午後だけTSする病【貞操観念逆転】   作:耳野笑

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【三行で分かる前回のあらすじ】

吉乃「澪、頼む。処女を捨てさせてほしい」

澪「なに本気にしてんだば~~~~か(笑)♡」

吉乃「アイツ、最近振る舞いが男になってるような……」


第11話 バレンタインにクラスの女子全員へチョコ渡してワンチャン期待させる魔性の男ムーブというものをしてみむとてするなり

 二月十四日。バレンタインデー。

 

 勝ち組陽キャ女子にとっては、彼氏や仲のよい男子からチョコを貰えるハピハピハッピーな一日。

 

 一方、非モテ女子にとっては、ひとつもチョコを貰えず泣くか、父親から渡されて惨めな気分になる日だ。

 

 ちなみに、私――琴澪は、過去に男子からチョコを貰ったことがある。小学生の頃、クラスの女子全員にチョコを配るタイプの男子がいたからである。彼のおかげで、私の『生涯チョコ授受回数』は0ではないのだ。ありがたいことです。

 

 そして、私は今日のために、ここ数日ずっと準備してきた。

 

 貰うためではなく、贈るために。

 

 私は登校し、教室へ入った。金髪ハーフツインテの女生徒と目が合う。私の親友・吉乃である。

 

「おはよう、澪」

 

「おはよう」

 

「バレンタインデーだな」

 

「そうだな。チョコ用意してあるぞ」

 

「マジ!?」

 

 吉乃が、ぱあっと晴れやかな笑顔を浮かべる。

 

「つ、ついに私は人生で初めてチョコを貰えるのか……!」

 

 吉乃は感動し、瞳をキラキラ輝かせている。

 

 私は内心、黒い笑みを湛えながら、リュックからチョコを取り出す。ラッピングされた市販のチョコである。

 

「はい、どうぞ」

 

「……えっ」

 

 吉乃の表情が凍った。期待を打ち砕かれたように、真顔になる。

 

「な、な、なんで午前に渡すんだよ!!!」

 

 吉乃は絶叫した。クラスメイトたちの会話が止まり、皆こっちを見る。

 

「午後に渡してくれよ! 楽しみにしてたんだぞ!」

 

 そう。私は午後だけ男へTSする病にかかっている。つまり、登校して間もない今は当然午前中であり、私は女である。

 

「頼むよ澪! 午後にもう一回渡してくれよ! 男子からチョコ欲しいんだよ!」

 

「今受け取らないならあげないぞ」

 

「それなら貰うけども!」

 

 吉乃はチョコを受け取った。そして、ガッカリして肩を落としている。

 

「人生で初めて男子からチョコ貰えるかもって期待してたのに……」

 

「可哀想に」

 

「同情するなら男の時に渡せ!!!」

 

 クラスメイトたちは苦笑していた。こんなに注目されるのは、私がTSして初登校した日以来かもしれない。

 

 *

 

 そして、午後になった。私は美少年へと変身し、昼休みを迎えた。

 

 私は、普段あまり話さないクラスメイトの女子へ話しかける。

 

「はい、内田さんこれあげる」

 

「!?」

 

 私がアルフォートを渡すと、クラスメイトの内田さんはびっくりして固まった。

 

「え、私に?」

 

「うん。どうぞ」

 

「あ、ありがとう」

 

 彼女はしみじみと手元のアルフォートを眺めてから、顔を上げて私を見た。

 

「え、すごい嬉しいんだけど。男子からチョコ貰ったって自慢していい?」

 

「あははっ、いいよ」

 

 私が笑顔でそう答えると、内田さんは嬉しそうにしていた。

 

 次に、私は別のグループへと話しかけに行く。

 

「みんな、これあげる」

 

「!?!?!?」

 

 松田さん、南さん、神崎さんにアルフォートをあげた。みんな驚きつつも嬉しそうにしている。

 

「え、私にはくれないの?」

 

 そのまま去ろうとすると、一軍陽キャ女子の久野さんがそう尋ねてきた。

 

「久野さんは彼氏から貰えるじゃん」

 

「そ、そうだけど。私も琴さんからチョコ欲しい」

 

「しょうがないなあ、はい、どうぞ」

 

