潮風とブルーグラス   作:ミスブルー

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海の青

館内へ入った瞬間、空気が変わる。

 

冷房の冷たさ。

 

暗い照明。  

 

そして、水の匂い。

 

巨大水槽から漏れる青い光が床と壁をゆっくり揺らしている。

 

「うわぁ……」

 

 ホシノが足を止めた。

 

 そこは南館のメインプール。

 

 黒潮大水槽。

 

 巨大な水の世界。

 

 頭上近くをエイが滑るように泳ぎ、群れになったイワシが銀色の波を作っている。

 

 サメの影がゆっくり横切る。

 

 まるで海そのものを切り取ってきたような光景だった。

 

「……綺麗」

 

 ホシノが小さく呟く。

 

 その声には本当に感動している時特有の静けさがあった。

 

 私は少しだけ彼女を見る。

 

 青い光に照らされた横顔。

 

 淡く光るオッドアイ。

 

 ガラスへ映る桃色の髪。

 

 幻想的だった。

 

 ホシノはしばらく何も喋らずただ水槽を見ていた。

 

 そして突然私を見た。

 

「先生」

 

「ん?なに?」

 

「ここ住めるかも」

 

「それは難しいんじゃないかなー」

 

「でもなんか落ち着く〜」

 

そう言いながら水槽の前へ近づいていく。

 

 ガラス越しに魚の群れを見上げる姿は本当に年相応の少女そのものだった。

 

 アビドスの委員長としての顔でもなく頼れる先輩でもない。

 

 ただ“楽しい場所へ来た普通の女の子”だ。

 

 私はそれを見て少しだけ安心した。

 

 その後もクラゲにペンギンにウミガメ、そしてベルーガ。

 

 ホシノは見るもの全てに反応していた。

 

「先生見てクラゲだよ〜!」

 

「幻想的だね」

 

「なんか先生こういうの好きそう〜」

 

「どういう意味かな!?」

 

「静かでぼーっと眺める系」

 

「あー否定はしないかも」

 

「やっぱり〜」

 

 くすくすとホシノは笑う。

 

深海魚コーナーへ入った瞬間。

 

 ホシノは急に静かになった。

 

 照明は暗く水槽だけがぼんやり青く光っている。

 

チョウチンアンコウ。

 

ダイオウグソクムシ。

 

奇妙な形をした魚達。

 

どこか不気味だがでも目を離せない魅力がある。

 

「……先生」

 

「ん?」

 

「こういう場所ってさ、なんか海の底みたいだよね」

 

「水族館だからね。海って感じがするよ」

 

「そうじゃなくて〜」

 

 ホシノは水槽を見つめたまま続ける。

 

「音が遠くて…静かで、少し暗くて……眠くなる感じ」

 

 それは妙にホシノらしい感想だった。

 

「でも、先生と来れてよかったよ」

 

 静かな声。

 

 私は少しだけ目を見開きホシノを見る。

 

 ホシノは水槽を見たままだ。

 

「最近さ、こういう普通の時間あんまりなかったから…任務とか会議とか色々あったし…」

 

 

水槽を眺めていた顔を私を見た

 

「だから今日、結構好き」

 

私はしばらく黙ってから小さく答える。

 

「……私もだよ」

 

 ホシノは少しだけ驚いた顔をした

 

それから「にへへ…」と嬉しそうに笑った。

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