私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....?   作:顔のない女

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第41話 お仕事大忙しVtuber(月宮:視点)

 旅行終了から二日が過ぎた八月の初頭。

 

 事務所の一室にはペンの走る乾いた音だけが、絶え間なく響く。

 私とアメそして見張りのマネージャーの金原さんは、収録や大型案件といった仕事の合間に、直筆サイン入りポストカードの作成という単純作業に追われていた。

 もちろんこれも仕事である。

 

 手は機械のように動かしているが、思考は完全に別の場所にある。

 もちろんあの旅行のことについて、ずっと脳内反省会をしていたのだった。

 

「はぁ……」

 

 思わず重いため息が落ちる。

 

 ここ最近の私の行動を振り返ると、あまりに酷すぎる。

 

 まず最初は、茜ちゃんが教室に来ていたのにも拘わらず、それに気づかずにアメと話し込んだり。

 アメの言われるがままにカラオケに足を運び、そしてキスを――

 更には旅行はもう全体を通して、私の大失敗だった。

 

 特に彼女を刺そうとした理由は、自分でもよく分かっていない。

 あの時の心理は、自分でも整理がつかなかった。

 

 昔、アメに同じことをしてこっぴどく叱られたというのに、私は結局何も学習していなかったのだ。

 出来ることなら、あの二日間の記憶を完全消去したいくらいだ。

 

 そして何より、茜ちゃんが私に向ける態度が劇的に変わってしまったことが、1番の後悔かもしれない。

 以前の彼女は、私がいないと息もできないような脆さを見せていた。

 なのに……

 

『私は貴女が隣にいてくれないと歩けないんです。凄く弱いんです』

 

 あの雨の日、縋るようにそう言った茜ちゃんだけど、旅行中の彼女からはまるで「楽になりたい」という、どこか冷めた諦念が滲み出ていた。

 

 もちろん私の勘違いの可能性もある。

 でもやっぱり、以前との温度差に肌が粟立ってしょうがないのだ。

 だから勘違いであるはずがない。

 

 ……それなのに、だ。

 

『いきなりで驚いちゃいましたか? 実は私、月宮さんの事を好きになっちゃってたんです』

 

 間違いなく今までされてきた中で一番最低な告白をされ、その上私の過失とはいえ体を求められて。

 私が怯むと……

 

『――やっぱりやめましょう』

 

 私が怖がってるからって、優しくやめてくれて。

 

『月宮さんのことが大好きです! 私と付き合ってください!』

 

 でも最後にはまた告白してきて……

 もう私には何も理解できそうにない。

 

 文字に残されたその言葉を見るたび、思考がショートする。

 私のことを「好き」だと自覚したのなら、どうしてあんなに冷淡な態度と熱烈な求愛を、心の内に同居させることができるのか。

 

 そして私はなぜ新幹線の中で、人目も憚らず泣いてしまったのだろう。

 告白なんて掃いて捨てるほどされてきた。

 聞き飽きているはずの言葉なのに。

 

 極めつけはその後のLINE。

 私はあろうことかLINEで『付き合ってあげてもいいよ』って送ってしまった。

 

 私は最初の告白を聞いて、それに否で返そうとした側。

 絶対にそんなメッセージを送っていいはずがないのに、でも気づいたら送信していた。

 

 ――もちろん1秒ですぐに送信取り消しをしたから、茜ちゃんには見られてないと思うけど。

 

「つ、つらい〜…………金原さん、ちなこれ後何枚書かなきゃいけないの?」

「4700枚」

「ガッデム! こんなの一人でやらせて良い量じゃないいいいいッッッ!!」

 

 私の思考を遮るように、アメの悲痛な叫びが響く。

 

「しおっちはあとどれくらいなのー?」

「3500枚……かな」

 

 サボりがちなアメと違って、私は空き時間も眠くなるまで無心で仕事に費やせるし、手は両利きなので腱鞘炎になる心配もあまりない。

 なので進捗に差が出るのも当たり前だろう。

 

「え、エグい。なら私の分も手伝ってくれない?」

「……アメの頼みでも流石にそれは……私だってこれ以上書きたくないし」

「報酬は私と茜っちで撮った()()()()()()。日付は7/30日のやつ」

「7/30日?!?!?!」

 

 ペンを持つ手が止まった。

 

 ……7/30日といえば、私と茜ちゃんが駅で別れたあの日だ。

 アメはあの日、彼女に会っていた?

