私の最推しがクラスメイト?! ガチ恋なのをいいことに好き放題やられてるんですが、この超性格の悪いVTuberからどうやって逃げればいいですか.....?   作:顔のない女@人外ものしか書けない人

76 / 76
第75話 初配信目前

《そろそろ配信時間だね、緊張とかしてる?》

《名前なんだっけ?》

(ともしび) アカリ……だったろ。確か設定は引き篭もり系女子高生だったか?」

《なんだよ引き篭もり系女子高生って……》

《流石ヤリチン、女のリサーチだけはしっかりしてる》

「逆になんで後輩になる奴の情報を、お前らは知らないんだよ」

「というか、それくらいDiscordなりTmitterで確認するなりしてくださいよ」

 

 私はタイムラインに流れる情報の濁流を片手間で捌きながら、素っ気なく応じた。

 

《……この後輩、口悪くない? 気のせい?》

《気のせいじゃない。初期の頃のシオンと比にならないくらい酷い》

《サニーの話だとこの子、類を見ないほどの人嫌いって聞いたよ。たぶんこれが平常運転なんだと思う》

《えっ、そうなん? じゃあごめん。ちょっと馴れ馴れしすぎたよね》

《アカリちゃん、ちょっと私のことを罵ってみてくれない? そしたらお姉さんは良い感じに興奮できるからさ!》

「…………」

 

 初配信スタートまで残りはおよそ2時間。

 絶対に失敗できない配信且つ、詩音さんのこれからを大きく左右する運命の岐路。

 それを前に私はしっかりと()()で休憩に挑みたかった。

 

 だというのになぜだろうか。

 控室には10人以上の先輩方が居座っている。

 どうやら全員揃いも揃って私に興味津々らしく、鬱陶しいことこの上ない。

 

 ……まぁ私はどうやらただの新人ポジではなく、この事務所のこれからを大きく左右する重要な位置にも立っているそうなので、目立つのは仕方ないのかもしれない。

 それに彼ら彼女らは鬱陶しいくらいに色々配信で大事なことや、アドバイスをくれたので邪険にするわけにもいかない。

 

「……今日は元日ですよね。先輩方もこんな場所で油売ってないで、実家に帰ったらどうですか? 家族も喜ぶと思いますよ」

《いやいや、今ここにいるメンバーは暇人の道明寺を除いて、大体が年越し3D特番終わり組と新年マリカ杯抽選会組だよ? 正月休みなんて概念、この業界にはないの♪》

《その隙間に突如ねじ込まれた超大型新人デビューの初配信。気にしないって方が無理でしょ》

《おまけに君は、俺たちの今後を左右する大きな歯車だ。見届けない手はないね》

《それだけじゃなくて、みんな普通にシオンの心配もしてるんだけどね》

《10代後半に入ったばかりの学生。まだまだ子供なあの子に、今のSNSの状況は心に大きく響いてしまうだろうな》

 

 今この控室にいるVtuber達は当然、今の大炎上の件を知っている。

 そして二つの映像の概要も、ここにいるメンバーには全部私の口から伝えた。

 

 Vtuberとしてのキャリアを積んできた彼らの反応は様々だったが、誰一人として否定的な言葉を投げかける者はいなかった。

 

「過去にはたった一つの炎上で、その企業V全体の視聴数が8割ほど減った例がある。アカリが知ってるかどうかは知らんが――」

《……おいレン、その話はマジでやめろ。縁起が悪すぎる。絶対に元日にする話じゃない》

「……」

 

 彼の言わんとしたことは理解できる。

 私は詩音さん以外のVtuberなど見たりしないが、歴史としてここ数日の間に過去にいた人達について少しだけ学んだ。

 

 炎上から立ち直れずそのまま引退していった者。

 冤罪によって起きた炎上によって、やむをえず事務所に籍を置けなくなった者。

 全ての罪の元凶となり、事務所と共に対消滅した者。

 他にも様々な人がいる。

 

 そして、そのどれを取っても思うことが一つある。

 

「……真偽が確定していないカレカノ問題で、よくここまで炎上させられるものです」

「ん?」

 

 私は再び検索欄に『シオン』と打ち込んだ。

 

 @kurione0820

 シオンのクリスマス配信が告知もなく無くなった上に、年末特番も不参加か。……なんかツミートするくらいしろよ普通に

 re: 0 rt: 5 fav: ♡30

 

 @amanochan_suko

 天野シオンはお前らバチャ豚共に叩かれすぎて耐えられないってよ。今頃ブサイク彼氏のチ◯ポしゃぶってるって絶対。

 re: 30 rt: 1000 fav: ♡12000

 

 @love_and_Peace

 天野シオンは謝罪一つできないのかよ。俺らファンを差し置いて、急に配信休んでごめんなさいも一つも言えないとか、配信者失格すぎる。

 re: 15 rt: 563 fav: ♡6676

 

