ハッピーエンドの、道のあと   作:駒井亀丸

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ツクヨミ(3)

『みんなのためにわんわんお!  忠犬オタ公、ただいま緊急で動画を回しております!』

 頭上から、忠犬オタ公の甲高い声が響き渡る。浮かび上がった画面狭しと、黒ギャルチックな顔やら、胸元を押し広げた、野趣と開放感あふれる衣装やらを押し付けてくる。

 

『先日、奇跡の復活を遂げた伝説のライバー、かぐや! かつてその引退ライブに突如として現れた、謎の集団が、なんの告知も無しに今再び来襲! かぐやいろPの黄金コンビに黒鬼! インフルエンサーROKAとまみまみ! 当時の参加者たちが、今KASSEN(ステージ)に集結! 迎え撃つ構えをとっています! 果たしてかぐや姫とその盟友たちは、あらためてその運命の荒波を乗り越えることが出来るのか!? それとも御伽話は、再び幕を下ろしてしまうのか!?』

 

「……好き放題言ってくれるわー」

 私は今もって謎多き古参ファンに、呆れながらぼやいた。

 まったく告知なんて無かったにも関わらず、刻限が近づいてくると、すっかり配信体制が整っていた。

 幕営より外に出た私たちは、陣形を定める。

 

 守将は、お助けモードの戦闘装束に着替えたヤチヨ。

 その左右を、芦花と真実が固める。雷さんと乃依くんは遊撃に回り、かぐやと私とお兄ちゃんは、攻めに回る。

 

 対する月の陣営は、たしかに数は揃えてきているものの、やはりその異様さに対する威圧感はぬぐい切れない。

 屈強な肉体に比礼を帯びた男女の対が二組ずつ。翁の面に両腕を生やしたような個体。竜や金魚の胴体を持つ個体。そしてやはりそれを率いて天守の守護者となっているのは、菩薩(ボサツ)のごとき神々しさを持つ、冠持ち。

 

「もうチートは使わんといてよ」

 並び立つお兄ちゃんに、念の為に釘を刺す。

「ばーか。(オマエ)ら相手に遊ぶ予定だったのに、んなモン持ってきてるワケねーだろ」

 不敵な笑みを浮かべて、帝アキラは、腰をためて金棒型複合武器を肩に構える。

 ……うん、やっぱりいつまでも慣れない。というか普段、軽口でも『ばーか』とか言えるヒトじゃないでしょアナタ。

 

「Black onyXはな、みんなに夢見させてナンボなんだよ」

「だったらもう、その夢を自分たちから捨てるようなマネはしないで」

「……だよな」

 

 苦笑じみた気配が、隣から伝わってくる。

 そして頭上のタイマーがカウントダウンを始めた。

 

 私はあらためてかぐやを見つめ、ヤチヨを顧みた。皆それぞれに互いにアイコンタクトをとって頷き合い、

「帝だと負けフラグになるから、誰か代わり号令よろしく~」

 乃依くんがフラットにヤジを飛ばす。

 誰が言うべきか、そんなものは決まっている。

 今回の主役は、その運命にリベンジするヤツなんて。

 

 かぐやは、にんまりと口角を押し上げて、目と眉を茶目っけたっぷりかつ勇ましげに尖らせて、

 

「まだまだみんなと一緒にやりたいこと、楽しみたいこと、いっぱいあるんだ! この一瞬だって――最高にしていこう!」

 そう高らかに、宣言したのだった。

 

 〜〜〜

 

 黒いオオタカと竹型ハンマーのジェット機能で、空中を飛ぶ。

 空路で目指すは、浮島。その上に特別に設けられた、櫓。

 地上からのミニオンの攻勢が本格的になり始めた時、私とかぐやは移動を中速状態に切り替えて着地体制に入った。

 

 ……が、次の瞬間。

 巨大な口が、私たちを一息に丸呑みにせんと、大きく開いて飛びかかってきた。

 

「くっ……!」

「うぎゃ!?」

 獅子と金魚のアイノコのような怪物が、私たちを阻む……これでも、プレイヤーらしい。

 私はワイヤーを射出して落下を食い止め、かぐやの腰を浚って助けて留める。

 だが頭上ではすでに、月側は鎧袖一触で牛鬼を屠り、鐘を鳴らした。

 

 と同時に、地上でも同じ音が響き渡る。ボトムレーンで争っていた乃依くんが、女型の月人に押し負けて櫓を占拠された。

 こちら側の天主前の高台に、大将落としが立ち上がる。

 芦花と真実も、それを止めようとした。友人たちも、この十年で熟達したプレイスキルを培ってきたものの、如何せん地力が違い過ぎる。

 

 トップレーンで足止めを食ったり、迎撃の最中だったお兄ちゃんと雷さんが、フォローに回ろうとするも、激しい氷矢の追撃にさらされ、思うようには退がることが出来ずにいる。

 

 ヤチヨが攻め手の一体の処理に手間取っている隙を突いて、二人がリスポーンする間もなく、さらに侵入してきた別個体が長物を振るい、天守閣に大将落としが打ち込まれる。

 門扉が破られ、私たちが地上に着地した時には、火柱があがっていた。

 

 ……初戦は、ものの見事にワンサイドゲームに終わった。

 

 〜〜〜

 

「かぁーッ、やっぱ強ぇな。アイツら」

 次のラウンドまでのインターバル中、手のひらを自らの角の辺りに押し当てて、お兄ちゃんが嘆く。

 

「ごめーん……」

 手を合わせて申し訳なさげにするヤチヨに、

「しょうがないよ。今のヤチヨは最強じゃないんだし」

 と慰めを入れる。

 

