私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....? 作:顔のない女
こ、こんなの……偶然にしては出来すぎている!
天野シオンちゃん――いや、月宮詩音さんが、私のクラスメイトだなんてっ!
私は夢の続きでも見ているのだろうか……?
寝てないのに。
「……どうして……月宮さんがこの学校にいるんですか?」
私は声を震わせながら質問した。
それでも、彼女はあっけらかんとした笑顔で、まるでどうでもいいことを話すかのように言う。
「見ての通りここの学校に通ってるんだよ、私。茜ちゃんは気づいてなかったみたいだけどね」
そう言いながら彼女は、差し出した手で私の指を軽く包み、立ち上がらせた。
その掌の温度が頭の奥で現実を告げる。
夢じゃない。幻でもない。
でも受け入れ難い。
私は引かれるままに歩かされ、気づけば自分の席の前。
そして流されるままに席に着き、月宮さんは当然のように、私の机の縁に腰を乗せた。
「……じゃあ……どうして、ぶいフェスにいたんですか…………」
やっとのことで、もう一つ聞きたかった質問を搾り出した。
けれど彼女は振り返らず、軽い調子で言う。
「それはさっきも言ったけど――私が天野シオンだからだよ」
その言葉が空気を震わせた瞬間、世界の色が反転した。
視界が白く霞んで、足元から感覚が抜けていく。
……もうダメだ。
逃げ道なんて、どこにも残されていなかった。
しっかりそう言葉にされると、流石に効いてしまう。
今のこの声は紛れもなく、シオンちゃん本人の物なのだから。
もう認めるしかない――この目の前にいる彼女が、私の“
「会場では周りにバレないよう声を変えてたけど……もう今は普通に喋ってるでしょ? ガチ恋してるあんたなら、わかるんじゃない?」
“ガチ恋してるあんたなら”。
その一言が頭の中で爆発した。
その言葉のせいで、私の全身が焼けるように熱い。
顔から火が出そうなのに、視線を彼女の背中から逸らすことができなかった。
「あぅ……ぅぅ…………」
……そうだ!
そうだった!
私はシオンちゃんにガチ恋している事を、月宮さんに伝えているんだった!!
しかもそれが何の因果だろうか。
月宮さん自身が、実は天野シオンちゃんだった――などという最低最悪のオチかつ、あまりに運命的すぎる再会をする事になるなんて……
「ハッ――!」
「どうかしたの、茜ちゃん?」
というか!――よく考えたらここで恋を否定しないのはまず過ぎる!
「実はその……恋はその……ちちち……違くて…………!」
……とりあえずは何をしてでも、ガチ恋の否定をしなければならない。
じゃないと、同性愛者であることを肯定したりしたら、最悪の場合、本当に学校を退学するしかなくなる!
だって、絶対みんなに虐められるから!
…………別に学校を退学するのはいいけど、その理由で辞めるのだけは嫌だ。
2次元の女の子の事を好きになる人なんて、クラス内だと私しかいないと分かりきっているのだから、入学して早々に最低な目立ち方をしたくない。
月宮さんが言いふらすような人だとは思えないけど、もし万が一にでも言いふらされて、周りにバレたりしたら……
……このままでやっぱり、一ヶ月不登校をかました隠キャレズ女というレッテルを貼られて、虐められるコース一直線だ。
「え、違うって何? 天野シオンに恋してるんじゃなかったの?」
月宮さんは静かに立ち上がり、私の隣に影を落とした。
その表情はまるで、小動物を追い詰める猫のように、柔らかく、でも確実に私を逃がさない。
「あ、あああアレは! その場の、ほら、フェスのノリで言っただけで……!」
私は両手をぶんぶん振りながら、必死に言葉を捻り出す。
「私のシオンちゃんに対する想いは、その……他のファン達と同じなんですよ! あは、あはは……」
……もはや私からすれば、彼女の一言一句に至るまでの全てが、最推しの御言葉に等しいので、シオンちゃん相手に嘘を吐くのは心苦しくある。
でも!――彼女は月宮詩音さんだ。
断じて天野シオンちゃんではない!