 久野さんにもアルフォートをあげた。

 

 みんな受け止め方は色々だったけど、嬉しそうにしていた。

 

 一方――さっきからずっと、信じられないものを見る目で立ち尽くす女がひとり。私の親友・吉乃である。

 

「お前~~~~~~~!!!!!」

 

「なんだよ吉乃」

 

「お前お前お前お前お前~!!!」

 

「うるさっ」

 

「おかしいだろ!!!!!!!!」

 

「どうしたんだよ」

 

「なんで私以外には午後渡してるんだよ!」

 

「お前が悔しがるかなって思って」

 

「サディストすぎるだろお前!!!」

 

 吉乃は怒りに満ちた形相で私に詰め寄ってくる。

 

「私にも男子の姿でくれよ!!!」

 

「必死(笑)」

 

「笑うな!!!!!!!!!!!」

 

 その後、放課後に至るまでの時間で、私はクラスの女子全員へチョコを配った。ひとりずつ渡す度に、吉乃は「ぐぬぬ」とか「ぐぎぎ」とか言っていた。

 

 *

 

 放課後。私は吉乃とともに帰っている。

 

「許せねえ……お前とクラスの女子全員が憎い……」

 

 吉乃は闇堕ちしていた。目の前で私にチョコを貰う女の姿を見続けて、すっかり荒んでいた。

 

「まあ、実はこれだけじゃないから安心しろよ」

 

「え?」

 

「今日うち来てよ」

 

「えっ、えっ」

 

 吉乃は、期待が半分、不安が半分といった表情で私を見る。

 

「また裏切られそうで怖いんだけど」

 

「だいじょうぶだよ、今度は期待してて」

 

 そして、私の家へ到着した。

 

「久々だわ、お前の家」

 

「だな。お前がうち来るの、私がTS病になってから初めてじゃない?」

 

「あ~そうかも」

 

 吉乃が私の家へ来ることは稀だ。吉乃の家の方が学校から近く、基本的に親も不在なので、遊ぶのに都合がよいのである。

 

 吉乃をリビングへ通し、向かい合ってテーブルに着く。私はテーブルの天面に肘を乗せ、ゲンドウポーズで話し始める。

 

「手作りチョコの『手作り』の定義について、私は問題提起をしたい」

 

「なんだいきなり」

 

「世の男子は、市販の板チョコを溶かしてハート形に成型したものを、手作りと呼んでいる場合がある」

 

「ま、まああるな」

 

「それは果たして手作りと呼べるのか?」

 

「呼べるだろ」

 

「いや、それは手作りではなく、既製品の固形物を一旦未完成状態に戻して、それを再度固めた物。つまり、余計な工程を二個挟んだだけの市販品だ」

 

「世の男子に怒られるぞお前」

 

「単に既製品の形状を変えただけでは、手作りとは呼べないことに注意が必要です。役に立ちましたか?」

 

「ツイッターのコミュニティノートみたいに言うな」

 

「ということで――」

 

 私は立ち上がり、冷蔵庫からチョコタルトを取り出して皿に移し、テーブルへと運ぶ。

 

「チョコタルト作った」

 

「!?!?!?!?!?」

 

 吉乃は信じられないものを見る目でチョコタルトを見ている。

 

 チョコクッキーと生クリームを固めた円形の土台。その内側を埋める、光沢のある生チョコの塊。その上からコルネでデコレーションし、ココアパウダーをまぶして綺麗な見た目にしたものだ。

 

 ケーキ屋に売っているような、立派なチョコタルトである。

 

「えっ!? これ手作り!?!?!?」

 

「うん」

 

「複数の材料を使って、混ぜたり加熱したりして作ったもの。これは間違いなく手作りと言っていいと思う」

 

「ええ~~~~~!? マジ!?!?!? クオリティーえぐっ!?」

 

 私は吉乃へ、フォークと牛乳の入ったカップを渡す。彼女はまだチョコタルトを凝視している。

 

「え、私のために作ってくれたの?」

 

「うん」

 

 吉乃は無言になり、じっと私を見つめる。その眼差しの奥には、深い感動を宿しているように見えた。

 

「ありがとう、澪……!」

 

「どういたしまして」

 

