ハッピーエンドの、道のあと 作:駒井亀丸
『さぁ、始まりました第二戦! しかし、侵略者たちは早くもトップレーンサイドの櫓を制圧! かぐやチームはノーマークだった模様! これは、予想を外したか!? 早くもかぐや姫は、月へと連れ戻されてしまうのかー!?』
ゲーム内の時刻天候は移り、夕方。
やたらネガティブかつ涙声気味なオタ公の実況をBGMに、私は駆けつつマップを開き、戦況を確認する。
やっぱり、と独りごちる。
敵の陣形は、読み通りトライデント。地上三方面からの、同時進行。
腕とチームプレイによほどの自負が無いと、とらない戦術。
――もっとも、月人たちには驕りがあるわけじゃない。
魅せプ舐めプをしてやろうという虚栄心もない。
そうすることが、セオリーだから。
有利な時にそうすることが、多くのプレイヤーが行う『礼儀』だから。
奴らには、ヤチヨの指摘通り戦いをしているという意識はない。
通過儀礼として、合わせているだけだ。
そこに、合理性や有効性はない。勝敗を意識しているわけでもない。
有利不利で区別を、つけているわけじゃない。
あくまで機械的に、
――十年前のあの日が、そうだったように。
そして戦力を集中させているのは、当然三又槍の要、ミドルレーン。
一本の大橋によってつなげられた、中洲の櫓。
そこに駆け付けた私とかぐやは、迷いなく全速でそこに赴く。
牛鬼は倒さず、遭遇した男女ペア月人が二組。
「……やるよ!」
「ガッテン!」
櫓をめぐり、それらと衝突する。
……やっぱり、こっちにしてもそうだ。実際に武器をかち合わせて実感する。
見た目の奇抜さに注意が逸れがちだけど、ルールに変更が加えられていたとしても、戦い方、基本の試合運び自体は、おそらく過去のアーカイブからの
そして、こちらの基本方針は――その敵のセオリーの裏を、突く。
トップレーンから侵入した敵は二体、基本芦花と真実と二対一の構図を作る。直接的には戦わず、雷さんが敷設した地雷に誘い込んで、仕留める。仕留めきれなかった一体については、雷さん自身が、打って出る。
鬼瓦のような打撃武器が、正確で堅実で、だけど力強い一撃で敵を屠る。
本陣周りの安全を確保したうえで、真実は芦花の手を取り、もう一方の手を突き出した。
レプケトファルス――空中を舞う長細い魚の身体が、ふたりを拾い上げて高速で空中に舞い上がった。
それは、かつてかぐやが発見したステージギミック。
事前に食べ物を与えていると懐き、主人と見込んだ相手を空中に運んでくれる。地上からの、射程外まで。
「彩葉の読み通り、こっちにはまだ誰もいない! さっすが、天才!」
「芦花、お願い!」
「オッケー、任せて!」
ここで、芦花だけを切り離し、浮島に残す。
牛鬼だけが相手なら、芦花のプレイスキルなら難なく単騎で撃破できる。
そしてボトムレーンを巡る戦いも、同時に佳境に入っていた。
ヤチヨは、敵との直接的な戦闘は避け、鐘を鳴らすべく、駆け出した。
それを、翁面の月人が追う。飛び掛かろうとする。守らんと飛び掛かる鬼と追う月人、双方に挟まれるヤチヨ。だけど、前方からの牛鬼を躱し、その鋏を番傘型の装備で流しつつ、あえて月人とぶつける。
「的大きくて助かるわぁ」
櫓の裏。梁に足を掛けていた乃依くんが放った一矢が、その両者を同時に貫いた。
「いと頼もしき、隠密能力」
彼との交錯の間際、歌うようにヤチヨが口にすると同時に、ガラ空きの鐘を鳴らす。
『映えはどうした!? 乃依、あえてお助けに華を譲る、渋い活躍っ』
「引き算覚えただけでーす」
忠犬オタ公の興奮に対し、乃依くんは独り言の声量で涼やかに返す。
たしかに、ふだんからは想像もできないような、まさかのステルスキル。その技量とギャップに、オーディエンスからはいつも以上の歓声が沸いていた。
それに前後して、レプケトファルスにしがみついたまま、真実が急降下。
「あばばばば……」
その振動とスピード感、そして激化していくミニオンからの矢に卒倒しかねない必死の形相で、目を回している真実。当然、こちらの狙いに気づいた月人たちは、飛行タイプの二体を繰り出してくる。
それは、芦花が浮島からネイル型のミサイルを放って防ぐ。その爆撃の応酬の間を、長細い身体をよじりながら、真実たちは通り過ぎていく。
そしてよろめきながらも真実は、地上に、敵の天守閣前に到達した。
……ともあれ、これで準備は整った。私は、それぞれの方面からのモニターと音声から、それを確認した。
「お願い――お兄ちゃん」
応よ、と。
競り合う私たちの後ろから、声が通り抜けていった。
ここまで、ギリギリ射程圏内でミニオン狩りに徹して力を蓄えていた帝アキラが、ウルトを発動した。速威に転換した上で、前方の敵を薙ぎ倒す。二体残ったものの、それらは私たちで切り払う。そして追いつつ、リスポーンした敵も含めて露払い。
「まみ、そのまま撃っちまえ!」
お兄ちゃんが、鋭くボイスチャットを飛ばす。
「え、で、でもっ」
「心配すんな、すぐフォロー入るっ」
長年の推しにそう言われて、拒める者がいるものか。
「あ、あとお願いします〜っ、帝サマ!」
と、揺れる声音で叫びつつ、真実はフォーク型の武器を、大将落とし目掛けて振り抜いた。
下から順に、それこそモチーフになっているダルマ落としの要領で、天守閣目掛けてシュートが飛んでいく。自らの宣言通り、高速移動する帝アキラは、それらに追いつき、そして追い抜いて階を駆け上がる。
待ち受けているのは、件の冠。それと帝とが一騎討ちするかたちとなった。
突進からの速度を緩めず、金棒の大薙ぎ一閃。両手で防がれると同時に、そこに内包されていた刀を抜き放ち、ショットガンを撃ち放つ。
だが帝としては、その守将の動きを封じれば良い。先に倒した連中が復帰するより先に、決着はつく。つかなければ、ならない。
だけども……
自らのマントのうちより、月人は腕を伸ばした……増やしてきた。
帝アキラの猛攻と渡り合うのとは別に伸びたそれは、二個、三個と、大将落としを難なく掴み取った。
最後に残ったのは、ダルマの頭部。これは真っ直ぐ、帝アキラの背に迫っている。
帝は、お兄ちゃんは……それを、自らの攻勢と体躯で死角を作ったうえで、足裏で跳ね上げた。
そして武器を、敵目掛けて投げつける。身軽になったうえで、跳び上がる。
くるぶしで鞠玉のように、軌道を変えて浮き上がったダルマを操り、引き寄せる。
そして、身を捻って、天守閣目掛けて蹴り込んだ。
防ぐ隙も無く、一直線に撃ち込まれたそれは、敵守将の冠を飛び越え、門扉を打ち砕き、天守閣を内部から爆散せしめた。
『Black onyXはな、みんなに夢見させてナンボなんだよ』
その宣言通り――
ファンの、観衆の、そして妹の期待に応えた帝アキラは、勝利の火柱を背に拳を天へと衝き上げた。