ハッピーエンドの、道のあと 作:駒井亀丸
――以上、回想終わり。
無心で掘り返し、埋め直し。
かぐやはふぅと額を拭う所作をした。
「やー、一仕事終えましたわ……ってうわぁっ!?」
そして、シャベルを杖に肩で息をしている私に、目を剥く。
「だ、大丈夫彩葉!? お薬飲む!?」
「……ちょ、待っ……とりあえず息、整えるから……その後お水ちょーだい」
さすがに、酸素薄いとこで肉体労働はヤバいって。誰でもそうなるって。
荒ぶる拍動を気合で抑え込みつつ、かぐやの慌てて差し出してきた魔法瓶の白湯を、時間をかけてゆっくり飲み干す。
人心地ついた後で、かぐやにねだられて、登頂記念の写真を撮る。
本当に嬉しそうに、端末ににやけ顔を見せているかぐやを盗み見つつ、私は苦笑をこぼした。
あれから、長い時間をかけて、私たちは語り合った。
これまでのこと。これからのこと。そして――いつか必ず訪れる、その日のこと。
自分たちの言葉で、時にはケンカして、仲直りして、睦み合って。
そして一つの結論に行き着いた時、かぐやは目を細めて、幸せそうにはにかんだ。
「かぐや」
もう、何千何万と呼んだかしれない、その名を呼ぶ。
ん、と向き直る若く美しい彼女に、私は尋ねた。
「本当に、後悔はない?」
今更、訊くようなことではないのに。問わずにはいられなかった。
かぐやは、柔らかい目元をあどけなく虚空に向けた。
「かぐやがヤチヨだって気づく前の頃、ヤチヨになった時。また彩葉と逢えたときに、やりたいことリストとかおねだりリストとか、めっちゃ作ったんだぁー」
「へぇ、見たかったな」
「まぁ、だいたい流されちゃったり焼かれちゃったり、『いくら彩葉でもコレ、無理ゲーじゃね?』とか思って自分から捨てたりとかしてどっか行っちゃったんだけどさ。覚えてたのも、ツクヨミで彩葉を見つけた時、頭から吹っ飛んじゃった。もう一度会えただけで、嬉しかった」
「……」
「でも本当にやりたかったんだ。彩葉と一緒に。それだけは、覚えてる」
「……その内の数パーセントかぐらいは、叶えてあげられた?」
「ううん、多分それ以上のこと、いっぱいいっぱい、してもらえた」
だから、と。
「もう寂しくないよ」
太陽を背に、歯を見せて笑いかけてくるかぐやがあまりにも眩くて、胸打たれる。
そっか、と軽く流すつもりが、その語調は涙で湿っていた。
「彩葉、また泣いてる。いや~、ほんと最近涙腺緩いよねぇ」
「うっさいっ、用事済んだんだから、もう行くよっ」
だんだんと気恥ずかしさが勝っていき、下り道へと踵を返す。
「で・も!」
だけどかぐやにあっさりと追い抜かれ、回り込まれ、
「一緒にやりたいこと、まだまだいっぱいあるんだから……あともうちょっとだけ、付き合ってよねっ、彩葉」
「…………欲深怪獣」
私は、仕方なさげに苦笑で返した。
「しっかし、これ下りてくのか……覚悟してたけど、ハード過ぎでしょ」
「大丈夫! いざとなったら、かぐやが彩葉をおぶってくからっ!」
「まだそこまでじゃないわ!」
……かくして、かぐや姫は末長く幸せに暮らしましたとさ。ちゃんちゃん。
そんな風に物語は締めくくっても、人生は続く。
頂に到達しても、下り道は続いていく。
駆け上がりと同じく、決して平坦な道のりじゃないんだろう。
それでも、互いを想って、ともに歩幅を合わせていけば。
――きっと最後まで、一緒に、幸せに――
『超かぐや姫!』と出会ったのは半月ほど前。
なんとなしで滑り込みで上映を見に行きました。
冗談抜きで、私の心に感動を取り戻してくれた作品でした。
創作物にかくも心揺さぶられたのは本当に久しぶりのことでした。
メインのキャラクターの掘り下げそれ自体が、共感が持てるよう非常に気を遣って行われているので、ご都合主義でも良いから幸せになってほしい、ハッピーエンドで終わって欲しいと心の底から願うことが出来るのが何より素晴らしかったです。
その余韻がすごすぎてまともに手がつかなかった状態でして、そんな気持ちに整理をつけるために本作を書いたわけですが、本当にキャラクターの言動や扱いに、拙いながらに気を遣いました。
それからもう一度見に行ったりノベライズや資料を買ったりして見返すたびに新発見や別の解釈が生まれ、拙作との相違点、設定ミス、キャラ描写の未熟さにウゴゴゴと悶絶する日々。そもそも、あえて本作がカットしたり描写を省いた部分をあえて今更言語化する意義とは、とも頭を抱えることもありました。
本当にかぐや道は奥の深い修羅の道です……
まぁ、そんな懊悩も含めて、久しぶりに書いていて心の底から充実して楽しめました。
あらためて、素晴らしき原作および、ほぼ自己満みたいな拙作を最後までお読みいただきましたこと、心より感謝申し上げます。
いつもはリクエストをメインに別名義で書いていますが、またどこかでお会いできれば幸いです。
ではでは。