 @panda_sasa11

 シンプルに彼氏共々死んでくれ。

 re: 7 rt: 67 fav: ♡456

 

「……群れれば群れるほどに、人は自分が強いと過信する。どこまでいっても人は個人としては弱者でしかないのに……そもそもVtuberやアイドルなんか追っかけてる人の殆どは、社会的弱者でしかない」

 

 ただ私は彼らの気持ちも理解できてしまう。

 だからこそ、私はそこまで怒りに振り切れず、この騒動を引き起こした男に対する怒りがあまりない。

 もし立場が逆だったのなら、私はきっと彼の立場に立っていた可能性を否定しきれない。

 

 いや……臆病者の私にはできなかったか。

 私は口先だけの女でしかなく、きっと立場が違っても、SNSで負け組として呪詛を吐いていただけに違いない。

 

 あぁ……なんで社会はこうも不合理で、複雑なのだろう。

 もっと……もっと単純なら、私も生きやすいのに。

 

「……結局のところ私を含めて、弱者は一律に首でも吊って死ぬのが正しいんですよね」

 

 弦巻さんがくれた薬の効果もあって、体がかなり楽になった。

 そのせいで余分に頭が働いてしまう。

 

 神様は意地悪だ。

 考えれば考えるほど、この世界が醜く汚い物に見えてしまう。

 

 人という醜い獣は、どれこれも本質的には変わらない。

 本能という原典はみんな同じものを共有しているのだから、私も他人もみんな等しく汚れているのである。

 そう頭で咀嚼していても尚、今はすこぶる気分が悪い。

 

《や、やばい……この子、思想が強すぎる》

《本当にこの子、あの詩音と仲良かったの?……相性が良いとは全く思えないんだけど》

《マネージャー!! アカリちゃんまだコンプラ研修たりてないです〜!!!》

《俺らの未来がこの子の発言一つで大きくブレると思ったら、すっごく怖いな》

 

 視界がチカチカと明滅し、周囲の景色が毒々しい赤に染まる。

 他人が醜い獣の形をして、蠢いているように見えた。

 

「あぁ……本当に気持ち悪――」

 

 その瞬間、左頬に鋭い衝撃が突き抜けた。

 

《あああ!??》

《何をやってるんだか……》

 

 視線を向けると、そこにはピコピコハンマーを構えた宮本が立っていた。

 彼は私の手からスマートフォンを、ひったくるように奪い取った。

 

「配信前にこんな劇物見てんじゃねえよ、馬鹿が」

《レンが女の子を殴った!!!》

「ちげえよ、ハンマーで叩いただけだ」

《……女子高生殴ったことには変わらんやろ》

「ッチ……せえな。お前らもエゴサしながら駄弁ってないで、もうちょっと新人の緊張がほぐれることしろよ」

《例えば?》

「そう――だなっ!」

 

 宮本さんはそう言いながら、テーブルを大の字で占領して爆睡している弦巻さんを目掛けてハンマーを投げつけた。

 弦巻さんは意識を眠りに沈めたまま、脊髄反射だけで跳ね起きると、飛来した凶器を即座に蹴り返した。

 

 宮本さんの顔面を直撃しかけたそれを、私は無言で手を伸ばし、空中でその柄を搦め取った。

 

「アイツはなんで寝ながらアレができるんだよ、怖すぎる…………っていうか、めちゃくちゃ反射神経いいな、お前」

「…………いえ、別に」

「で、緊張がほぐれることだったか。こんだけ人数いるんだったら、人狼ゲームでもやればいいんじゃね?」

《怠い》

《眠い》

《あと、うざい》

「――人狼側で勝利したやつは今日の飲み無料で」

《よしやろう、今すぐやろう》

「……だそうだ。アカリも当然やるよな?」

 

 はぁ……

 ゲームなんて時間が無駄になることは、あまり好きではない。

 だけど宮本さんは私に気を遣ってくれているみたいだし、それにここで私が冷たい態度をとって、詩音さんの評判を落とすのは非常によくない。

 

 それは詩音さんの今後に響いてしまうから。

 私が彼女の居場所を作ってあげないといけない。

 

「いいでしょう。飲みには興味ありませんが、人狼には参加します」

《あっコンプラちゃんって、そこは乗り気でくるんだ》

「コンプラちゃん…………アカリです。それか茜って呼んでください」

 

 

 

 ---

 

 

 

 結局、人狼ゲームで勝利を収めたのは私ともう一人の先輩だけだった。

 

《もう一戦っ!!》

「そりゃ無理だ。もう時間だろ」

 

 宮本さんが人狼のアプリを落としたタイミングで、金原さんが静かに控室のドアを開けた。

 

「藤崎さん、時間よ」

「分かりました」

 

