ハッピーエンドの、道のあと   作:駒井亀丸

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多分誰かがやってるネタだろうし、なんだったらコメンタリーでも触れそうだけど、単発で思いついたので。
他に思い至ることがあれば、また何処ぞでまとめて上げるかもしれません


おまけ

「私、やりたいことができた!」

「本当のハッピーエンドまで付き合ってよね!」

 

 かぐやと、いや、ヤチヨと全てを理解し合ったあの時から、一度失われた私の(いろ)の葉は、再び芽吹いた。

 それが困難の道であることは、承知も覚悟もしていた。

 

 だけどこんなに早くに、現実の壁が立ち塞がるなんて、思いも寄らなかった。

 

 と言うか、ぶっちゃけ、帰宅直後に。

 

 もはや西暦何年だったかも思い出せなくなりつつ、帰ってきた。

 多分実際には、ほんの二日間空けただけのタワマン最上階。

 部屋中いっぱいのゴミ、ゴミ、ゴミ。

 

 

 

「ヤッッッベェ〜……」

 

 

 

 その散々な有様に、愕然と言葉が漏れ出づる。

 えーっと、家出る前は確か、お母さんに自由に生きる許可もらって、曲作るのに没頭してて、それが完成した歌ってたらふとヤチヨの影がちらついて、ひょっとしてと思ってコンタクトを取ろうとして音信不通になって、ツクヨミにログインしたらFUSHIを見つけて、そしたら現実世界でARの FUSHIが現れて、着替えるだけ着替えてアパート……ヤチヨの本体のところに案内されて……

 

 ――うん、家事、ずぅーっと、なんもやってなかったな。

 

 乾いた笑いがしばらく止まらなかった。

 自然とそれが収まるのを待った後、ダッシュで、全速で、全身全霊で、片付け始めた。

 ジャージに着替えて手当たり次第にゴミ袋に放り込み、掃除機をかけて、洗濯機をフル稼働。

 

 その合間に、友達や学校、バイト先から溜まっていた連絡に返信をしていく。

 特に、自室はひどい。無事なのは音楽機器類の周りだけ。カップラーメンの容器や栄養ドリンクの瓶をかき集め

 

『彩葉ー、もう家に着――』

 

 ……ていた時、ちょうどスタンドに立てかけていたスマホに、ヤチヨの姿が写り込んだ。

 ゴミを手にした私と、目が会った。

 

 ……しばし、二人の間で、痛ましい沈黙が流れた。

 

『うっうっ……うう……まさかあの彩葉が……こんな荒みに荒み切った生活を送っていたなんてぇ~……っ!』

「待って待って待って、誤解!? いや、たしかにあの後色々ダウンしてたの事実だけどそれとこれとは話が別でっ! ああもうややこしいッ」

 画面内で泣き崩れるヤチヨをどうにか宥めすかして順繰りに話をしていく。

 

 かぐやが去った後の、家のこと。周りのこと。きっとそこからは、ヤチヨは知らないだろうから。

 

『なるほど、事情は分かった』

 かつてはアクスタを祀っていた神棚にスマホを置き、私は流れるように、地べたに空けたスペースに正座。

 

『でも、せめてご飯ぐらいはきちんと食べなね?』

 空容器と空瓶の集合を咎めるように見つつ、ヤチヨは苦言を呈してくる。

『これからだって時に彩葉が体壊しちゃったら、ヤッチョ、悲しい』

 へい、と情けなく返事。それから、自分が置かれた状況におかしみを覚えて、自然笑みがこぼれる。

 小首をかしげるヤチヨを見上げながら、

「いや、『昔』とは立場が逆だなって。まさかそっちからお説教喰らうことになるなんて、思いもしなかった」

『お説教なんて……そうかも?』

 

 それから二人して、笑い声を立て始める。

『よしっ』

 手を打ち鳴らして、ヤチヨは言った。

『じゃあ今からちゃんとしたご飯作ろうっ』

 と。

 

 ~~~

 

「……だから、あの惨状はちょっと色々病んでたのが原因で……ほら、その気になればすぐ片付いたでしょ」

『それ、普段やらない人のセリフー』

「料理だって、かぐやが来る前からバッチリやってたし」

『今までいろんな人見て来たけど、やっぱ彩葉のあの暮らしは、彩葉だから出来ただけでフツーに激ヤバだったよ?』

「『フツーに』なのか『激ヤバ』なのかどっちよ」

 

 だいぶ久しぶりにちゃんとキッチンに立ったな、という感慨は隠しつつ、私は炒めたケチャップライスを皿に盛りつけ、また別のフライパンで溶き卵を回し入れる。

 

「配信では全肯定してくれてたのに、ちょっとシビアじゃない? ヤチヨさん、やっぱアレっすか。配信とプライベートじゃキャラ使い分けてるんすか?」

『そんなことはしないよ~。ただ彩葉は、これからもう一度荒波に飛び込もうってんだから、優しくばかりもしてあげられない。マーライオンはあえて厳しく子どもを千メートルの海溝へと叩き落すのです……ほら、そこでフライパンとんとんして寄せる』

「はいはい……っと」

 

 今まで、月見ヤチヨといえば天上の存在。私の女神様。すべてを知った今でも、それは変わらない。そんなヤチヨとの他愛ない会話など、この間まで想像も及ばなかった。

 けれど、いざそうなってみると、ふしぎとなじむものだった。

 

 ややぎこちない手つきで焼きあがったオムレツを楕円形に整える。

 半熟をキープしたそれをケチャップライスの上に置き、中央に切れ込みを入れればアラ不思議。黄色の帳を下ろし、見事半熟卵のオムライスの完成だ。

 

「ふふん、どーよ」

『いよっ、さすが彩葉! 鉄腕シェフ! グランメゾン立川!』

 マーライオン、言ったそばからどっか消えたな……

 

 まぁ、何はともあれメインを置いて、そしてもう一品――余ったご飯に、市販の素とトマトやチーズなどを使って手早く仕上げる。

 向かい合うようにして食卓に置いた端末の中で、ヤチヨが目を丸くした。

 

『これって……』

「偶然材料あったからさ。せっかくだし、揃えてみた」

 

 オムライスに、タコライス。

 忘れるはずもない。かぐやがミルク以外で、初めて口にした、地球の食べ物。

 

 もちろん、あの時両方頬張った『かぐや』がこの味を、もう一度味わえるのはずっと先のことになるだろう。

 それでも、せめてもの、運命を変えるためのきっかけとして。

 

「ここからまた、はじめよう?」

『……うんっ、二人で、また一緒に』

 

 短くも、確かな誓い。

 今はまだ無理だろうけど、その幸せに進むことに迷いはない。

 

『でも、その量をひとりで食べると太るんじゃない?』

「……あの時の自分の行動を都合よく忘れるんじゃない」

 

 もう寂しくない。

 いつか、曇りなく、そんな言葉を聞くために。

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