私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....?   作:顔のない女

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第43話 文化祭くらいサボりたい

 9月のとある日のこと。

 5時間目のHR開始直後。

 

 私がスマホを教科書で隠しながら、いつものようにイヤホンでシオンちゃんのアーカイブを聴いていると……

 

「あー、先生はちょっと職員室でやることあるから、しばらく自習しててくれ〜」

 

 先生が授業スタート直後に一瞬教室に顔を出した後、一言だけそう言い残して、すぐに教室から出て行った。

 

 そしてそれとすれ違うように、ヒゲ付き眼鏡と白衣を羽織った銀髪の少女――弦巻アメが教壇の前に立った。

 

「あー……あー……おほん」

 

 クラスのみんながその突然の奇行をかます女の子を黙って見つめる中、彼女は喉のチューニングをし――

 

「さて、これから文化祭の出し物について決めていこうと思う」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 弦巻さんの言葉に呼応するように、みんなが喜ぶように叫んだ。

 

 ……そういえば今は秋。

 秋といえば、まぁそういう時期にもなるのか。

 

「話し合いの前に最初に言っておくけどまきまき(弦巻)先生は月宮とお歌のデュエットをするぞ〜。みんな見にきてくれよなー」

「……はぁ?」

 

 不意に名前を出された月宮さんが、素っ頓狂な声を漏らす。

 だが、クラスメイトたちは既に弦巻さんのペースに乗せられていた。

 

《詩音は中学二年生の時に歌ってたけど、凄く上手かったんだよー》

《クラス一の美人で歌もできるのかよ。……天は二物も三物も与える、とはよく言ったものだな》

 

 …………中学2年生というVtuberを始めて間もない頃ならともかく、今の月宮さんは登録者3桁万人規模の有名人。

 この学校の文化祭は地域の人なら誰でも参加できるタイプのやつだし、今の月宮さんの影響力で下手に歌を披露するのは危ないのではないだろうか?――なんて考えながら月宮さんのことをジッと見ていると、彼女もちょっと複雑そうな顔をしていた。

 

 少し時間をおいた後、月宮さんは挙手した。

 

「なんだね月宮くん、意見があるなら立って話しなさい」

「ねぇ、アメ」

「私は先生だ。先生と呼びたまえ」

「……先生。私、あまり歌いたくないです。最近はちょっと喉の調子が悪――」

「月宮くんは歌うことを辞退をしたいのだろうが、それは許可できない。理由はクラスのみんなが期待しているからだ」

 

 弦巻さんの言葉をカバーするように、クラスメイトのみんなも「そうだよ!歌って?」とか「月宮の歌声聞いてみたいなー」とか言って断りづらい雰囲気が作り上げられた。

 

 月宮さんは困ったように肩を落とし、一度だけ後ろを振り返って私に視線を送った。

 それはちょっと申し訳なさそうな視線だった。

 

「…………」

 

 これは別に月宮さんが悪いわけではない。

 悪いのは全部弦巻さんの方だ。

 怠いノリばかりしてくれて、本当に困ったものである。

 

「さて……私の宣伝も終わった事だし、本題の続きを話そう。みんなは何か出し物の案はあるかね? 意見がある者は、ドンドン挙手して案を言いたまえ」

 

 

 

 ---

 

 

 

 放課後。

 駅へと続く道すがら、私は溜め込んでいた毒を吐き出した。

 

「本当に頭おかしいですよ、あの人」

「う〜ん……」

「Vtuberとしての数字を持ってる人が、なんで文化祭程度の小さなステージに立とうとしてるんでしょうか。……そんなに目立ちたいなら配信頻度上げればいいのに」

 

 しかも結局あの後ドンドン意見が上がっていく中、最終的に候補がメイド喫茶・射的・お化け屋敷と出て。

 その中で多数決をしたところ、最終的にメイド喫茶に決定した。

 

 月宮さんと弦巻さんでデュエットすることもそうだけど、メイド喫茶ってなに?……って感じではある。

 しかもクラスのみんなは、男女問わずノリノリなのだ。

 

 ()()もメイド服固定なのに、なんで文化祭あんなやる気でいられるんだろう。

 本当に意味が分からない。

 

 そんな事を考えていると、月宮さんはゆっくりと口を開いた。

 

「たぶん文化祭は、アメが学校に通うモチベーションの一つなんだと思う」

「……え?」

「きっと学校を辞める前に、刺激と思い出が欲しいんだよ。わかんないけどね」

 

 というか今更だけど、あの人が学校を辞めるのって本気だったんだ。

 社会不適合者が私だけじゃないって思うと、少しだけ安心できる。

 まぁ私もそのうち逃げるつもりでいるから、あんまり関係ないけど。

 

「刺激が欲しいのは分からなくもないですけど、私と月宮さんを巻き込まないで欲しいです」

「今『私もそのうち学校辞めるしなぁ』みたいなこと考えてたでしょ」

「…………カンガエテ、ナイデスヨ」

「言っておくけどアメは辞めた後、高卒認定を取るか通信制高校行くかして大学行くだろうし、今の時点で茜ちゃんと違ってだいぶお金持ちなんだよ?」

 

 あ、お説教モードのスイッチ入れてしまったっぽい。

 

 最近はこういう風に、月宮さんが私を諭すような場面が増えた気がする。

 それはそれで彼女の執着を感じて嫌いではないのだけれど。

 

