心を自由に弄んで支配するゲス野郎に成り下がるという事である。

 それは今まで友人を作ったことのない私にとって、非常に魅力的な報酬でありながら、自身の持つ歪な倫理観と良心を捨て、完全に外道に走りだすという事にもなってしまう。

 

 弱肉強食は世の常で絶対不変の真理。

 私以外の他人はこんなこと当たり前にこなしているし、罪悪感など抱かない。

 私の言葉に耳を傾ける人など、捻り潰されて当然の弱者である。

 

 ――だったら。

 今さらそんな外道に憧れるくらいなら、昨夜のうちに彼女を犯し尽くしてしまえばよかったのだ。

 欲望のまま徹底的に。

 彼女をめちゃくちゃにして、力ずくで自分だけのものにしてしまえばよかったのだ。

 

 一晩の関係から全部状況をこっち有利の方に持っていく事だって、今の私と月宮さんの立場関係ならできたかもしれない。

 だというのに…………

 

 私は鏡を見るのも厭わしいほど醜く顔を歪ませ、独り言をこぼした。

 

「本当に私は…………半端なクソ女ですね」

 

 昔の私はキスの件でもここまで考えなかったはず――というか、罪から逃げ出そうとしていたはずなのに……

 

 私の頭も月宮さんを好きになってから――そしてこれまでの月宮さんとの関係を通して壊れてしまったようだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……(作者:顔のない女)(オリジナル現代/恋愛)

猫に変身できる人外少女の西園玲香が、とある出来事で酷く落ち込んでいた椎名葵を偶然見かけた。▼玲香はそれを無視することができず、本当に嫌々ながらも白い野良猫として葵に寄り添い、再び縁を結ぶことになってしまう。▼玲香は葵の猫としての側面、そして葵に陰湿な虐めを受けながら生活する、人間としての自身の二つの顔に、すごく頭を悩ませることになるが......▼大嫌いなは…


総合評価:603/評価:8.91/完結:34話/更新日時:2026年05月28日(木) 18:01 小説情報

妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件(作者:パッタリ)(オリジナル現代/日常)

 信仰が薄れ、妖怪も自力で稼がねば生きられない現代社会。妖狐のシズクは生き残るため、化け狸のコノハと組んでVtuberとなり、百合営業で日銭を稼いでいた。▼ しかし、画面の向こうで可愛らしく甘える相方の感情は、営業などではなくガチだった。▼ 防犯設備を妖術で容易く突破し、数百年の執念がこもった極上の手料理で胃袋ごと支配しにくる化け狸。▼ これは、平穏な生活を…


総合評価:705/評価:8.47/連載:22話/更新日時:2026年06月13日(土) 12:18 小説情報

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1703/評価:8.76/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2297/評価:8.91/連載:23話/更新日時:2026年06月13日(土) 12:05 小説情報

全方位脳焼き英雄、停戦条件に身柄を要求される。(作者:鐘楼)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一ノ瀬ヒナは英雄である。最強なので二つの世界を救い、誰も殺さずに大体丸く収めることができた。……そのはずが、異世界からの停戦条件はヒナの身柄であった。後輩たちに黙って犠牲になることを選んだヒナを待っていたのは、幾度も戦い、最後には共闘もした女王。女王は、ヒナに屈辱的な扱いを──▼「──結婚しよう、ヒナ」▼なんで????▼みたいな話。▼カクヨム別タイトル投稿(…


総合評価:1634/評価:8.66/完結:5話/更新日時:2026年02月17日(火) 12:05 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>