 

 解散したのは確か夜。

 時間的に考えれば別れた直後か、茜ちゃんが新幹線で地元に戻った後の待ち伏せか。

 いずれにせよ深夜に近い時間帯だ。

 

 ……それにしても100歩譲って茜ちゃんとアメが会うのは良い。

 でもそれをあの子の口から、私の耳に届かなかったことが問題だ。

 

 どうして、茜ちゃんは私にそのことを伝えてくれなかったんだろう。

 というか、私のことを好きなはずの茜ちゃんが、どうしてアメと内緒で会ってるんだろう。

 茜ちゃんはアメの事が嫌いで当然なはず。

 

 ……理解できない。

 情報が欠落していることが非常に不快だった。

 

「分かった。1500枚こっちで引き受けるから、会った時の写真と、どういう経緯で茜ちゃんと会ったのか話して」

「ありがとう!やっぱり持つべき物は友達だね!」

 

 友達……ね。

 

 アメの矢印はもう私に向いていない。

 彼女にとっての私は、便利で顔が利く手駒の一つに過ぎない。

 

 お金も今までの恩返しとして渡してるけど、彼女の収入からすればそれも微々たるもの。

 本当にどこでいつどのタイミングで私が切り捨てられても、おかしくないかもしれない。

 

 ……矢印の話をするなら、むしろ茜ちゃんの方に向いている可能性が高い。

 最近のアメは妙に彼女に関心を持ちすぎている。

 

「良いわけないでしょ!!」

 

 その時、金原さんの怒声と共に、硬い拳骨が私達の脳天に落ちた。

 

「痛っ」

「いた〜い!」

「見張りがいる前でよくそんな真似できると思ったわね。代筆なんて許すわけないでしょ!」

「……100万払うから見逃して?」

「それの10倍なら考えてあげるわ」

 

 冷たくあしらわれたアメは、肩をすくめてペンを握り直した。

 私達は再び沈黙し、紙とインクの匂いの中で作業に戻る。

 

「…………」

 

 ……代筆できなくなったのは良いけど。

 茜ちゃんと会って何をしたのか。

 休憩に入ったら、絶対に聞き出さなくては。

 

 

 

 ---

 

 

 

 レコーディングの合間のわずかな休憩時間。

 張り詰めた空気が漂う休憩室で、アメは挑発的な笑みを浮かべ、自身のスマホを私に突き出してきた。

 

「そんなに知りたいの?」

「うん」

「まぁ写真を撮るだけとって、誰にも見せないってのもアレだよね〜。ってことではい」

 

 ニヤつくアメの指先が示した画面を見て、私は絶句した。

 

「…………」

「なかなかシュールな絵面でしょ。Tmitterのサブ垢にあげようとも思ったんだけど、そんな事したら流石にマネージャーに怒られちゃうかな?」

 

 そこにはありえない光景が広がっていた。

 

 黒服の巨漢が椅子代わりに差し出した太い腕。

 その上に、茜ちゃんがちょこんと座って持ち上げられている。

 

 更にボディーガードの左手には、Vtuberシスター・サニーが映し出されたスマホ。

 巨漢、茜ちゃん、そして電子体のアメ。

 ……本当にとても奇妙な集合写真だった。

 

「これのすごいところは、何気に茜っちの体幹がバグってるところなんだよね。全然こんなことできるようには見えないのに〜」

「………………あの茜ちゃんが、無条件でこんな馬鹿なことをするはずがない。何をネタに脅したの?」

 

 沸々と湧き上がる怒りを抑えきれず、低い声で問う。

 

「それになんであの日、あの子に近づいたの? もしかして――」

「ちょっとそれは勘繰りすぎ。普通に『家までのタクシー代全額負担するから、一緒に写真撮ろ?』って誘ったら、喜んでやってくれたよ」

 

 タクシー代を代わりに……

 その条件なら茜ちゃんは動くだろうか?