……ほんと、シオンちゃんのままの姿が、現実に存在してなくてよかった。
たぶんあの姿で現れたら、私は完全にシオンちゃんの言いなりになってるだろうし、もしやれと言われれば、多分……人だって殺しにいけたと思う。
今だって行くつもりのなかった学校に登校しちゃってるし……
「ふ〜ん?」
月宮さんはわざとらしく眉をひとつ上げて、微妙そうな声を漏らした。
「……あの、友達なら私の言葉を信じてくれますよね?」
もはや月宮さんのミ◯キー声が、今は懐かしく思えてくる。
まだ声が切り替わってから、1日も経っていないのに。
彼女の声がシオンちゃんじゃなくてミ◯キーのままだったら、どれだけ良好で健全で幸せな友人生活を送れたことか。
……こんな状況になった今、しっかりと月宮さんと友達をやっていける自信が、今の私には全くなかった。
もはや友達を続けるにしても、100歩くらい引いて、彼女と関わっていきたいとさえ思い始めてるところではある。
そんなことを考えていた時、彼女がふいに動いた。
月宮さんは、すっと自身の首元に手を伸ばし――ネクタイを、静かに引き抜いた。
「つ、月宮さん? ……それは何をしてるんですか?」
「んー……気になった事があるから、実験してみようかなって」
「実験?」
「そ。だからちょっと茜ちゃん、今から20秒くらい抵抗せずに目を瞑っててくれる? すぐ終わるから」
抵……抗……?
「え……あぁ、はい」
一瞬疑問に思ったけど私は了承し、その言葉と共に眼を瞑る。
「じゃ、動かないでね〜」
軽く笑う声とともに、気配が近づいてくる。
香水でもないのに、微かに甘い匂いが鼻先をかすめた。
制服の布擦れの音、靴底が床を踏む微かな音――それら全部が、耳の奥で異様に鮮明に響く。
次の瞬間、月宮さんの指先が髪に触れた。
そっと梳かれる感触がする。
絡まることもなく、流れるように撫でられ、その軌跡だけがやけに熱い。
そして、その指先が一瞬止まり――何かを結ぶように動いた。
「はい、完成〜。もう眼を開けて良いよー!」
「あの……開けて良いよと言われても、何も見えないんですが」
「それはそうだよね。だって目元に私のネクタイを巻きつけたんだもん」
「――え?」
何故そんな事をする必要性があるのか、全く分からない。
私は彼女の行動が理解できず、すぐに自分の顔に巻かれているネクタイに触れようとした。
だけど、巻かれている布を慌てて剥ぎ取ろうとした瞬間である。
「
「はい!」
今の声、言葉。
月宮さんがいつも出している感じの、ちょっとウザったくて元気な声色と違って、彼女が今出した声はまさしくシオンちゃんがvtuberとして配信で出している時のもの。
ダウナー且つ少し高音で、落ち着きはあるんだけど明るさは抜けてない……声色だった。
完全にシオンちゃんそのものに寄せて、話しかけられたせいで、私はその声に本能で反応してしまった。
「って月宮さん! 私に何を――」
「
私はまたもや体が勝手に反応して、言いなりになる。
「…………」
「んふふふ、ふふふふっ、あっははははは!!」
月宮さんはもう、何がおかしいのか分からないくらい笑っていたし、私は何で彼女の言うことを何の抵抗もなく聞いているのか分からなかった。
「茜ちゃん、あんたって本当に面白い。そんなに私のことが好きなんだね」
月宮さんは笑いを押し殺すように、震えながら喋っていた。
それには多少の苛立ちを覚えるが、今はそんな感情に揺さぶられている場合ではない。
「ち、違います!私は別に誰も好きじゃ……ないです」
「
「くっ……ぅぅ……」
頭の奥が熱くなり、思考が霞む。
私は反射的に舌先を噛んだ。
痛みで我に返るために。
じんわりと鉄の味が広がり、涙がにじむ。
「月宮さん、お願いします、もう止めて……早くこのネクタイを外して下さい……これ以上こんな事をしてたら、私の頭がおかしくなっちゃいます……!」
声が震える。
息が浅くなる。
心臓が、鼓動ではなく警報のように鳴っていた。
「はぁ……はぁ……」
私はなんとかして呼吸を整えようとする。
だけど彼女は少しだけ息を吐いて、低く笑った。
「えー……じゃあ次で最後にしてあげる」
「月宮さんッ!」
「何にしよっかな〜」
どうにかして止めようとする声は、空気に溶けて消えてしまった。
月宮さんの思考はもう完全に、彼女の遊戯の世界に閉じている。
私の声も、恐怖も、もう届かない。
まるで吸血鬼が魅了をかけた相手で、遊ぶかの如くだ。