「で、そっちは学校を辞めた先のこと、考えてるの?」

「カンガエテナイデスヨ〜」

 

 そんな未来のことなんて一々考えていない。

 ……いや、ニートになりたいとは考えてるけど、それを今言葉として並べてしまうと、たぶん本気で怒られるだろうから、絶対に言葉にできない。

 

「ねぇ!!」

 

 適当な返事に、更にお叱りのギアを上げようとした月宮さん。

 私はその話を遮るように、隣を歩いている彼女の手を取り、体温を感じる程度に体を寄せた。

 

「そんなことよりお願いがあるんです。聞いてくれませんか?」

「…………なに?」

「文化祭の日、一緒に学校をサボって欲しいんです」

 

 この文化祭とかいう行事、確か二日間も行われるクソ行事だった覚えがある。

 

 私は小学生時代から体育祭や修学旅行、そして文化祭などといった、勉学にあまり関係のない行事は休んでいる。

 理由は単純に他人と関わりたくないからなのと、そんなことに時間を使っているのが無駄に思えてしょうがないから。

 

 そして今回は弦巻さんのせいで、更に行きたくないし、月宮さんをこのままステージに立たせるのも私的にはだいぶ怖い。

 そこにプラスでメイド喫茶が本当に嫌。

 

 だからこの提案をしたんだけど……

 

「……初めてだね。学校を休みたいなんてお願いしてくるの」

 

 月宮さんの声のトーンが、すとんと落ちた。

 

「そんなに嫌? 文化祭」

「嫌です。だって私、ぼっちなので」

「私がいるよ。他の友達にじゃなくて茜ちゃんの隣に」

「……それに月宮さんにステージに出て欲しくないです」

「これは本音を言うんだけど、実は私、ステージに立ちたいと思ってるんだ」

 

 意外な言葉に、思わず足が止まった。

 教室では嫌がっているように見えた彼女の口から、そんな言葉が飛び出すとは思わなかったから。

 

「アメが文化祭にやる気を出すのも、ちょっとだけ理解できる気がする」

「…………あの人の名前出すのやめて下さい」

 

 私は月宮さんの口から出る彼女の名前の回数に、若干嫌気がさしてたため、思わず私の口からそう出てしまった。

 月宮さんは苦笑しながら話を続ける。

 

「Vtuberとしての活動でなら何回でも人前に立てるけど、高校で経験できるこれは、人生で一回きり」

「…………」

「そう考えるとだいぶ特別感あるし、やりたくもなっちゃうよね。私達にはそれができるだけの技量もあるんだし」

 

 月宮さんに強い意志があるなら、私から言うことは何もない。

 ちょっと心配だけど、私は彼女の意思を尊重する。

 尊重するが……

 

「それなら私だけ学校を休ませてもらいます」

 

 ならこっちはこっちで勝手にするだけだ。

 

 自分からストレッサーの坩堝に突っ込む気など、私にはさらさらない。

 

「は?』

「確か……残り休める日にちが4日くらい残ってたと思うので、それを使わせてもらいますね」

 

 繋いでいた手を離し、私は一人で歩き出す。

 数歩先で振り返ると、彼女は呆然と立ち尽くしていた。

 

「どうしてそうなるの? 一緒に文化祭を回りたいって思ってたのに、茜ちゃんは違うって言うの?」

「…………違う……かもしれません。私には何のメリットも報酬もありませんし」

「私が――あんたの好きな人が一緒に居たいって言ってるんだよ!? それが報酬にならないの?!?!」

 

 月宮さんはそう言って声を張り上げながら、言ってかかってきた。

 既に私達は人通りが多いところにいるのも構わずに。

 

「あはは…………」

 

 私は彼女の横暴な態度に少し微笑む。

 

 そう言う言葉を自信持って言える人が、存在すると思ってなかったから。

 まぁでも、私はシオンちゃんの――月宮さんのこういうところを好きになったのだろう。

 

 それでも答えは変わったりしないが。

 

「なりませんね。それに貴女は何か勘違いしてるようですが……私が好きな人の言うことを何の対価もなしに聞くって思ったら、大間違いですよ」

「…………っ」

「……少し言い過ぎちゃいました、すみません。また来週学校で会いましょう」

 

 私はそう言って彼女と別れて、バス停へと歩を進める。

 

 

 ---

 

 

 アスファルトを蹴る足取りは重い。

 バス停の柱に寄りかかると、じわりと胸の奥に嫌な汗が滲んだ。

 

「…………」

 

 ……それにしても月宮さんは凄い。

 ここまで内面が終わりきっている人に、ちゃんと向き合ってくれているのだから。

 私みたいな底辺、さっさと見切りつけて捨てた方が楽だろうに。

 旅行費もあんなにかけてくれたのに、私はそれに報いる気なんて全くないし、報いるだけの財力も知恵も力もないのに。

 

 月宮さんと関わってると、人間関係とは何か?――という意識がバグってくる。

 人間関係ってもっとこう、ギブアンドテイクなものだと思っていたんだけど……

 

「はぁ……今日は何を作ろうかな〜」

 

 無理やり献立のことでも考えて、思考の霧を晴らそうとした、その時だった。

 

 私がそう独り言を呟いた時、後ろから肩をトントンとされる。

 突然のことに恐る恐る振り返ると……

 

「え……?」

 

 そこには氷のように冷え切った表情の、月宮さんが立っていた。

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