 

 ……いや、動くかもしれない。

 否定してあげれないのが、なんとも歯痒い。

 

「あと近づいた理由は、ボーリングで負けた腹いせかな? 仲直りのために運動に誘ったつもりだったけど、私が負けると死ぬほど煽り倒しにきたから、一回やり返してやろうと思って」

「…………」

 

 そういえば旅行初日、『あの後何をしていたの?』と茜ちゃんに詰めた時も、ボーリングと答えていた。

 つまりアレは事実だったって事になるのかな?……いや、分からない。

 

 ……それにどうしてチョイスがボーリングになるのか、全く理解できない……

 

「で、やり返しとして筋肉ムキムキの男達に囲ませたら、茜っちはどんな反応するかな〜っていう、ドッキリを仕掛けてみたの」

「……それでどんな反応してたの?」

「ちゃんと膝から崩れ落ちて、泣きそうになってたよ。まぁその後不意打ちで一人やられて、pcも壊されたんだけど」

 

 ここら辺のアメの話はもう仕方ない。

 私にアメを止めるなんて絶対にできないし、アメ自体かなりの嘘吐きだから、過程がどうだったかなんて聞くだけ無駄だろう。

 

 大事なのは結果。

 たぶん、写真が証拠として上がってるタクシー代を奢ったのと、茜ちゃんが泣き崩れたのは事実。

 

「…………よく考えたら、不意打ちとはいえ一人持ってかれたの、だいぶ狂ってるような気がしてきた。なにあれ」

 

 pcは……嘘にしてはあまりに狂ってるから、逆に真実…………??

 だとしたらヤバすぎる。

 

 ……とりあえず、茜ちゃんは本当に危なっかしい。

 原因の一端を私が担ってしまっていると分かっていても、そう苦言を呈したくなる。

 

 まず普通ならお金貰えるからって、人の腕の上に座ったりしない。

 

 茜ちゃんは人付き合いが嫌いな割に、金や大きめのリターンが絡むと大胆な行動に出てしまうらしい。

 それがどれほど危険か、分からせてやらなければならない。

 

 茜ちゃんはこれがアメの差金じゃなかったら、もっと酷い目に遭ってたかもしれない。

 

「ありゃ……?」

 

 私は置いていたスマホを手に取って、茜ちゃんに電話をかけ、出てくれるのを待った。

 

 ちゃんと言葉で注意してやるのだ。

 変なことはしないで――と。

 

『はい、もしもし』

 

 通話が繋がった。

 

 旅行後から毎晩、私から電話をかけているけど、この中途半端な夕暮れ時にかけるのは初めてだ。

 

「ねぇ、いま話せる?」

『は、話せますけど……もしかして怒ってませんか? 一言目から空気が重いような……』

「別に怒ってないよ。とりあえずいま写真送るから、みてくれない?」

『分かりました』

 

 私はアメから転送された画像を送りつけた。

 

「これ何? 一体なんでこんな事してるの?」

『あの……怒って――』

「怒ってない。で、聞いた感じだとタクシー代を払ってもらう代わりに、こんな馬鹿なことをしたってアメが言ってたよ。これは本当?」

『まぁそうです、はい。ちょっと羞恥に耐えるだけで、6000円近く得できるのは流石に熱かった、みたいな……』

 

 茜ちゃんの声が、気まずそうに尻すぼみになっていく。

 その煮え切らない態度に、私のスイッチが入った。

 

「あのさ、茜ちゃん。……私が言いたいこと分かる?」

『すみません、全然分かんないです。私は何か悪いことをしてしまったのでしょうか?』

「そう、分からないんだ。じゃあ今から教えてあげるから、ちゃんと聞いててね」

 

 

 

 

 ---

 

 

 

 そこから私は捲し立てるように、この行動を咎めた。

 