「これ写真撮っていい?」

 

「いいよ」

 

 そして、吉乃は写真を撮ってから食べ始めた。

 

「うま~~~~~!!!!!」

 

 ホッとする。同時に、胸の内に嬉しさが込み上げる。吉乃に「美味しい」と言ってもらえてよかった。

 

「ありがとう! ありがとう! ありがとう!」

 

 吉乃は満面の笑みだ。瞳は少しだけ潤み、輝いている。

 

「まさか私が……男子から手作りチョコ貰えるなんて……!」

 

 感激しながらチョコタルトを食べる吉乃。その姿を見ていると、私も胸が満たされて、幸せな気持ちになった。

 

 私も一緒に食べる。ちゃんと美味しい。吉乃は牛乳を飲んで一息つき――。

 

「決めたぜ! これを私のフルコースに入れる!」

 

「あといくつ埋まれば完成すんの?」

 

「3つかな。お前はトリコ?」

 

「違いますけど」

 

 私は吉乃がチョコタルトを食べている姿をじっと見つめる。

 

 ああ、やばい。嬉しい。本当に嬉しい。喜んでくれてよかった。

 

 …………。

 

 ……なんか、彼氏みたいだな、これ。

 

「なあ、澪」

 

「なに?」

 

「このチョコ、本命?」

 

 唐突に核心を突かれ、私は固まる。

 

 これは義理チョコなのか、友チョコなのか、本命チョコなのか。私自身、このチョコを作っている時ずっと悩んでいたが、答えを出せないまま今日を迎えてしまった。

 

 本命。私が吉乃のことを想って贈ったチョコ。

 

 そんな風に認めるのは、ちょっと恥ずかしくて耐えられそうにない。

 

 吉乃の大きな瞳から見つめられるのに耐えられず、私は目を逸らす。

 

「その……これは……」

 

「絶対本命じゃん」

 

「か、勝手に本命にするなっ」

 

「じゃあ本命じゃないの?」

 

「う、それは……」

 

 私は呻き、迷い、悩んだ末に、言葉を紡ぐ。

 

「ひ、秘密……」

 

「それ本命ってことじゃん」

 

「う、うるさいっ」

 

「澪って私のこと好きなの?」

 

「っ…………!」

 

 言葉にできない。

 

 好き、なんて恥ずかしくて言える訳ない。

 

 自分の中にそういう気持ちがあるのは否定できない。ただ、私は本来女であり、異性愛者であるはずだ。

 

 だから、今の自分が男女どちらなのか、本当に吉乃を異性として見ているのか、よく分からないのだ。

 

「自分でも、分かんないんだよ。私、心が男になってきてるのかな……」

 

「私はずっと、澪のこと男として見てるよ」

 

 吉乃はまっすぐに言い切った。

 

 ……。

 

 じゃあ、いいのかな。私が吉乃のことを好きでも、いいのかな。

 

 その時――ガチャリと、玄関の扉が開く音がした。買い物から帰ってきた父が、リビングへと入ってくる。

 

「ああ、やっぱり吉乃ちゃんか。見たことある靴だと思ったんだ」

 

「お邪魔してます」

 

「ん……? そのチョコタルト、最近澪がずっと作ってたやつじゃないか?」

 

 私は顔を歪める。嫌なところを親に見られた。恥ずかしい。

 

「好きな人でもできたんだろうと思ってたけど、吉乃ちゃんだったんだね」

 

「よ、余計なこと言わないで……!」

 

「納得いくものを渡したいって言い出して、もう冷蔵庫の中が失敗作だらけで……」

 

「お父さん!!! もう黙って!!!」

 

 私は大声で遮って、父を黙らせる。

 

 一方の吉乃は私を見ながら、にたあ、と嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

「へえぇ~~~~~」

 

「なんだよその気持ち悪い笑顔は」

 

「やっぱり私のこと大好きじゃん」

 

「うっさい……!!!!!」

 

 恥ずかしさが噴出する。体温が上がり、顔が熱い。

 

 すると、私たちの様子を見ていた父は――。

 

「うちの息子をよろしくね、吉乃ちゃん」

 

「必ず幸せにします」

 

「おい勝手なこと言うな!!!!!」

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