午後だけTSする病【貞操観念逆転】   作:耳野笑

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【三行で分かる前回のあらすじ】

澪「お前が学年一位になったらおっぱい触らせてやるよ(笑)」

澪「ま、負けた……? この私が……?」

吉乃「うひょ~~! 男のおっぱいだああああッ!」


第10話 クラスメイトが処女卒業したの知ると焦るよね

 月曜日の放課後。本来なら進路室で『彼氏会議』が行われる日時だ。

 

 しかし、私たちは吉乃の家へ来た。今日の彼氏会議は彼女の家でやるらしい。

 

 吉乃の部屋のこたつに並んで入ると、彼女はこんなことを言い出した。

 

「世の中の女子は毎朝、ヘアアイロンやワックスで髪をセットしているらしい」

 

「まあ、そういう人もいるな」

 

 吉乃は何かの箱を取り出し、こたつの天面へ置いた。

 

「ということで買ったわ、一万円のヘアアイロン」

 

「マジで!?」

 

 吉乃が箱からヘアアイロンを取り出す。トングのような見た目だ。

 

 私は一万円もするらしいヘアアイロンをまじまじと眺める。だいたいこれ一個で鬼滅の刃が全巻買える計算だ。

 

「すごいな」

 

「だろ?」

 

「でもさ、これでウェーブを掛けようにも、お前元々ふわふわウェーブじゃん」

 

「逆にストレートにしてみようかなと思って。やってくれる?」

 

「え、うん」

 

 私は説明書を読んで、ヘアアイロンを受け取る。

 

 こたつの天面へ鏡を置く。吉乃の後ろに私が座り、準備完了だ。

 

 トングのようにアイロンを開き、吉乃の髪を挟んでスライドさせる。それを全体に繰り返すこと数分――吉乃は綺麗なストレートになった。

 

「おお、誠実な女性に見える」

 

「う~ん……なんかこれは、面接とかの髪型な気がする。オシャレや垢抜けとは真逆なような……」

 

「お前元々カッコいいから、いつものままでいいよ」

 

「え、マジ?」

 

 吉乃と鏡越しに目が合う。嬉しそうな顔だった。

 

 実際、吉乃は顔も整っているし、金髪だし、派手なウェーブだ。見た目だけなら元々一軍陽キャなのだ。

 

「澪もやってあげようか?」

 

「じゃあお願い」

 

「おっけ。好きにやっていい?」

 

「よく分かんないから任せるよ」

 

 吉乃と位置を交代し、私もやってもらうことになった。

 

 吉乃がヘアアイロンで私の髪を挟んで、外側へ跳ねさせる。この操作を、髪のあちこちに施していく。

 

 すると、吉乃は――。

 

「なんか彼女になった気分だわ、これ」

 

「彼氏できたらやってあげれば?」

 

「……そうだな」

 

 吉乃の返事には含みがあった。

 

「それとも、私に彼氏になってほしい?」

 

「……!」

 

 一瞬、吉乃の手が止まった。鏡越しに見る彼女は、驚いて目を丸く見開いている。

 

「うわ、すごい顔してる」

 

「い、いきなりそういうこと言われたらビックリするだろ」

 

 嬉しそうにニヤニヤしつつも、ほんのり頬が赤くなっている吉乃。

 

 ……なんか可愛いな、コイツ。

 

 そして、髪全体にアイロンを施し、最後に前髪部分だけ毛束を細かく取ってクロスさせ、終了した。なんと、吉乃の三倍以上の時間がかかった。かわいいは作れるが、とても大変だ。

 

 鏡に映る私は、無造作ウルフのような髪型だ。最後にワックスで髪をセットすると――めちゃくちゃ可愛い美少年の姿になった。

 

「やっぱ可愛いなあ、お前」

 

「ありがと」

 

「付き合ってくれ」

 

「だめ」

 

「じゃあ一回ぎゅってさせて」

 

「それもだめ」

 

 吉乃は残念そうな顔をした。彼女はしょんぼりしながら、ヘアアイロンを開いたまま置いた。ヘアアイロンの鉄板部分は熱くなっているため、少し冷ましてから箱に戻す必要があるらしい。

 

「澪、ところでさ――」

 

「おいしれっと抱きしめんな! なにしてんだ!」

 

 吉乃は何気ない仕草で、背中から腕を回してきて、普通に抱きしめてきた。

 

 肩と胸の辺りに彼女の腕が巻き付き、ぎゅっと密着させられる。吉乃の体温と匂いを直に感じてしまい、体が熱くなる。

 

