レート廃人転生者「バトルで三回負けたら死ぬ呪いってマ?」 作:匿名投稿
俺は無言でレッドの前に立つ。
―――ポケットモンスター金銀における前作主人公枠……。
俗に言う裏ボスとして登場し、最低レベル73、最大レベルに至っては現代においても歴代NPC最高格の88レベルを第二作目にして叩き出した、原点にして頂点との異名を持つ、赤緑・FRLGの主人公。
こんな〝呪い〟を持った状態だと尚更、戦いたくない相手だ。
「……ひさしぶり、またあったね」
「あぁ、だな。残念だが、此処で止まってもらう」
「……♪」
「随分と嬉しそうだな、
俺の呟いた言葉が分かっていないのだろう、可愛らしくこてんと首を傾げている
その艶のある黒髪がふわりと揺れる。
───俺はやけに絵になるその光景を尻目に、この世界へ転移してからの出来事を順に想起しながら、腰のボールホルダーへと手を掛けた。
―――転移以前は極度のポケモン廃人、或いはレート廃人と呼ばれるような、そんな生活を送っていた。一番酷かった時期はBW2の時期……高校から大学の辺り。
朝晩深夜、その殆ど全てをポケモンの育成と対戦に使っていた。
そんな俺は朝、目が覚めると森の中に寝そべっていた。
「……なんだこれ、夢か?」
辺りに響く嫌に聞き覚えのあるノイズじみた鳴き声に漠然とした嫌な予感だけが浮かんでくる。
その方角を見れば
次いで、
「いやいや、あり得ねぇだろ……」
動揺が収まらないまま、目を開く感覚を意識して夢から目覚めようとするも残念ながら目の前にある景色は変わらない。
俺は無意識で誰かに連絡を取ろうとポケットを探る―――が、しかしスマホがない。
代わりにあったのは空っぽのモンスターボール、それもたった一つだけ。
「サファリゾーン宜しく、泥でも石でも投げてポケモン捕まえろってことか……?アホか、そんなんしたら襲われるっての……!」
一人ツッコミが虚しく響き渡る。
ポケモンがいなければ何も出来ない、だが捕獲をミスれば正真正銘一文無しへと早変わり……
ポケモンを捕まえるにはボールが、ボールを買うには金が必要だ。
だが、俺に売れる物は何も無い―――
「―――いいや、あるだろ」
―――知識、情報アドバンテージ。
それを元手に投資してもらえばいい―――。
持ち物、調整、努力値に個体値、種族値……あとは出現ポケモンや乱数調整、バグ技の類も情報商材としての価値はなくとも個人的に利用できるかもしれない。
此処がどれだけ現実に近いのかは分からないが……やるしかねぇな。
「だが、まずはこの森を抜ける、それが目標だ」
まずは此処がどこなのかに当たりをつけなきゃならない。
俺が履修していない部分……例えばポケスペやアニポケなんかの世界線だったら終わりだが……。
「森で、かつバタフリーが野生で出現となるとガラル地方にある微睡みの森の深部、あとは第四HGSS世代のトキワの森辺りか?流石にそう細かくは覚えてねぇな……もっと現実的に進化系統であるキャタピートランセルのみの出現にまで範囲を広げればもっとあるが……」
「少なくともキャタピー一族がいる時点でパルデアじゃないな。BWは……確かBW2のヤグルマの森にある隠し穴にはバタフリーがいたはず……可能性は……低めか?」
孤独感から明確に増えた独り言を呟きながら、森を歩き回ることにした。
救助待ちですらない時点で待機するメリットはない。
「コクーン、キャタピー、トランセル……やっぱりトキワの森か?」
森の空気は澄んでいて思ったよりも暑くない、だがそんな冷静を気取った思考とは裏腹に体力と精神はどんどんと限界に近づいていく。
日は徐々に沈み、じきに辺りは完全な暗闇に包まれていった。
「……っはぁ……はぁ……」
俺は内心の焦りを隠せず、足早に暗闇を進んでいく……足を止めたほうが良いんじゃないかと何度か逡巡するも、暗闇と暗闇に響く何かの鳴き声からくる恐怖心が足を突き動かす。
―――未だ人影は見当たらない、そんな時……木々の間から薄っすらと人工的な光が差しており、その光に照らされている看板がちょうど目に付いた。
俺は震える手でその看板へと近づき触れる。
「オトクな掲示板……ポケモンを捕まえるときはなるべく弱らせてから……」
そんな俺のような人間からすれば当たり前のことが日本語ではない何かの文字で書いてある。
それらが直感的に読み取れることに違和感を抱く―――わけでもなく、そんな余裕はありはしない。
俺は疲れ切った体を引きずるようにしながら、鈍る意識を叩き起こすようにこの先にきっとあるであろう街、そこにあるポケモンセンターへ向かって進んでいった―――。