 ……ヤチヨは、膝を抱えて落ち込んだ。

 

 い〜ろ〜は〜? と。

 親友コンビが異口同音に私を咎める。

 

「いや違ッ!? 悪いとかそういう意味じゃなくて! というかヤチヨはもう在り方そのものが最強というかですかね!? むしろ生きてさえくれればオールオッケーというかですね!?」

 ワタワタとみっともなく言い訳する私に、意地の悪い笑顔を二人は浮かべている。ヤチヨは顔を覆ったまま肩を震わせているものの……コレ、絶対笑ってるやつだ。

 

「てか、わざとでしょ」

「バレた」

「バレましたね」

 

 顔を見合わせる芦花と真実に、そしてなおツボってるヤチヨに、私は溜息をつく。

 

「最強じゃないって、どゆこと?」

 かぐやが私の狐耳の間に頭を置いて、のしかかってくる。

 

「うん、私も今気づいたばっかなんだけど。これ、敵の戦歴」

 私は自身のウィンドウを虚空に拡大させた。

 

「参加数と勝ち数が……てか、両方とも一回じゃん!」

「そう、つまりさっきのが、カウントされてるだけ」

 

 あぁ、とお兄ちゃんは手を打った。さすがベテランゲーマー。そこは察しが良い。

 

「えーと、やっぱりどゆこと?」

 

 お助けモードのヤチヨは主にチームの欠員を補うことが主な役割だ。

 したがって、その力は敵味方の戦力比に依存する。

 たとえば武器装備の性能、たとえばこれまでの戦績。そして奴らはSENGOKUルールを、おそらく学習しただけで実戦自体はこれが初。

 

「――ということで、実際のパワーバランスはともあれ、システム的には『トップゲーマー集団が最低レベルのペーペーにケンカ売ってる』って構図になってるってこと。つまりそれで、ヤチヨの戦闘レベルも大幅に下方修正されてる」

「はぁ!? それって初心者詐欺じゃんッ!」

「うう……まるでウミウシに逆戻りの気分」

 ……色々知ってると、笑えないんだよな……ヤチヨジョーク。

 

「卑怯だぞ宇宙人どもー、正々堂々勝負しろーッ! やって良いことと悪いことの区別もつかないのかぁー!」

 私を揺らしながら、元宇宙人が何か言っている。

 

 

 ん――?

 

 

「……区別が、ついていない?」

 その言葉自体か、それとも思いっきり視界を揺さぶられたことによる衝撃か。ふと脳裏に引っかかるものがあった。

 

「あー、まぁたしかにそれはそうかも?」

 笑いを収めたヤチヨが、それに応じた。

「多分あのヒトたちには、勝負事をしているという意識はないよ。ただ、郷に入っては郷に従え、みたいな?」

 その言葉に、いや助言に、はたと思い至る。そのうえで、第一回戦の、各方面の試合模様を、アーカイブで確認する。

 まるで、未調整のエネミーを相手どっているかのような、一見して無茶苦茶な軌道。

 だが、機械的なその動きには、どこかまとまりがあるような気がした。

 

 ……ということは。

 

「かぐや」

「んー?」

「お手柄」

 私は、頭上の少女に小さな拍手を送った。

「うぇへへぇ、もっと褒めてもいーよ?」

「ぅぐっ……リアルの方でものしかかってくるの止めな」

 

「……なんか、思いついたらしいな」

「まぁね、と言ってもだいぶギリギリだと思うけど」

「じゃ、俺らはそれに乗る」

 と、帝アキラはまだ詳細も聞かないうちに、快諾した。

「このままじゃ、どのみちジリ貧だしね」

 と芦花も同調して賛意を示す。

 

 リーダーの決定に、軽く首肯を返した雷さんは、

「なら、俺がヤチヨとポジションを代わろう」

 と言った。

 

 それ以上言葉は続かなかったものの、提案の意図は十分に汲める。

 本調子ではないヤチヨを前線に送ることには、不安はある。

 しかし守将としてその残機と行動を制限するよりかは、むしろ彼女自身の判断力を頼りに、臨機応変に行動してもらった方が良いかもしれない。

 

「お願いします」

 と返すと、雷さんは無表情で親指を立てた。

 

「ヤチヨ」

 私は、あらためて私の女神様にあらためて向き直って伝える。

「今から伝える作戦を聞いたうえで、どう動けば良いかの判断とタイミングは任せる。でも無理はせず、困ったらみんなを頼ること。良い?」

 

「ううぅ……まさかあの彩葉がそんなことを言えるようになるなんて、言ってもらえるなんてぇ……」

 と涙する。

 いや忙しいなぁ……かぐやもいるから二重に。

 

「じゃ、乃依はそのヤチヨちゃんの援護で」

 お兄ちゃんは、乃依くんに指示する。

「え~、面倒」

 と艶やかに目を細める。

 

 こういう場面で乃依くんの言うところの『面倒』は、お兄ちゃん曰く、

「面倒だし、やりたくない」

 ではなく、

「やるつもりだから面倒」

 という意味なんだとか。

 

「で、この作戦の要なんだけど」

 と、視線を移した。

「ちょーっと、みんなよりがんばってもらっちゃおうかなー」

 もちろん……さっきの意趣返しなんてつもりは、これっぽちも無いけれど。

 にやりと笑いかけたその先には、

「へ?」

 ぽかんと口を開いて自らを指差す真実の姿が、そして携帯しているメロンパンがあった。

 

 ――さぁ、ここから仕切り直し。反撃開始だ。

 もうこれ以上は何も、奪わせたりなんか、しない。

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