やがて彼女はどうするか決めたらしい。
手のひらが頬に触れる。
「ひっ……!」
呼吸の隙間で、彼女は囁くように微笑んだ。
「茜ちゃん――『月宮詩音を愛してる』って、言ってみてよ」
……その一言にぞっとした。
心臓の奥を冷たい針で刺されたような感覚だった。
「や……嫌です、そんなの……絶対に……」
必死に抵抗はするけど、私の頬を撫でていた指が、滑らかに耳の後ろへと移動していく。
そこに残る彼女の体温が、思考を溶かしていく。
「
その言葉の響き方が違った。
甘くて、柔らかくて、脳の芯に直接触れてくる。
耳のすぐそばで囁かれた生の声は、現実よりも深く、
「ああ……ああああ……!!」
……月宮さんは魔性の女の子だ。
なんで彼女は私にその言葉を要求するんだろう。
私が今一番お願いされたくない言葉を――リアルの女の子に告白するという辱めを、彼女は『やれ』と命じた。
もはや友達のふりをして、私の人生を終わらせに来ているのでは無いかと錯覚してしまうほどである。
どれほど心が嫌だと叫んでも体は抗えない。
シオンちゃんのファンとして――彼女の愛の奴隷として、私を縛り付けている鎖が勝手に体を動かしてしまう。
「……私は――月宮詩音さんのことを、愛してます……」
「ふふっ、悪くないね。いつも男の子に告白されてばっかりだから、こういうのも新鮮で良いかも」
月宮さんはそう言いながら、私の目元を覆っていたネクタイを外してくれる。
――でも、もう許せない。
私の体を好き勝手に操って、弄んだ罰を与えないと気が済まない。
「あれ? ちょっと湿ってる。もしかして泣いて――」
その言葉を聞き終える前に、理性が焼き切れた。
私は即座に立ち上がる。
そして彼女が言葉を言い切るよりも早く、月宮さんの足を引っ掛け、その華奢な体を勢いよく床へと押し倒す。
衝撃で少し息を詰まらせた詩音さんの上に、私はほとんど覆い被さるような形で、のし掛かった。
「乱暴だね。私のこと嫌いになった?」
「月宮さんは私にできた初めての友達です。嫌いになったりはしません」
さらに即座に両手首を掴んだ。
自分のネクタイを素早く引き抜き、彼女の手首をひとつにまとめて拘束する。
そして右足を彼女の股の間にねじ込み、逃げ道を完全に塞いだ。
「ですが、今のは流石にやり過ぎです。貴女は私のラインを飛び越えてしまいました。なので今回は本気でやり返させてもらいます」
「私のことを殴ったりしたら、うちのファン達に殺されちゃうかもよ?、茜ちゃん」
追い詰められているはずなのに、月宮さんはまだ余裕ぶった笑みを浮かべている。
その強がりが、かえって私の火をつけた。
「いいから黙って20秒、目を瞑っててください。拒否は許しません。――言うことを聞かなかったら殺しますよ」
「――――――ッ」
私は彼女を本気で睨みつけた。
私の有無を言わせぬ声に、月宮さんはようやく焦りを滲ませた。
彼女はしっかりと私の言葉を聞き、ゆっくりと瞼を閉じる。
その、美しく長い睫毛が震えるのを見た瞬間、不思議と胸が高鳴った。
無防備な顔に吸い寄せられるように、私は彼女の後頭部にそっと手を回した。
指先に彼女の身体の微かな硬直と、震えが伝わってくる。
「……少しでもやり返されると、すぐに手を引いて怖気づく。まるで小学校のいじめっ子達を見ているかのようです」
月宮さんは言い返してこなかった。
……あれだけ調子に乗っていたくせに、いざ自分がされる側になると、こうも簡単に恐怖を滲ませる。
そういうところは陽キャも変わらないんだなと、感じたりもした。
「…………」
そして彼女の頭を右手で抱き上げ固定させたまま、私はゆっくりと顔を近づけてキスをした。
「――――――ッ!?」
月宮さんはキスの瞬間、驚いたように眼を見開いた。
視線を合わせたくなかったので、私の左手人差し指の爪先を、彼女の鎖骨へ強めに当てた。
月宮さんは意図を読み取ったようで、再び眼をゆっくりと閉じる。
そして次の瞬間、私は彼女の唇の合わせ目に舌先を当て、ゆっくりと押し開いた。
温度の違う二つの呼吸が、すぐ間近で混ざり合う。
彼女の舌が一瞬、逃げようと奥へ引っこむのを感じたが、私はそれを許さず、追いかけて捕らえ、絡め取った。
唇の裏で息が擦れ彼女の喉が、「くぅ…っ…」と微かに鳴る。
聞こえるのは、濡れた唇が離れたりくっついたりする粘着質な音と、お互いの荒い息遣いだけだった。