「あ~男子のカラダ最高~!」

 

「は、離せっ!」

 

「でも抵抗してないじゃん」

 

「だ、だって、ヘアアイロンが危ないだろっ」

 

 こたつの天面には、熱を冷ますため置きっぱなしのヘアアイロンがある。もし私がこたつの中で暴れてアイロンが落下したら、こたつ布団やラグが焦げてしまうのではないか。――という懸念から、抵抗できなかった。

 

「あ~なるほど。じゃあしばらくこのままで」

 

「ふざけやがって……! ちなみにどれくらいで冷めるんだよこれ」

 

「十時間くらい」

 

「ウソつくな!!!!!!!」

 

 吉乃にぎゅっと抱きしめられる。彼女は時々抱きしめる力を強めたり、腕の位置を変えたりして、男のカラダの感触を楽しんでいる。屈辱だ。

 

「お前ちっちゃくて可愛いな……」

 

「うるさい」

 

 すると唐突に、吉乃が私の髪に顔を埋めてきた。

 

「ひゃっ!?」

 

「すぅ~~~~~!」

 

「やめろっ! キモすぎだろお前!」

 

「めっちゃいい匂いする……」

 

「それはワックスの匂いだろ!」

 

 中間テストの時おっぱいを触らせてあげてから、吉乃が私の体へ触ってくる回数が増えた。距離感の壁が壊れてきている。

 

 ま、まずい。これ、いつかまずいことになる気がする。

 

「あ~最高すぎ~」

 

「顎乗せんな、殺すぞ」

 

 吉乃は離してくれる様子がまるでない。することもないので、私は仕方なくこのまま会話をする。

 

「でもさ吉乃、このセットを毎朝やるのはムリじゃない? 慣れてないとはいえ一時間くらいかかったし」

 

「だな~陽キャってすげえわ」

 

「しかも男子の場合は更にメイクの時間もかかるし」

 

「うわエグ~」

 

 一緒にこたつへ入って、後ろから抱きしめられた状態で普通に話しちゃってる……これもう完全にカップルじゃん……。

 

 *

 

 翌日、登校し、教室へ入ると――。

 

 女子たちが集まり、ザワついていた。輪の中心には、一軍陽キャイケメンサッカー部女子の久野さんがいる。

 

 吉乃が「何かあったの?」と近くの女生徒に尋ねると――。

 

「久野が処女捨てたって」

 

「「えっ」」

 

 私と吉乃は、同時に声を上げた。

 

 吉乃は久野さんに近付き、彼女に直接尋ねる。

 

「ま、マジで?」

 

「うん、彼氏とした」

 

 と、はにかみながら答える久野さん。

 

 私は愕然として、その場に佇む。吉乃も同様だった。

 

 そして、ホームルームの時間が来て、その後授業が始まったのだが――あちこちから溜め息が聞こえてくる。女子たちは、元気がなかった。

 

 みんな、様子がおかしい。クラスメイトが処女を卒業したという一報が、それぞれに複雑な思いを抱かせているのだ。

 

 私も、言いようのない焦燥感が募る。

 

 私と吉乃は、あえてこの話題に触れなかった。休み時間も昼休みも、いつも通りを装って過ごした。

 

 しかし、放課後の帰り道――。

 

「どう思った? 久野さんの話聞いて」

 

 吉乃は突然、そう聞いてきた。

 

「焦ってる。早く私も処女卒業したい」

 

「だよな、私も同じ気持ちだ」

 

 私は空を見上げた。二月なので寒さが厳しい。吐く息が白くなり、空気中に溶けていく。

 

「澪、ちょっとコンビニ寄っていい?」

 

「うん」

 

 吉乃と一緒にコンビニへ入る。すると、彼女は迷わず日用品コーナーに直行し――コンドームを手に取った。

 

「!?!?!?」

 

 私は呆気にとられる。吉乃がぐんぐんとレジへ向かっていくので、私も後を付いていく。

 

 彼女はコンドームだけをレジへ出した。

 

「袋はお付けしますか?」

 

「すぐ使うのでいりません」

 

 吉乃がそう答えた瞬間、店員がチラっと私を見た。瞬間的な恥ずかしさが込み上げ、顔から火が出そうなほど熱くなる。

 

 会計を済ませ、私たちはコンビニを出た。私はすぐに、半目で吉乃を睨みつける。

 

「すぐ使う予定があるのか?」

 

「頼む、澪」

 

「だめ」

 

「そこをなんとか!!!!!」

 

「だめ」

 