《楽にお金が手に入るからってなんでもするの?》

《自分で怖いって思った人についていった挙句に、お金貰えるからって変なことしないで?》

《ちょっとイラッときたからってpcを壊すのはおかしい。アメの気分次第でそっちにお金を請求できるんだよ?》

《お金が足りないなら私に言って!》

 

 などなど、簡潔にまとめるとこんな感じのことを、茜ちゃんに返答の間を与えないくらい喋った。

 

「彼女さんきびし〜。私だったらそんな思いさせないのになー」

「アメは黙ってて!」

「ぽえ〜」

 

 外野を黙らせ、再びスマホに意識を集中させる。

 

「茜ちゃんは今の話ちゃんと聞いてた?」

 

 一呼吸置いて受話器の向こうから、どこか晴れやかな声が返ってきた。

 

『……あっ、はい。話をまとめると、私に電話をかける理由が欲しかったってことですよね。凄く嬉し――』

 

 ブツッ。

 私は彼女が言い終わる前に、反射的に通話を切断していた。

 

 思いもしなかった茜ちゃんの言葉に、何故か心臓が早鐘を打っている。

 

 なに今の返事……?

 私は本当に彼女に説教できていたのか、自分自身を疑いたくなってくる。

 

「なんだ、バレバレじゃ〜ん。でもそうだよね、普通そんなくだらないこと誰も気にも留めないし、親でもないしおっちが叱りつけることじゃないしね」

「…………」

「そんなに気になるなら告っちゃえば〜? そしたら相思相愛だし、茜っちも大喜びすると思うよ?」

「……うるさい」

 

 ……私は……私は別に茜ちゃんなんて好きじゃない。

 って言うか恋心なんて誰に抱いてもない。

 

 ただ茜ちゃんは、出会った頃から私の知らない感覚を――熱を与えてくれるから一緒にいる、ちょっと大事な友達ってだけ。

 Vtuberとしての私も知ってくれてるし、絶対に裏切って情報を他に売ったりしないって安心感もあるからこそ、茜ちゃんと一緒にいるのが現状。

 

 だから私が彼女をこうやって必死に心配して、ちゃんとした道に引き戻そうとしている理由を表すなら…………そう、ただ一人の繊細な私の理解者(友達)を失わないようにするため。

 だからこれは恋愛とかじゃなくて、私が今生きるため、モチベーションを保つために必要なことなんだ。

 私は私で茜ちゃんと出会ってから、結構人生楽しくなっちゃってるし……

 

「ほんと意味わかんない……なに、なんなの、退学って」

 

 それなのに茜ちゃんは進んで、意味が分からない道に進もうとしている。

 

「……ん?」

 

 口をついて出た言葉にアメが首を傾げる。

 

「お金持ちのアメがそうするのは理解できるけど、進んで地獄に行こうとしてる茜ちゃんが、今考えても本当に理解できない!」

「なんか話脱線してな〜い? どういう思考?」

 

 私はバッグと財布を手に取って歩きだす。

 

「あれ、どっかいくの?」

「あの子を殴りに一回帰る」

「え、でももう夕方だし、明日も普通に仕事だよ〜?」

「大丈夫、時間にはちゃんと間に合わせるから」

 

 アメの制止も聞かず、私は茜ちゃんに『駅に来て』とだけメッセージを送ってスマホをしまった。

 茜ちゃんはこの時間から夕飯の支度しててもおかしくないし、確か家の中で運動してるとも言っていた記憶がある。

 こんな急な呼び出しは、たぶん迷惑でしかないだろう。

 

 往復の時間を考えれば、会えるのは一時間にも満たないかもしれない。

 だけどそんなことが気にならないくらいには、私はあの子を殴りたかった(に会いたかった)

 そう、無性に殴りたく(会いたく)なってしまったのだ。

 

 ……別に他に他意なんてない。

 絶対に。

 

「♪〜」

 

 気づけば私は、鼻歌交じりにスキップをしていた。




 ◇あとがきです。

 次からは第二章「文化祭編」へと入ります
 もし「作品に期待できる!」と思ってくださったら、高評価をいただけるとマジのガチで切実に執筆の大きな励みになります!
 作品の応援よろしくお願いします!

 第二章は明日から投稿です。
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