「やら……ぁ…………やめ……」
やがて名残を惜しむように唇が離れる、その刹那。
私はこんな事を二度とさせない為に、直感のまま彼女の舌の先をじりじりと、骨の髄にまで響かせるように、ゆっくりと強く噛んだ。
「……んぁ」
月宮さんの身体がびくりと跳ねた。
肩が震え、細い首筋に血の気が昇っていく。
呼吸が荒く口元がわずかに開く。
唇の間から漏れ出す息が、私の頬にかかって熱い。
私はゆっくりと彼女の上から体を起こした。
更に拘束していたネクタイを解くと、彼女の両腕が床に落ち、細く震えた。
静かな音だった。
まるで何かを壊した後の静寂のように。
横倒しになった月宮さんは、呼吸を整えようとしながらも、どこか遠くを見るような目をしていた。
その視線が空虚で、少しだけ眩しかった。
「いつまで寝てるつもりですか。……起きて――ください!」
私は彼女の襟を掴み、ぐいっと、強引に力強く引き寄せる。
彼女の髪が頬に触れ、滑らかな感触が一瞬だけ過ぎる。
距離が詰まり、互いの呼吸が混じり合う。
その距離で、ようやく彼女の瞳が焦点を取り戻した。
「……あっ……は……はぁ……。凄いよこれ。……キスって……こんなんだったっけ」
ほんのりと赤くなった顔で月宮さんが言った。
私は彼女の襟を掴みながら告げる。
「月宮さん」
「なに……? まだお仕置きが足りないの?」
「いえ、そうではなく、お願いがあるんです」
「お願い?……いいよ、何でも言って」
「なら遠慮なく言わせてもらうんですけど……私はシオンちゃんの影無しで、学校に登校する気は全く無いんですよね。私には友達もいませんし」
「うん……」
「だから、貴女には私が学校に通い続けるため、私と近いところにいて欲しいんです。他にいるはずの友達達よりもずっと近くに」
そう言うと、月宮さんは少し長く感じるくらい私と視線を合わせた後、両腕を私の首に優しく回し、体重をかけるように抱きついてきた。
「……やっぱり私の言葉だけじゃ足りない?」
「当然です!」
「でもシオンとしての言葉で囁いても、あんたは満足してくれないんでしょ」
「貴女はシオンちゃんではなく、中の人の月宮さんでしかないので……」
「ふふっ、そんなこと言ってるけど、茜ちゃんは私にシオンとしての振る舞いを求めてる。――これは矛盾してるんじゃないかな?」
「…………」
その言葉に私は困ってしまった。
確かに私は月宮さんを月宮さんでしかないと言っているのに、同時に彼女に天野シオンとしての在り方も求めている。
彼女に対して言った『シオンちゃんの影』という単語も事実その意味であったし、これは私の無意識で行われていたことだった。
それは彼女の言う通り、完璧に矛盾している。
反論の余地が無い。
なので私は迷った。
やっぱり学校を退学して、人間社会から逃げるのが丸いのでは?――と思ったりもしながら、考えに考えて時間を使っていると、月宮さんから言葉を差し伸ばしてくれた。
「……いいよ。そうしないと学校に来てくれないなら、私が側に居てあげるしかないよね」
月宮さんはそう言いながら、私を力強く抱きしめた。
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それから私は勢いに任せ、月宮さんに自分の席に戻ってもらうよう命じて、他の生徒たちが登校してくるのを待った。
一ヶ月ぶりの登校だった私は、当然ながら凄く悪目立ちした。
でも月宮さんを後ろの席から見つめて、微量なシオンちゃん成分を吸収しながら、なんとか死ぬ気で周りの人達を言いくるめてやり過ごした。
もう真剣に色んな嘘を吐きまくって、私に興味本位で迫ってくる全員をガチで撒ききったけど、これが割と簡単に成功したのは、もう一人不登校の生徒がいたからかもしれない。
その子は相当不定期で学校に来る気分屋らしく、私が不登校を始めると同時に、その子も不登校を開始したという。
私がいない一ヶ月の間に気分で学校に来ていて、登校日数はおよそ7日程度だそうだ。
その子の存在もあって、私はそこそこの努力でどうにか目立ちまくりなこの状況を打破できた。
そして時は昼休みへ。
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昼休み、校舎裏。
私は壁に両手をつき、下を向きながら思いっきり叫んだ。
「一体何をしてるんですか、私はああああああああぁぁぁっっ!!!!!!」