 私たちは吉乃の家へ到着した。彼女の部屋へ上がり、こたつへ入る。のだが――。

 

「吉乃?」

 

 なぜか、吉乃は向かい側に座った。いつもは隣り合ってこたつへ入っているのに。

 

 吉乃の顔は真剣味を帯びていた。

 

「今日、クラスメイトが処女卒業したのを知って、怖くなったんだ。みんな彼氏作って、処女を卒業していく。高二、高三となるにつれて、その割合も増えていく。なのに、自分だけが処女のままなんじゃないかって」

 

 吉乃は頭を下げた。こたつの天面に彼女の髪先が触れる。

 

「澪、頼む。処女を捨てさせてほしい」

 

 本気の懇願だった。

 

 私は嘆息する。

 

「ゴムもらうよ」

 

「えっ」

 

 私はコンドームの箱を開け、個包装を取り出し、ベッドへ上がった。

 

「暗いと怖いから、電気は付けたままでお願い」

 

 私はベッドに男の子座りしたまま、吉乃を見下ろす。彼女はまだ呆然としてこたつに入ったまま、私を見ている。

 

「ま、マジでいいの?」

 

「いいよ、おいで」

 

 吉乃は立ち上がり、ベッドへと上がってきた。膝を突き合わせて、見つめ合う。

 

「吉乃、目つむって」

 

 吉乃はまぶたを閉じた。彼女の肩は、緊張で微かに震えている。

 

 私は静かにスマホを取り出し――吉乃の顔をパシャリと撮影した。

 

「えっ?」

 

 吉乃が撮影音に気付いて目を開ける。

 

「なに本気にしてんだば~~~~か(笑)♡」

 

「は?」

 

「本気のキス待ちオモロすぎるだろ(笑)」

 

 吉乃は数秒硬直し――怒りの形相で叫ぶ。

 

「お前騙したな!!!!!!!」

 

「吉乃面白すぎるわ、最高(笑)」

 

「処女の純粋な気持ちを弄ぶな!」

 

「純粋な気持ち(笑) それ性欲っていうんだよ(笑)」

 

 私は吉乃の本気キス待ち写真を見せながら――。

 

「これインスタあげていい?(笑)」

 

「いいわけあるか!!!!!!!」

 

 吉乃は顔を真っ赤にしてブチギレている。騙された怒りと、嘲笑われていることへの屈辱。その両方で、耳まで赤くなっていた。

 

「処女って素直で可愛いね(笑)♡」

 

「ば、バカにするなっ……!」

 

 私は吉乃へと近づき、耳元に唇を寄せる。

 

「ざぁ~こ(笑)♡」

 

「ッ……!?!?!?!?!?」

 

 吉乃の体がビクッと震えた。

 

 地声がASMRのような湿度を帯びた声なので、そういうのが吉乃には刺さるのだろう。

 

 私は吐息を吹き込むように、耳奥へ罵倒の言葉を浴びせる。

 

「処女(笑)♡ 処女(笑)♡ しょ~じょっ(笑)♡」

 

「てっめえッ……!!!!!!」

 

「一生チ○ポと繋がる機会の来ないザコマ○コ(笑)♡」

 

「お前マジで襲うぞ!!!!!!」

 

 吉乃は押し倒そうとしてきたが、私は素早く躱してベッドから下りる。

 

 彼女は私を捕まえ損ねて、宙を抱くような体勢のまま私を睨む。

 

「こうなったら、アレを出すしかないようだな」

 

 吉乃の目に、妖しい色が灯る。何かしらの覚悟を決めたような、決然とした面持ちだった。

 

 彼女は立ち上がり、ベッドから下りた。私は身構える。一体何をするつもりなのか。

 

 そして――吉乃はラグに膝を突き、勢いよく土下座した。

 

「一生に一度のお願いです! ヤらせてください!」

 

「ぶふっ!!!!!(笑)」

 

 私は噴き出した。

 

 ああ、ヤバい。コイツ面白すぎる。私とセックスしようと必死じゃん。

 

 **1

 

 結局、澪はヤらせてくれずに帰っていった。

 

 酷い。本気の土下座だったのに。

 

 しかもキス待ち写真消してくれなかったし。マジでインスタに上げられたらデジタルタトゥー間違いなしだ。

 

 ただ、私はあることに気付いた。

 

 澪は以前「男として見るな」と言っていたのに、今は普通に男として煽ってくるようになった。

 

 アイツに自覚があるかは分からないけど、男であることを前提として振る舞っている。

 

 これ……もしかして、ワンチャンある?

*1
吉乃視点

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