 私は迷いなく立ち上がり、控室の出口へと歩を進める。

 そして一度足を止め、部屋に居残る面々に向かって深々と頭を下げた。

 

「色々教えてくださりありがとうございます」

《すっごい堅苦しい新人だな》

「では行ってきます」

《うぃ〜、頑張ってこいよ》

《私達はここで配信を見守ってるからね〜》

「……それはだいぶ嫌ですね。人狼の続きでもしててもらえると助かるんですが」

《初配信をどんなテンション感でやるのか、結構見ものだな》

《おまけに初手で百合営業の宣言を挟むんでしょ? 難易度たっけ〜!》

「……たぶん今日の配信は、冬休み、炎上、新人デビューってのも重なって、視聴者数はおよそ10万人は余裕で越える。緊張して馬鹿をやらかすなよ」

 

 宮本の忠告を背中で聞きながら、私は扉の向こう側へと一歩踏み出した。

 

「10万だろうが100万だろうが、関係ありません。……全員騙し通してやりますよ。詩音さんと、私自身の贖罪のために」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

次の飼い猫は私?! 幼馴染とはいえ、なんで大嫌いな女のためにこの私が……(作者:顔のない女@人外ものしか書けない人)(オリジナル現代/恋愛)

猫に変身できる人外少女の西園玲香が、とある出来事で酷く落ち込んでいた椎名葵を偶然見かけた。▼玲香はそれを無視することができず、本当に嫌々ながらも白い野良猫として葵に寄り添い、再び縁を結ぶことになってしまう。▼玲香は葵の猫としての側面、そして葵に陰湿な虐めを受けながら生活する、人間としての自身の二つの顔に、すごく頭を悩ませることになるが......▼大嫌いなは…


総合評価:629/評価:8.87/完結:34話/更新日時:2026年05月28日(木) 18:01 小説情報

妖狐の私、人間の社会で稼ぐためVtuberとして百合営業をしていたら相方の化け狸がガチだった件(作者:パッタリ)(オリジナル現代/日常)

 信仰が薄れ、妖怪も自力で稼がねば生きられない現代社会。妖狐のシズクは生き残るため、化け狸のコノハと組んでVtuberとなり、百合営業で日銭を稼いでいた。▼ しかし、画面の向こうで可愛らしく甘える相方の感情は、営業などではなくガチだった。▼ 防犯設備を妖術で容易く突破し、数百年の執念がこもった極上の手料理で胃袋ごと支配しにくる化け狸。▼ これは、平穏な生活を…


総合評価:900/評価:8.62/完結:30話/更新日時:2026年06月21日(日) 12:15 小説情報

添い寝してもらわないと眠れない女の子in百合猛獣だらけの女子寮 〜案の定美味しく食べられてしまうと思いきや、女たらしの才能に目覚めてしまいます!?〜(作者:鐘楼)(オリジナル現代/恋愛)

毎日姉に添い寝をしてもらっている少女、花平希沙音は高校一年の夏、ついに「一人で眠れるようになりなさい」と姉の家を追い出されてしまう。▼一人で眠れる気がしなかった希沙音は、なんとか添い寝を頼めないかと転居先の女子寮で出会った親切な少女、伊咲深白にお願いをする。▼しかし、深白は何人もの少女を手篭めにしてきた悪女だった。▼案の定、希沙音も深白に美味しく頂かれるのか…


総合評価:2428/評価:8.89/連載:28話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:05 小説情報

全方位脳焼き英雄、停戦条件に身柄を要求される。(作者:鐘楼)(オリジナル現代/冒険・バトル)

一ノ瀬ヒナは英雄である。最強なので二つの世界を救い、誰も殺さずに大体丸く収めることができた。……そのはずが、異世界からの停戦条件はヒナの身柄であった。後輩たちに黙って犠牲になることを選んだヒナを待っていたのは、幾度も戦い、最後には共闘もした女王。女王は、ヒナに屈辱的な扱いを──▼「──結婚しよう、ヒナ」▼なんで????▼みたいな話。▼カクヨム別タイトル投稿(…


総合評価:1664/評価:8.66/完結:5話/更新日時:2026年02月17日(火) 12:05 小説情報

心を閉ざした少女からの激重感情(作者:あさまらたゆかあわ)(原作:東方Project)

人里で甘味処を営む家の娘、雨宮澄。▼少しぼんやりしていて、妙に勘のいい少女である彼女には、“見えないものを見つける”不思議な力があった。▼ある朝、休憩中に食べていた団子が一本消えたことから、誰にも気づかれない少女――古明地こいしと出会う。▼「なんで、貴方には私が見えるの?」▼気まぐれで自由奔放なこいしに振り回されながら、澄のいつも通りの日常は少しずつ変わって…


総合評価:1798/評価:8.79/連載:17話/更新日時:2026年05月16日(土) 20:39 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>