水族館にはお土産コーナーがありまして
水族館を出る頃には、空はもう夕暮れだった。
オレンジ色の光が建物のガラスへ反射して港の風が少しだけ涼しくなっている。
「……結構歩いたねぇ」
ホシノが小さく伸びをする。
長い髪が風に揺れた。
「疲れたかい?」
「ん〜……」
ホシノは少し考えるように空を見てから、
「楽しい疲れ方?」とそう言って笑った。
その表情が妙に柔らかくて私は少しだけ視線を逸らす。
するとーーー
「……あ」
ホシノが何かを見つけたように足を止めた。
出口近くにあるガラス張りの広いショップ。
名古屋港水族館のお土産コーナーだった。
「先生先生」
「ん?」
「あそこ寄ろ?」
その声が少しだけ弾んでいる。
私は思わず笑った。
「そうだね、行ってみよう。」
「こういうのは最後まで見ていかないと大事じゃん。水族館って最後のお土産まで含めてイベントだし」
「それは否定しないよ」
館内へ入るとそこは水族館の静けさとは少し違う空間だった。
ぬいぐるみ。
キーホルダー。
イルカ柄の雑貨。
シャチのクッション。
深海魚コーナー。
クラゲのガラス細工。
子供達の声。
レジの電子音。
水族館独特の“帰る前の賑やかさ”があった。
「うわ」
ホシノが早速立ち止まる。
「先生見てよ」
手に取ったのは妙にリアルなダイオウグソクムシのぬいぐるみだった。
「ダイオウゾクムシ……なんでそれ選んだの?」
「可愛いじゃん?」
「感性が深海寄りだね」
「失礼〜」
ホシノは笑いながら棚へ戻す。
そのあとも色々見て回っていた。
ベルーガのぬいぐるみ。
クラゲのストラップ。
ペンギンのマグカップ。
その度に
「これちょっと欲しい」
「いやでも実用性が」
「でも可愛い」
と悩んでいる。
意外だった。
ホシノはこういう場所だと欲しいものが決まっていてもっと適当に済ませるタイプだと思っていたからだ。
「……先生」
「ん?」
「これどう思う?」
差し出されたのは小さなガラス細工だった。
丸いガラス玉の中へ小さなクラゲが閉じ込められている。
青い光を閉じ込めたみたいなデザイン。
「綺麗だね」
「ね〜」
ホシノは少し嬉しそうに笑った。
その顔を見て私は感じた
多分ホシノは“物”を見ているわけじゃない。
今日という時間を形に残したいのだろう。
なんとなくわかった。
「買うのかい?」
「ん〜……」
ホシノはガラス細工を見つめる。
そして。
「……先生、おそろいにする?」
不意打ちだった。
「はい?」
「だから、おそろい。先生も買えばいいじゃん」
そして私に差し出す。
「一緒に来た記念ってことで」
さらっと言う。
その声は少しだけ照れ臭そうだった。
私は数秒黙り考えてホシノを見る。
ホシノはこちらを見上げていた。
期待半分。
不安半分。
そんな目だ。
「よし、わかった。おそろいにしよう」
そう答えた瞬間、ホシノがふっと笑った。
その笑顔が今日一番くらい嬉しそうで太陽みたいに眩しかったんだ
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